著者
Baik Jong-Jin Paek Jong-Su
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.78, no.6, pp.857-869, 2000-12-25

バックプロパゲーション型ニューラルネットワークを使って、北西太平洋での熱帯低気圧の強度の変化を12, 24, 36, 48, 60, 72時間について予測するモデルを開発した。用いたデータは、1983-1996の14年間の北西太平洋の熱帯低気圧に対する、低気圧の位置、強度、NCEP/NCARの再解析、それに海面水温である。ニューラルネットワークの予測因子は重線形回帰モデルの予測因子に基づいて選ばれた。回帰分析により、予測因子の一つ風の鉛直シア-が全ての予測時間に渡って一貫して重要であることを示した。予測因子として気候学的、持続的、総観的因子を用いたニューラルネットワークモデルによる平均予測誤差は、同じ予測因子を用いた重線形回帰モデルに比べて7-16さらに、予測因子として気候学的、持続的因子のみを用いたニューラルネットワークモデルの性能でさえも、総観的因子まで含んだ重線形回帰モデルの性能をわずかに上回った。ニューラルネットワークモデルの性能は14年間の全ての年について回帰モデルを上回るわけではないけれども、ニューラルネットワークモデルの方が良い年の方が逆の年よりもずっと多く、その傾向は短い予測時間の方が顕著である。感度実験により、ニューラルネットワークモデルの平均強度予測誤差は、隠れ層や隠れ層のニューロンの数には敏感ではないことを示した。しかし、熱帯低気圧強度予測のために、より良い隠れ層の構造を用いることにより、回帰モデルに比べてニューラルネットワークモデルをさらに改良する余地がいくらかある。この研究は、予測因子として気候学的、持続的、総観的因子を用いたニューラルネットワークモデルが熱帯低気圧の強度予報において有効な道具として使えることを示唆している。
著者
藤部 文昭
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.74, no.2, pp.259-272, 1996-04-25
被引用文献数
3

1994年の猛暑の特徴を, 境界層内の状況に焦点を当てて調べた. 境界層内の気温を表す指標として, 地上気温と850hPa気温との差(δT)および昼夜の気圧差(Δp)を使い, これらの経年変化と1994年の偏差を求めた. 解析は1961〜1994年7〜8月の晴天弱風日を対象にした. 1994年の夏はδTの正偏差とΔpの負偏差が明瞭に認められ, 境界層内には自由大気を上回る気温偏差があったことが見出された. また夏季晴天日の一般的特徴として, δTやΔpの偏差は降水・日照の履歴と相関があり, 少雨・多照が続いた後は境界層内は高温になる傾向が認められた. これは地表面の乾燥によって蒸発散が減り顕熱供給量が増すためであると考えられる. 従って, 1994年の夏は著しい少雨・多照の持続が境界層内の高温を増幅する1要因になったと推測される. 一方, δTの経年上昇傾向は夜間については多くの地点で認められるが, 昼間は関東内陸など一部の地点を除いて目立たない. むしろ沿岸ではδTの低下傾向があり, これは海面水温の低下に対応する. 従って, 1994年の猛暑のうち昼間の著しい高温については, 都市化の影響は一部の地域にとどまっていたと考えられる. なお他の研究結果から見て, 昼間の都市昇温は数十年以上の長いスケールにおいて初めて検出されるものと考えられる.
著者
瀬古 弘 加藤 輝之 斉藤 和雄 吉崎 正憲 楠 研一 真木 雅之 「つくば域降雨観測実験」グループ
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.77, no.4, pp.929-948, 1999-08-25
被引用文献数
7

台風9426号(Orchid)が日本列島に接近した1994年9月29日に、関東平野にほぼ停滞するバンド状降雨帯が見られ10時間以上持続した。つくばにおける特別高層観測、2台のドップラーレーダーおよびルーチン観測のデータを用いて、この降雨帯を解析した。この降雨帯はニンジン形の雲域を持ち、バックビルディング型の特徴を持っていた。南北に延びた降雨帝はマルチセル型の構造をしていて、その中のセルは降雨帯の南端で繰り返し発生し, 西側に広がりながら北に移動した。水平分解能2kmの気象研究所非静水圧メソスケールモデルを用いて、数値実験を行った。メソ前線は実際の位置の約100km南東に形成されたが、バックビルディング型の特徴を持つニンジン型の形状のほぼ停滞する降雨帯が再現され、3時間以上持続した。セルが北西に移動すると共に降雨帯の東側で降水が強化されて、ニンジン形が形成されていた。降雨帯の形成メカニズムを調べるためにまわりの場と雲物理過程を変えて感度実験を行った。その結果、中層風の風上側からの高相当温位の気塊の供給と風の鉛直シアが重要であることがわかった。
著者
三隅 良平
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.74, no.1, pp.101-113, 1996-02-25

