著者
白谷 智子
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.225-230, 2018 (Released:2019-11-01)
参考文献数
33

痙縮筋の特徴として,安静時の短潜時伸張反射は亢進する一方で,歩行能力に関与する中・長潜時伸張反射は減弱することがあげられる.本稿では,近年の研究を参照しつつ,痙縮筋に対する筋力強化について概説した.痙縮筋に対して抵抗運動を行う際には,連合反応を抑制する必要性はなく,また,拮抗筋の過緊張ではなく,主動筋の筋力低下に対するアプローチにより機能向上を図ることの重要性を示した.具体的な事例として,脳性麻痺児・脳卒中後片麻痺患者に対する抵抗運動により筋力強化に効果が示され,歩行能力が高まることを解説した.しかし,麻痺側の随意性がない場合には,直接的に上肢や下肢筋群を収縮させることは難しい.その場合は,遠隔の随意性の高い部位からの抵抗運動による間接的アプローチ法により歩行の改善が可能なことを紹介した.また,抵抗運動により,中・長潜時伸張反射の減弱が改善される生理学的なエビデンスについて十分ではないが,H 波と fMRI による研究を紹介した.
著者
金沢 星慶 國吉 康夫
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.63-68, 2022 (Released:2023-05-01)
参考文献数
34

ヒトは遊びという行動を通して世界における様々な物理法則や因果関係を学び,のちの運動発達や認知発達まで影響する経験を積む.特に発達初期の遊びにおいては自発性が最も重要な要素と考えられ,自発的に生成された運動出力は身体特性を反映した運動を生み出すと同時に感覚フィードバックを得る.この運動と感覚の構造は他者を含む環境との相互作用によって動的な特性を示すとともに,神経成熟や身体発育,環境の変化に伴って多種多様に変化する.本稿ではこれらの複雑な発達的変化について,実際のヒト胎児や新生児にみられる行動特性を紹介し,それらを説明付けるいくつかの数理的および計算論的モデルについて解説する.
著者
岩村 吉晃
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.171-177, 2007 (Released:2009-03-02)
参考文献数
37
被引用文献数
7 5

能動的触知覚(アクティヴタッチ)について,研究史,運動感覚の貢献,能動的触知覚成立の大脳メカニズムなどを概観した.
著者
門野 洋介
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.11-16, 2015 (Released:2016-01-26)
参考文献数
6

本稿では,陸上競技800m 走において行われているレースパターン分析を題材に,800m 走のレースパターンの特徴,レース分析結果と現場での経験知をもとに作成した好記録を出すためのモデルレースパターンと,作成の際に工夫した点,作成したモデルを用いたレースパターンの評価,そして評価結果をもとにしたレースパターンの改善による記録の向上を試みた事例について解説する.
著者
道免 和久
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.177-182, 2001-11-01 (Released:2016-11-01)
参考文献数
18
被引用文献数
10 5

リハビリテーション(以下リハビリ)で重要な運動学習の概念を整理し,脳研究から明らかになった運動学習理論のリハビリ治療への応用を紹介した.古くからリハビリにおける運動学習で重要と言われてきたエングラムの概念は,現代の運動学習理論では,教師あり熟練学習における内部モデルの構築や順序学習の中に見いだすことができる.そのうち,内部モデルの再構築をめざす運動療法をフィードフォワード運動訓練と名付け,大脳錐体路障害の片麻痺患者の患側上肢で実践した.その結果,フィードバック誤差学習の回路が残存する例では,運動課題の繰り返しによって,徐々に運動のなめらかさの指標が向上し,運動学習が成り立つことがわかった.今後,運動学習理論をリハビリ治療の中で再検討することが重要である.
著者
長野 峻也
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.129-132, 2005 (Released:2007-10-19)
被引用文献数
1

本論は,基本的に「武術文化に対して全般的に認識している専門家は皆無に等しい」という認識から出発し,更に武術に関して何の予備知識もない読者を対象に論じるに当たり,「武術に対して巷間に広まった誤った情報」を正し,「武術が現代武道へ統合再編される中で失われたもの」を論じ,「日本古武術の失われた理合(交叉法)」を紹介し,「武術の要である歩法」を論じています.本来,武術は身体訓練を通して意味を理解していかなければ本質的な理解は不可能であり,文章のみで身体操作のコツを書き並べても誤解されるのがオチと考え,参考として,全くの素人が身体操作のコツを知れば極意の技も容易に再現できることを実証すべく写真も添えました.
著者
中川 千鶴
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.15-20, 2017 (Released:2018-02-01)
参考文献数
8
被引用文献数
1 1

