著者
岩片 信吾 西 克師 河野 正司 石岡 靖
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.89-96, 1994-11-30 (Released:2014-02-26)
参考文献数
18

顎関節は, 加齢に伴い形態学的に変化することが知られている。しかし顎関節の形態的変化に対応した下顎頭運動の変化にっいては, これまで十分には明らかにされていなかった。本研究では高齢で, かっ歯の欠損が少なく, 咬頭嵌合位の安定した者の下顎頭の運動路を詳細に分析し, その変化の機構について考察した。被験者は, 60歳以上の高齢者10名 (60~79歳) とし, 対照は, 25歳未満の若年者11名 (19~24歳) とした。前方滑走運動及び側方滑走運動時の切歯点及び解剖学的下顎頭中央点における運動路の形態の特徴について分析した。その結果, 以下のことが明らかになった。1. 切歯点の運動路には, 高齢者と若年者との間に差が認められなかった。2. 前方滑走運動時の下顎頭運動路および非作業側下顎頭運動路の矢状面投影角は, 高齢者の方が, 若年者よりも小さい値を示した。また, 前方滑走運動時の下顎頭運動路の彎曲度は, 高齢者の方が若年者よりも大きい値を示した。これらの結果は, 高齢者では関節隆起後方斜面の平坦化が生じているという事象に対応していると考えられる。3. 作業側下顎頭の移動距離および非作業側下顎頭運動路の水平面投影角と彎曲度には, 高齢者と若年者との間に差が認められなかった。これらの項目は, 主に側頭下顎靱帯の状態と関係していると考えられることから, 高齢者でも咬合状態の変化が少ない場合には, 靱帯の変化は少ないことが示唆された。
著者
松永 一幸 古屋 純一
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.38, no.supplement, pp.24-28, 2023-09-30 (Released:2023-10-04)
参考文献数
5

緒言:脳卒中発症後は肺炎を合併しやすく,肺炎を合併した場合は機能的予後の悪化につながるとの報告がある。一方で,脳卒中発症早期からの口腔管理は,肺炎予防に有用とされている。今回,脳梗塞を発症した高齢患者に対して,肺炎予防のために入院早期から口腔管理を実施し,口腔環境および食事摂取状況を改善した症例を経験した。 症例:83歳男性,身長147.2 cm,体重52.7 kg(BMI 24.3 kg/m2)。2021年8月に左半身の脱力感を生じ,脳梗塞と診断された。入院当日の看護師による口腔評価後,入院3日後に歯科介入した。残存歯は上顎0本,下顎6本で,左下1・2番と右下3番は顕著に動揺し,周囲歯肉から排膿があった。上顎義歯は容易に脱落し,下顎義歯は残存歯の移動により,装着不可能であった。 経過:歯科介入前は均質なペースト食を2〜4割摂取していたが,口腔衛生管理および動揺歯の抜歯後は8〜10割摂取が可能となった。さらに義歯修理後は,不均質なペースト食の10割摂取が可能となった。入院17日後に回復期病院へ転院となったため,同病院の協力歯科医院へ継続的な口腔管理を依頼した。転院後48日時点において全粥・軟菜を自力摂取し,口腔環境も維持していると報告を得ている。 考察:本症例は,脳梗塞を発症した高齢患者に対して入院早期から口腔管理を実施できたことで,口腔環境および食事摂取状況の改善につながったと考える。
著者
森 啓輔 小西 有望 坂本 典子 山田 知子 江本 晶子 小向 翔 江口 由美子 山下 佳雄
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.465-470, 2019-03-31 (Released:2019-04-24)
参考文献数
10
被引用文献数
3

口腔衛生状態を良好に維持するためには,適切な湿潤状態を維持することが重要である。しかし,高齢者の多くは加齢による唾液分泌能低下,内科的疾患やその治療薬の副作用のため口腔乾燥症を発症している。高齢化に伴い,この口腔乾燥症患者は年々増加しているが,その多くは対症療法として口腔保湿剤を使用している。しかし,経済的な理由から保湿剤の適正使用ができていない場合も多い。今回,安価なグリセリンを主成分とした溶液が口腔乾燥症に対して応用可能であるかどうかを,鳥ムネ肉を検体として用いて基礎実験を行った。比較溶液としては蒸留水,市販の口腔保湿剤(バトラージェルスプレー®)を用いた。水分量は口腔水分計ムーカス®を用いて測定し,水分保持能力は水分量の変化率(処置前水分量-120分後の水分量/処置前水分量×100)と定義した。結果,鳥ムネ肉における120分後のグリセリン溶液群とバトラージェルスプレー®群では同等な水分保持能力を示した。また,グリセリン溶液濃度(12・24・36%)と水分保持能力には統計学的に有意な相関関係は認められなかった。 今回の実験結果から,グリセリン溶液は市販の口腔保湿剤と同等な水分保持能力を有することが判明した。グリセリンは安価なことから,経済面からも長期使用が可能な口腔保湿剤の一つになりうると考える。
著者
尾関 麻衣子 仲澤 裕次郎 田中 公美 佐藤 志穂 駒形 悠佳 宮下 大志 戸原 雄 高橋 賢晃 田村 文誉 菊谷 武
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.11-17, 2023-06-30 (Released:2023-07-28)
参考文献数
25

