著者
吉原 直毅
出版者
北海道大学
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.63-98, 2006-11-29

アナリティカル・マルクシズムの,数理的マルクス経済学の分野における労働搾取論に関する主要な貢献について概観する。第一に,1970年代に置塩信雄や森嶋通夫等を中心に展開してきたマルクスの基本定理についての批判的総括の展開である。第二に,ジョン・E・ローマーの貢献による「搾取と階級の一般理論」に関する研究の展開である。本稿はこれら二点のトピックに関して,その主要な諸定理の紹介及び意義付け,並びにそれらを通じて明らかになった,マルクス的労働搾取概念の資本主義社会体制批判としての意義と限界について論じる。
著者
金崎 雅之
出版者
九州大学
雑誌
經濟學研究 (ISSN:0022975X)
巻号頁・発行日
vol.73, no.1, pp.113-128, 2006-06
著者
多田 和美
出版者
北海道大学
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.79-106, 2008-09-11

本稿は,日本コカ・コーラ社の事例を通して,海外子会社の製品開発活動の進展プロセスを解明することを目的としている。具体的には,海外子会社の役割進化モデル(Birkinshaw and Hood,1998)を出発点として,海外子会社の製品開発活動が他国向け製品も開発する段階に進展するまでのプロセスの実証研究を行っている。 日本コカ・コーラ社は,コカ・コーラグループの海外子会社のなかでも世界各国で活用される製品を最も数多く自主開発している,すなわち最も製品開発活動が進展している海外子会社である。事例分析の結果,同社の製品開発活動は1)本国親会社の役割指定,2)海外子会社の選択,3)現地環境などの要因が影響していることが明らかになった。さらに,海外子会社の自律性と本国親会社と海外子会社間の関係強化という多国籍企業内部の要因も重要となることが明らかになった。 これらの発見事実は,近年活発化している海外での製品開発活動に重要な示唆を含んでいると考えられる。
著者
鈴木 輝好
出版者
北海道大学
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.29-40, 2004-03-09

生命保険会社が取り扱っている企業年金には額面保証や利率保証、特別配当といった仕組みがある。本稿は、これらの仕組みをどちらか一方が行使可能な永久アメリカン・プットオプションと永久アメリカン・コールオプションの組み合わせとして定式化し企業年金保険の価格を解析的に導出した。その際、保険会社にデフォルトの可能性がありデフォルト時にはペイオフが減額されることを考慮に入れた。その結果、いくつかの数値例から、企業年金保険の価格はデフォルトリスクの影響を受けにくいが逆に最適解約戦略はその影響を大きく受けること、および運用フィーを控除した基金のネットの受け取り利息は委託先が投資適格級の生命保険会社であればその格付けの違いからは大きな影響を受けないことが分かった。また、アメリカン・コールオプションとして定式化される価格上昇時の解約を考慮に入れないと、場合によって企業年金保険は解約に際して違約金の生じる永久利率保証契約にすぎないことを解析的に示した。
著者
須戸 和男
出版者
北海道大学
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.77-99, 2006-06-08

本稿は,アメリカの通商政策と対外租税政策の相互関係を歴史的に概観し,今日のグローバルな世界経済におけるアメリカの対外経済政策の及ぼす影響を考察するものである。 その中心的論点は,アメリカ多国籍企業のグローバルな経営戦略であり,第二次世界大戦後のアメリカ多国籍企業は,政府の課税優遇措置による海外市場開拓促進政策に重大な役割を演じ,これによって両政策の密接な相互依存関係を創出した。しかし,1970年代以降の多国籍企業は,政府の政策目的とは離れた独自のグローバルな経営戦略を採り始め,両政策間に乖離・対立現象が現れ,次第にその相互関係は希薄になってきた。 多国籍企業の外国直接投資は,その実質的本拠を国外に移転し,国内産業の空洞化をもたらし,貿易収支および経常収支の巨額な赤字を生み出した。さらに,多国籍企業のグローバルな租税回避戦略は税収を減じて財政政策に重大な影響を与えた。このため,通商政策は戦後の多角的自由貿易体制の修正を迫られ,二国間および地域間自由貿易協定や保護主義的政策に向かった。対外租税政策は多国籍企業に対する課税強化政策および租税回避抑止政策へと大きく変容した。以上の如く多国籍企業の自立的展開は,両政策の変化・変容と両政策の相互関係に変転をもたらした。
著者
石井 耕
出版者
北海道大学
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.1-12, 2009-12-10

