著者
大串 健吾
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.3-7, 2006-02-01
被引用文献数
1 2

音楽は古くから感情と深く関連していることが知られている.音楽と感情について議論する場合,これまでしばしば混同されていた,音楽に内在する感情を認知する場合と音楽の演奏によって惹き起こされる感情に着目する場合とは区別されなければならない.音楽と感情の研究に関する科学的研究の歴史は古いが,1980年代以降,この分野で非常に多くの研究が発表されるようになってきた.この解説では,音楽の中に内在する感情を調べた心理学的研究,音楽によって生じる情動を言語反応と生理学的反応を使って調べた研究,演奏者の感情意図が聴取者にどのように伝わるかについての研究の中からいくつかの研究を選び,これらを紹介することによってこの分野の研究動向を解説することにする.
著者
鈴木 博之
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 = Journal of the Society of Biomechanisms (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.199-204, 2005-11-01
参考文献数
26
被引用文献数
2

夢が睡眠中のいつ起こっているかという疑問に対し,REM睡眠中に起こるという解答が既に得られていると一般的には考えられている.しかし,NREM睡眠時の夢の存在を主張する研究者も多く,夢発生のメカニズムに関しては未だ議論が続いている.従来の夢研究には,報告された夢が目覚める以前のいつ起こった体験か確認することが出来ないという方法論的問題点があった.そのため,夢とREM・NREM睡眠の明確な対応関係は検討されてこなかった.この問題点を解決するために,我々は20分間の睡眠区間を40分間の間隔をおいて78時間連続して繰り返し,各睡眠区間後に得られた夢と20分間の睡眠状態の関係を検討した.その結果得られたREM・NREM睡眠時それぞれの夢の特徴と,今回初めて明らかになった夢発生の概日変動について解説する.
著者
岸本 泰蔵
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.122-126, 2002

女性の「美しさ」とは何か.女性とともに成長することを目指す当社では,人間工学にもとづいた科学的アプローチによって女性のからだ・意識の変化をとらえ,時代をリードする美の指標を発表してきた.時代とともに女性達が追求する理想体型はゆったりであるが確実に変化している.とくに,ここ数年は急速に,身体意識が変化している.約40年間にわたる当社の女性美の研究を振りかえり,女性の「美しさ」とは何かを考察する.
著者
山崎 信寿
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム (ISSN:13487116)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.85-95, 1990
被引用文献数
6 1

Bipedal dinosaurs are huge and curious animals that have short forelimbs, powerful hindlimbs, and a long and heavy tail. The restoration of their posture and locomotion is difficult because of the lack of resemblant living animals. In this study, we paid attention to the harmony between animal motion and body shape, and conversely estimated the posture and locomotion of the bipedal dinosaurs from the characteristics of the body proportions using a computer simulation method. The mathematical model was constructed by the three-dimensional rigid link system with the following fourteen segments: head, neck, thorax, pelvis, upper arms, forearms, thighs, shanks, bottom tail, and top tail. An axis of the central body segments rotates about the vertical axis with a constant pitch angle defined by the initial posture. Each limb moves in the sagittal plane of the thorax or pelvis segment. Body weight is supported by the lumbar joint. Both torque spring and damper element are attached in each joint to prevent large relative rotation. Nonlinear elasticity is given in the knee and elbow joints to avoid hyper-extension of the joint. Using these assumptions, we can deduce seventeen simultaneous second-order differential equations. The numerical calculation of the oscillation mode was performed by using the fourth-order Runge-Kutta method. By means of this method, we analyzed Allosaurus, which was a typical bipedal dinosaur in the Jurassic period. The length of each segment was estimated from measured data of fossil skeletons. Other physical parameters, such as weight, moment of inertia and center of mass of each segment, were calculated geometrically from the restored shape. The torque spring and damper elements of each joint were referred from living animals. The numerical calculations were performed by assuming several body proportions and postures. The following results were obtained: Stability and walking speed with erect posture are inferior to the horizontal posture. The long and heavy tail is useful to obtain harmonic motion and greater speed. But the weight of the short forelimbs has almost no effects on the locomotion. The narrow distance between the hip joints increases the walking speed and decreases the swing of the body. The walking speed calculated by the stride of fossil pit and the oscillation frequency of the hindlimbs is 5.6km/h, which is within the speed range of mammals. Consequently, we can reconstruct the walking of Allosaurus, which held its trunk and tail horizontal and moved stably at almost mammalian speed.
著者
川平 和美 下堂薗 恵
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.201-205, 2007 (Released:2009-03-02)
参考文献数
17
被引用文献数
1

