著者
高橋 劭 鈴木 賢士 織田 真之 徳野 正巳 De la Mar Roberto
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.509-534, 1995-06-15
被引用文献数
4

西太平洋における大気・海洋結合系国際観測プロジェクト(TOGA-COARE)の一環として西太平洋赤道域マヌス島(2°S,147゜E)で21個のビデオゾンデを飛揚、降水機構の研究を行った。観測は1991年11月24日〜12月5日と1992年11月20日〜12月9日の2回にわたり行われた。観測期間中多くの異なった雲システムが発達、それらの出現は水蒸気の高度分布に著しく依存し、台風による水平風の変動が水蒸気分布に大きな影響を与えていることが示唆された。降水系には2種あり、強い降雨をもたらすレインバンドでは"温かい雨"型で雨の形成が行われ、厚い層状の雲では小さい霰の形成が活発に行われていた。0℃層で霰の雪片が初めて観測された。降雪粒子分布がカナトコ雲や台風の層状雲内でのものと著しく異なることから、観測された厚い層雲はレインバンドからの延びた雲ではなく0℃層以上での一様な大気の上昇で形成されたのかも知れない。他の熱帯域と比較して氷晶濃度が赤道で極端に少なかった。
著者
遠峰 菊郎 川端 隆志 瀬戸口 努
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.76, no.2, pp.155-168, 1998-04-25
参考文献数
23

青森県三沢漁港において、係留ゾンデとドップラーソダーによる霧の観測が1993年6月15日から7月11日にかけて実施された。これらの観測期間の中で、長時間継続した霧として7月7日夕刻から次の日の正午まで継続した例と短時間の霧として7月6日6時から13時までの例が詳細に解析された。その結果、雲頂は霧が進入する約2時間前にCTEIから見て安定になり、霧が消散する直前に中立から不安定になることが分かった。
著者
Toyota Takenobu Ukita Jinro Ohshima Keiichiro Wakatsuchi Masaaki Muramoto Kenichiro
出版者
Meteorological Society of Japan = 日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.77, no.1, pp.117-133, 1990-02-25
被引用文献数
1

1996年と1997年の2月上旬、オホーツク海南西部の海氷域内部において、パトロール砕氷船「そうや」に乗船してアルベドの観測を行った。アルベドは船首部に上向き、下向きの短波放射計を取付けて測定した。同時に、海氷密接度および氷厚を、ビデオ観測データの解析により定量的に評価した。水平スケール数kmを対象とした解析の結果、アルベドと海氷密接度は良い相関が見られることが分かった。回帰式をもとに、海氷のアルベド(密接度100%)は95%の信頼区間で0.64±0.03と見積もられた。従来、極域定着氷上で測定された値よりもやや小さい値が得られたのは、低緯度海氷域内では海水や日射などの影響により、海氷上の雪粒子が成長しやすいためと推定される。観測値の回帰直線からのずれは、危険率1%で太陽天頂角と、危険率5%で氷厚と統計的に有意な相関が見られ、海氷密接度と太陽天頂角を変数とする重回帰式も導出された。重回帰式において、偏回帰係数はどちらも統計的に有意であるが、アルベドは太陽天頂角に比べて海氷密接度とより強い相関関係にあることが分かった。重回帰式と観測値との差異は氷厚あるいは雲量よりも主として海氷の表面状態の違いによって生じたものと推定される。これらの結果から、海氷上の積雪が海氷域のアルベドに及ぼす影響が大きいことが示唆された。一方、dark nilas(暗い薄氷)で覆われた海面上で停船した期間中に得られた短波放射データから、氷厚1〜1.5cmのdark nilasのアルベドは0.10、氷厚2〜3cmでは0.12と見積もられた。In order to estimate sea ice albedo around the marginal sea ice zone of the southwestern Okhotsk Sea, we conducted the measurement of albedo aboard the ice breaker Soya in early February of 1996 and 1997. Using upward and downward looking pyranometers mounted at the bow of the ship, we obtained albedo data. We also measured ice concentration and thickness quantitatively by a video analysis. The observations show a good correlation between albedo and ice concentration. From a linear regression, sea ice albedo (ice concentration =100 %) is estimated to be 0.64± 0.03 at the 95 % confidence level. The developed snow grains on sea ice due to sea water and/or solar radiation may be responsible for this somewhat lower value, compared with that over the snow-covered land fast ice in the polar region. Deviations of the observed values from this regression have a statistically significant correlation with solar zenith cosine at the 99 % level, and with ice thickness at the 95 % level. The linear regression formula which predicts albedo is also derived as the variables of ice concentration and solar zenith cosine. Although the regression coefficients are both statistically significant, the coefficient of ice concentration is much more significant in this formula than that of solar zenith cosine. The deviation of the observed albedo from this regression seems to be mainly caused by ice surface conditions rather than by ice thickness or cloud amount. All these results suggest that snow cover on sea ice plays an important role in determining the surface albedo. We also did albedo observations of dark nilas with snow-free surface, they were estimated as 0.10 and 0.12 for ice thickness of l to 1.5 cm and 2 to 3 cm, respectively.
著者
立花 義裕 本田 明治 竹内 謙介
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.74, no.4, pp.579-584, 1996-08-25
被引用文献数
14

