著者
岩渕 博史 澤田 しのぶ 守谷 恵未 角 保徳
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.127-134, 2020-09-30 (Released:2020-10-25)
参考文献数
23

目的:超音波スケーラーによる歯石除去は,注水を伴うため唾液などの混和した冷却水を誤嚥させるリスクがあり,寝たきり高齢患者では使用することが困難であった。われわれは,角らの「水を使わない口腔ケアのシステム」を応用し,角らの開発した口腔ケア用ジェルを用いることにより,非注水下で超音波スケーラーによる歯石除去が行えるのではないかと考えた。本研究では,口腔ケア用ジェルを用いて非注水下に超音波スケーラーによる歯石除去を行い,咽頭侵入や歯周組織への為害作用について検討した。 方法:口腔ケア用ジェルを用いて非注水下に超音波スケーラーによる歯石除去を行い,患者の満足度や不快症状について水を使用した場合と比較した。また,本法を寝たきり患者に対して行い,咽頭侵入程度,歯周組織への為害作用,処置後の発熱の有無を評価した。 結果:口腔ケア用ジェルを用いた超音波スケーラーによる歯石除去は,処置中の咽頭侵入は非常に少なく,処置後に誤嚥を疑う発熱もみられなかった。処置への満足感,処置中の疼痛や不快感は水を使用した場合と差がみられず,有害な歯髄反応や歯肉の異常所見はみられなかった。 結論:口腔ケア用ジェルを用いたスケーリングは,寝たきり高齢患者においても唾液などの混和した冷却水などの誤嚥の危険性が少なく,歯髄・歯肉への為害作用もみられないことから,これらの患者においても口腔ケア用ジェルを用いることにより,超音波スケーラーによる歯石除去が行える可能性が示唆された。
著者
道脇 幸博 愛甲 勝哉 井上 美喜子 西田 佳史 角 保徳
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.453-459, 2012-03-31 (Released:2012-06-15)
参考文献数
18

窒息事故は交通事故による死亡者数に匹敵する数に増加しているが,事故予防に関する社会的な関心は高くない。そこで,現状把握と今後の症例集積のために,窒息事故の半数を占める食品による窒息例 107 例について,発症要因を分析し,医療費用を算出した。その結果,年齢では高齢者に多く,性差はなかった。既往歴では認知症や脳梗塞,統合失調症など中枢神経系の疾患をもっている方が多かった。発生時間は食事中が多く,場所は家庭や施設などであった。事故前の ADL や食事の自立度,食事形態では,自立者で普通食を食べていた方が半数を占めた。窒息の原因となった食品の種類はさまざまで,固形物であれば窒息の原因となりうると思われた。転帰では,62 例(58%)が死亡していた。入院費用は約 60 万円であった。本研究から,窒息事故に対する社会的な予防策の必要性が改めて示され,そのためには症例のデータベース化が有用であると考えられた。
著者
梅本 丈二 北嶋 哲郎 坪井 義夫 喜久田 利弘
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.306-310, 2009 (Released:2010-10-20)
参考文献数
12
被引用文献数
1

パーキンソン病患者の流涎と摂食・嚥下障害との関係を評価する。対象は福岡大学病院歯科口腔外科で嚥下造影検査 (VF) を行ったパーキンソン病患者16名 (男性7名, 女性9名, 平均年齢67.3±8.0歳) とした。Hoehn & Yahrの重症度分類では, StageIIIが9名, IVが6名, Vが1名であった。患者への問診から流涎の重症度を5段階, 頻度を4段階にスコア化した。また, 側面VF画像から口腔咽頭通過時間, 舌運動速度, 下顎運動速度を解析し, さらに口腔期の嚥下障害を37点満点でスコア化した。流涎の重症度は, 口唇のみが7名 (44%), 衣服まで及ぶものは4名 (25%) であった。流涎の頻度は, 「ときどき」が8名 (50%), 「しばしば」という患者が4名 (25%) であった。流涎スコアと口腔咽頭通過時間の間に有意な相関関係を認めた (r=0.659, p=0.011)。また, 口腔期嚥下障害スコアと口腔咽頭通過時間 (r=0.540, p=0.037), 舌運動速度と口腔咽頭通過時間 (r=-0.522, p=0.046) の間には有意な相関関係が認められた。パーキンソン病患者の流涎は, 舌などの動作緩慢による唾液の送り込み障害が一因となっている可能性が示唆された。
著者
伊藤 加代子 井上 誠
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.305-310, 2017-12-31 (Released:2018-01-25)
参考文献数
32
被引用文献数
2
著者
小出 勝義 赤泊 圭太 吉岡 裕雄 後藤 由和 渥美 陽二郎 白野 美和
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.220-226, 2021-12-31 (Released:2022-01-28)
参考文献数
25

