著者
安野 智子
出版者
Japanese Association of Electoral Studies
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.46-60,145, 1996-03-31 (Released:2009-01-22)
参考文献数
29
被引用文献数
1

This study investigates the process model of public opinion formation mediated by perceived media impact. Davison (1983) coined the the term “third-person effect”: i. e., individuals tend to perceive a stronger impact of media message persuasiveness on others rather than on themselves. Several studies, the reafter, found the evidence of this tendency to overestimate the media's impact on others as compared with the self (Perloff, 1993, for a review). Davison also proposed that individulals are inclined to cope with perceived others' attitude change as a consequence of the media's impact, i. e., people change their own attitude or behavior in response to the perceived others' change, which means that they themselves are influenced by media messages in question (the third-person effect hypothesis). This hypothesis suggests that perception of media's impact mediates the actual impact.The third-person effect is related to several social psychological phenomena. First, the notion of self-other distinction (perceived discrepancy between self and others) is relevant to “fundamental attribution error” (e. g., Ross, 1977). Second, “pluralistic ignorance”, which means misperception of social distribution of opinion, is related to the perceived discrepancy. Third, the idea that people's expectations are the key to their actual behaviors is substantially paralleled to the argument of “spiral of silence” hypothesis (Noelle-Neumann, 1984). The hypothesis suggests that those who perceive themselves as minority hold their tongues in fear of expected isolation.Relating to these phenomena, the present author proposed the process model of public opinion formation through the third-person effect as follows; The greater the perceived third-person effect is, the larger the discrepancy between one's own opinion and expected public opinion will be (Hypothesis 1). Also, as the discrepancy increases, the perceivers will change their attitudes or behaviors all the more (Hypothesis 2).These hypotheses were confirmed by the author's two studies. n study 1, the third-person effect was correlated with the expectation of discrepancy between one's own opinion and public opinion. Study 2 showed that the third-person effect facilitated the intention to speak out, which was not predicted by the spiral of silence hypothesis.
著者
堤 英敬
出版者
Japanese Association of Electoral Studies
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.89-99,270, 1998-02-28 (Released:2009-01-22)
参考文献数
17

The 1996 general election was the first election after the new electoral system has adapted. When this elecoal system is justified, it is stressed that under the election system, selection would be party and policy centered. The aim of this paper is to answer whether the 1996 general election was party and policy centered or not, through an analysis of candidates' campaign pledge and voting behavior. Concretely, I investigate the cleavage of the parties, how the pledges of candidates are formed and whether or not the pledges affect the voters' behavior.In the 1996 general election, the policies mentioned by many candidates were administrative reform, promoting welfare, saving protecting agriculture and objection to rising consumer tax and so on. Through factor analysis, the pledges have four dimensions. They can be interpreted as “administrative and fiscal reform”, “distributive policy”, “conservative or reformist” and “post-materialistic policy”. However, I cannot find any large difference in these dimensions among the candidates of different parties. Except the first dimension, these dimensions are not new one and from the first dimension, no cleavage can be found.The main factor in forming the pledges is which party the candidates belong to. In some policy areas, the regional characteristics or candidates' career are significant. However, the degree of closeness of conpetion has no influence.Finaly, I found the relation between the campaign pledges of policy package and voting behavior. But compared with oher factors of voting behavior, the pledges' influence is very small. So it is diffecult to say that the 1996 general election was a party and policy centered election.
著者
境家 史郎
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.81-95, 2014 (Released:2018-01-05)
参考文献数
37

政治学において自然科学を範とする傾向がますます強まり,「より科学的」な研究を行うがための方法論争が盛んである。近年の実験的手法の流行もこの文脈において理解できる。しかしそもそも政治学者の想定する自然科学像ないし自然科学における研究蓄積過程のイメージは,どれだけその実態に即しているのだろうか。本稿では筆者自身のfMRI実験(Sakaiya et al. 2013)の経験もふまえ,認知神経科学における研究蓄積過程の実際を概観する。その結果,メカニズム追究,少数事例研究,帰納的分析といった,政治学にお いて意義の争われてきた方法が,自然科学分野において積極的に採られていることが示される。また,実験(という政治学者が理想とする検証方法)が可能な自然科学分野においても,少数の検証結果によって最終的結論に至るわけではなく,実際には同様の目的の実験を反復し,あるいは他のアプローチを併用するなど,きわめて慎重に議論が進められていることも示される。以上の観察は,政治学研究の「科学的」発展のための新たな方法論的示唆を与える。
著者
西山 千絵
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.94-105, 2018 (Released:2021-07-16)
被引用文献数
2

