著者
山口 麻子 日山 邦枝 上杉 雄大 野末 真司 丸岡 靖史 佐藤 裕二 弘中 祥司 高橋 浩二
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.8-16, 2017-06-30 (Released:2017-07-26)
参考文献数
24
被引用文献数
1

日本の肺炎による死亡者の97.3%,窒息死亡者の85.7%を65歳以上が占め,肺炎の多くは誤嚥の関与ありとする報告がある。今回,病識欠如が認められる入院患者に対して多職種による患者教育,栄養管理,口腔機能管理を行った結果,口腔と食の環境を整える意識の生起,窒息・誤嚥性肺炎の再発予防に成果が得られた症例を経験したので報告する。患者は急性期病棟入院患者,65歳男性,現病歴は双極性感情障害,アルコール性精神病,パン食の可否,誤嚥・窒息のリスク評価を目的として歯科を受診した。全身所見,口腔内所見,摂食嚥下機能,精神状態,服用薬剤を総合的に判断し,口腔衛生管理の意識低下による咀嚼障害,精神状態と薬原性錐体外路症状による摂食嚥下障害と診断した。パン食禁止,誤嚥・窒息ハイリスクとした。食形態は全粥とゼリー菜食,水分はトロミ付とした。患者に一口量の減量,詰め込み食べの禁止を指導,医師と看護師に注意喚起を依頼した。診断から1カ月後,夕食を詰まらせて窒息,2日後に発熱,内科にて誤嚥性肺炎と診断された。精神状態の改善に伴い患者教育,歯科治療に協力的になり自己管理意識の生起,口腔衛生管理,口腔機能の改善を得た。慢性期病棟で療養中の現在,詰め込み食べはあるが窒息・誤嚥性肺炎の再発はない。口腔と食の環境を整える意識の生起,窒息・誤嚥性肺炎の再発予防には多職種による継続的な支援が重要と考える。
著者
田村 暢章 菊池 建太郎 龍田 恒康 小林 真彦 園川 拓哉 松田 玲於奈 山本 信治 竹島 浩
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.226-229, 2020-12-31 (Released:2021-01-28)
参考文献数
17

われわれは高齢者の右側口蓋に発生した多形腺腫由来癌の1例を経験した。患者は70歳男性。既往歴はなく,約2年前に近在歯科で右側口蓋の腫脹を指摘されていたが,自覚症状がないため放置していたところ,約1カ月前より腫脹が増大するようになった。他の近在歯科を受診して精査加療目的で当科を紹介来院となった。画像検査では内部充実性の軟部腫瘤であり,核医学検査では集積を認めなかった。生検により多形腺腫の診断を得た後,全身麻酔下で同部の腫瘍切除術を行った。病理組織学的に多形腺腫由来癌の確定診断を得た。術後約5年経過するが再発は認めず良好である。腫瘍性病変を治療せずに長期間放置しておくことは悪性化の危険性が生じることを常に念頭に置き,高齢者の口腔管理に従事していかなければならないと考えられた。
著者
渡辺 郁馬
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.3-9, 2000-07-31 (Released:2014-02-26)
参考文献数
27
被引用文献数
1
著者
湖山 昌男 石山 直欣 渡邊 郁馬 佐藤 亨 腰原 好 牧野 正義
出版者
Japanese Society of Gerodontology
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.126-131, 1992