歯科訪問診療の患者背景は複雑であり,担当歯科医師はそのなかから義歯製作後に患者が使用可能か不可能かを客観的に判断することは難しい。そこで,新義歯装着の可否を判断する予測因子を探索することを目的として,2013年から2018年の5年間に当科での歯科訪問診療の要請があった初診患者において義歯製作を行い,その後継続して義歯の使用が可能であった患者を「義歯使用可能群」,義歯製作を行ったがその後義歯が使えず使用を中断した患者を「義歯使用不能群」に分類した。義歯使用可能群294名と義歯使用不能群25名における患者の口腔内状態,全身状態,治療依頼者などとの関連について調査した。 義歯使用不能群では,義歯使用可能群と比べ座位保持状態が不良な者の割合が多かった(オッズ比7.870,95%信頼区間=3.098~19.992,p<0.001)。また,義歯使用不能群では,パーキンソン病の既往を有する者(p=0.048),含嗽不能の者(p=0.012)の割合が多かった。座位保持は,義歯の装着に影響を及ぼす身体機能を判断するのに有効であり,義歯を必要とする高齢者の義歯使用可否にも大きく影響すると考えられる。 歯科訪問診療において座位保持の可否が義歯装着の可否を判断する一助となる可能性が示された。
著者
恒石 美登里 山本 龍生 石井 拓男 佐藤 保 山口 武之 牧野 利彦
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.349-356, 2017-12-31 (Released:2018-01-25)
参考文献数
22
被引用文献数
2

レセプト情報・特定健診等情報データベースを用いて,高齢者における現在歯数および欠損歯数と誤嚥性肺炎による医科受診との関連を検討した。 2013年4月分の歯科の診療報酬明細書データに誤嚥性肺炎病名および医科点数のデータを結合し,65歳以上の歯周炎病名および欠損歯病名を有する1,662,158名および356,662名を対象とした。歯周炎病名の歯式から現在歯数,欠損歯病名の歯式から欠損歯数を算出して3群に分け,誤嚥性肺炎による医科受診の有無との関連を検討した。 誤嚥性肺炎の割合は,現在歯数が20~32,10~19および1~9の者でそれぞれ0.08,0.14および0.25%であった。また,欠損歯数が1~14,15~27および28~32の者ではそれぞれ0.09,0.18および0.43%であった。誤嚥性肺炎の有無を目的変数として性と年齢を調整したロジスティック回帰モデルにおいて,現在歯数が20~32の者を基準とした10~19および1~9の者のオッズ比はそれぞれ1.20および1.53で有意に高かった。また,欠損歯数が1~14を基準とした,15~27および28~32の者のオッズ比はそれぞれ1.67および3.14と有意に高かった。 歯周炎病名および欠損歯病名で歯科を受診した高齢者において,現在歯数の少ない者ほど,欠損歯数の多い者ほど医科医療機関で誤嚥性肺炎の治療を受けていたことが明らかとなった。
著者
米山 武義 鴨田 博司
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.3-13, 2001-07-31 (Released:2014-02-26)
参考文献数
34
被引用文献数
3
著者
佐野 淳也 中根 綾子 高島 真穂 戸原 玄 武藤 徳男 小野 武也 栢下 淳
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.58-65, 2016-06-30 (Released:2016-07-23)
参考文献数
35
被引用文献数
1