回復期において経口摂取が困難となり胃瘻造設された患者が,入院中から退院後の継続した摂食嚥下リハビリテーションと栄養介入により,経口摂取が可能となった症例を経験したので報告する。 患者は70代後半男性。腸閉塞から脱水状態となったことで脳梗塞を発症して入院し,その際の嘔吐により誤嚥性肺炎を発症した。入院中は中心静脈栄養による栄養管理が行われた。経口摂取の再開に向けて,病院主治医からの依頼で病院に訪問した歯科医師が摂食嚥下機能評価を行い,病院の言語聴覚士に対して摂食嚥下リハビリテーションを指示した。患者には胃瘻が造設され,初診から4カ月後に一部経口摂取が可能となった状態で自宅に退院した。退院に合わせて,病院へ訪問していた歯科医療機関が継続して訪問し,管理栄養士が同行した。摂食嚥下リハビリテーションを継続し,摂食機能の改善に合わせて,経口摂取量の調整や適した食形態の指導,調理方法や栄養指導を段階的に行い,嚥下調整食から常食への変換を図った。初診から11カ月後に完全経口摂取が可能となり胃瘻が抜去された。 本症例より,胃瘻患者の完全経口摂取には,入院中から退院後まで一貫した摂食嚥下リハビリテーションと栄養介入が重要であることが明らかとなった。同時に,退院後の生活期における栄養管理方法については,QOLの改善,家族に対する支援,患者や家族の栄養状態維持の必要性に対する理解について課題が示された。
著者
江刺 香苗 菊池 雅彦 下西 充 岩松 正明
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.308-318, 2011 (Released:2012-04-10)
参考文献数
38
被引用文献数
2

高齢者における口腔内カンジダ菌と口腔衛生に関する各種要因との関連について検討することを目的に, 本研究を実施した。対象者は, 訪問診療を含む歯科診療を受診した70歳以上の高齢患者200名 (平均79.1±6.6歳, 男性82名, 女性118名) とした。カンジダ菌の検出には, カンジダ菌検出用簡易試験液·ストマスタットを使用した。頬粘膜を滅菌綿棒で擦過して採取した検体を37°Cで24時間培養後, 培地の色から陰性, 疑陽性, 陽性のいずれかに判定した。一方, 口腔衛生に関する要因として, 年齢, 性別, 住居および仕事の状況, 口腔に関する要因, 通院·歩行に関する要因, 全身疾患に関する要因の各項目について調査を行った。結果として, 口腔内カンジダ菌の検出に, 年齢や性別の影響は認められなかった。カンジダ菌は, 施設入所者, 仕事や身の回りのことをしない人, 口腔清掃不良者, 義歯装着者や現在歯数が少ない人, 通院·歩行が困難な人, 認知症や他の全身疾患がある人で多く検出された。しかし, 多変量解析によりカンジダ菌の検出に特に影響を及ぼす有意な要因として抽出されたのは, 口腔清掃状態, および仕事や身の回りのことを行う自立度と歩行能力であった。一方, カンジダ菌の重要なリスクファクターと考えられてきた義歯装着や, 認知症をはじめとする全身疾患は, カンジダ菌検出との間に強い関連が認められなかった。
著者
竹内 倫子 澤田 ななみ 鷲尾 憲文 澤田 弘一 江國 大輔 森田 学
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.64-75, 2022-09-30 (Released:2022-10-26)
参考文献数
48

