著者
井上 豊志郎
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.75, no.1, pp.59-66, 1997-02-25
被引用文献数
1

極軌道衛星NOAAに搭載されているSplit Wiondowを用いて, 西太平洋における昼と夜での雲型別雲量のちがいについて調査した. Split Windowでは水晶で構成されている光学的に薄い巻雲型の雲と光学的に厚い積雲型の雲を分類することができる. この研究では光学的に薄い巻雲型の雲はさらに輝度温度で温かい巻雲型と冷たい巻雲型の2つに, また光学的に厚い積雲型の雲も輝度温度で積乱雲型と下層の積雲/層積雲型の2つに分類した. ISCCPの解析結果との比較から温かい巻雲型, 冷たい巻雲型, 下層の積雲/層積雲型と積乱雲型の光学的厚さの平均値はそれぞれ2.2, 7.4, 15.3および33.7であることが分かった. Split Windowで分類される雲型別雲量の昼と夜のちがいを, 個々の対流システムとしての台風についてと, 熱帯海洋域での緯・経度20゜×30゜の広い領域について調査した. 積乱雲型, 温かい巻雲型および下層の積雲/層積雲型の雲量は地方時2:30頃の夜間に多い傾向を示した. それに対し, 冷たい巻雲型の雲量は地方時14:30頃の昼間に多い傾向を示すことが分かった.
著者
那須野 智江 山岬 正紀
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.75, no.4, pp.907-924, 1997-08-25
参考文献数
73
被引用文献数
3

熱帯低気圧のレインバンドを構成するメソスケールの対流に対する地表摩擦の効果を調べるため、軸対称の非静力学モデルを用いて数値実験を行った。風速の回転成分が余り強くない時期(10ms^<-1>以下)には個々のメソスケール対流の時間スケールは2〜3時間であるが、回転風速が強まり地表摩擦による吹き込みが非常に強くなると、メソスケール対流の時間スケールは長くなる(Yamasaki, 1983)。数値実験では11〜12時間の時間スケールをもったメソスケール対流が繰り返し現れた。2〜3時間の時間スケールを持つ対流とは対照的に、この長い時間スケールを持つ対流は、冷却したダウンドラフトに伴う吹き出しにより下層の収束域が外向きに遠ざけられることによっては消滅しなかった。むしろこの対流は、地表摩擦による吹き込みが強くなることによって、下層の収束域が中心向きに移動した時に消滅した。即ち、雲が外に傾くために、降水が下層の吹き込み側で起こり、暖湿な空気が雲の下層に到達するのを妨げていた。この時新しい対流が元の対流の外側に形成された。この長い時間スケールを持つ対流の構造, 時間変化, メカニズムについて詳しく論ずる。
著者
柴垣 佳明 山中 大学 清水 収司 上田 博 渡辺 明 前川 泰之 深尾 昌一郎
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.78, no.1, pp.69-91, 2000-02-25
参考文献数
34
被引用文献数
4

1991年6月17日〜7月8日にMU(VHF帯)・気象(C・X・C / Ku帯)レーダーを用いた梅雨季対流圏の同時観測を行った。MU・C / Ku帯レーダーは風速の3成分と雨雲の鉛直分布をそれぞれ観測した。また、C・X帯レーダーはメソα, メソβスケールの雨雲の水平分布をそれぞれ調べた。この3週間の中で最も激しい降雨が観測された7月4〜5日の期間には、メソαスケール低気圧近傍でいくつかのメソβ, メソγスケールの雲システムが観測された。これらはi)温暖前線、ii)寒冷前線付近の対流雲およびiii)寒冷前線の北西側の層状雲として分類された。i)では、高度14km付近まで発達した降水雲内の顕著な上昇流は高度4〜5kmにおける前面・後面からの吹き込み成分の収束と中部対流圏の強い南風によって生成された。ii)では、寒冷前線の前面にガストフロントを持った狭いレインバンドがみられた。そのレインバンドの前方とその中では、メソγスケールのローター循環がそれぞれ発見された。iii)では、南東風(北西風)は高度9km付近まで延びた寒冷前線面の上側に沿って(その内部および真下で)上昇(下降)していた。その前線面下側には降雨を伴わない乾燥域が存在し、そこでは前線面に沿って下降した西風の一部が雲システムの後方へ吹き出していた。本研究では、晴天・降雨域の両方で観測された詳細な風速3成分を用いることで、上で述べたような特徴的なウインドフローをもったメソβ, メソγスケールの雲システムの鉛直構造を明らかにした。これらの構造は日本中部で観測されたメソαスケール低気圧近傍のクラウドクラスターの階層構造の中のより小さな雲システムとして示された。
著者
Hor Tai-Hwa Chang Mou-Hsiang Jou Ben Jong-Dao
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.76, no.4, pp.473-496, 1998-08-25
参考文献数
42
被引用文献数
1