目的:要介護高齢者は摂食嚥下障害を有する人が多く,摂取可能な形状が限られるため低栄養に陥りやすい。嚥下調整食の調理では,食品に水を多く含有させて軟らかく仕上げるため栄養が希釈されてしまう。そこでたんぱく質含有量が多いが高齢者が摂取しにくい肉や魚に対し,効率的なエネルギー源である油脂を添加してテクスチャーを調整した嚥下調整食品の咀嚼特性に関して,物性測定,官能評価,筋電図測定を用いて検証した。 方法:肉と魚より鶏肉とかまぼこを選び,それぞれ油脂を添加した試料(油脂あり),添加しない試料(油脂なし)を調製した。物性は硬さ,凝集性,付着性を,官能評価は食べやすさに関する6項目を評価し,筋電図測定より咀嚼回数,咀嚼時間,咀嚼周期,嚥下回数を求め,油脂の有無による差を解析した。 結果:物性測定では,鶏肉,かまぼこともに油脂ありが油脂なしより有意に軟らかくなった(p<0.05)。官能評価では,鶏肉,かまぼこともに,油脂ありが油脂なしより有意に軟らかく,なめらかで,まとまりやすく,飲み込みやすいという評価を得た(p<0.05)。筋電図測定では,鶏肉の油脂ありが油脂なしに比べて,咀嚼回数,咀嚼時間,咀嚼周期が有意に減少した(p<0.05)。 結論:本研究結果より,食品に油脂を添加することで咀嚼への負担が軽減されることが示唆された。今後,咀嚼困難者を対象とした嚥下調整食の調製方法として油脂の応用が期待される。
著者
佐藤 裕二 古屋 純一 畑中 幸子 内田 淑喜 大澤 淡紅子 七田 俊晴
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.263-268, 2021-12-31 (Released:2022-01-28)
参考文献数
11

口腔機能低下症の診断のためには,口腔機能に関する7項目の検査を行う必要があるが,検査の内容が多彩であるためミスが生じやすい。そこで,口腔機能低下症の検査において起こしやすいミスと対策の例について報告する。 口腔衛生状態不良は舌苔付着度を評価するが,評価エリアに舌側縁は含めないことに注意が必要である。口腔乾燥は口腔粘膜湿潤度を評価するが,口腔水分計の先端にゆとりをもたせた状態でカバーを装着すること,また舌の位置を工夫して安定させることが重要である。咬合力低下はデンタルプレスケールを用いるが,フィルムの種類による3種の基準値の理解とフィルムの乾燥に留意する。舌口唇機能低下はオーラルディアドコキネシスによって評価するが,高齢者が理解しにくいため,自動計測器に音節を記したラベルの貼付が有効である。また,感染防止にも配慮した計測方法を用いたい。低舌圧は舌圧測定器により評価するが,プローブの傾きとバルーンの向きに注意が必要である。咀嚼機能はグルコース溶出法によって評価するため,素早い測定操作と患者への説明が欠かせない。また,嚥下機能は主観的評価であり,回答方法に関する事前の説明が重要である。 このように,口腔機能低下症の検査については起こりがちなミスがあるため,臨床上の工夫を行うことで,少しでも検査の信頼性の向上につなげることが重要である。
著者
阪口 英夫
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.8-11, 2020-06-30 (Released:2020-07-23)
参考文献数
5
著者
松下 貴惠 岩島 佑希 馬場 陽久 稲本 香織 三浦 和仁 岡田 和隆 渡邊 裕 山崎 裕
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.209-217, 2020-12-31 (Released:2021-01-28)
参考文献数
31

目的:味覚障害の多くを占めている高齢者における味覚障害の特徴を明らかにすること。 方法:2013年8月~2019年12月の6年5カ月間に味覚異常を主訴に当科を受診した101例を,65歳以上の高齢者群74例と,65歳未満の非高齢者群27例の2群に分けた。これらに対し,男女別の年齢分布,病悩期間,発症の契機,味覚の自覚症状,味覚異常以外の口腔内随伴症状,薬剤服用歴,内科的疾患,味覚障害の原因,初診時の味覚検査と血液検査,治療法,予後に関して比較検討した。 結果:高齢者群は非高齢者群に比べ,病悩期間が有意に長く(19.3±28.1月 vs. 8.9±16.8月),発症の契機率は有意に短く(46% vs. 74%),薬剤服用歴と内科的疾患の有病率はともに有意に高い結果であった(91% vs. 70%,93% vs. 59%)。味覚異常の原因では,両群ともおおむね同様の傾向を示したが,高齢者群は非高齢者群に比べ心因性が少なく,口腔疾患と亜鉛欠乏性の割合が多くなっていた。高齢者群の口腔疾患は,口腔カンジダ症が多く高齢者群全体の約2割を占め,臨床所見のみではカンジダ症が疑われない症例が約4割に認められた。高齢者群の改善率は非高齢者群と同様で約75%と良好であったが,治療期間は長い傾向にあった。両群ともに病悩期間の長いほうが改善率は低く,治療期間も長くなる傾向があった。 結論:高齢者における味覚障害では,口腔カンジダ症が多く認められるため,初診時のカンジダ検査の重要性が示唆された。また病悩期間が治療効果や治療期間と関係するため,早期発見と早期の適切な治療が必要であると思われた。
著者
小川 俊子 西尾 淳子
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.386-398, 2017-12-31 (Released:2018-01-25)
参考文献数
30