鉄道の振動乗り心地評価に関する取り組みについて解説する.最初に,乗り心地評価法の国際規格や欧州規格,日本の鉄道分野で古くから使われる「乗り心地レベル」を概説する.次に,国際規格の使用が鉄道現場で普及しにくい理由や,乗り心地レベルの問題点を整理し,これらの問題点を解決するため,我々が行ってきたいくつかの取り組み,振動に対する乗り心地としての感度調査や複合振動の経時的な影響推定,乗り心地分析ツールの開発などを紹介する.
著者
平田 義人 上村 裕樹 堀上 正義 大坪 智範
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.217-222, 2019 (Released:2020-11-11)
参考文献数
10

車を運転する際,ドライバーは腕や脚を巧みに使い,ステアリングやペダルといった機器を操作する.ドライバーが車 両を思い通りに操れるようにするには,自動車設計において,人間特性を考慮したユニット配置,機械特性の設計が必要であ る.本稿では,素早く,正確に運転操作機器を操作するために,ペダル操作に関係する人間の筋特性とその特性の設計への適 用を紹介する.
著者
金原 秀行 岩本 正実
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム (ISSN:13487116)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.189-199, 2014 (Released:2017-02-15)
参考文献数
24
被引用文献数
1 2

アメフトは, 軽度の外傷性脳損傷 (MTBI) が最も多く発生する競技といわれている. 我々は頭部の角加速度の大きさとその持続時間に基づいた脳傷害評価指標RIC36とPRHIC36を提案している. 本研究ではアメフト衝撃時の頭部の加速度データを取得し, スポーツにおけるMTBIを対象とした脳傷害評価指標の妥当性と有用性について示す. 頭部の衝撃挙動についてよく検証された人体有限要素 (FE) モデルを用いて, アメフト衝撃時の頭部挙動を再現し, 頭蓋内の脳ひずみを予測した. 頭部挙動と脳ひずみの関係を調査した結果, RIC36とPRHIC36は脳ひずみから推定される脳損傷率と強い相関を示した.
著者
山本 江
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.111-117, 2019 (Released:2020-05-01)
参考文献数
31

ヒトの足は長い年月をかけて二足歩行に適したものへと進化してきた.足は多数の骨と靭帯から成る複雑な構造を有し, いわゆる「土踏まず」と呼ばれるアーチ構造や爪先関節は歩行において重要な役割を果たしている.これまでに開発されてき た人型ロボットは比較的単純な足部を持っているものが多いが,二足歩行の実現にはヒトの持つ足の機能を実現することが重 要である.本稿では特に爪先関節に焦点を当てて,人型ロボットの足部機構の開発に関する従来研究を紹介する.
著者
杉本 真樹 谷口 直嗣 新城 健一
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.35-40, 2019 (Released:2020-02-01)
参考文献数
11
被引用文献数
1 1

医療分野におけるXR(VR・AR・MR)は,双方向性や臨場感を向上したテレイグジスタンス,テレプレゼンス,超臨場感コミュニケーションなどと共に,遠隔医療・手術シミュレーション・トレーニングにも活用されている.モーションセンサやVR 端末も低価格化され,暗黙知であった医療手技が,遠隔地や仮想空間で共有されている.動作や認知行動までも構造化データとなり,集積されたビッグデータの効率的な活用が期待されている.遠隔医療も医師- 医師間から医師- 患者間へと拡大し,医療業界と一般社会の閉鎖的な境界がさらに解放されていき,社会が医療を担う時代の到来が期待されている.
著者
竹田 仰
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム (ISSN:13487116)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.265-279, 1994-08-10 (Released:2016-12-05)
参考文献数
28

This paper reports on a virtual training environment developed using virtual reality technology with force and visual image feedback capability. In our system: (1) A light and safe force-display implemented using a pneumatic rubber actuator is available. It has a wide range of motion and large driving force comparable to those of human joints and muscle. (2) The trainee's muscle characteristics can be measured. (3) The parameters of the training environment (e. g. spring constant, weight of dumbbell) can be changed easily so as to obtain an environment best fitting the characteristics of human muscle. In order to accomplish the above purposes, a system must be capable of freely generating and controlling the physical and psychological elements of a training environment. For the first step, applying virtual reality techniques, we are developing a computer controlled training system which can generate and control various audio/visual images and forces to be applied to the trainee. Currently, however, we have decided to limit the scope of implementation to the upper extremity as the training target, and to visual images for the environmental information. The trainee using this system wears a force-display which can apply force to his/her upper extremity and a head mount display through which he/she can see the virtual world, a room with wall, windows, etc., in which a spring and a dumbbell are placed in the room. The trainee can "use" these sporting goods and can feel forces on his/her upper extremity as if he/she were actually exercising using them. By measuring the trainee's muscle characteristics and setting them in the system's computer before starting a training session, an improved training environment results. In addition, in the case of rehabilitation, the system can provide information such as video images of rehabilitation history data, which can help increase the trainee's motivation for attending the exercise. In our system, an important role is played by the actuators which are attached to the force-display to generate various reaction forces. An actuator serving those purposes should be safe, small, light, and capable of high force output. As human muscle of the upper extremity is much stronger than the muscle of the fingers, an actuator with high output is very desirable. It is also important that the apparatus not feel unpleasant to the trainee when he/she wears the force-display. For these reasons, we have chosen a pneumatically controlled rubber actuator.
著者
平野 剛 那須 大毅 小幡 哲史 木下 博
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム (ISSN:13487116)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.27-36, 2014 (Released:2017-02-15)
参考文献数
13