オホーツク海の海氷の1969年から1994年までの経年変動を流氷レーダデータ及び海氷格子データを用いて調べた. その結果, 1989年を境にオホーツク海南部の海氷量が激減していることが明らかになった. また, 冬のアリューシャン低気圧も, 1989年を境に急激に弱まっており, ラグ相関の解析結果からその低気圧の弱まりが海氷の激減に影響していることが示された.
著者
Lee Tae-Young Park Young-Youn
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.74, no.3, pp.299-323, 1996-06-25

本論分は, シベリア高気圧からの吹きだしに伴って朝鮮半島上でしばしば発生するメソスケールトラフの実態を事例解析し, さらに3次元数値モデルを用いてその形成メカニズムを調べた結果を報告する. 1986年2月14日〜15日における事例解析によれば, 14日の朝からトラフの形成が始まり, 午後になると, はっきりしたトラフが形成された. この日の半島上の地上気温は通常より高かった. 翌日の早朝には, トラフは減衰する傾向を示したが, 日中には再び発達し, 中国大陸上の高気圧が東に抜けるまで持続した. 数値シミュレーションは, メソスケールトラフの時間発展の様子や空間的な広がりなど, 解析結果に見られた主な特徴をかなりよく再現した. 条件をいろいろ変えて行った数値実験の結果から, 1986年2月14日〜15日に観測されたメソスケールトラフは朝鮮半島の山岳による力学的効果と半島の陸地とそのまわりの海洋との熱的効果の重なったものであることがわかった. 熱的効果とは, 寒候季に半島上が比較的暖かい日の昼間は, 陸上の顕熱フラックスが半島周辺部の海面上顕熱フラックスよりかなり大きくなることを意味する. 半島北部で発達するトラフは, 主に北部山岳の力学効果と熱的効果によって形成される. 一方, 半島南部で発達するトラフは, 主に海抜高度の高い地域の熱的効果及び半島上と周辺部の海面上の熱的コントラストによって形成される.
著者
三上 正男 藤谷 徳之助 張 希明
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.73, no.5, pp.899-908, 1995-10-25
被引用文献数
4

乾燥地における砂漠化の機構を調べるため、1991年より中国新疆ウイグル自治区内のタクラマカン砂漠において、気象要素の長期観測を行った。この目的のため、タクラマカン砂漠南縁の礫沙漠(ゴビ)上に自動気象ステーションを設置した。約1年間にわたる観測データを解析し、オアシス郊外の草地の観測データと比較した。全ての月で月平均地表面温度は気温よりも高く、月平均顕熱輸送は一年を通じ上向きである。夏季において日中の比湿の増加が顕著に見られる。これは、風上側に位置する相対的に湿潤なオアシスからの水蒸気移流によるものと考えられる。主風向は2つあり、4月から6月にかけて見られる西よりの強風(平均風速7m/s以上)と夜間の南南東風である。この夜間の南南東風は、一年を通じて顕著に見られる時計回りの風向の日変化に伴うものである。ゴビから11キロ離れたオアシス内の草地とゴビの風向は,同じ日変化を示す。ゴビから西に100キロ離れたオアシス和田の地上から160mまでの風はゴビと同様の変化を示している。この風向の日変化は、崑崙山脈と砂漠地帯間の局地循環によるものである事が強く示唆される。
著者
石岡 圭一 余田 成男
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.201-212, 1995-04-25
被引用文献数
1