1993年8月9日の夜, 台風9307が日本の南部に接近し, 大隅半島に多数の土砂災害を伴う豪雨を発生させた. この豪雨の興味深い特徴は, 降水量が山脈の風下側で著しく多かったことである. 山脈風上側の観測地点では9時間雨量が80mmであったのに対して, 風下側では大部分の観測地点で150mmを超えた. また, すべての土砂災害は山脈の風下側に発生した. この豪雨は, 主として台風の眼の壁雲とレインバンドの間の領域でおこった. 豪雨の期間中, 山脈の上層に強いレーダーエコーが頻繁に出現した. 山脈の風下側で降水量が増加する過程を, 2次元モデルによる数値シミュレーションで調べた. シミュレーションの結果は, 降雨が主としてシーダ・フィーダ機構によって強められていたことを示した. すなわち, 上層の雲から落ちてきた降水粒子が, 地形性上昇流によって形成された雲粒を捕捉することによって成長し, 山脈上で成長した粒子が, 台風に伴う強い風によって風下側に運ばれたと考えられる. また別の機構として, 山岳波に伴う下降流が, 局所的に多量の雪粒子を下層に運ぶことも, 風下側の降雨量の増加に寄与していたと考えられる.
著者
岩崎 博之
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.77, no.3, pp.711-719, 1999-06-25
被引用文献数
4

NOAA衛星のSplit-windowデータを用いて陸域の可降水量を見積もるIwasaki(1994)のアルゴリズムを30画素×30画素からなる山岳域を含んだ解析単位について応用し、マイクロ波放射計で得られた可降水量と比較した。12事例について比較した結果、回帰直線の傾きは1.0に近く、y軸切片も-1.68mmと小さく、相関係数は0.81と良好な結果を得た。このアルゴリズムを使うことで、熱的局地循環に伴う晴天域のメソスケールの可降水量分布とその時間変化を可視化できた。熱的局地循環が卓越した1995年7月28日の07時30分がら14時30分の間に、海岸付近では可降水量が5-20mm増加していた。山岳域では可降水量は0-20mm増加し、逆に、山麓では可降水量が0-15mm減少していた。
著者
Chan Johnny C.L. Wang Yongguang Xu Jianjun
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.78, no.4, pp.367-380, 2000-08-25
被引用文献数
2

南シナ海(SCS)夏季モンスーン(SCSSM)の様々な観点を研究する目的でSCSモンスーン実験が1998年5-6月に実施された。本論文ではSCSSMオンセットと関連した力学的・熱力学的特徴について予備的な結果を示す。研究目的は850-hPa東西風の東風から西風へのシフトとSCS上の日降水量の突然の増加に基づいて定義されたオンセットを引き起こしたメカニズムを決定づけることである。これらの基準に基づき1998年のSCSSMのオンセットは5月25日であった。高い相対湿度と同様に夏季の南北温度傾度、子午面循環は5月上旬にSCS上で既に確立していた。一方、海面気圧の南北傾度および東西風循環の反転はオンセット直前に起こった。オンセット前日、850hPaと500hPa間の飽和相当温位の鉛直傾度はSCS全域で最大に達しており、下層大気がとても不安定であったことを意味している。ベンガル湾の熱帯低気圧は明らかにSCS地域への水蒸気輸送に対する導管の役割を果たしていた。加えて、北西太平洋の亜熱帯高気圧は東方へ後退し、105°-125°E間のequatorial buffer zoneと関連して赤道越え気流が105°E付近で卓越した。これらの結果として下層西風が形成された。上述のプロセス全てがSCSSMオンセットの必要条件になった。チベット高原北東部で生成された前線性低気圧がSCS地域に南進すると、そこで上昇流が強化され多量の降水を促した。まさにこれがSCS全域でモンスーンオンセットが生じた時であった。
著者
板野 稔久
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.76, no.2, pp.325-333, 1998-04-25
被引用文献数
4