従来咀嚼能力の測定には様々なものが考案されている。しかしこれらは日常の食生活を考慮した測定方法とは必ずしもいえない。老年者に対する歯科医療の現場では「食べたいものが噛めない」という患者の声は切実であり, 日常の食事における食品と対応した咀嚼能力の判定が必要であると考えられる。そこで今回われわれは, 義歯に対して付着性が低く, 安心して食べることができ, 診療室内で簡単に咀嚼能力を判定できるものとしてゼリーを用い, 日常食品の物性に対応した試料の作製を試みた (G-1ゼリー) 。<BR>試料のゲル化剤には寒天とゼラチンを使用した。外形は13mm角の立方体であり, 一口では飲み込めない大きさを考慮した。物性については柳沢らの「咀嚼筋活動量による食物分類」を用いた。10のランクに分けられた食品群のうち, 実用的な最低ランク2と最高ランク10, そして中間の3つのランクを選び, 5段階の試料を作製した。味については, 一般的に好き嫌いが少ないと思われる柑橘系にした。この試料に対して健常成人10人による官能試験と当科外来患者24人に臨床試験を行った。その結果今回の試料が食品と対応し, 臨床的に簡便で有効な試料であることが確認された。
著者
長澤 祐季 原 豪志 中川 量晴 豊島 瑞枝 奥村 拓真 戸原 玄
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.142-149, 2020-09-30 (Released:2020-10-25)
参考文献数
22

2020年3月以降,本邦において新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は増加しており,歯科医療においても感染対策の指針が多方面から出されている。そのなかにオンライン診療の推進が含まれる。歯科医療において感染防止を目的としたオンライン診療の報告はまだない。今回われわれは,感染症拡大期に直接対面での診療の代替手段としてオンライン診療を実施し,高齢口腔癌術後患者の食事支援を行ったので報告する。 患者は86歳女性,左上下顎歯肉癌術後,右頸部リンパ節転移のため当院に入院していた。退院後も嚥下障害が遷延し,嚥下障害に対する外来での指導を継続していたところ,COVID-19感染拡大が深刻化し通院が困難になったことから,オンライン診療による代替を行った。歯科医師側に管理栄養士が同席し,患者側にオンライン支援者として義娘が同席した。オンライン診療では,支援者に実際の昼食をリアルタイムで撮影してもらい,それに基づいて,食事量,形態,摂取方法などを助言した。また,歯科医師側の管理栄養士が患者からの栄養摂取に関する相談に対応した。 オンライン診療は,患者の感染リスクや通院時間などの身体的負担を軽減することが利点であった一方,情報通信機器の導入などの課題が挙げられた。 感染症流行期の特措的手段として情報通信機器を用いた代替法が実施可能であり,摂食嚥下リハビリテーションを含む食事支援においてオンライン診療は実用可能であることが示唆された。
著者
内藤 久貴 谷口 広祐 朴 真実 中島 健
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.135-141, 2020-09-30 (Released:2020-10-25)
参考文献数
12

超高齢社会を迎えた日本において,今後,高齢者の顎口腔領域における重症感染症を経験する機会は増加する可能性がある。顎口腔領域の感染症では,咀嚼筋群や舌機能を規定する舌骨上筋群への炎症波及により,摂食・嚥下機能の低下をきたす恐れがあるが,当領域での感染症治療後に舌機能の定量的な評価を行った報告はきわめて少ない。舌圧測定は慢性的な筋力低下のある高齢者や脳血管障害,神経筋疾患患者の口腔機能評価に用いられている侵襲の少ない評価法である。そこでわれわれは,顎口腔領域の感染症治療後に舌圧測定を実施し,舌機能が摂食・嚥下機能に与える影響を定量的に評価した。 症例は,86歳女性で右側顎下部の重症感染症にて当院に救急搬送された。気道狭窄および右側口底蜂窩織炎に対し,全身麻酔下で気管切開術,口腔外切開排膿消炎術を行った。術後創部洗浄を継続し消炎確認後,舌圧測定を行ったところ16.0 kPaと低値を認めた。このため,舌圧強化目的に間接訓練を実施し,定期的な舌圧評価を行った。その結果,舌圧が次第に上昇し,食形態をペースト食から常食まで段階的に上げていくことができた。以上のことから,顎口腔領域における重症感染症の治療後は低舌圧を併発する場合があり,摂食・嚥下機能に影響する可能性が示唆された。また,その客観的評価に舌圧測定が有効であると考えられた。
著者
上杉 雄大 伊原 良明 野末 真司 林 皓太 髙橋 浩二
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.70-74, 2020-06-30 (Released:2020-07-23)
参考文献数
12