本稿では,投票所での選挙権行使に困難を抱える者を対象として,障害,疾病のある人とともに,寝たきり等の人の選挙権を扱う。判例では,選挙権の保障は選挙権の行使という実質的保障まで含むとされているところ,本稿は,選挙権の行使の本質的部分にわたる制限の適否--投票所等へ向かえる選択肢がほぼない人,政治的な意思表明の方法の選択肢が限られる人に対する機会・方法の制限--に焦点を当てた。一部の者には,その投票困難性への対応として郵便等投票,代理記載制度が設けられているが,精神的原因により外出困難な人や,制度対象外の寝たきり等の状態にある人への範囲拡充は,選挙の公正を理由として立法解決が遅れている。投票の困難性の明確な判定あるいは類型化が難しい対象の存在や,代理記載の限界にも留意しつつ,投票困難者の選挙権行使の機会・方法の確保について,巡回投票等の可能性にも多少の言及をしながら,検討を行った。
著者
村瀬 信一
出版者
Japanese Association of Electoral Studies
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.90-100,256, 2003-02-28 (Released:2009-01-22)
参考文献数
51

田中義一内閣下の第56議会(1928年12月∼1929年3月)において,与党•政友会と新党倶楽部が共同提案した選挙法改正案は,選挙区を小選挙区制に戻すことを骨子としていた。しかし,政友会•新党倶楽部ともに,小選挙区制採用を焦眉の急と考えていたわけではなかった。政友会にとっては,将来の議会対策上,新党倶楽部を吸収する必要から,また新党倶楽部とそれを率いる床次竹二郎にとっては,より有利な政友会復帰への道筋をつける思惑から,成立するか否かは度外視して提出されたものであった。
著者
堤 英敬
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.76-89, 2019 (Released:2022-09-12)
参考文献数
32
被引用文献数
1

2000年代半ば以降,自民党では公募や予備選といった開放的な方法を通じた候補者選定が行われている。候補者選定は議会政党の構成を規定する重要な機会であるにもかかわらず,なぜ自民党は党によるコントロールを弱めるような改革を進めてきたのだろうか。本稿では,自民党の候補者選定が地方組織主導でなされていることに着目し,選挙区レベルでの地方組織を取り巻く環境やその組織的性格が,開放的な候補者選定方法の採用に及ぼす影響について検討を行った。2005年以降の国政選挙を対象とした候補者選定方法の分析からは,選挙でのパフォーマンスが振るわない選挙区や(衆院選では)伝統的な支持団体の動員力が弱い選挙区で,公募等の開放的な方法が採用されやすいこと,また,公募制を採用するにしても,既存の支持団体や党員組織に配慮した候補者選定方法が採られていることが明らかになった。
著者
岡田 浩
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.19-34, 2019 (Released:2022-09-12)
参考文献数
28

候補者に関する要因は,政党や政策争点に関する要因と並んで有権者の投票行動を規定する重要な要因とされてきたが,他の要因と比べて知見の蓄積が進んでいないといわれる。本稿は,異なった種類の選挙の候補者についてのイメージを自由記述式と選択式の2つの方式で尋ねるという,先行調査とは異なる設問を設けた金沢市における意識調査のデータを分析することによって,候補者要因の研究に寄与することを企図した。分析の結果,有権者が持つ情報量が少ない候補者についてのイメージは,仕事,能力,人柄に関するものではなく,政党,政策,属性,経歴など外形的な特性に関するものが多いことや,個々の選挙特有の要因に関するイメージや候補者の属性などからくる漠然とした新人候補への期待感など,選択式設問では汲み取ることができない候補者イメージが投票行動と関係していることなどが明らかになった。
著者
久保 慶明
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.44-59, 2019 (Released:2022-09-12)
参考文献数
12