HEIFE期間中の中国北西部・乾燥地帯における降雨前後の総観気象状態を本著者による以前の研究(Itano, 1997)の発展としてより詳しく調べた。その結果、この地域では頻繁にトラフの通過がみられ、それに伴って、チベット高原のすぐ北側ではトラフ上に低気圧が次々と形成されることがわかった。この地域の降雨は基本的にそのような東進するトラフによってもたらされる。トラフの通過とともに、標高の高い所では相当量の降雨が観測されるけれども、標高の低い所では必ずしも降雨は見られない。特に, この辺りで標高の最も低い砂漠で降雨が観測されるのは、夏と冬の両季節において雲底下の大気の相対湿度が60パーセントを超えた時だけである。これは、砂漠の境界層が乾燥しているために、そこでの湿度がある程度になるまでは雨粒が境界層内で蒸発してしまって地表面まで届かないためではないかと考えられる。また、この地域で頻繁に総観規模の擾乱通過がみられ、またそれに伴って多くの降雨現象がみられるのにもかかわらず地表面で観測される降雨量が少ないのは、このような雨粒の蒸発によるためもあると思われる。
著者
竹見 哲也
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.77, no.2, pp.387-397, 1999-04-25
被引用文献数
1

砂漠地域の乾燥した雲底下層中において降雨が蒸発により消失することについて、雨の落下・蒸発を表現した鉛直1次元非定常モデルを用いて調べた。夏季に中国北西部砂漠地域で見られる典型的な乾燥した深い境界層という条件のもとで、層状性タイプの弱い降雨をモデルでは仮定している。2種類の数値実験を行った。最初の実験では、大気は静止していると仮定している。中程度の降雨強度(9.5mmh^<-1>)の場合には、モデル上端で雨を与えてから約1時間後に地上レベルで降雨が始まる。一方弱い降雨強度(0.97mmh^<-1>)の場合には、地上での降雨は約11時間半経過してから生じる。蒸発による雨の消失量は、雲底高度からの雨の落下距離及び降雨強度に依存して大きく変化する。各降雨強度に対してモデル上端で与える総降雨量を一定にすると、強い降雨強度の時ほど蒸発する量は大きい。次の実験では一定の下降流を仮定し、下降流による断熱昇温が雨の蒸発に及ぼす効果について調べた。数10cms^<-1>の下降流だけでも雨の蒸発は大きく促進される。中国砂漠地域での地上観測とモデルの結果とを比較した結果、その地域で見られる典型的な降雨イベントに伴う気象変化は主に雨の蒸発によるものであることが示唆された。
著者
藤吉 康志 村本 健一郎
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.74, no.3, pp.343-353, 1996-06-25
被引用文献数
6

暖めたケロシン中で雪片を融解させ, その際形成される水滴の粒径分布を調べた. この実験結果を基に, 雪片の融解分裂過程が, 雨滴の粒径分布に与える効果について考察した. 合計50個の融解前の雪片について, その最大直径, 断面積, 質量も同時に測定した. 1つの雪片から生じる水滴の総数は, 雪片の質量と最も相関が高く, 少なくとも質量が3.0mg以下の場合には, 平均的な水滴の個数は質量と共に直線的に増加した. ただし, 質量が同じでも形成される水滴の粒径分布には大きなバラツキがあった. 生成された水滴の平均粒径分布は, 質量が1.0mg以下の場合は指数関数で, 2.0mg以上の場合はガウス分布で近似出来た. 初めGunn-Marshall型の粒径分布をしていた雪片が, ここで得られた実験式にのって融解分裂したと仮定すると, 得られた雨滴の粒径分布の勾配はMarshall-Palmer分布の勾配と極めて良く一致した.
著者
二宮 洸三 小林 ちあき
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.76, no.6, pp.855-877, 1998-12-25
被引用文献数
4