ホルン演奏時の表情筋の制御様式と熟達度によるその違いを調べるために2つの実験を行った. 第1実験では熟達奏者にさまざまな音を演奏させ, 音が鳴る直前と音が鳴っているときの表情筋の活動と唇周りの皮膚表面の動きを計測した. その結果, 音が鳴る直前の活動強度と音が鳴っているときの活動強度の間に差はみられなかった. また計測されたほとんどの筋で演奏する音量が大きいほど, また演奏する音の高さが高いほど筋活動量は高くなった. 一方で口唇周りの皮膚表面の動きは, 演奏する音量, 音の高さにかかわらず一定だった. この結果から, 熟達ホルン奏者は意図した音に応じて, 音が鳴る直前から広範囲の表情筋の活動を共同的に制御し, 振動する唇の張力や質量を変化させていることが示唆された. 第2実験では熟達奏者と未熟達奏者の2群に分けて, 表情筋の活動の違いを検討した. その結果, 連続しない1つの音を演奏する課題では活動量に違いはみられないが, 異なる音の高さを連続して演奏する課題では, 上唇に付着する筋に活動量の違いが見られた. 上唇に付着する筋の活動は, 複雑な演奏を行うときに重要な役割を果たし, その制御には長期的な訓練を要することが示唆された.
著者
吉川 雄一郎 浅田 稔
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.231-236, 2009 (Released:2016-04-19)
参考文献数
26

ヒトの乳児は周りの大人とのどのような相互作用を通じて,またどのような仕組みで,大人が話す言葉を獲得するのか.本稿では,この問題に対して,従来の観察に基づくアプローチを補うことが期待されている認知発達ロボティクスでの取り組みを取り上げる.はじめに,親との相互模倣を通じて乳児が母音を獲得していく過程を構成する研究について紹介し,親が乳児を模倣することの役割と仕組みについて議論する.次に,乳児に対する物の提示や物の名前の教示などの働きかけを含む,より自然な養育者の振る舞いのもとで音声模倣および語彙を獲得する過程を構成する研究を紹介し,これらの共発達を可能にする仕組みについて議論する.
著者
尾崎 まみこ 西田 健
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.119-122, 2007 (Released:2008-08-31)
参考文献数
19

社会性昆虫は,巧妙なケミカルコミュニケーションを様々に用いて,血縁集団を維持している.そこで利用される種固有の化学物質はフェロモンと呼ばれ ,その化学構造が次々に明らかにされている.本稿では ,アリの道しるべフェロモンと,警報フェロモン,巣仲間識別フェロモンの 3つについて,それらの化学情報が,アリの嗅覚器でどのように受容され,脳へ伝えられ,行動へと繋がるか,近年明らかになりつつある神経機構を概説する.
著者
山本 興太朗
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.237-244, 2011-11-01

植物の地上部器官は光の方向に屈曲する屈光性を示す.屈光性の機構としては古くから青色光受容体と植物ホルモンであるオーキシンの重要性が指摘されてきたが,その具体的な分子機構は不明であった.最近,モデル植物シロイヌナズナを利用した分子遺伝学的研究によって,光受容体はフラビンモノヌクレオチドを発色団とするフォトトロピンで,オーキシン極性輸送に関わり深いキナーゼ活性を持っていることと,オーキシン作用にはオーキシン極性輸送を担う排出担体PINタンパク質の細胞内局在調節が重要であることが明らかになり,フォトトロピンによるオーキシン極性輸送調節機構が明らかになりつつある.
著者
南谷 晴之
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.58-64, 1997-05-01 (Released:2016-11-01)
参考文献数
26
被引用文献数
7 5
著者
中島 求
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.13-17, 2004 (Released:2004-08-13)
参考文献数
10

魚・イルカの遊泳運動に関する研究を紹介する.まず高速遊泳動物に見られるマグロ・イルカ形の遊泳に関して推力発生の原理を説明する.次に,ダイナミクスをより詳細に解析するため著者らが提案した解析モデルおよびその解析結果について述べる.さらに著者らが開発した3機のイルカロボットを紹介する.1号機および2号機は直進遊泳性能を調べるために開発され,それぞれ最高推進速度1.15 m/s, 1.9 m/s を達成している.また3号機は機動性能を研究するために開発され,現在,胴体全長の約半分の回転半径で水中宙返り運動が可能である.