わが国では認知症高齢者が急増しているが,認知症に対する有効な治療法はまだ確立されていない。そのため,認知症の発症を予防する手段を模索することが望まれる。本研究の目的は,地域在住高齢者を対象に口腔機能およびソーシャル・キャピタル(SC)と認知機能低下の関係を調査することである。2018年5月~8月に,農村地域在住の高齢者を対象に,世帯,学歴,基本チェックリスト,農村SC,舌圧,オーラルディアドコキネシス(ODK),現在歯数,主観的口腔機能を調査した。認知機能は基本チェックリストの項目より評価した。主観的認知機能低下を従属変数とした二項ロジスティック回帰分析を行った。また,主観的認知機能の低下に与える要因間の関係を検討するために共分散構造分析を行った。分析対象者は73人(男性24人,女性49人,平均年齢80.0±10.6歳)であった。二項ロジスティック回帰分析の結果,主観的認知機能低下と有意な関連がみられたのは,うつ病の可能性(オッズ比6.392,95%信頼区間 1.208~33.821),ODK/ta/(オッズ比0.663,95%信頼区間 0.457~0.962),農村SC(オッズ比0.927,95%信頼区間 0.859~0.999)であった。共分散構造分析の結果,「年齢が高いほどODK/ta/値が低く,うつ病の可能性がある」「ODK/ta/値が高く,うつ病の可能性がなく,農村SC値が高いほど,主観的認知機能低下がない」という関係がみられた。 結論として,農村地域の高齢者を対象に主観的認知機能低下に関連する要因を調査した結果,SC,うつ病の可能性および舌の巧緻性が関連していた。
著者
長棹 由起 富田 美穂子 金銅 英二
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.3-12, 2022-06-30 (Released:2022-07-25)
参考文献数
28

目的:多くの高齢者施設では,オーラルフレイルの予防として,舌口唇機能訓練である「パタカラ体操」が実施されている。しかし,舌口唇機能訓練による認知機能や口腔周辺の筋力への効果は明確にされていない。そこで,舌口唇機能訓練が認知機能および舌筋力と口唇閉鎖力に与える効果を明らかにすることを目的とした。 方法:高齢者(66~98歳)60名を舌口唇機能訓練有群(T群)と訓練無群(N群)に分け,T群には舌の出し入れと「パ」「タ」「カ」の各音の5秒間連呼を1日3回実施させた。両群全員に対して,認知機能(MMSE),舌の口腔湿潤度,舌口唇機能(舌口唇運動機能),舌筋力,口唇閉鎖力を3カ月おきに21カ月後まで測定した。各群内の各回の値を比較するとともに,初回時に対する各回の差(MMSE)や変化率(舌の口腔湿潤度,舌口唇運動機能,舌筋力,口唇閉鎖力)を両群で比較検討した。 結果:群内の比較では,MMSEと舌口唇運動機能において各回に有意差は認められなかった。T群の口腔湿潤度は,訓練前に比べ訓練21カ月後,舌筋力と口唇閉鎖力は,訓練12カ月後以降に有意に上昇した。差や変化率を用いた両群の比較では,MMSEは18カ月後以降,舌口唇運動機能は9カ月後と21カ月後に有意差が認められた。T群の舌筋力の変化率は9カ月後以降N群より高く,口唇閉鎖力は21カ月後にN群より高かった。 結論:舌口唇機能訓練の継続は,舌筋力や口唇閉鎖力を上昇させるとともに,認知機能や発音機能の維持に有効であることが示唆された。
著者
濱田 昌子 五味 満裕 森川 正章
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.13-24, 2022-06-30 (Released:2022-07-25)
参考文献数
28

本研究では,全部床義歯プラークの菌叢解析を行い,主要構成菌種を用いたプラークモデルを再構築し,義歯洗浄剤による除去効果の有効性評価を行った。全部床義歯床部からプラークを回収し,次世代シーケンサーによるメタ16S rRNA遺伝子配列解析を行い,主要構成細菌種がStreptococcus salivarius,Veillonella dispar,Actinomyces meyeri,Rothia mucilaginosaであることを明らかとした。これら細菌4種と真菌Candida albicansを供してレジン上にプラークモデルを再構築し,義歯洗浄剤による除去効果を評価した。プラークモデルを洗浄した後に生菌数を測定したところ,洗浄剤は約4 logの除菌効果を有することが明らかとなった。また,洗浄後にプラークモデルの蛍光染色観察を行ったところ,洗浄剤がプラークに対する剝離効果を有し,細菌をほぼ死滅させることが示唆された。本研究では,新たなデンチャーモデルプラークを創出し,全部床義歯洗浄剤評価系の基盤を構築した。
著者
佐藤 裕二 七田 俊晴 古屋 純一 畑中 幸子 内田 淑喜 金原 大輔
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.101-104, 2021-09-30 (Released:2021-10-21)
参考文献数
6