TAMEX IOP期間中(1987年6月15日)に台湾の東岸沖で研究用航空機(NOAA P-3)を用いて梅雨前線の鉛直断面(6高度)観測を実施した。航空機による直接観測データと2種類の航空機搭載レーダーのデータを用いて、梅雨前線南端付近のメソスケール構造と、前線の維持機構を調べた。各高度における水平飛行中の乱流強度の急増から前線の先端の位置を決定し、前線の移動速度を考慮に入れて、前線を横切る鉛直断面内の運動学、力学及び熱力学変数の分布を合成した。これらの分布から、前線の先端部は風速の水平成分と空気密度の偏差の等値線に平行で、密度流的な構造を示すことが明らかとなった。熱力学変数の変化はさほど顕著ではないが、相当温位の分布は前線後面の下層の寒気コアの存在を示した。寒気コアは最も空気密度の大きな部分に対応していた。密度流の進行及び前線系の維持のメカニズムとして、寒気コア内における後方から前方に向かう水平気圧傾度力、前線の先端部付近における中程度の対流不安定、平均流からの運動エネルギーの変換が考えられる。
著者
尾瀬 智昭
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.76, no.6, pp.1045-1063, 1998-12-25
参考文献数
25
被引用文献数
5

観測から得られた帯状平均場と熱源を与えたモデルを用いて、その応答としてのアジアモンスーンの循環、特にその気候学的な季節変化を調べた。結果は次のようにまとめられる。(1)夏のアジアモンスーン期において、アジアの南域の深い積雲対流に伴う熱源は、チベット高気圧、モンスーントラフならびに、南アジアにおける下層循環を形成し、さらにユーラシア大陸西部に下降流をもたらす。中央アジアの地表面付近の熱源もまた、その上層に下降流を形成する。(2)初夏(6月)に見られる、アジアの南域の深い対流に伴う熱源は、日本の南東に南西の下層風と上昇流を形成する傾向を示す。これらは、アジアの南域に形成される熱的低圧部とともに、東アジアに梅雨帯が形成される背景的要因になっていると考えられる。中緯度の梅雨帯での降水による熱源は、その南に下層ジェットを形成する。(3)初夏(6月)から盛夏(7月)にかけてのアジアモンスーンの季節変化は、北半球全体で気温が上昇し、帯状平均のジェットが北上し弱まることによって特徴づけられる。モデルにおいて帯状平均場のみを6月から7月に変えると、この季節変化の主な特徴が再現される。すなわち、南アジアから東アジア域において、下層ジェットおよび上昇流域は、大陸周辺の海洋から大陸側に移動する。鉛直流のこの変化は、6月から7月にかけての熱源の季節変化と矛盾しない。(4)盛夏(7月)から晩夏(8月)にかけてのアジアモンスーンの季節変化は、亜熱帯西太平洋の広い範囲で積雲活動が活発化することによって特徴づけられる。モデルにおいて西太平洋の熱源のみを7月から8月に変えると、この太平洋域からインド洋域の季節変化の主な特徴が再現される。上層のチベット高気圧および下層の太平洋高気圧が日本付近へ広がることもまた、西太平洋の熱源のみの季節変化で再現される。(5)6月の帯状平均場と8月の熱源を用いたモデル実験が、気候学的な8月の実験結果と比べられる。気候学的な季節変化から遅れた帯状平均場が、中緯度および亜熱帯域の弱いモンスーン循環および関連する降水偏差と関連していることが暗示される。
著者
柴垣 佳明 山中 大学 橋口 浩之 渡辺 明 上田 博 前川 泰之 深尾 昌一郎
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.75, no.2, pp.569-596, 1997-04-25
参考文献数
39
被引用文献数
4