強制と散逸のある、球面上の高分解能2次元非発散モデルにおいて、極渦の順圧不安定に関する非線形数値実験を行った。また、いくつかの流れ場について、高分解能の輸送モデルを用いて、トレーサーの水平輸送および混合過程を調べた。帯状ジェット強制のパラメータに依存して、定常な東進ロスビー波(周期解)、東進波が周期変化するバシレーション(準周期解)、および非周期変動(カオス解)が得られた。sech型ジェット(主にジェットの極側が不安定)では定常波解からバシレーションを経由して非周期変動に至る段階的な遷移が見られたが、tanh型ジェット(ジェットの赤道側が不安定)では現実的パラメター範囲では非周期変動は得られなかった。また、輸送モデルを用いた実験の結果、波動解が定常であるか非定常であるかに関わらず、極渦の周縁は非常に頑丈で、極渦の内外の流体同士の混合はほとんど起らないことが示された。ただし、sech型ジェットで得られた非周期変動においては、時折、極渦の内外の流体がフィラメント的な形状をとって交換される。
著者
西澤 慶一
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.78, no.1, pp.1-12, 2000-02-25

低分解能気候モデルの粗い格子内部での非対流性の部分凝結を、"液体水"相対湿度の裾野の広い確率密度関数を用いてパラメーター化した。我々の診断スキームでは、モデル格子内の雲と雲以外の部分の温度が等しいと仮定されているので、雲に対して強い浮力がはたらかない。この診断スキームを採用した場合、格子平均された相対湿度が70%より低くても、非対流性の層状雲が形成され始める。中緯度β平面チャネルにおける傾圧波の成長に関する数値実験から、我々のスキームは、"all-or-nothing"スキームやLe Treut-Li(1991)スキームと比較して、より早い時期からより多量の降水をもたらすことが示された。さらに、このスキームは、閉塞期の温帯低気圧の温暖・寒冷前線に沿った領域のみならず、暖域内部においても非対流性の降水を引き起こすことが明らかになった。
著者
田中 博 野原 大輔 横井 みずほ
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.78, no.5, pp.611-630, 2000-10-25
被引用文献数
5

本研究では、韓国のIce Valleyと福島県の中山風穴の現地観測結果を基に、0次元モデル、流路に沿った1次元モデル、鉛直断面としての2次元モデルを開発して、風穴循環の一連の数値シミュレーションを行なった。これらの風穴は、周辺の稀少な高山植物の生育により国の特別天然記念物に指定されているが、近年氷の減少傾向が見られ、その原因究明が急務となっている。現地観測および数値実験の結果として、以下のことが明らかになった。(1)風穴循環の主な駆動力は、外気と崖錘内部の気温差による水平圧傾度力である。(2)崖錘内部の空気の滞留時間は約2日であり、平均的な風穴循環は、約1mm/sと推定される。(3)春から夏にかけてのカタバ風としての冷風穴循環は、秋から冬にかけてのアナバ風としての温風穴循環と入れ替わる。(4)崖錘表面に植生が殆どないIce Valleyの場合、夏季の安定したカタバ流とは対照的に冬季には不安定による対流混合が発生し、このような風穴循環の夏冬非対称性が、崖錘内部の平均温度を下げる熱フィルターの役割を果たす。外気が暑ければ暑いほど、崖錘内部のカタバ風が強くなることは注目に値する。Ice Valleyや中山風穴における夏期氷結の謎は、部分的ではあるが、この風穴循環のメカニズムによって説明することができる。
著者
木村 富士男
出版者
社団法人 日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.64, no.6, pp.857-870, 1986
被引用文献数
4

風の弱く良く晴れた夜に関東平野に低気圧性のうずがしばしば現われることはHarada (1981a) により報告されている。静力学平衡を仮定した Boussinesg 方程式から成る局地風モデルにより, このうずを再現し, Haradaにより指摘されている性質とよく一致することを示す。次に地形を単純化し, クレータのあるガウス型の山を仮定した数値実験により, うずの形成メカニズムを調べる。この結果,次のことが明らかとなった。(1)まず日中に山の上に発達する熱的低気圧に正のうず度が蓄積する。この熱的低気圧は後のうずの生成に重要な役割を持っている。(2)夜になると, 山の斜面に下降流が発達する。山の中央部は発散場になり, うず度は低下する。この結果, 山麓でうず度が最大となる。(3)もし, 山麓にクレータなどがあると, さらにうず度の集中がおこり, 1個の独立したうずが形成される。夜に,クレータなど小規模の地形によりうず度の集中がおこるメカニズムは完全には明確にできたとは言えないが,うず度方程式の各項を見積ると, クレータ状地形の周囲から吹き降す山風の収束によるうず度の増強が最も効いている。山麓付近での高うず度帯の力学不安定については, それだけではうず度の集中をおこさせることはできない。最後に, 北海道においてシミュレーションを実施し, 同様なうずが, 北海道周辺の海上に3個できることを示す。そのうちの一つ, 十勝沖にできるうずは, その陸上側の半分がアメダスによる観測データより, しばしば見い出せる。
著者
佐藤 正樹
出版者
日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.73, no.6, pp.1059-1078, 1995-12-01
参考文献数
23
被引用文献数
1