1991年アジア全域に於ける夏季モンスーンの降水の季節変動を全球予報モデルの24時間予報データに基づいて調べた。まず、モンスーン循環を構成する主要な循環系を850hPa10日平均場によって定義し、それらの変動と降水の季節及び季節内変動との関係を示した。インドモンスーン域の降水と最も密接に関係するのはチベット高原上の低気圧性循環系(CS-6)、インド洋赤道付近に中心を持つ時計回りの循環系(CS-3)及び地中海高気圧の循環系(CS-7)であり、東アジア域の降水と最も密接に関係するのはインド西風モンスーン(CS-3の西風)、オーストラリア高気圧から流れ出る赤道を横切る循環系(CS-4)及び太平洋亜熱帯高気圧の循環系(CS-5)である。これらの循環系はそれぞれの変動と相互作用を通じて降雨の変動をもたらす。春から夏への大きな変化は降雨極大域と対流圏中層の相当温位極大域の赤道からアジア大陸南部への移動である。即ち、6月初めCS-7の西方への変位、CS-6とCS-3の発達と共に、降水域・湿潤域は赤道域からアジア大陸南部に移動し、インドモンスーン西風と降雨の極大が出現する(1st onset)。それ以後インド洋西部は乾気・寒気移流域及び下降流域となり水蒸気量は減少し成層は安定化する。6月中旬、インド洋上の西風とインド近辺の降雨は弱まり(monsoon break)、7月中旬に再び極大となる(2nd onset)。東アジアの5月の降水はCS-4とCS-5の南西風によってもたらされ, 降水域・湿潤域は赤道からモンスーントラフ〜インドネシア・インドシナ半島に移行する。梅雨前線の降水帯は5月末〜6月初旬に明瞭となる。インドモンスーン1st onsetの西風は6月中旬太平洋の〜140°Eに達し擾乱を発生させ、太平洋高気圧の東方への変位をもたらす。この後(6月末〜7月初旬)西風域は西に後退し、同時的に太平洋高気圧の西方への変位が起こる。上記の太平洋高気圧の変位は、その南西縁及び北西縁のモンスーントラフ(南シナ海)及び梅雨前線帯の位置と降水量の変化をもたらす。2nd onsetのインドモンスーン西風は7月中旬に太平洋に達し擾乱を発生させる。同時に太平洋高気圧と梅雨前線帯は北東へ変位する。
著者
尾瀬 智昭
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.78, no.1, pp.93-99, 2000-02-25

冬季北半球における、西太平洋パターン(WP)および太平洋・北アメリカパターン(PNA)の出現が、2年振動する南シナ海の海面水温とこれに関係する熱帯西太平洋上の降水量の変動と統計的に次のように関係していることが分かった。(1)NINO4の海面水温偏差が正(負)で、フィリピンの東で降水が抑えられる(活発化する)時、WP(逆符号のWP)パターンが現れる傾向があり、このことは局所的なハドレー循環の理論と定性的に一致する。(2)NINO4の海面水温偏差が正(負)で、フィリピンの東で負(正)の降水偏差が小さいか、または西方にシフトしている時、PNA(逆符号のPNA)パターンがWP(逆符号のWP)パターンよりむしろ現れる傾向がある。(3)上記の熱帯西太平洋での降水量の変動は、南シナ海の海面水温の2年振動を説明する降水量の変動と一致する。
著者
井上(吉川) 久幸 石井 雅男 松枝 秀和 吉本 誠義 森田 良和
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.76, no.6, pp.829-839, 1998-12-25

1996年1月〜2月にかけて日本-オーストラリア、7月〜8月にかけて日本-アメリカ間を航行した大成丸(運輸省 航海訓練所)で中空糸膜モジュールを用いて海水と平衡になった乾燥空気中の二酸化炭素混合比(xCO_2^S)の測定を試みた。中空糸膜モジュールは、全容積が300cm^3と現在用いているシャワーヘッド型平衡器(設置に110dm^3必要)に比べて小さく、設置が容易である。中空糸膜モジュールを用いて測定したxCO_2^Sは温度計測を行うことにより従来のシャワーヘッド型平衡器の結果と良い一致を示した。14分離れて測定したxCO_2^Sの差は、0.1ppm(n=732)であり標準偏差は3.7ppmであった。このことは二つの平衡器間にシステマティックな差がないことを示しており、中空糸膜が平衡器として将来使用できることが分かった。
著者
吉門 洋
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.76, no.4, pp.641-648, 1998-08-25
被引用文献数
2