1991年6月17日〜7月8日にMU・気象(C・X・Ku帯)レーダーを用いた梅雨季3週間連続観測を行った. MUレーダーの観測データから, 下部対流圏の降雨エコーの影響を完全に除去して, 信頼性の高い高分解能の3次元風速のデータセットを作成した. 梅雨前線は最初の約1週間(6月17〜24日)はMUレーダー観測所の南方にあり, その後一旦(6月25〜28日)は北方に移動した. 6月29日以後は中間規模低気圧の地上の中心がレーダー観測所近傍を次々と通過し, その際の水平風の変化は, 下層から圏界面ジェット高度にかけて高度とともに遅れて強まる傾向がみられた. 次に, 中間規模低気圧との相対的位置関係に基づいた数時間スケールの鉛直流と降水雲との対応を(i)低気圧を伴った梅雨前線の北側, (ii)地上の低気圧中心付近, (iii)低気圧からかなり離れた梅雨前線南側の3領域について調べた. (i,(ii)のケースでは, 上昇流領域は対流圏界面付近の層状性乱流下端高度(LSTT)と前線面高度に大きく依存し, その後者のケースの上昇流は温暖前線北側では発達した降水雲を伴い, 寒冷前線北側では中規模スケールの領域にわたって卓越しているが, 降雨を伴わないことが多かった. さらに, (iii)の期間ではいくつかの上昇流領域はLSTTを突き抜けていた. これらの中規模変動は, 積雲規模擾乱に対応する上昇流領域のピークを含んでおり, またそれらのいくつかは地上降雨と一致していた. 以上の観測事実に基づき, 梅雨前線近傍の鉛直流変動の階層構造の概念図を作成した. この特徴は, よく知られている中間規模低気圧, 中規模クラウドクラスター, 積雲規模降水雲から成るマルチスケール構造と部分的には一致しているが, 本観測で得られた結果は過去の研究で主に用いられている気象レーダー・気象衛星では観測できない晴天領域についてもカバーしている.
著者
菅野 洋光
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.75, no.6, pp.1053-1071, 1997-12-25
参考文献数
20
被引用文献数
5

日本の東北地方の夏季に低温をもたらすヤマセ風について、1979年から1993年の三沢の高層気象データを用いて分類を行った。ヤマセ気塊の鉛直構造に対してクラスター分析を行い、7つに分類した。各クラスターに属するヤマセ気塊の特徴を、クラスター毎に平均して調べた。ヤマセ風による地表の低温域は気塊の高さに比例しているが、気塊の高さは必ずしも東風の高さと一致していない。ヤマセ気塊、東風共に高い (約800 hPa以上) 場合、地表では東風が東北地方全域を吹走し、強い低温域が太平洋側に認められる (クラスター2と6)。東風が高いが (約800 hPa以上)、気塊の高さが低い場合 (約800 hPa以下)、東風は東北地方全域を吹走するが、地表の低温はさほど強くはなく、寒気は山地によって効果的にブロックされる (クラスター3と5)。ヤマセ気塊、東風共に低い場合、地表の東風と低温域は太平洋側に限定される (クラスター1, 4と7)。各クラスターに属するヤマセ風の出現頻度には季節性が認められる。クラスター6と7は6月にのみ出現し、クラスター2と4は主に梅雨期に、クラスター1と3は梅雨後期から盛夏季に、またクラスター5は主に盛夏季に出現する。また、地上気圧配置、前線の頻度、および500 hPaの高度場はクラスターごとに特徴的な分布を示している。各年ごとにヤマセ風の出現頻度を調べたところ、夏が著しく低温であった1980年、1988年、および1993年には、クラスター2,3,4のヤマセ風が多く吹走していた。しかしながら、低温かつ高さの高い気塊を伴うクラスター2に属するヤマセ風が、夏季の低温に重要な役割を担っていることが示唆された。
著者
松田 佳久
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.73, no.6, pp.1181-1189, 1995-12-25
参考文献数
12
被引用文献数
2

