著者
今井 亮佑 日野 愛郎
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.5-19, 2012

本稿は,日本の参院選の選挙サイクルが総選挙のそれと異なる点に着目し,「二次的選挙」(second-order election)モデルの視点から,参院選における投票行動について検討するものである。欧州の選挙研究は,欧州議会選挙や地方選挙等のいわゆる「二次的選挙」において,その時々の政権の業績が問われ,与党が敗れる傾向があることを示してきた。本稿では,2009年総選挙,2010年参院選前後に行った世論調査(Waseda-CASI & PAPI 2009,Waseda-CASI 2010)をもとに,政権の業績に対する評価が投票行動に及ぼす影響を探った。その結果,業績評価の影響は,「一次的選挙」(総選挙)と「二次的選挙」(参院選)の重要性に関する有権者の主観的評価によって異なることが明らかになった。
著者
名取 良太
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.66-81,213, 2008

本稿では, 2007年4月に実施された44道府県議選に, 異なるレベル・異なる時期に実施された選挙結果が及ぼした影響について, 市区町村レベルで集計されたデータを用いて検討する。<BR>米国におけるmidterm lossの議論にみられるように, 有権者は, ある選挙において異なる選挙に反応した行動を選択することがある。日本の投票行動研究においても, そうした戦略的行動が観察されてきた。そこで, 本稿では, 2007年の道府県議選における自民党得票率の変動が, 2005年衆院選の結果と知事の党派性によって説明されるという予測を立てた。OLS分析の結果, 2005年衆院選における自民党の勝利が, 2007年選挙における得票率の低下に影響を及ぼすことが明らかになった。しかし知事の党派性については, 予測とは逆に, 自民党推薦知事がいる地域ほど, 自民党が得票率を上昇させたことが明らかになった。
著者
堤 英教
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.5-20, 2012 (Released:2017-09-01)
参考文献数
31

近年,日本の主要政党において,公募等を用いた開放的な候補者選定が普及している。候補者となることができる者,候補者を選ぶ者の範囲の拡大は,政党組織の集権性や凝集性に大きな影響を与えることが予想される。本稿では,特に自民党において候補者選定過程の開放が進んだ2010年参院選を対象として,政党の関与の強さという観点からその実際を整理するとともに,公募等で選定された候補者のプロフィールや政策選好,政党-候補者関係観について分析を行った。その結果,民主党の公募は党本部の関与が強いものであったが,自民党は地方組織が一定程度,関与できる選定方式を採用していたこと,公募等で選ばれた候補者は政党からの自律性を志向する傾向があることなどが分かった。こうした結果からは,候補者選定過程の「開放」が必ずしも政党組織の集権性や凝集性を高める方向には作用しない可能性が示唆される。
著者
名取 良太
出版者
Japanese Association of Electoral Studies
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.128-141,207, 2002-02-28 (Released:2009-01-22)
参考文献数
23
被引用文献数
3

中選挙区制度は,自民党の利益誘導政治の根源的な要因とされた。具体的な要因とは,第1に同士討ちが生じることによって,政策によって選挙競争が行われず個人の業績中心の選挙活動が行われることであり,第2に低い得票率で当選可能なため,一部の有権者に向けたサービスを行うという点であった。しかしながら,この2つの点には,いずれも誤りがあった。同士討ちと利益誘導の関係は,個人の業績によって「票を奪い合う」こととされたが,実際には「棲み分け」が行われることで,過剰な「奪い合い」が避けられていた。このことから,同士討ちによって利益誘導が活性化するとは必ずしも言えず,むしろ,同士討ちとは独立して,自己の政治力強化のために活性化していたことが想定される。つぎに,並立制下の小選挙区選挙においては,従来の支持基盤を抑えることにより十分当選が可能であったため,従来の選挙活動に比べ大きな変化を必要としなかった。そこで,小選挙区制の適用により,同士討ちは解消されたものの,政治力強化という政治家の目的と,実際の選挙活動に変化がみられないことから,利益誘導政治は解消されないという仮説を立てた。そして,中選挙区制下と並立制下の移転財源配分の決定要因分析を行った結果,いずれの制度下においても,都市化や財政環境を考慮してもなお,自民党の政治力が影響を与えており,選挙制度改革が利益誘導政治を変化させなかったことを明らかにした。
著者
河村 和徳
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.43-56, 2013