大気の子午面循環を理解するひとつのツールとしての南北-鉛直2次元数値モデルを用いて、ハドレー循環と湿潤対流に伴う大規模運動との関係を調べた。モデルは、湿潤過程を含むプリミティプ方程式系に従い、球面座標系と、一様な回転速度をもつ直角座標系の2種類の座標系を用いる。地表面温度を固定し、大気中を冷却することによって、分解能の範囲内で対流運動が生じる。南北の温度差ΔT_sに対する依存性を調べた。全ての実験で、秩序だったセル状構造を形成することがわかった。ΔT_s=0のときには、対流運動はロスビーの変形半径程度のスケールで組織化し、振動的となる。ΔT_sが大きくなるにつれて、組織化した対流運動は、高温側に進行するようになる。直角座標モデルの実験結果は、球座標モデルの実験で中緯度にあらわれた対称セルのパターンとよく似ている。このような対流セルは赤道に近づくにつれてセル間隔が広くなる。特に赤道における対流セルは、南北対称な場合のハドレーセルに対応すると考えることができる。
著者
津田 敏隆 深尾 昌一郎 山本 衛 中村 卓司 山中 大学 足立 樹泰 橋口 浩之 藤岡 直人 堤 雅基 加藤 進 Harijono Sri Woro B. Sribimawati Tien Sitorus Baginda P. Yahya Rino B. Karmini Mimin Renggono Findy Parapat Bona L. Djojonegoro Wardiman Mardio Pramono Adikusumah Nurzaman Endi Hariadi Tatang Wiryosumarto Harsono
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.393-406, 1995-06-15
被引用文献数
20

日本とインドネシアの協力により1992年11月にジャカルタ近郊に赤道大気の観測所(6.4°S、106.7゜E)が開設され、流星レーダー(MWR)と境界層レーダー(BLR)が設置された。MWRにより高度75-100kmにおける水平風と温度変動が1時間と4kmの分解能で測定された。一方、BLRを用いて高度0.3-5kmの大気層の風速三成分を毎分100mの分解能で観測した。さらにBLRに音響発信器を併用したRASS(電波音響探査システム)技術により温度変動の微細構造をも測定した。これらのレーダーの運用は1992年11月のTOGA/COAREの強化観測期間に開始され、その後2年以上にわたって連続観測が続けられている。また、レーダー観測所から約100km東に位置するバンドン市のLAPAN(国立航空宇宙局、6.9°S、107.6゜E)において、1992年11月から1993年4月にかけて、ラジオゾンデを一日に4回放球し、高度約35kmまでの風速・温度変動を150mの高度分解能で測定した。その後、1993年10月から一日一回の定時観測(0GMT)も継続されている。この論文では観測所における研究活動の概要を紹介するとともに、観測結果の初期的な解析で分かった、TOGA/COARE期間中の熱帯惑星境界層の構造、対流圏内の積雲対流、ならびに赤道域中層大気における各種の大気波動の振る舞いについて速報する。
著者
高山 大 新野 宏 渡辺 真二 菅谷 重平 つくば域降雨観測実験グループ
出版者
日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.75, no.4, pp.885-905, 1997-08-25
参考文献数
47
被引用文献数
1