線型化されたプリミティヴ方程式を使って、ゆっくり回転する大気の、移動する熱源に対する三次元的応答を研究した。まず、プリミティヴ方程式を水平構造方程式と鉛直構造方程式に変数分離した。水平構造方程式の数値的解法においては、Hough関数を利用した。この研究においては、惑星の自転速度と太陽加熱の移動速度は金星の値に固定されている。大気の線型応答が大気の安定度とダンピングレートの色々の値に対して求められている。ダンピングレートが大きな値の時には、夜昼間の直接循環が得られた。一方、ダンピングレートが小さな値の時には、東西風が卓越し、地衡風の関係が中高緯度において成り立った状態が現われた。
著者
直江 寛明 松田 佳久 中村 尚
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.75, no.3, pp.687-700, 1997-06-25
参考文献数
10
被引用文献数
2

色々な基本場におけるロスビー波の伝播の様相を球面上のバロトロピックモデルの時間積分によって研究した。初めに、理想化した基本場における伝播を調べた。東西一様の基本場が強いジェット気流を持つ場合は、ジェット気流はロスビー波の導波管の働きをする。平均流と東西波数1 (又は2) の重ね合わせで基本流が構成されているときは, ジェットの入口から射出されたロスビー波はジェット気流の入口と出口の間の経度 (西風が強い所) を速やかに東に伝播する。そして、その波はジェットの出口付近で停滞し、そのエネルギーはそこに蓄積する。基本流の東西非一様性が大きいときは、基本流が順圧的に不安定になる。しかし、この不安定は弱いので、伝播の様相がこの不安定の影響を受けることはなかった。一方、基本場からの運動エネルギーの順圧的変換も波のジェットの出口付近での増幅に重要であることもわかった。つまり、ジェットの出口付近での波の増幅は、上流のエネルギー源からのそこへの波のエネルギー伝播とそれに基づくそこでの順圧的変換による増幅と理解される。次に、冬 (12月から2月) の観測データから得られた1か月平均の300hPa面での流れを基本流として、そこでの波の伝播を調べた。1986年の12月の場合、アジアジェットの入口と出口の間を東ヘ伝播したロスビー波はジェット出口付近で進行を妨げられ、その付近に停滞した。1984年1月の場合は、ロスビー波の経路はアジアジェットの出口において北大西洋ジェットに接続する東向きの経路と赤道向きの経路とに分岐した。このようにロスビー波の伝播特性は基本流の分布に強く依存することが例示された。
著者
田中 実
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.75, no.6, pp.1109-1123, 1997-12-25
参考文献数
20
被引用文献数
12

東アジアにおける梅雨降水量及び西太平洋における夏のモンスーン (WNPM) の年々変動及び長期変動を1963年から1992年までの30年間の海面気圧・降水量及び5日平均GMS上層雲量データ (1978年4月から1992年12月) を利用して調査した。これらの現象とENSOとの関係を1963年から1992年までの30年間の東部赤道太平洋海面水温(NINO3 SST)を利用して調査した。7月下旬のWNPMの年々変動は、NINO3 SSTと最近の15年間 (1978-1992) のみ高い負の相関があることがわかった。これはLa Nina (El Nino) 年にWNPMは強く (弱く) なりやすいことを示す。7月の梅雨降水量は、NINO3 SSTと上記15年間において高い正の相関があることがわかった。したがって La Nina (El Nino) 年に梅雨降水量が少なく (多く) なりやすいことを示す。これらの関係は最近の15年間については La Nina 年と比較して El Nino 年は WNPM の開始と梅雨降水量の極大が出現する日が20日ほど遅れることによる。7月の梅雨降水量は1963年から1977年の15年間にも NINO3 SST と高い正の相関があることがわかった。しかし La Nina年と El Nino年の梅雨降水量の極大の出現日の遅れの差は小さくなっていた。NINO3 SSTとのラグ相関を計算し、7月下旬のWNPMは5・6月のNINO3 SSTとの負の相関が高かった。梅雨降水量は最近 (前期) 15年間の1978-1992年 (1963-1977年) の期間において、3ヵ月遅い (2ヵ月早い) 月の NINO3 SSTと高い正の相関があることがわかった。NINO3 SSTの自己相関を調べると、1963-1977年の15年間は、2年周期が、1978-1992年は4年位の長い周期が観測された。この周期の変化は、最近の15年間に SSTと WNPM及び梅雨降水量との相関が高くなったことと関係していると考えられるが、今後の調査が必要である。
著者
沈 学順 木本 昌秀 住 明正
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.76, no.2, pp.217-236, 1998-04-25
被引用文献数
7