戦後の日本企業はどのように経営されていたのだろうか。企業間競争こそが高度成長の牽引力であったと考えられるが、その競争を推進した経営者は誰だったのだろうか。戦後日本経済の成長以上の成長をしてきたと考えられる企業の経営と経営者について, 特に機械産業の大企業の経営者について分析する。対象は一般機械・電気機械・輸送用機械・精密機械の四産業である。企業の対象としては, その四産業を主たる事業分野とする, 2005年度の連結売上高6000億円以上の大企業52社とした。1955年度から50年間に, これらの現在の大企業がどのように経営され, どのように成長してきたか。顕著な特徴の現われる, その当時の社長の在任期間に着目する。このことが, 最大のファクト・ファインディングである。対象50人中44人の在任期間が, 10年超である。この当時の社長の在任期間が長かった, 言わば「長期政権」だったのである。これは, 創業者(ダイキン工業など)であろうと専門経営者(IHIなど)であろうと共通する, この時期の特徴である。44人の社長を, その特徴から見た類型では, 創業者12人, 同族4人, 内部昇進の専門経営者14人, その他14人となっている。
著者
平井 廣一
出版者
北海道大学
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.91-108, 2010-03-11

満鉄は, 1906年の設立時に出された逓信・大蔵・外務の三大臣命令書によって, 鉄道や港湾, 炭鉱事業を経営するための事業用地や駅周辺の市街地を鉄道附属地として位置づけ, 土木(道路・上下水道等), 衛生(病院), 教育事業(初等・中等教育), さらには不動産事業を行なうことになった。 満鉄は, これらの附属地経営(地方経営ともよばれた)にかかわるインフラ整備に多額の投資を行ない, その総資産額は, 1937年に附属地が満鉄の手を離れて満州国に移管される際には, 本業の鉄道や炭鉱などを含んだ総額の20%を超えていた。 こうした巨額の投資に支えられた満鉄の附属地経営は, 事業としては当然のごとく赤字を生み出さざるを得ず, 唯一の黒字経営であった不動産事業も, 附属地経営全体の赤字を補填できるものではなかった。その赤字を埋め合わせ, しかも満鉄全体の収支を黒字化したのが鉄道事業だったのである。
著者
平澤 亨輔
出版者
北海道大学
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.124-132, 1998
著者
中村 通義
出版者
北海道大学
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.47-55, 1997
著者
吉地 望 西部 忠
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.1-14, 2007-09

本稿では,対極的な性質を有する集中的発行通貨(法定通貨)と分散的発行通貨(特定の地域通貨)をモデルによって表現し,コンピューター・シミュレーションを実行することによりLETSのような相互信用・分散的発行方式の持つ長所を明らかにすると同時にその課題を考察した。 LETSの相互信用・分散発行方式の利点は,経済取引に必要とされる通貨バッファがマクロレベルでもミクロレベルでも必要ない点にあり,そのことは貨幣保蔵による有効需要の抑制を引き起こさないことを意味する。一方で、LETSは受領性が個人の相互信頼に基づくため,その流通範囲は相互信頼でつながれる範囲に制約される。流通範囲を拡張するには,コミュニティへの信頼,相互信頼の範囲を拡張する必要性があり,いかなるシステムやルールの導入が有効であるかが今後の検討課題として残されている。逆に、集中的発行通貨は流通範囲が広範であるが,貨幣保蔵による有効需要抑制という課題を持つ。 また,ランダムネットワークに基づくLETSにおけるマクロ的黒字残高=マネーサプライは売買による債権債務の相殺により長期的には残高0に収束するという直感に反して,逓減的に増大する。このメカニズムを解明し,そこからLETSと現金通貨に関するいくつかのインプリケーションを引き出し,検討を加えた。
著者
于 暁軍
出版者
北海道大学
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.115-134, 2004-12-09

中国経済は、改革開放の政策を実施して以来、輸出主導経済を牽引力に、20年間著しい成長を遂げてきた。経済規模が既に世界7位まで浮上してきた。その背景には、ドルに対する固定相場制を採用していることがある。そのために、外貨準備が年々増加し、世界第2位のドル保有国となっている。近年、通貨の人民元のレートに関する議論が盛んに行われてきた。特に、アメリカが双子の赤字を抱えており、一方、国内でインフレが進んでいる状況の中で、現行の固定レート(1ドル=8.27元)を維持できるかどうかという疑問が出ている。第一章では、(1)人民元の交換性、(2)人民元レートの運営と為替需要、(3)為替運営と金融政策、(4)為替市場の仕組みと人民元レートの決定メカニズムなどを中心に、中国現行為替管理の仕組みにおいて人民元需給要因などから人民元レートの決定メカニズムを明らかにする。第二章では、(1)人民元レートの推移、(2)人民元レートの管理から生じる問題、(3)金融国際化に向けた為替制度の見直し、(4)今後の為替運営の展望などを中心に、現行の為替相場制度は抱えている様々な問題を分析し、WTO加盟後、安定的な経済成長を維持しながら、柔軟性のある為替制度をどのように選択することを議論する。
著者
吉見 宏
出版者
北海道大学
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.217-222, 2009-03-12