緒言:今回,進行性核上性麻痺(PSP)の既往を有し,食道癌放射線治療後の摂食嚥下障害によって全量経管栄養管理となった患者が,複合的な嚥下訓練が著効し,全量経口栄養摂取可能となった症例を経験したので報告する。 症例:患者;76歳男性。既往歴;PSP。現病歴;2016年4月,胸部食道癌に対し,陽子線化学療法を実施。2016年9月,胸部食道の狭窄を認め,内視鏡下バルーン拡張を三度施行するも,食道裂創を認めた。胸部食道の狭窄は残存。以降誤嚥性肺炎を繰り返したため,嚥下訓練目的より当科紹介受診。現症;体重:52.7 kg,modified Rankin Scale 4,舌振戦あり,栄養摂取状況:藤島の嚥下Lv1。VF検査よりかき込み食い,口腔期の運動障害,上部食道狭窄を認めたが,咽頭期には大きな問題は認められなかった。当科診断;食道癌放射線治療後,PSPによる摂食嚥下障害。 経過:上記診断の下,口腔衛生指導,頸部ストレッチ,咀嚼訓練と並行し,嚥下調整食学会分類2013の1jより直接訓練開始した。食事ペースに注意するよう指導し,段階的に食形態の調整を続け,藤島の嚥下Lvは7まで改善した。 考察:本症例における誤嚥性肺炎の原因として,ペーシング障害,口腔期の運動障害,上部食道狭窄が原因と考えられる。各原因に対し,複合的な摂食指導・嚥下訓練を継続したことから,藤島の嚥下Lvが1から7まで改善したと考える。
著者
長田 耕一郎 湯川 綾美 山添 淳一 和田 尚久
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.61-69, 2020-06-30 (Released:2020-07-23)
参考文献数
25

脊髄小脳変性症(Spinocerebellar degeneration:SCD)は進行性かつ不可逆的な疾患で,体の平衡性や協調運動,構音機能を低下させる。一般的に,日常生活動作(Activity of Daily Living:ADL)が低下したSCD患者はリハビリを行っても,ADLが改善する可能性は低いと考えられている。われわれは,不適合の義歯を長期間不使用であり,歯科的対応が困難なSCD患者の義歯を調整し,義歯使用が可能とした後,急速にADLが改善し始めた症例を経験した。歯科的対応困難な患者への義歯調整法とともに,本症例について報告する。 症例は81歳の男性で,SCDと診断されている寝たきり状態の患者であった。無歯顎であったが義歯は不適合であったため装着しておらず,全介助によりペースト食を経口摂取していた。口腔内での操作を可及的に減じた半調節性咬合器に再付着する方法で義歯調整を行い,義歯を安定化させ,リハビリを継続したところADLが急速に改善し始めた。 本症例では,フレイル状態の高齢者のADLは口腔機能の影響を受けることが示唆された。義歯を調整することで患者の口腔機能が改善し,リハビリのモチベーションアップにもつながった。義歯調整はSCDのような進行性疾患にも効果的である可能性がある。また,今回のリマウント調整法は,従来のチェアサイドでの義歯調整法では対応困難な症例にも適応していた。
著者
荒井 昌海 松尾 浩一郎 田口 知実 森田 英明
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.52-60, 2020-06-30 (Released:2020-07-23)
参考文献数
30