実測SSTを与えた大気循環モデルの10年間積分(1979-1988)を用いて、広域インドモンスーンの年々変動とそれと関連したユーラシア大陸上の陸面プロセスについて調べた。用いたモデルは東大気候システム研究センターと国立環境研究所の共同開発によるものである。南アジアモンスーン域における上下の西風シアをモンスーンの強弱の指標として用いた。モデルでシミュレートされたモンスーン環境の年々変動は観測と良い対応を示した。モデルのモンスーン変動にはユーラシア大陸上で顕著な前兆現象が見い出された。弱いモンスーンの前の冬に、北緯50°より南のほうで積雪がより多く、強いモンスーンの前にはパターンが全く逆になっている。季節の進行とともに、春にはモンスーンの強弱に応じて土壌水分等にも顕著なコントラストが見られた。これらのシグナルは観測の統計結果及び他のモデル実験結果と整合的である。陸面での熱収支解析により、雪解けの遅いチベット高原では積雪のアルベド効果が顕著であり、その西の標高の低い区域では土壌水分偏差による蒸発偏差や増えた雲量によるアルベド効果の方が卓越していることが見い出された。冬〜春の陸面プロセス偏差が引き続き夏のモンスーンの強弱に定量的にどの程度のインパクトをもつかを数値実験によって調べた。このモデルでは、陸面プロセスはボジティブフィートバックとして働きはするが、モンスーン循環の偏差の符号を決定する程の影響力はない。ENSOによる熱帯東西循環の変化の直接的な影響が量的にはより支配的役割を果たすようである。
著者
立花 義裕
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.73, no.3, pp.697-715, 1995-06-25
被引用文献数
3

北海道石狩平野の降雪分布の特性について統計的な研究を行った。主に1982から1991年の冬季のAMeDAS毎時降水量データ用いて調べたREOF (rotated empirical orthogonal function)解析の結果、第1成分(31%)は山雪のパターン、第2成分(11%)は石狩平野を中心とする里雪のパターンになることがわかった。二つの成分の時間的な変化を調べたところ、里雪型は冬の後半に、また、昼間よりは早朝に多いことがわかった。次に、里雪型の降雪をもたらす気象条件を総観場及びメソスケール場の関連に着目して調べた。その結果里雪型の降雪が生じる場合には、北西季節風とは反対向きの寒冷な気流が海岸部の地表付近に存在していることが明らかになった。特に、降雪が1日以上持続する場合は、寒冷な気流は石狩川全流域におよぶ。この事実は、持続する里雪と北海道内陸部に形成される寒気のプールとの関連を示唆する。すなわち、カタバ風によって内陸の山から平野部に流れこんだ寒気が持続的に海上に流出する際に、海岸付近に収束帯形成され、持続的な降雪がもたらされると考えられる。さらに、里雪型降雪の際の総観揚を統計的に調べた結果、偏西風が非常に弱く、上空の気温が非常に低いことがわかった。このような総観場は、カタバ風の発生に好都合であり、上記の推測と整合的である。また、これらの総観場の特徴は他の日本海側の降雪域の特徴に似ていることもわかった。
著者
青木 輝夫 青木 忠生 深堀 正志 内山 明博
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.77, no.2, pp.595-614, 1999-04-25
被引用文献数
12