未曾有の大災害である東日本大震災によって,被災地自治体は深刻なマンパワー不足に陥った。選挙管理も例外ではなく,2011年4月に被災地で予定されていた統一地方選挙は延期を余儀なくされ,福島県知事選・県議選は2011年9月に,宮城県及び福島県の県議選は同年11月に延期された。本稿では,これまであまり関心を向けられなかった選挙管理者に着目し,2011年秋の地方選挙及び2012年の年末に行われた衆議院選挙を,「マンパワー不足」をキーワードに論じていく。そして,被災地における2011秋の地方選挙は多くの被災地外からの応援によって乗り切れたこと,2012年の年末に行われた衆議院選挙では被災だけではなく労働者派遣法の改正もマンパワー不足の要因となったこと等を指摘する。なお,本稿は,被災地で起こっている状況について幅広く情報を共有することを目的としており,仮説検証型のスタイルは採らない。
著者
池田 謙一
出版者
Japanese Association of Electoral Studies
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.109-121,188, 2000

本論文は社会心理学的な二つの投票行動モデルに基づき,1998年の参院選比例区での投票行動に対して,96年の政党スキーマ,98年の政治•経済の状況に対する「ソシオトロピック」な判断•内閣業績評価が及ぼす効果を検討したものである。用いたデータは1996-98年のJEDS全国パネル調査であり,分析の結果は仮説に支持的であった。<br>ここでは,業績評価が社会心理学的な視点から持つ意味,また業績評価や投票行動の規定要因としてのソシオトロピックな判断の持つ意味を検討し,これらを踏まえて分析が行われ,業績評価が投票行動に効果を持つことが明瞭に示された。一方,ソシオトロピックな判断は内閣の業績評価に対しては米国と同様の効果を示したものの,投票行動に対しては異なる効果を持っていた。これらの結果は,個人の経済状況認知の持つ自己利害的な効果と関連させて考察された。

1 0 0 0 OA SNTVとM+1法則

著者
茨木 瞬
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.129-142, 2013 (Released:2017-12-06)
参考文献数
11

大選挙区単記非移譲式投票制(SNTV)における“候補者数”をめぐる研究に関しては,中選挙区時代の衆議院議員選挙のデータを用いて分析したReed (1990, 1997) と川人(2004)がある。しかし,中選挙区時代の衆院のデータでは,“泡沫”候補が多く存在し,“泡沫”候補を除外するための工夫が必要であるが,これまでの先行研究では,“泡沫”候補を除外する方法がやや恣意的であり,疑問が残る。そこで本論では,政令指定都市の道府県議会議員選挙のデータを活用することを提案し,先行研究における“泡沫”候補問題を回避して,SNTV におけるM+1法則の検証が行えることを示す。さらに,定数是正が国政選挙と比べて頻繁に行われている,という政令市県議選の利点を生かし,定数変更前後での候補者そのものの動きや,有効候補者数の変化等によりM+1法則の安定性を確認していく。
著者
鄭 求宗
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究
巻号頁・発行日
vol.19, pp.5-16,171, 2004

この報告は,冷戦の終焉という国際秩序の変化が国内政治&bull;社会の変化を引き出すという仮説を選挙を通じてどのように確認できるか,その経路を検証することに重点をおいている。2002年韓国の第16代大統領選挙は,地域主義や政党&bull;政策対決に代わる「世代」という変数が選挙過程で深く影響を与え,世代間投票行動の差異が選挙を動かした。世代間対立の軸は,冷戦期間中のイデオロギー的対立のキーワードであった安保観と経済観の差異で形成され,保守と進歩に分かれて争った。世代間の対決では,有権者の48.3%を占める20,30代の若年層有権者が,戦後世代の盧武鉉候補支持態度を確執し,盧氏の勝利に大きく寄与した。この選挙の結果は,国内における冷戦構造の解体を反映するものであった。冷戦期間中の安保観と経済論理は,もはや韓国社会の主流でないことを2002年12月の韓国大統領選挙の結果が教えている。
著者
東川 浩二
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.97-107, 2009

我が国における選挙資金規制の問題は,いわゆる事務所費問題のように金銭の不正使用との関連で議論されることが多いが,合衆国では,選挙資金規正法は,政治活動の規模と質に直接影響を与えると考えられ,憲法が保障する表現の自由との調節をどのようにはかるかが問題とされてきた。この点について1976年の Buckley 判決で献金制限=合憲, 支出制限=違憲という定式を定めたが,規制が認められる範囲は徐々に拡大され,2003年のMcConnell判決では意見広告のための支出の制限も合憲とされるに至った。しかしながら2005年に2名の最高裁裁判官が交代すると,最高裁内部で判例変更をせまる意見が多数を占めるようになり,今や政治浄化よりも表現の自由を強化する方向の判決が相次いで出されるようになってきている。
著者
渡辺 博明
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.32-43, 2010