日本海沿岸を東進する総観規模低気圧に伴って初冬季の関東平野にしばしば出現する局地前線の気流構造を、1996年12月5日に観測された例について解析した。前夜からの北部・西部の山地方面から吹く下層風が平野部に冷気を供給していた。低気圧暖域の総観規模の南風が平野南部で夜半からしだいに強まり、北部からの冷気塊との間に局地前線を形成した。南風は前線面において下層の北風が供給する冷気を取り込み、相対的に冷たい南風の「遷移層」を形成して、冷気を運び去る。前線の北側後背部で観測した各層の厚さはかなり定常的で、下層の冷気供給量に対する遷移層内の北向き冷気輸送量の過剰分は、前線の北進に伴う前線先端部の冷気量の減少にほぼ対応する。しかし、下層の冷気流は午後まで持続し、そのため前線は平野中央部に維持される。なお、前線の先端部の構造の一例として、前線通過前の東京都心周辺では、厚さ50mあるいはそれ以下の冷たい弱風層が2時間以上持続した点が特徴的であった。
著者
田島 俊彦 中村 敏郎 黒田 貴紀
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.73, no.1, pp.37-46, 1995-02-25
被引用文献数
3

回転円筒水槽実験で観測される定常傾圧波動の基本的構造は、低圧性・高圧性の渦、渦の間を蛇行する上層(東向き)・下層(西向き)ジェット流と境界層でできている。この構造をもとに、最近、菅田・余田は円筒水槽内の流体粒子のラグランジュ運動を数値的に調べた。彼らの結果に刺激されて、数滴の赤インクをジェット流叉は渦に注入する回転円筒水槽実験を行い、ドリフトする波と共に回転する座標系で観測した。流体中に現れたインクの三次元模様は渦の内部を明らかにした。即ち、渦の内部は中心層とその外部の遷移層から成っている。中心層はどちらかと言えば孤立層に近く、さらに上層と下層に分離している。遷移層では流体粒子はその外部と行き来をし、中心層にはめったに行かない。低圧性渦の下に起こるエクマンパンピングと思われる現象のようないくつかの興味ある現象についても又ここで示す。
著者
田中 博 木村 和央 安成 哲三
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.74, no.6, pp.909-921, 1996-12-25

本研究では、モデル大気の自然変動の大きさや周波数応答特性を解析するために、簡単な順圧プリミティブ方程式モデルを長期間(1000年)積分し、その時系列のスペクトル解析を行なった。年周期強制を除いた実験では、周期約50日以上の長周期変動のスペクトル分布は一様白色であり、年々変動や百年単位の顕著な長周期変動は検出されなかった。しかし、周期約50日の特徴的な季節内振動が時系列のうえで検出され、これ以下の周期帯では周波数の-3乗に従う明瞭なレッドノイズスペクトルに遷移することが解かった。季節内振動に伴うスペクトルピークは存在しないことから、レッドノイズが一様白色に遷移する周波数で見かけ上の季節内振動が卓越することを示した。モデル大気の唯一のエネルギー供給はパラメタライズされた傾圧不安定による周期約5日の周波数帯にあり、ここから低周波数帯に向かってエネルギーが逆カスケードを引き起こし、レッドノイズやホワイトノイズスペクトルを形成している。内部力学の非線形性が卓越する周期約50日以上の周波数帯のスペクトル分布はホワイトノイズとなり、一部の線形項が卓越し大気現象の時空間スケールに特徴的な線形関係が保たれる周波数帯ではそれがレッドノイズとなると考えられる。年周期強制を導入した実験では、ホワイトノイズ内部に生じる年周期スペクトルピークが、モデルの内部力学の非線形性によりその高調波(低調波)応答を引き起こすかどうかが調べられた。実験結果のスペクトル解析によると、励起されたスペクトルピークは年周期強制によるものだけで、高調波(低調波)応答は生じなかった。この結果から、季節内振動や年々変動がもし卓越するラインスペクトルを持つとすれば、それらば外部強制として励起される必要があり、モデルの内部力学の非線形性による年周期変動の高調波(低調波)応答では生じないことが示された。
著者
Tao W.-K. Lang S. Simpson J. Olson W.S. Johnson D. Ferrier B. Kummerow C. Adler R.
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.78, no.4, pp.333-355, 2000-08-25
被引用文献数
4