雪面及び大気上端(TOA)における波長別及び波長積分した積雪アルベドに対する大気の効果を調べた。そこでは空気分子、吸収気体、エアロゾル、雲による吸収と散乱の効果を、doubling and adding法とMie理論に基づいた大気 - 積雪系の多重散乱放射伝達モデルによって見積もった。波長別雪面アルベドは太陽天頂角が大きいとき、大気中の吸収気体によって大気がないときに比べて減少することが示された。その太陽天頂角依存性は波長0.5μm以下でレイリー散乱によって弱められ、ほとんどの波長でエアロゾル及び雲によって弱められた。水蒸気の豊富な大気は、太陽天頂角が大きいとき、水蒸気の吸収帯で波長別アルベドを減少させた。ところが近赤外域の下向きフラックスが水蒸気の吸収によって減少するため、波長積分したアルベドは数パーセント高くなった。エアロゾルは太陽天頂角が小さいとき波長積分した雪面アルベドを増加させ、太陽天頂角が大きいときには減少させた。しかし、エアロゾルは太陽天頂角が大きいときを除き、波長積分したプラネタリーアルベドを減少させた。光学的に厚い雲は太陽天頂角に依らず波長積分した雪面及びプラネタリーアルベドの両者を増加させた。太陽天頂角が小さいとき可視域では、雪面上における曇天時の下向きフラックスが晴天時のそれを上回り、また両者はさらに大気外日射フラックスを上回り得ることがわかった。この現象は雪面と大気(雲)の間の多重反射によって説明できる。しかし、雪面上における曇天時の全天日射量は、晴天時及びTOAにおけるそれらを上回ることはなかった。
著者
播磨屋 敏生 中井 安末
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.77, no.1, pp.101-115, 1999-02-25
被引用文献数
1

日本の日本海側の山岳地域において、毎年のように豪雪が起る。その降雪の形成に貢献する雲粒捕捉成長過程が、レーダーと微物理解析によって調べられた。観測結果は次のようにまとめられる。レーダー解析によると、日本海上で形成された降雪雲は、海上から陸上に向かって移動するにつれて、発達期から最盛期となる。その後陸上を移動するにつれて消滅期をむかえる。それらの降雪雲が山岳地域に到達する時、地形性上昇流によって再発達するのが観測された。降雪強度の増加につれて付着雲粒量が増加すること、および上方がら降る氷結晶の質量フラックスの影響をとりのぞいた付着雲粒量が、風速が増加するにつれて増加することが示された。そのうえ、風上から移流する雲粒量を差引いた付着雲粒量が、風速が増加するにつれて増加することが風速と雲粒寄与率の関係図から推測された。この観測事実から、風速の強い時には再発達して雲粒の増加した雲内を氷結晶が落下することによって、たくさんの雲粒を捕捉して、結果として高い雲粒寄与率をもち、強い降水強度をもつ降雪となることがわかる。このようにして、雲粒捕捉成長過程が山岳性降雪の形成へ非常に貢献する。観測結果は、昇華と雪片形成成長過程もまた山岳性降雪の形成に貢献することを示した。降雪雲内の雲水量は、地形性上昇流によって形成される雲粒量のみだけでなく、氷結晶の質量フラックスとの兼ね合いで決まることが示された。観測結果は、雲粒量に比べて氷結晶の質量フラックスが少なくなる風速の強い条件下と風速が弱くても発達初期段階の降雪雲である条件下の二つの場合が人工種まき実1験のために可能性が高いことを示した。
著者
Peng Melinda S. Chang Simon W.
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.75, no.6, pp.1073-1089, 1997-12-25