本稿では,2017年総選挙,2018年沖縄県知事選,2019年沖縄県民投票の分析を通じて,沖縄県内の政治過程の持続と変容を明らかにする。17年総選挙では,オール沖縄内の選挙区すみ分けが機能する一方,自民党と公明党の選挙協力の効果が前回から回復し,有効投票率の上昇が自民党候補の得票率向上に寄与した。沖縄4区では自民と維新が候補者レベルで選挙協力し,自民党候補が当選した。18年知事選では,オール沖縄における保守系勢力の縮小と,自公維の選挙協力という変化が起きたものの,得票構造の変動は小規模なものにとどまり,翁長雄志の後継である玉城デニーが当選した。19年県民投票では,総選挙や知事選を超える辺野古埋め立て「反対」の民意が表出された一方,自民党の強い地域では「どちらでもない」への投票や棄権が多かった。こうした結果は,14年に成立した構図が有権者レベルで持続していることを示している。
著者
前嶋 和弘
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.30-40, 2017 (Released:2020-03-01)
参考文献数
18

2016年のアメリカ大統領選挙をメディアとの関連から論ずる場合,重要なのが,近年非常に目立っている既存のメディアに対する不信感の増幅である。この不信感と保守・リベラルいずれかの政治的立場に与したり,どちらかの勢力のアドボカシーを行う「メディアの分極化」現象は密接に関連している。フェイクニュース現象,「リベラル・バイアス」論の再燃,ファクトチェックの多用,候補者の「ツイッター」を使った議題設定など,2016年選挙を特徴づける様々な現象は,このメディア不信や「メディアの分極化」現象を背景にしている。メディアとの関連でいえば,2016年選挙は過去数回の大統領選挙と同じようにソーシャルメディアの利用が目立っているが,それでも同選挙で勝利した共和党候補トランプの個人的な資質に頼った選挙戦であり,2012年選挙で台頭したスーパーPACの影は薄かった。
著者
渡辺 容一郎
出版者
Japanese Association of Electoral Studies
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.20-32,212, 2008-02-28 (Released:2011-05-20)
参考文献数
11

2005年総選挙でブレア労働党に三度敗北したイギリス保守党は, 2回目となるOMOV党首選挙を実施した。その結果, 議員歴4年 (当選2回) にすぎない党内若手モダナイザーのキャメロンが, ベテラン党内右派・トラディショナリストのデーヴィスに大差で勝利した。これは, 前回 (2001年) の党首選挙と比較してみると, 全く正反対ともいえる結果であった。そこで本稿は, イギリス保守党員の政治観に関する筆者独自の調査分析をも踏まえて, (1) キャメロンの勝因, (2) キャメロン選出の意義について検討した。彼の勝因は, 「党大会」演説と巧みなメディア戦略 (イメージ管理) によって「政権奪回可能な党首」の演出に成功した点, そして党内外の情勢変化に党員の多くが反応した点などに求めることができる。結果的にキャメロンは, イギリス保守党史上初めて「下院議員, 党員 (党大会), メディアの合作でつくられた党首」として位置づけられる。

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出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.87-119, 2016 (Released:2019-12-01)
著者
大木 直子
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.19-37, 2019 (Released:2022-09-12)
参考文献数
51

本稿は,「政治分野における男女共同参画の推進に関する法律」(以下,候補者男女均等法)施行後はじめての全国規模の選挙である 2019年4月実施の統一地方選挙のうち議員選挙を取り上げ,自治体レベル別・党派別・男女別にデータを整理し,政治的リクルートメントの観点から,2019年の統一地方選挙において,女性の議会進出がどこまで進んだか,政党は女性候補者をどのように擁立したのか,について明らかにすることを目指す。2015年のデータと比較すると,2019年統一地方選挙では,女性候補者割合,女性当選者割合ともにすべての自治体レベルで過去最高を記録したが,地方議会全体で女性議員の増加率はわずかであった。日本の地方議会への女性の参画は着実に進んだが,なぜ「微増」だったのか。政党所属の議員割合が高く,最も女性の進出度が低かった道府県選を考察した結果,男性候補者が減少傾向であるのに対して,新人の女性候補者数やその当選率,1位当選の女性候補者数は上昇していること,その一方で,新人の女性候補者の増加が一部の政党に留まったことから,女性候補者・当選者の大幅な増加には至らなかったことが明らかになった。
著者
河野 武司
出版者
Japanese Association of Electoral Studies
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.78-88,270, 1998-02-28 (Released:2009-01-22)
参考文献数
19