目的:2021年6月に,2020年6月(医療保険導入後2年2カ月)の社会医療診療行為別統計が公表されたので,これを前報の実施状況と比較することで,最新の口腔機能低下症の検査・管理の実態を明らかにすることを目的とした。 対象と方法:2019年6月,2020年6月および2021年6月に発表された社会医療診療行為別統計により,医療保険導入後2カ月,1年2カ月,2年2カ月の口腔機能低下症の検査・管理の実施状況を調査した。 結果:「65歳以上の初診患者」は225万人(2019年),188万人(2020年),125万人(2021年)と減少していた。そのため,2019年から2020年にかけての検査・管理件数はわずかな増加(1.2倍)であったが,初診患者数に対する実施率は1.8倍になった。 考察:検査・管理件数は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響も考えられ微増(21.2%増)にとどまったが,普及は進みつつある。ただし,口腔機能低下症の有病率と比べると依然として実施率は少ない。 結論:口腔機能低下症の検査・管理は普及してきたが,さらなる普及に向けた努力が必要であることが示された。
著者
佐藤 裕二 角田 拓哉 北川 昇
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.448-454, 2019-03-31 (Released:2019-04-24)
参考文献数
12
被引用文献数
1

口腔機能低下症の評価方法の一つとしてオーラルディアドコキネシス(ODK)が挙げられる。ODKは1秒間に/pa/ /ta/ /ka/をそれぞれ何回発音できるかをカウントする。しかし,高齢者自身が簡便に測定することは困難である。そこで,本研究ではODKの簡便な自己評価方法を考案し,従来法と比較した。 「ぱたか」と10個書かれた用紙を順に指さしながら発音し,自分で秒針のついた時計で時間を測定した(pataka 10回法)。また,同時に測定者がストップウォッチで時間の測定を行った。ODKの測定には口腔機能測定機器を用いた。結果を1秒ごとの発音数に換算した。被験者は高齢者27名で,測定はそれぞれ2回行い,その平均をデータとした。 pataka 10回法はODKの/pa/と/ta/と/ka/に有意な正の相関を示し,pataka 10回法で被験者と測定者の測定結果は有意な正の相関を示した。ODKでいずれかが4回/s未満を舌口唇運動機能障害の閾値とし,pataka 10回法で被験者測定が6秒以上,測定者で5.5秒以上を閾値としたときの感度はともに1.0,特異度はそれぞれ0.90,0.95であった。 新たに考案した方法は,閾値についてはさらなる検討が必要であるものの,患者による自己評価方法として有用である可能性が示唆された。
著者
山根 瞳
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.271-276, 2001-11-30 (Released:2014-02-26)
参考文献数
1
著者
関 智行 新井 冨生 山口 雅庸 石川 文隆 齊藤 美香 大平 真理子 平野 浩彦 石山 直欣
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.315-321, 2010

ビスフォスフォネート (以下BPs) 製剤は骨代謝異常疾患に対して有効であり, その使用症例が近年増加しているが, それにともないBPs製剤に関連した顎骨壊死 (Bisphosphonate-related osteonecrosis of the jaw, 以下BRONJ) の報告も増加している。今回, われわれは多発性骨髄腫に対してBPs静注剤の投与を受けた患者で, 上下顎骨壊死をきたした剖検例を経験し, 口腔露出部顎骨と骨が露出していない下顎骨を病理組織学的に比較検討を行ったので報告する。<BR>症例は77歳男性。初診時, 上顎右側第二小臼歯部に骨露出を認めた。多発性骨髄腫に対してBPs静注剤の長期投与の既往があることからBPs関連顎骨壊死を考慮し, 抗菌薬投与と局所洗浄を行った。また, 多発性骨髄腫による骨症状がないことからBPsを中止した。初診3カ月後, 下顎右側犬歯から第二小臼歯部に新たな骨露出を認めた。初診6カ月後には上顎右側第一小臼歯が自然脱落した。初診8カ月後に間質性肺炎悪化にともなう呼吸不全で死亡した。剖検が行われ, 口腔に露出していた上下顎骨は病理組織学的に骨壊死を呈していた。また, 粘膜に被覆され骨が露出していない右側第三大臼歯頬側の下顎骨を検体として採取し病理組織学的に検索した結果, 骨小腔には骨細胞が散見され, 骨髄組織に慢性炎症像が認められた。<BR>BRONJにおいては, 顎骨壊死が露出領域を超えて顎骨未露出領域まで拡大している可能性が示唆された。
著者
尾﨑 研一郎 寺中 智 岡田 猛司 水口 俊介
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.17-24, 2018-06-30 (Released:2018-07-25)
参考文献数
24