マイクロ波放射系 SSM/Iから推定された雨量の同化は、領域モデルによる熱帯低気圧の数値予報に有益であることが示されている (Pong and Chang, 1996)。しかし、衛星がほぼ太陽周期軌道をとることと観測幅が狭いことにより、SSM/Iは熱帯を完全にはカバーしない。一つまたはそれ以上の熱帯低気圧がSSM/I の観測領域に含まれず、したがって予報モデルに同化するための雨量を推定できない場合が多くある。この研究では、雲頂輝度温度がら推定された雨量を同化する効果評価する。Manobianco et al. (1994)によって提案された、SSM/Iの同時観測による雨量に基づいて赤外雲頂輝度温度から雨量を推定するアルゴリズムを、1990年の台風Floの数値予報に適応した。赤外観測による雨量の同化は、台風Floの経路と強さの予報に正の効果があり、これはSSM/Iによる雨量を用いた Peng and Changの結果と定性的に同じであることがわかった。赤外輝度温度とSSM/I輝度温度が同時に観測されない場合には、赤外雨量をSSM/I雨量に関係づける解析アルゴリズムの精度が低下した。赤外雨量を、数日前に得られた赤外輝度温度とSSM/I雨量の間の関係式から計算した感度実験では、赤外雨量の精度と予報のスキルの改善率が共に減少した。
著者
金田 幸恵 耿 驃 吉本 直弘 藤吉 康志 武田 喬男
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.77, no.1, pp.135-154, 1999-02-25
被引用文献数
1

1993年7月25日未明に台風9304が紀伊半島南端に最接近し、その後四国に上陸したことに伴い、半島南東斜面に多量の降水が観測された。この台風に伴い形成された対流性降水雲の地形による変質過程が、2台のドップラーレーダを用いた観測により調べられた。7月24日1900LSTから25日0000LSTにかけてのドップラーレーダ観測期間中、多くの対流性降水雲が上陸した。それらのレーダエコーは、様々な発達段階で海岸に達したにもかかわらず、海岸の10-20km手前で強まり、海岸線付近でいったん弱まった後、上陸後に再び強化されるか、あるいは広がるという共通の特徴を示した。また、対流性エコーは、海上で強まる前、海岸から30-40km沖付近で後面上部で強まり、その後、海岸に近づくにしたがって、進行方向前面のエコーが強まるという特徴も見出された。2台のドップラーレーダの観測データから導出された海上の水平風を時間平均したところ、平均風速は海岸に近づくにつれ減衰すること、海岸から約10km海上に10^<-4>s^<-1>以上の水平収束域が存在することが見いだされた。以上の観測事実にもとづき、また一般風に対する半島の地形効果に関する数値実験の結果も考慮して、対流性降水雲の地形による変質過程と効率的な降水形成過程が議論された。海上から接近、上陸する対流雲に対するこのような地形効果の総合的な結果として、紀伊半島南東斜面に多量の降水がもたらされたと考えられる。
著者
植田 宏昭 安成 哲三
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.76, no.1, pp.1-12, 1998-02-25
被引用文献数
12

本研究ではベンガル湾及び南シナ海上の東南アジアモンスーン(SEAM)の開始のメカニズムを, チベット高原とその周囲の海洋との温度コントラストの視点から調べた。循環場の解析にはECMWFによる5日平均客観解析データ(1980-1989年), 対流活動の指標としてはGMSの5日平均等価黒体温度(TBB)データ(1980-1994年)を用いた。東南アジアモンスーンのいち早い開始は, 第28半旬(5月16-20日)に下層のモンスーン西風気流の加速を伴って見られ, その後6月の上旬に2回目のモンスーン強化が生じている。春から夏にかけてのチベット高原上では, 200-500 hPaの気層の温度上昇が約15日間隔で上昇している。特に5月中旬のチベット高原上の温度上昇は, SEAMの開始と一致している点が重要である。すなわちチベット高原とその周囲の海洋との温度差異は, 下層のモンスーン気流の加速と東方への拡大を引き起こし, 結果として南シナ海モンスーン(SCSM)を含むSEAMの急激な開始をもたらす。この関係は, (10゜-20゜N, 80゜-120゜E)での下層の風と200-500 hPaの層厚との年々変動の相関解析によっても確認された。中緯度への影響としては, SCSMの開始による低気圧性渦度と熱源により, 定常ロスビー波が南シナ海上で励起され, 更に北東方向に伝播している。この波の下流の日本付近は正の高度場偏差が現われ, 川村と田(1992)が示した5月中旬の日本の晴天の特異日と一致している。
著者
城岡 竜一 上田 博
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.461-470, 1995-06-15
被引用文献数
1