2006年のスウェーデン選挙は,3期12年ぶりの政権交代によって注目された。その際,中道右派4党の勝利を可能にしたのは,前例のない周到な選挙協力であった。本稿では,(1)それに先立つ社民党政権期に,連立政権ではなく文書化した政策合意に基づいて多数派を確保しようとする「契約主義的議会政治」が現れたこと,(2)それが右派の結集を促し「選挙連合の政治」を生んだこと,(3)2006年での右派の勝利が今度は左派3党を次期選挙に向けた事前協力に踏み切らせたこと,を見ていく。その上で,選挙を前に左右両陣営が政権構想を固めて有権者の支持を奪い合う現在の状況は,同国の伝統的な「ブロック政治」の枠組みを越え出るものであることを指摘し,政党自身の変化や有権者の投票行動の変化にも言及しながら,この10年余りの間に同国の政党政治と選挙をめぐって構造変動が起きていると結論づける。
著者
曽我 謙悟 待鳥 聡史
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.5-15, 2008

本稿は都道府県レヴェルにおける知事与党構成と議会議席率の変化に主に注目しながら,中央政府レヴェルでの政党再編と二大政党化が地方政治にどのような影響を及ぼしているのか,また無党派知事の出現や議会における地方政党・会派の勢力拡大はどのような現況にあるのかを明らかにする。1990年代末頃から中央では二大政党化の流れが強まるが,データで見る限りそのことと地方政治の連動はなお明確とまではいえず,変化は緩やかであることが分かる。知事与党構成を見ると,無党派知事の増加はほぼ頭打ちとなり,民主系知事も増えてはいない。議会議席率に関しては,引き続き民主系会派とそれに近い立場の地方会派が徐々に議席を伸ばしている。これらの変化を総合すると,地方政治にも二大政党化の萌芽が見られるが,それが確立されたとまでは言うことができない。
著者
河村 和徳
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.73-83, 2011 (Released:2017-06-12)
参考文献数
12

2009年総選挙では,多くの稲作農家が民主党に投票した。本稿では,サーヴェイ・データを用い,彼らの政治意識と投票行動について分析を試みる。分析の結果,彼らの投票行動の背景には,自民党・農林水産省・農協という,これまでの自民党農政の担い手に対する負の評価と,戸別所得補償を掲げる民主党への期待があった。また減反政策の是非はもはや争点ですらなく,個別所得補償への期待の程度が自民党に投票するのか,それとも民主党に投票するのかを分かつ重要な要因であった。更に,2009年の時点で,零細兼業農家と大規模化を進めてきた専業農家の間で,民主党や自民党農政の担い手に対する感情の違いが生じており,また政治との関わり方についても意見の違いがみられた。政権交代の影響もあり,政党に対し中立の立場をとりたいという農家が多く存在し,これまでの「農家が一枚岩で自民党を支える」という見方が成り立たなくなっていることが,本稿で明らかとなった。
著者
和田 淳一郎
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.26-39, 2012 (Released:2017-09-29)
参考文献数
22

2012年夏に提案されている0増5減の定数再配分の提案は,人口のより少ない県(大阪府)に人口のより多い県(神奈川県)よりも多い定数を配分することを是認するなど,不公正なものである。不衡平な代表制はより多くの代議員を持つ人々の厚生をも悪化させる。こういった提案は不衡平なだけでなく,パレートの意味で非効率である。ナッシュ社会的厚生関数に基づく分離可能な指数によって選挙区割りにおける代表制の不公正さを検討した後,較差是正方式ではなく,ロールズ型,ナッシュ型,ベンサム型の社会的厚生関数を包括するアトキンソン社会的厚生関数から導かれた目的関数の最小化という形で,除数方式による定数配分を紹介する。その後人間の手による区割りの問題点を指摘した後,比例代表制と地理的な区割りの問題点に触れて論を閉じる。
著者
浅野 正彦
出版者
Japanese Association of Electoral Studies
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.174-189,258, 2003

本稿の目的は,選挙制度の変更が政党エリートの行動に与える影響を,日本の自由民主党における公認発行を事例として,実証分析することにある。本稿は,中選挙区制から小選挙区制へ移行し選挙区定数が1になることが,公認発行において,総裁派閥と幹事長派閥に所属する候補者への優遇傾向を加速させる,と主張する。政党公認の決定プロセスを自民党執行部と自民党県連間のゲームとみなし,中選挙区制下では,政党執行部が強く支持しない非現職候補者が公認され,小選挙区制下では,執行部が強く支持する非現職候補者が公認される傾向があることを示した。さらに二つの選挙制度下における衆院選データ(1960-2000)を使って比較分析を試みた結果,中選挙区制下と比べると小選挙区制下において,総裁派閥と幹事長派閥がバックアップした非現職候補者が公認される確率が増していることが確認された。
著者
鬼塚 尚子
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.139-151,189, 2000-02-28 (Released:2009-01-22)
参考文献数
19
被引用文献数
1