Former TV Asahi news executive Sadayoshi Tsubaki was the first journalist ever summoned to testify before the Diet in Japan. He was accused of slanting his network's coverage of the LDP in the 1993 General Election that led to the party's downfall.In this paper, I analyzed the influence of that event on the TV news coverage of the 1996 Generaal Election by comparing with the TV news coverage of the 1993 General Election.Content analysis made clear differences between two things. There was anti-LDP bias in the 1993 TV news coverage clearly, but in 1996 TV news offered more balanced information.
著者
奥 健太郎
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.33-46, 2018 (Released:2021-07-16)

1955年自民党政権は事前審査制という新しいルールを導入した。自民党はいつ頃,どのようにして,この新しいルールに適応したのだろうか。本稿は『衆議院公報』の会議情報を数量的に分析することにより,その適応の時期が1959年であったことを明らかにした。このことは1959年から閣法の事前審査が円滑に進むようになったことから裏づけられた。また事前審査を円滑にした要素として,第一に政調会が1958年の「政策先議」以来,予算編成過程に深く関与するようになったこと,第二に1950年代後半,政調会の部会が増員されるとともに,周辺会議体や下位会議体が大量増設され,政調会の政策決定への参加の機会が拡大されたことを指摘した。
著者
河野 勝 荒井 紀一郎
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.5-18, 2019 (Released:2022-09-12)
参考文献数
25

現代の民主主義は,エリートレベルでの「競争」とマスレベルでの「代表」という,2つの異なる政治過程との関連において特徴づけられ,理解されてきた。本稿の目的は,戦後日本を題材にして,様々な調査データを効果的に組み合わせて利用することにより,競争プロセスと代表プロセスとが織りなす交差の動態を明らかにする。まず,記述統計に依拠して,圧力団体が一般有権者を念頭において行う活動のパターン,また有権者の側の圧力団体への関与のパターンを,検証する。続いて,平均構造モデルを用いて,競争と代表のプロセスが互いに影響を及ぼしあう「行動的共振(behavioral synchronization)」とでも呼べる現象を浮き彫りにする。具体的には,分野ごとまた時代ごとに異なる圧力団体の影響力や戦略に応じて,当該団体に関与する人々の政治的有効性感覚が変動することを示す。
著者
建林 正彦
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.19-34, 2014 (Released:2018-02-02)
参考文献数
22

2012年に政権復帰した自民党議員は,どのような政策指向を有していたのか。本稿では,2012年総選挙の候補者に対する早稲田大学と読売新聞社の共同サーベイをもとに,自民党議員の政策位置を分析した。分析の結果,2012年に大量に当選した新人議員とシニア(多選)議員の間には,安保・憲法にかかわる争点や,経済開放・国内開発に関する争点において立場の違いが存在し,シニア議員がよりタカ派的,国内開発的な立場を採っていることが明らかになった。また議員の政策的立場を規定する要因としては,前者については,都市選出の議員ほど,選挙で強い議員ほどよりタカ派的な立場を採る傾向にあり,年齢をコントロールした上でも当選歴の効果が見られたのに対し,後者については,地方選出の議員ほど国内開発指向が強く,年齢をコントロールすると当選歴の効果は見られなくなるという争点ごとの違いが明らかになった。
著者
高見 勝利
出版者
Japanese Association of Electoral Studies
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.36-42,195, 2007-02-28 (Released:2009-01-27)