1994年9月8日の午後、突風と降雹を伴う強い雷雲が群馬および埼玉県を通過した。埼玉県北西部の美里町立美里中学校では、校舎の窓ガラスが突風で割れ、教師2人と71人の生徒が負傷した。被害調査、地上観測、高層観測、静止衛星、現業レーダーなどのデータを用いて、雷雲とこれに伴う突風の解析を行った結果、この雷雲に伴って少なくとも3つのダウンバーストが発生したことがわかった。主な解析結果は以下の通りである。3時間以上長続きしたこの雷雲は、約8 m/sのスピードで東南東進し、発達期以降はその直下で10度近くの気温低下と発散風を伴っていた。成熟期には雲頂は約15kmに達し、レーダーによる反射強度の分布は進行方向に対してオーバーハング構造を呈していた。被害調査による雷雲下の降雹域の幅は2力所で顕著な拡がりを示した。この拡がりの見られた場所と時刻は、レーダーで観測された反射強度の核の降下の場所・時刻と一致していた。更に、数地点の地上気象観測データの時空間変換から求めた水平風の分布には、降雹域の拡がりにほぼ対応した場所・時間に明瞭な発散風(ダウンバーストAおよびC)が見られた。ダウンバーストAは、児玉環境大気測定局(KD)とそこから約3kmに位置する児玉郡市広域消防本部の中間で生じたことが、両地点の風向風速記録から明瞭に読みとれる。雷雲通過による降温はこの2地点付近で最も大きく、11度以上に達した。ダウンバーストAは最終的には差し渡し40kmの範囲にまで広がった。雷雲はダウンバーストAを生じた後、急速に衰弱した。KDの自記紙にはダウンバーストAとは別の更なる気温降下と風の発散が記録されており、近くでダウンバーストBが発生したことを示している。KDでダウンバーストBを発生させた雷雲の部分は、被害を引き起こした突風が吹いた時刻には約8km離れた美里中上空をちょうど通過していた。美里中付近の気象観測資料はないが、被害調査やこれらの事実から、美里中近くで第4のダウンバーストが発生した可能性が示唆される。これらのダウンバーストはすべて、ガストフロントの6~10km後方で発生した。雷雲周辺のCAPEは、雷雲通過前後の3時間で1800 m^2/s^2から700 m^2/s^2以下に減少した。相当温位の下層の極大値と中層の極小値との差も同様に、26Kから16Kに低下した。
著者
Kang Sung-Dae 木村 富士男
出版者
公益社団法人 日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.75, no.5, pp.955-968, 1997-10-25
参考文献数
25
被引用文献数
3 11

寒気が暖かい海面に移流してくるときには、しばしば筋状雲が観測される。これらの中で、海岸近くにある山の風下において特に太く長い筋状雲が見られることがある。一般の細い筋状雲の生成にはシアーと成層不安定が重要とされている。しかし、山岳風下の太い筋状雲の生成には成層不安定の他に重要なメカニズムが存在すると考えられる。上記の筋状雲の生成に係わっているであろう2つの要素、成層不安定と地形による力学的擾乱、を高分解能に設定したコロラド州立大学のメソモデルであるRAMS(Regional Atmospheric Modelling System)を使って調べた。数値実験では、基本場として一様な大気安定度と風速の低Froude数の流れを考え、これを風上境界に与えた。上記2つの効果を見るため数値実験は、主として海上の不安定成層の強さを決めている海面温度と、陸上の山岳の有無を変えて数値実験を行った。その結果、海面からの顕熱輸送が大きく、山岳を仮定したときには、モデルによって安定した形状の筋状雲が再現された。筋状雲は高度約1kmで一対の対流性ロールの間に形成される。以下の5つの性質が明らかになった。1)安定した形状の筋状雲が形成されるためには不安定層と地形性の力学擾乱の両方が必要である。2)海面からの顕熱が対流性ロールと筋状雲を維持する主な原因であり、雲の中の凝結による潜熱の解放による効果は無視できる。3)一対の対流性ロールはそれぞれ2つのサブ・ロールの複合体である。サブ・ロールの一つは、大きな半径をもつ弱いロール、もう一つは小さな半径の強いロールである。前者(外部サブ・ロール)は水蒸気を広い範囲から集め、後者(内部サブ・ロール)はロール対の間にある強い上昇流によって水蒸気を上層へ輸送する役割を担っている。内部サブ・ロールの存在が筋状雲の形状を細い状態に保っている。5)静力学平衡の仮定を置いても置かなくても筋状雲の再現は可能である。これは大気の鉛直方向の慣性が本質的には重要な役割をしていないことを意味し、また必ずしも地形の水平規模の大きさによって、筋状雲の生成が制約されるものではないことも示唆している。
著者
川村 隆一 村上 多喜雄
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.76, no.4, pp.619-639, 1998-08-25
参考文献数
30
被引用文献数
10