TOGA-COAREの集中観測期間中、西部熱帯太平洋上のパプアニューギニア、マヌス島において1992年11月19日から1993年1月19日までの2ケ月間、全天日射量の観測を行なった。日射量の日変化の特徴から観測期間を4つに分割した。GMSのT_<BB>からみた対流の活発度やウインドプロファイラーから得られた東西風にも各期間の特徴がみられた。観測期間を通して地上風の変動は激しかったが、12月下旬から1月上旬にかけて強い西風が観測された。最も対流活動が活発であった期間は午後の日射量の低下で特徴付けられ、西風強化の前に現れていた。一方、西風が強化された期間では午前中の対流活動が支配的であった。日射量の日変化を渦相関法によって求められた顕熱や潜熱のフラックスと比較すると、陸上におけるエネルギーフラックスの変化は日射量の変動に30分程度ですばやく対応していた。潜熱と顕熱のフラックスは、夜間はほとんど零であり、昼間の最大値は潜熱で約270W/m^2、顕熱で200W/m^2であった。
著者
荻野 慎也 山中 大学 深尾 昌一郎
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.407-413, 1995-06-15
被引用文献数
4

J-COARE白鳳九航海のレーウィンゾンデ観測(1992年11月1日〜12月4日)より得られた温度・風速データをもとに、低緯度帯(13.78°S〜24.50゜N)の下部成層圏(14〜22km)における重力波活動度の南北変化を調べた。高度14〜22kmのデータを用いて鉛直波数スペクトル解析を行ない、全期間の平均をとると、卓越鉛直波長は温度・東西風については4km、南北風については2.7kmであった。高度プロファイルおよびホドグラフ解析結果をみると、赤道をはさんで南北約10゜の範囲では、鉛直波長が4km程度の比較的振幅の大きな(5〜10m/s)波動構造が、東西風にはしばしば認められるが南北風にはほとんど認められないことから、4kmの成分には主にケルビン波が、2.7kmの成分には主に重力波が寄与しているものと考えられる。鉛直波長4.0km,2.7m,2.0mの各成分について、パワースペクトル密度を緯度の関数として整理し、中緯度帯と較べると低緯度域の方が重力波活動度は大きいという結果を得た。重力波の振幅は波の周期や背景のブラントバイサラ振動数に関係すると考えられるが、今回得られた南北分布はこれらのパラメタだけでは説明できず、赤道付近で活発な積雲対流が重力波の励起と密接に関わっていることを示唆している。
著者
加藤 輝之 栗原 和夫 瀬古 弘 斉藤 和雄 郷田 治稔
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.76, no.5, pp.719-735, 1998-10-25
被引用文献数
6

10km分解能気象研究所非静力学メソスケールモデル(MRI-NHM)が予想した降雨の精度検証を1996年梅雨期について行った。精度検証結果については気象庁の10km分解能静力学領域スペクトルモデル(RSM)の結果とも比較した。MRI-NHMには雲水、雨水を直接予報する暖かい雨タイプの降水スキームを用い、RSMでは2つの対流のパラメタリゼーションスキームを大規模凝結とともに用いている。MRI-NHMは1時間降水量1mm程度の小雨を僅かに過小に予測した一方、降水強度の最大値20mm以上の強雨の面積を相当に過大評価した。統計的なスコアを取ったところ、1時間降水量10mm以上の強雨についてはMRI-NHMの方がRSMより正確に予測していた。ただし、5mm以下の雨についてはMRI-NHMはRSM程成績は良くなかった。MRI-NHMは1時間降水量20mm以上の雨のほぼ半数を予想することができた。降水は九州北部より南部の方が精度良く予想されていた。このことは九州北部と南部とで強雨形成のメカニズムが異なるためだと考えられる。