目的:今回われわれは,老人介護保健施設において,介護者への口腔ケア教育を含めた口腔衛生管理によって入所者の口腔環境が改善,維持されるか,日本語版Oral Health Assessment Tool(OHAT)を使用して,後ろ向きに検討した。 方法:2016年9月から2年間,某歯科医院による訪問歯科診療への同意が得られた介護保険施設の入居者と介護者を対象とした。1カ月ごとにOHATを用いて対象者の口腔環境が評価され,評価に基づいた口腔機能管理シートが作成された。この管理シートを基に,介護者への口腔ケアの教育と歯科衛生士による専門的口腔衛生処置が実施された。2年間を通じて入所していた患者を通期群とし,介入の途中で入所または退所した者を含めた全患者を全体群とした。OHATスコアの半年ごとの変化を検討した。 結果:通期群42名と全体群96名のOHATスコアは,初回評価時では,通期群で中央値(四分位範囲)が3(1~4),全体群では3(1~5)であったが,半年後には,通期群で1(0~3),全体群でも2(0.25~3)と有意に低下し,2年後には通期群で1(0~2),全体群でも1(0~3)と低値が維持された。 結論:本結果より,入所者が変化していく介護保険施設で,介護者への口腔ケア教育を含めた口腔衛生管理により,入所者の口腔環境を改善させ,継続して維持できることが示唆された。
著者
並木 千鶴 原 豪志 中川 量晴 山口 浩平 Chantaramanee Ariya 小西 恵巳 吉見 佳那子 中根 綾子 戸原 玄
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.41-51, 2020-06-30 (Released:2020-07-23)
参考文献数
32

目的:在宅などでの摂食嚥下リハビリテーション(嚥下リハ)は,多職種で連携することが効果を高めると認識されてきている。しかし,生活期における多職種連携による嚥下リハの効果を縦断的に検証した報告は少ない。本研究では,生活期の高齢摂食嚥下障害患者を対象とし,嚥下リハ前後のリハ効果の検証と,訪問歯科単独と多職種連携した場合との間に嚥下リハ効果に相違があるかを検討した。 方法:2017年4月から2018年3月までの期間で,当科に嚥下リハの依頼があった患者のうち,3カ月間のフォローアップが可能であった37名(男性16名,女性21名,平均年齢82.2±9.5歳)を対象とした。毎月1回訪問し,食形態や食事時の姿勢調整を行い,間接訓練を指導した。対象者の機能評価は,KT(口から食べる)バランスチャート(以下,KTBC)を用いた。対象者のKTBCの変化を初診時と3カ月後で比較し,さらに訪問歯科診療のみの群と多職種が携わった群に分けて3カ月後のKTBCを比較,検討した。 結果:3カ月の管理で対象者のKTBCの各項目が改善した。さらに訪問歯科診療単独群と比較して,多職種が携わった群においてKTBCの栄養状態の項目が有意に改善していた(p<0.05)。 結論:生活期における高齢の摂食嚥下障害患者の嚥下リハは,摂食嚥下機能だけでなく,栄養状態や身体機能の向上において重要であり,3カ月という短期間においてもそれらの向上を認めた。また多職種との連携によって,より効率的な効果が得られることが示唆された。
著者
角 保徳 道脇 幸博 三浦 宏子 中村 康典
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.366-371, 2002 (Released:2014-02-26)
参考文献数
12
被引用文献数
2

高齢者の口腔ケアの自立度は徐々に低下し, 介護者による日々の口腔ケアの役割は重要となってきている。しかし, 介護者の時間的制約, 他人の歯を清掃する技術的困難さ, 要介護高齢者の協力が得られないことおよび口腔ケアの必要性の知識の欠如により, 介護者による口腔ケアは必ずしも適切に提供されていない。本研究の目的は, 介護者の負担を軽減するような要介護高齢者への簡便で有効な口腔ケアシステムを評価することにある。対象者は25名の要介護高齢者とその介護者である。8週間の口腔ケアシステムを施行した後, 歯垢指数, 歯肉指数を評価し, 同時に口腔ケアシステムを提供するに当たっての利点, 欠点, 負担度および疲労度を質問した。その結果, 1日1回の口腔ケアシステムによって歯垢指数, 歯肉指数は施行前に比較して有意に低下した。さらに, アンケート調査により介護者の負担度および疲労度は低下した。今回評価した口腔ケアシステムは, 要介護高齢者の口腔衛生向上に有効であり, 介護者の負担を軽減する事が確認された。