赤外輝度温度、850hPa高度、風、気温、比湿データに調和解析を適用し、季節変化の長周期成分(第1から第3調和関数までの和)をLモード、残りの調和関数で表現される短周期成分をSモードと定義した。初夏の期間、Lモードはカムチャッカ半島-オホーツク海上のリッジと、中国北部(大陸の熱的低気圧の中心)から日本、さらに東方へ延びるトラフのブロッキング型循環パターンを示す。オホーツク海上の局所的なLモード高気圧セルの発達により、アリューシャン諸島付近から北日本へかけての下層東風偏差が強まる。この東風偏差と大陸の熱的低気圧の南東縁に沿った南西風偏差によって、日本付近で水蒸気収束を伴う強い低気圧性シアーが形成される。初夏にみられる東アジアと西部北太平洋との間の東西温度勾配の強化と関連した、Lモード下層トラフの発達は梅雨システムの形成に必要である。大陸スケールの熱的低気圧の発達に起因する、中国東岸に沿うLモード南西風は、モンスーン西風と中緯度偏西風をつなぐブリッジとなり、結果として南シナ海から中部北太平洋へ延びる対流圏下層の西風ダクトを生み出す。6月中旬の梅雨オンセット期には、対流起源のSモードonset cycloneが南シナ海上で発達し、ほぼ同時にSモードonset anticycloneがonset cycloneの北東側に組織化される。下層西風ダクト周辺のSモード擾乱の増幅が熱帯から日本南部へ、湿潤で温暖な空気の北向き移流をもたらしている。7月中旬までに、アジア大陸の熱的低気圧はそのピークに達し、関連して東南アジアの夏季モンスーンも最盛期が訪れる。7月下旬の梅雨明け頃は、大陸の熱的低気圧は地表面冷却により衰退し始めるが、Lモード太平洋高気圧は依然として北へ発達し、8月初めに最盛期を迎える。海陸間の東西温度勾配の弱化に伴い、日本付近のLモード下層トラフが消失し、一方では西太平洋モンスーン(WNPM)トラフが発達する。また、梅雨オンセットと同様に梅雨明け時にもSモード擾乱の発達がみられる。このように、大陸-海洋の熱的コントラストに関係する、Lモード循環の季節進行が、下層西風ダクト内および周辺のSモード擾乱の活動を強く規制している。そのメカニズムとして、西風ダクトがSモード擾乱の順圧ロスビー波の分散に対するwave guideとして働いている可能性や、水平シアーをもったLモード平均流の存在が、二つのモード間の順圧相互作用を通してSモード擾乱の発達と持続に重要な働きをしている可能性があげられる。いずれにしても、Lモード循環とSモード擾乱の複合効果が、梅雨オンセットや梅雨明けのようなローカルな気候学的イベントを非常に急速かつ劇的な変化にしていることに変わりはない。
著者
Jing XU Yuqing WANG
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
pp.2018-014, (Released:2017-12-26)
被引用文献数
29

The dependence of intensification rate (IR) of a tropical cyclone (TC) on its initial structure, including the radius of maximum wind (RMW) and the radial decay rate of tangential wind outside the RMW, is examined based on ensemble of simulations using a nonhydrostatic axisymmetric cloud-resolving model. It is shown that the initial spinup period is shorter and the subsequent IR is larger for the storm with the initially smaller RMW or with the initially more rapid radial decay of tangential wind outside the RMW. The results show that the longevity of the initial spinup period is determined by how quickly the inner-core region becomes nearly saturated in the middle and lower troposphere and thus deep convection near the RMW is initiated and organized. Because of the larger volume and weaker Ekman pumping, the inner-core of the initially larger vortex takes longer time to become saturated and thus experiences a longer initial spinup period. The vortex initially with the larger RMW (with the slower radial decay of tangential wind outside the RMW) has lower inertial stability inside the RMW (higher inertial stability outside the RMW) develops more active convection in the outer-core region and weaker boundary-layer inflow in the inner-core region and thus experiences lower IR during the primary intensification stage.
著者
Katsuyuki V. Ooyama
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.369-380, 1982 (Released:2007-10-19)
参考文献数
23
被引用文献数
48 225