当歯科はリハビリテーション科(リハビリ科)を起点として医科歯科連携を行っており,対象は主に入院患者である。今回,当歯科での活動報告として開設した2010年10月から2011年1月までの間にリハビリ科依頼となった急性期入院患者への口腔内検診の結果と2010年10月から2016年3月までの間に歯科介入した入院患者の実績について,診療録と当科データベースより後ろ向きに調査した。開設後の4カ月間に行った急性期におけるリハビリ科依頼患者への口腔内検診の結果,歯科介入の必要性は404人中259人(64%)であることが分かった。次に開設から5年5カ月の間に歯科介入した患者数は男性2,554人,女性1,829人(平均年齢72±13歳)であった。原疾患は呼吸器疾患755人(17%),脳血管障害746人(17%),消化器疾患593人(14%)と続いた。主な歯科介入の内容は口腔衛生管理2,668人(61%),義歯治療910人(21%),処方を要する粘膜治療426人(10%),保存治療212人(5%),抜歯145人(3%)であった。口腔内検診の結果より,急性期におけるリハビリ科依頼患者の約6割に歯科介入の必要性があり,歯科ニーズが潜在していることが明らかになった。歯科介入の内容は口腔衛生管理が最も多かったが,介入の内容は多岐にわたっていた。
著者
古屋 裕康 戸原 雄 田村 文誉 菊谷 武 田中 公美 仲澤 裕次郎 佐川 敬一朗 横田 悠里 保母 妃美子 礒田 友子 山田 裕之
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.266-273, 2021

<p> 目的:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)感染拡大により,摂食嚥下リハビリテーションの対面診療について,慎重な対応が求められた。本研究では,COVID-19感染蔓延下に対面での診療を中断した患者に対してオンライン診療を実施し,その有用性を検討した。</p><p> 方法:対象は,摂食嚥下リハビリテーションを専門とする歯科大学病院附属クリニックを受診する摂食嚥下障害患者であり,緊急事態宣言により対面診療中断となった患者21名とした。緊急事態宣言期間中にオンライン診療での嚥下訓練と食事指導を行い,期間中の肺炎発症,入院の有無,オンライン診療移行前と対面診療再開後での摂食状況(Food Intake LEVEL Scale:FILS),栄養状態を比較し検討した。また,アンケートでの意識調査を行った。</p><p> 結果:オンライン診療中に,FILSが向上した者は3名,低下した者は2名,変化のなかった者は16名であった。発熱を4名に認めたが,いずれも入院にはいたらなかった。体重減少率が3%以上の者はいなかった。アンケート調査では,オンライン診療の効果として,感染リスク低減や安心感が得られたと回答する者が多かった。</p><p> 結論:感染リスクを考慮した摂食嚥下リハビリテーションの診療形態としてオンライン診療は嚥下機能維持,向上に寄与し,また患者不安を低減した。オンライン診療での摂食嚥下リハビリテーションや食事指導は,対面診療を補完する診療形態として有用であることが示された。</p>
著者
原 豪志 戸原 玄 和田 聡子 熊倉 彩乃 大野 慎也 若狭 宏嗣 合羅 佳奈子 石山 寿子 平井 皓之 植田 耕一郎 安細 敏弘
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.289-295, 2014-01-14 (Released:2014-01-24)
参考文献数
35

過去に,喉頭挙上筋が開口筋であるため嚥下機能の評価を目的として開口力測定器を開発し,健常者の開口力を測定した。本研究では開口力が嚥下障害のどのような要素を反映しているかを調べるために,開口力と誤嚥,咽頭残留の有無との関係を調べた。 対象者は慢性期嚥下障害の患者95名 (男性49 名,女性46 名) で平均年齢は男性75.4±9.7 歳,女性 79.3±9.6 歳である。 誤嚥あり群 (男性:4.1±2.8 kg,女性:3.4±1.7 kg) と誤嚥なし群 (男性:5.6±2.9 kg,女性:4.4±1.8 kg) では,男女別で開口力に有意差を認めた。喉頭蓋谷に残留あり群 (男性:4.2±2.3 kg,女性:3.6±1.4 kg) となし群 (男性:8.5±3.4 kg,女性:5.0±2.0 kg) では,男女別でともに有意差を認めた。梨状窩に残留あり群 (男性:4.1±2.1 kg,女性:3.5±1.5 kg) となし群 (男性:6.7±3.6 kg,女性:4.7± 1.9 kg) においても,男女別でともに有意差を認めた。 誤嚥は口腔期の問題でも生じるが不十分な咽頭収縮や喉頭挙上により起こり,咽頭残留は不十分な喉頭蓋の翻転や咽頭短縮が主な成因である。これらはいずれも不十分な舌骨,喉頭の挙上に起因する。以上より開口力は,嚥下時の機能評価において誤嚥と咽頭残留の有無を反映していることが示唆された。