嚥下障害があり,口腔健康管理を自分で行うことができない要介護高齢者に適切な口腔清掃を継続して実施することは困難である。本研究の目的は,口腔清掃の一手法として,安価で,入手しやすい物品である食用ゴマ油を用いた口腔を清拭する方法の効果を評価することである。 研究デザインは多施設一群事前事後テストデザインを用いた。対象は非経口摂取で口腔健康管理に全介助を要する高齢者13名とした。介入として,研究者らがすでに作成した方法によって食用ゴマ油を用いた口腔の清拭を2週間実施した。口腔清掃の効果の評価は,舌背の細菌数・カンジダ属真菌数およびPseudomonas属細菌数,頰粘膜および舌の水分量,口腔内アセスメントスコアガイドを用いたアセスメント,口腔粘膜細胞診によって実施した。 2週間の本法の実施によって,舌背の細菌数は介入後に-0.56±0.63 log10 CFU/swab(n=12)と減少(p=0.010)し,カンジダ属真菌数は介入後に-1.55±2.19 log10 CFU/swab(n=9)と減少する傾向にあった(p=0.066)。アセスメントでは「舌」「口臭」について6名が改善,「口唇」が3名,「唾液」「粘膜」「歯肉」について2名が改善した。口腔粘膜細胞診による口腔粘膜の状態は11名が改善した。 食用ゴマ油を用いた口腔の清拭は,非経口摂取で口腔健康管理に全介助を要する高齢者の口腔内微生物を減少させ,口腔粘膜の状態を改善させる点で有効であると考えられた。 今後,より多くの対象者に長期的に実施したときの効果について明らかにしていく必要がある。
著者
玉田 泰嗣 古屋 純一 鈴木 啓之 小野寺 彰平 山本 尚德 佐藤 友秀 野村 太郎 近藤 尚知
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.503-509, 2020-03-31 (Released:2020-04-17)
参考文献数
18

摂食嚥下リハビリテーションは,慢性期のみならず急性期病院入院中の早期から行うことも重要である。歯科においても,特に有床義歯に対する歯科補綴学的対応は歯科医師に限定されているため,他職種からの期待も大きい。しかし,摂食嚥下障害を有する急性期病院入院患者における有床義歯の使用状況については,十分には明確になっていない。そこで本研究では,摂食嚥下障害と診断され歯科に依頼のあった急性期病院入院患者627名(平均年齢71.0歳)を対象として,有床義歯の使用状況について調査を行った。患者の多くは脳血管障害や頭頸部癌を有する高齢者で,多数歯欠損であるEichner分類B3~C3の割合が全体の約60%を占めていた。有床義歯に対する歯科補綴処置の必要性は医科の認識よりも実際には高く,全身と口腔の状態から歯科医師が,有床義歯装着が必要と判断した患者は全体の約70%だった。しかし,実際に義歯を使用している患者は全体の約25%であった。また,摂食嚥下障害臨床的重症度分類(Dysphagia Severity Scale:DSS)が低い患者ほど義歯を装着していないことが多いが,誤嚥を認めないDSS 5,6の患者においても,義歯が必要だが使用していない患者を約35%認めた。以上より,摂食嚥下障害を有する急性期病院入院患者においては,有床義歯に対する歯科補綴学的対応が重要であることが示唆された。