我が国の内部統制監査は,日本版SOX法とも呼ばれる,一連の制度整備によって2008年度から本格的に導入された。これはアメリカにおけるSOX法をモデルにしたとされるものの,我が国の場合には1つの法としてではなく,金融証券取引法等の該当条文及び,各種基準等を総称したものである。その中核となるのがいわゆる「内部統制基準」である。 本稿は,その制定に当たって,米SOX法の制定の契機となったエンロン事件に相当するものが我が国に見られるのかを検証するものである。ここでは,西武鉄道,アソシエント・テクノロジーの事例を中心に,大和銀行等の事例も検討対象とし,これらの不正事例の発覚と,内部統制基準の制定との連関が,エンロン事件と米SOX法ほどには明確にはみられないものの,制度制定の促進要因となっていたことを見るものである。
著者
ガンバト ジャミヤン 吉野 悦雄
出版者
北海道大学
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.73-93, 2005-06-09

モンゴルは、市場経済に移行して国際社会から援助を受けるようになった。モンゴルは1991年から2002 年までの間に総額で23.6 億米ドルのODA を受けている。このODA 総額のうち日本からのODA 額は約36%を占めており、日本はモンゴルにとって第1 位のドナー国となっている。このような多額にのぼる外国ODA はモンゴルの社会・経済において疑いもなく重要な役割を果たしている。本稿では、モンゴルに対する外国ODA の実態を概観し、日本のODA の現状と課題について検討する。さらに事例分析を通じて日本のODA のモンゴル社会・経済に与えている効果について分析を行う。本稿の検討からはODA 法の整備の遅れが悪影響を及ぼしたことが分かる。日本のODA はモンゴルの経済インフラを中心として行われている。ODA 事業の失敗例もあるが、モンゴルに対する日本のODA は非常に重要な意義を持ち、欠かせない役割を果たしていると位置づけられよう。
著者
宮本 謙介
出版者
北海道大学
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.85-103, 2001-12-11

本稿(本研究の第II章)では、現代中国における開発最前線の一事例として浙江省の中小私営企業を取りあげ、2000年9月に実施した実態調査に基づいて、私営企業の労働市場を分析課題とした。浙江省は、上海市に隣接して、中国でも最も私営企業が成長している地方であり、当地では、国有企業や郷鎮企業が民営化によって私営企業に衣替えしたものが多数を占める。その労働市場は、同族経営と縁故主義による雇用と労働力配置、内部労働市場の未成熟、労働力調達の地域的閉鎖性などを特徴としており、また雇用形態や社会保障の面でも就労の不安定化要因を内包している。現代中国の私営企業は、労働者の能力主義評価を重視した生産効率優先の経営によって経済成長を牽引しているが、労働者の雇用確保、就労の安定性といった諸点で、なお多くの課題を抱えている。
著者
両角 良子
出版者
北海道大学
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.101-115, 2009-03-12

子育て世帯が,政府による子育て支援を目的とした所得保障を受ける場合には,いったん,他の非労働所得とプールした上で非労働所得の配分を考える。そのため,子育て世帯が所得保障で得た非労働所得を子ども向けの財の消費に使うことは,標準的なミクロ経済学の需要理論では必ずしもいえない。日本政府は1999年に子育て世帯に対して,居住地域にある小売店で買い物をすることができる地域振興券を交付した。地域振興券の交付の目的の一つは,若い親の層の子育てを金銭的に支援することであった。そこで本研究では,地域振興券政策に着目し,子育て支援が目的である旨を政策にラベル付けすることで,政府による所得保障が子ども向けの財の消費に結びつくか,すなわち、ラベリング効果(labeling effect)が存在するかを検証した。その際,子ども向けの財として,子どもの被服消費に焦点を当て,『家計調査』(総務省)の個票データを使って検証した。分析の結果,地域振興券の利用が認められている期間に,世帯の被服消費額に占める子どもの被服消費額の割合が一時的に上昇していることがわかった。この結果は、ラベリング効果があったことを示している。