航空機観測の進歩に伴ない,台風の一般構造およびエネルギー収支については,1960年代の初めごろまでに.かなりよくわかってきた。しかし,これらの知識を力学的に統一して台風の生成発達を説明する理論は容易に生れなかった。現在の台風理解の因となった最初の発達理論が出るためには,力学的問題としての台風の認識,特に種々の要因の相対的重要度,を再考する必要があった。雲のパラメータ化が成功の原因のように云われるが,実は,問題認識上の変化がそのような雲の扱いを一応許されるものとした。雲のパラメータ化を技術的にのみ応用すると,その後の種々の線型理論(いわゆるCISK)に見られるような物理的混乱を引きおこす。一方,台風の理解のためには,線型理論は不充分であり,理論の概念としての妥当性および限度は非線型数値モデルによる実験によってのみ評価されることとなった。数値モデルの進歩により,台風成生の理解のためには,雲のパラメータ化を取り除く必要があることもわかってきた。この論文は,歴史を逆転するかの如く見える最近の発展の裏にある真の進歩を概念的に解明することを目的とする。
著者
Michio Yanai Chengfeng Li Zhengshan Song
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1B, pp.319-351, 1992-02-25 (Released:2009-03-31)
参考文献数
127
被引用文献数
170 750

客観解析したFGGE II-b高層観測データを用いて、1978年12月から1979年8月までの9ヶ月間のチベット高原及びその周辺領域の大規模循環場と熱・水蒸気収支の解析を行った。客観解析には、FGGEデータに加えて1979年5月-8月に中国が行った「チベット高原特別気象観測」データも用いた。夏季アジアモンスーンの始まりにつながる冬から夏にかけての顕著な季節変化を同定するために、大規模循環、温度、外向き長波放射(OLR)および鉛直循環の時間的発展を記述した。チベット高原は、熱的に駆動された大規模垂直循環を維持しているが、この循環は地球規模のモンスーン循環とはもともとは別なものである。上昇流は冬には西部高原だけに限られているが、季節の進行とともに高原全域に広がる。アジアモンスーンの始まりは高原が誘導する循環と、北上する主要な降雨帯に伴う循環との相互作用によってもたらされる。冬の期間、高原は冷源となっているが、周囲はさらに強い冷源域となっている。春には高原は熱源となるが、周辺域は引続き冷源である。高原上での主要な熱源は地表からの顕熱輸送である。しかし、その他に凝結熱の貢献も、西部高原では年間を通して、更にもっと重要なことには東部高原ではとりわけ夏に観測されている。持ち上げられた高原表面の顕熱加熱と周辺域の放射冷却によって水平温度傾度が維持され、それが熱的直接循環を生じている。夏季アジアモンスーンへの2つの移行期間-5月の東南アジアのモンスーンの始まりと6月のインドモンスーンの始まり-の上部対流圏の昇温過程を詳しく調べた。その結果、最初のオンセット時の東部高原での気温上昇は、主に、非断熱加熱の結果であるが、次のオンセット時直前のイラン-アフガニスタン-西部高原の気温上昇は、強い下降流によってもたらされていることがわかった。高原上の境界層や垂直循環には大きな日変化が存在する。地表からの加熱によって、高原上では夕方(1200 UTC)に温位がほぼ一様な深い混合層がみられる。このことは熱の垂直輸送に果たす熱対流の役割の重要性を示唆している。しかし、水蒸気は垂直方向にあまり混合しておらず、また、境界層には大きな水平温度傾度がある。晩春から夏にかけて、境界層は乾燥対流に対してより安定となる。一方、晩春以降の相当温位の垂直分布は、下層の水蒸気量の増加に伴って、湿潤対流に対して条件付き不安定な成層を示す。
著者
黒田 賢俊 原田 朗 遠峰 菊郎
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.76, no.1, pp.145-151, 1998-02-25

海面水温と台風の強度に関して, 統計的に解析した。海面水温に関しては, 緯度経度1゜の格子で, 0.1℃単位で得られた10日平均値を用いた。0.5℃の海面水温階級毎に求められた熱帯低気圧の強度の百分位数は, 海面水温の関数となっていることが示された。熱帯低気圧の可能最大強度に対する相対的強さを定義して, 観測時に28.5℃より高い海面水温上にあった熱帯低気圧について, 相対的強度の異なる熱帯低気圧を比較した。相対的強度がより強い熱帯低気圧は, 観測時の前1日もしくは2日間に, より高温の海面水温の海域にあったことかわかった。さらに中心気庄の低下の時間的速さが海面水温に依存していることがわかった。海面水温が高いほど中心気圧の低下が速い。