TOGA COARE集中観測中の3つの対流活動の活発な期間(1992年12月10-17日、1992年12月19-27日、1993年2月9-13日)の潜熱加熱鉛直分布をGoddard Cumulus Ensemble (GCE) Modelの2次元バージョンを用いて調査するとともに、Goddard Convective and Stratiform Heating (CSH)アルゴリズムを用いて推定した。CHSアルゴリズムに入力した降雨に関するデータソースはSSM/I、観測船レーダ、GCEモデルである。6時間ごとのゾンデデータを用いて診断的に求めた潜熱加熱鉛直分布を検証データとして用いた。GCEモデルを用いて計算した降雨強度及び潜熱加熱鉛直分布はゾンデ観測から見積もられた値と良い一致を示した。典型的な対流性及び層状性加熱構造(形態)はGCEモデルで良く再現されていた。レーダで観測した降雨強度は12月の両期間についてはGCEモデルやSSM/Iから見積もった値よりも小さくなった。SSM/Iから求めた降雨強度は12月19-27日と2月9-13日についてはGCEモデルより大きな値となったが、12月10-17日についてはGCEモデルと良い一致を示した。GCEモデルで見積もった層状性降水の割合は12月19-27日が50%、12月11-17日が42%、2月9-13日が56%であった。これらの結果は大規模場の解析と矛盾しない値であった。精度の良い潜熱加熱のリトリーバルのためには層状性降水の割合の正確な見積もりが必要である。層状性降水の割合が高く(低く)なると最大加熱率がより高(低)高度に出現する。GCEモデルは三つの期間について常にレーダよりも層状性降水の割合を10-20%高く計算した。SSM/Iから求めた層状性降水の割合は12月19-27日が38%、12月11-17日が48%、2月9-13日が41%であった。GCEモデルまたはレーダから見積もった降水強度と層状性降水の割合を用いてCHSアルゴリズムで推定した潜熱加熱の鉛直分布の時間変化は、三つの期間について診断的に計算した結果と良い一致を示した。しかし、レーダから見積もられた降雨強度や層状性降水の割合が小さめであったために、診断的に計算された結果と比べると潜熱加熱量を減少評価し、最大潜熱加熱高度を低く目に推定した。SSM/Iの降雨に関する情報は時間解像度が低いために、ここの対流活動を推定することはできない。しかし本研究は対流活動に関するSSM/Iによる良い降雨強度のリトリーバルは良い潜熱加熱のリトリーバルにつながることを示唆した。感度実験の結果は、SSM/Iから求めた12月19-27日の時間平均した層状性降水の割合は過少評価されるとを示した。しかし、12月10-17日については、SSM/Iから求めた時間平均した層状性降水の割合はゾンデ観測から得られた結果とそれほど矛盾しない値であった。観測結果にバイアスがなければ、長期間の加熱量を求めるリトリーバルはより精度の高いものとなると思われる。CHSのlook-up tableから適切な潜熱加熱鉛直分布を選択することが重要である。この問題を取り扱った感度実験も実施した。
著者
谷本 陽一 岩坂 直人 花輪 公雄
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.75, no.4, pp.831-849, 1997-08-25
被引用文献数
6

北太平洋における海面水温場と大気循環場、風の応力場、正味の海面熱フラックス場との関係をENSOサイクルの時間スケール(3年から5年)とdecadalの時間スケール(5年以上)に分けて調べた。このために、海面水温、風の応力場、正味の熱フラックス場における緯度経度5度格子月平均値データセットを1951年から1990年の40年にわたって新規に作成した。大気循環場のデータにはNMC作成の月平均値データセットの同期間分を使用した。冬季の海面水温場における10年変動に対応して、大気循環場にはその活動中心域を150°W-170°W帯におくPacific/North American(PNA)とよく似たパターンが卓越する。風の応力場では、それと整合するように、中部北太平洋の海面水温が気候値より低い(高い)期間に偏西風が強く(弱く)またその中心帯は南下(北上)している。これら大気側の変化に伴い、海面での活発な(不活発な)熱放出と海洋表層でのより強い(弱い)エクマン輸送が引き起こされる。これに対し、ENSOサイクルの海面水温変動に対応する大気循環場では別のパターンのWestern Pacific(WP)に近いパターンが卓越する。ENSOのwarm epispdes時には中部北太平洋付近の海面水温は気候値より低くなり、西部北太平洋では高くなる。この際、偏西風は下流で蛇行を示し、中部北太平洋で強く偏西風の中心帯は北上し、西部北太平洋では弱まり中心帯が南下する。この風系の変化は西部太北平洋での熱放出を押さえ、この海域での正偏差をもたらす。ENSO cold episodes時にはほぼ逆の結果を示す。10年スケールとENSOスケールの時間スケール間における海面水温アノマリの空間構造の違いは大気大循環場における違い、つまりPNA-likeパターンとWP-likeパターンのどちらが卓越しているかに結びついている。また、それに伴う風系の変化により、海洋からの熱放出、エクマン輸送と言った水温偏差を形成する過程も時間スケール間で異なっていると考えられる。