衆院において賛成多数で可決され,参院に送付された内閣提出法案が,参院で否決されたとき,内閣が,これを内閣不信任だとして,衆議院を解散することは,日本国憲法上,どう評価すべきかが,いわゆる小泉解散の最大の争点である。解散理由について,首相自身は,参院における法案否決を内閣に対する不信任だと受け止めたからだという以上のことは語っていない。が,「衆院が可決した法案を参院が否決した場合,衆院が出席議員の3分の2の特別多数で再可決すれば法案が成立するのだから,当該議席数確保のためにする解散は認められる」とする見解がある。しかし,解散理由として,再議決権を持ち出すことは,解散•総選挙の趣旨や議会政のあり方からして是認されないこと,小泉解散は不当な解散事例であり,「国民投票的」解散に途を拓いた事例として積極的に評価すべきではないこと等を指摘した。
著者
朴 志善
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.58-71, 2018 (Released:2021-07-16)
参考文献数
22

現代民主体制の下,与党は,政府の議会提出予定法案の作成過程に一定の役割を果たしている。しかし,大統領制の場合,立法府・行政府の関係の観点からアプローチすることが多く,政府案の作成過程における与党の参加(事前審査)の過程については十分な研究は行われてこなかった。その点から,本稿は,韓国の事例を通じて,大統領制の下での与党の事前審査の現状と,与党に対する大統領の資源が事前審査に及ぼす影響を明らかにする試みである。韓国の最高位レベルの事前審査である「高位党政協議」のデータを用いた分析の結果,大統領制の韓国においても多様な議題に関して事前審査が行われ,大統領の権限,大統領の支持率,発足後の月数など,大統領と所属議員の関係に影響する要因が事前審査の開催と性格に影響してきたことが確認された。本研究は,立法における事前審査,また,与党のリーダーとしての大統領の役割の重要性を指摘し,与党の立法活動の比較および理論化への貢献を試みる。
著者
白崎 護
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.5-22, 2009

1993年総選挙を対象とする本研究は,有権者の政治的な意識や行動に影響を与える対人接触とマスメディア接触に関しての計量分析である。政党のマスメディア対策が精緻化する今日,その端緒となった本選挙におけるマスメディアの役割を再確認する。同時に,ソーシャル・キャピタルの一環として近年注目が高まる対人環境の果たした役割を検証する。以上の目的に最も適合したデータは,対人接触とマスメディア接触に関する質問項目が豊富なCNEP(Cross-National Election Project)データであり,これを使用する。 各党に対する感情温度,および投票を従属変数とする回帰分析により得られた知見は以下の通りである。既成政党(自民党・社会党)に関しては,対人接触に一貫した影響を認めた。他方で新党(新生党・日本新党)に関しては,マスメディア視聴に一定の影響力を検出したが,対人接触の影響力をほとんど確認できなかった。
著者
名取 良太
出版者
Japanese Association of Electoral Studies
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.128-141,207, 2002

中選挙区制度は,自民党の利益誘導政治の根源的な要因とされた。具体的な要因とは,第1に同士討ちが生じることによって,政策によって選挙競争が行われず個人の業績中心の選挙活動が行われることであり,第2に低い得票率で当選可能なため,一部の有権者に向けたサービスを行うという点であった。しかしながら,この2つの点には,いずれも誤りがあった。同士討ちと利益誘導の関係は,個人の業績によって「票を奪い合う」こととされたが,実際には「棲み分け」が行われることで,過剰な「奪い合い」が避けられていた。このことから,同士討ちによって利益誘導が活性化するとは必ずしも言えず,むしろ,同士討ちとは独立して,自己の政治力強化のために活性化していたことが想定される。つぎに,並立制下の小選挙区選挙においては,従来の支持基盤を抑えることにより十分当選が可能であったため,従来の選挙活動に比べ大きな変化を必要としなかった。<br>そこで,小選挙区制の適用により,同士討ちは解消されたものの,政治力強化という政治家の目的と,実際の選挙活動に変化がみられないことから,利益誘導政治は解消されないという仮説を立てた。そして,中選挙区制下と並立制下の移転財源配分の決定要因分析を行った結果,いずれの制度下においても,都市化や財政環境を考慮してもなお,自民党の政治力が影響を与えており,選挙制度改革が利益誘導政治を変化させなかったことを明らかにした。