本稿は,自発的市民から成る運動組織においても個人の合理性と集団利益の達成との間の乖離から生じる「公共財問題」が内在する可能性を指摘し,市民参加の課題を提起するものである。市民団体とそこから派生した地方政党によって行われている選挙活動を分析対象とし,実験社会心理学的アプローチを交えて調査を行った結果,僅かながらも戦略的な非協力者(=フリーライダー)が存在することが明らかとなった。フリーライダーと単純(非戦略的)非協力者間においては政治関心の高低が,またフリーライダーと協力者間にはコスト認知の高低が質的差異として顕れた。現状ではこの市民組織が多くの献身的な成員によって支えられていることが確認されたが,それら成員が比較的短期間で新旧交替することを考慮すれば,市民組織はその維持のために常に新しい成員を取り込む必要があることも示唆された。今後は成員の追跡的調査の実施,分析手法の問題点克服が課題となろう。
著者
中谷 美穂
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.24-46, 2009

議会の機能に関する研究では,政策アウトプットにおける議会の影響を扱う研究が多く,議会のパフォーマンスを対象とし,かつ議会間の差を検討する研究が少ない。また議会の機能を説明する変数としては,議会の党派性や首長と議会の会派構成の違いなどが要因として用いられており,アクターの心理的変数,ならびにそれを集団的に捉えた政治文化的変数を用いる研究が少ない。そこで本稿では,地方分権が進展する中,議会にも政策立案機能が求められていることを背景とし,都道府県間の議員提案による政策条例数をパフォーマンス指標として取り上げ,その規定要因として議会内の立法型役割意識の程度,首長―議会間での是々非々意識といった政治文化変数を用い,他の要因も含めて分析を行った。その結果,2つの政治文化変数が政策条例を促進する要因として有意であることがわかり,また鳥取県の事例研究からも同様の結果を得ることができた。
著者
谷口 尚子
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.15-28, 2011

本稿は,2009年衆院選後に起きた政権交代の長期的背景を自民党の衰退,短期的背景を民主党の成長と捉え,その過程と特徴を記述するものである。前者に関しては,Merrill, Grofman, & Brunell (2008) によって挙げられた政治再編の4つの特徴,すなわち①政党制の変化,②有権者の政党支持構造の変化,③政党支持構造の地理的変化,④政党間競争の質的変化を追った。①②③いずれにおいても,自民党の優位性と支持構造の揺らぎは明らかであり,概ね,1980年代に安定期,90年代に動揺期,2000年代に変動期が観察された。民主党の成長に関しては,自民党と政策位置の変化を比較し,また党内の政策的分散の大きさを示した。政策的分散を「多様性」と積極的に解釈すれば,これが多様な有権者の票を獲得することに繋がった可能性も示された。
著者
竹中 治堅
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.5-19,212, 2008-02-28 (Released:2011-05-20)
参考文献数
55
被引用文献数
1

本稿は, 戦後日本政治における首相と参議院の関係を分析している。より具体的には, 首相は, 日本の国会制度における法案審議時間の制約と日本の議院内閣制における参議院の独自性を踏まえた上で, 内閣提出法案の成立を確実にするためにさまざまな方策を用いて, 法案審議以前の段階で予め法案に対する支持を参議院の多数派から獲得してきたことを明らかにしている。これまでの参議院研究では, 参議院の審議過程で法案の内容や成立が左右されることがないため, 参議院には限られた影響力しかないというカーボンコピー論が通説的地位を占めてきた。しかし, 本稿はその分析を通じて, 参議院の審議過程で法案の内容や成立が左右されることが少ないのは, 首相の法案成立に向けた事前の努力の結果に過ぎず, 参議院は法案審議以前の政治過程で広範な影響力を及ぼしていることを明らかにしている。
著者
庄司 香
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.93-103, 2012

近年,世界で急速に予備選挙の実施事例が増え,それに伴い予備選挙研究も活性化してきているが,予備選挙の定義には混乱がみられ,比較分析のための枠組の精緻化もまだ進んでいない。本稿では,まず,予備選挙の類型とこれまでの研究の論点を,民主化という尺度を軸に整理し,予備選挙導入と政党の強さの関係について,オーストラリアを題材に考える。さらに,「参加」という尺度から逸脱していく台湾の事例や,政党候補者指名という行為そのものの否定へと行き着いたカリフォルニアの事例を通じて,予備選挙がもつ指名制度の「開放」というインペラティヴについて考察する。最後に,ナイジェリアとアルゼンチンの事例をもとに,それぞれ,政党候補者指名制度の法制化や予備選挙実施の全党義務化が示唆する,予備選挙研究の新しい視角を提示する。