脳卒中片麻痺の改善を促進するには再建/強化したい神経路へ興奮を伝えることを重視した治療理論と技術が必要である.促通反復療法(川平法)は個々の指の屈伸を含む新たな促通療法で,片麻痺上肢と下肢の麻痺の改善を促進している.著しい感覚障害例でも同様に有効である.リハビリテーション治療の向上のため,我々は麻痺肢の意図した運動を反復できる機能的振動刺激法などのコンピュータ化訓練器機の開発を行いつつあり,今後の発展を期待している.

2 0 0 0 OA 筋音図の概要

著者
三田 勝己
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.3-7, 2013 (Released:2016-04-15)
参考文献数
19
被引用文献数
2

筋音図は筋収縮にともなって体表面上に発生する微細振動を記録した信号である.この信号は筋の電気的な活動を示す筋電図と割符の関係にあり,筋の機械的活動を反映する.本稿「筋音図の概要」ではまず本特集の全体の流れを紹介し,次に, Grimaldi による筋音図の発見とその後の研究小史,筋音図に関する用語の歴史的変遷と現在の用語「筋音図,Mechanomyogram (MMG)」,筋音図の発生機序に関する2 説について紹介した.また,筋音図を理解するうえで最も重要な基本特性である運動単位の動員数,タイプ,発火頻度と筋音図との関わりを解説した.
著者
倉林 準 持丸 正明 河内 まき子
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.29-36, 2003 (Released:2004-02-27)
参考文献数
9
被引用文献数
80 37

関節中心位置の推定方法は, 特に検証をされないまま用いられてきた. 本研究では, 日本人健常成人男性43名の骨盤部MR画像を用いて, 臨床歩行分析研究会, Davis, Vaughanによる股関節中心位置の推定方法について検証を行った. 推定誤差は股関節中心位置のMR画像からの実測値と推定値の距離で定義した. オリジナルの方法の推定誤差平均値は, 上記3手法で, 順に, 17.1mm, 13.4mm, 32.0mmであった. オリジナルの方法論の数式を変えずに, パラメータのみを日本人男性用に最適化し, 実測可能なパラメータのみで実用的に構成した修正版での推定誤差平均値は, 順に9.9mm, 24.8mm, 19.8mmであった.
著者
田中 惣治 山本 澄子
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム (ISSN:13487116)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.107-117, 2016 (Released:2017-08-01)
参考文献数
9
被引用文献数
9 2

麻痺側立脚期の膝関節の動きにより片麻痺者の歩行パターンを分類し, 歩行パターンの違いにより歩行時の下肢筋活動と運動力学的特徴が異なるか, 三次元動作分析装置と表面筋電計を用いて分析した. 回復期片麻痺者35名を対象とし, 歩行時の膝関節と下腿傾斜角度から, 健常者の膝の動きと近い健常膝群 (15名), 荷重応答期と単脚支持期にそれぞれ膝関節が伸展する初期膝伸展群 (5名) と中期膝伸展群 (15名) に分類した. 結果, 健常膝群は荷重応答期で腓腹筋の筋活動を抑えながら前脛骨筋が働くため十分な背屈モーメントを発揮し, 踵ロッカーが機能した. 中期膝伸展群は荷重応答期で腓腹筋の筋活動が大きいため背屈モーメントが十分に発揮されず, 踵ロッカー機能が低下しており, 初期膝伸展群は荷重応答期で前脛骨筋の筋活動が小さく背屈モーメントが発揮されないことから, 踵ロッカーが機能しないことが明らかになった.
著者
高林 知也 江玉 睦明 横山 絵里花 徳永 由太 久保 雅義
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム (ISSN:13487116)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.67-73, 2016 (Released:2017-08-01)
参考文献数
32
被引用文献数
1

ウィンドラス機構 (WM) とは歩行時の蹴り出し時の推進力を生み出す足部機能のひとつであり, 効率的な歩行を実現するために重要な役割を担っている. しかし, 走行におけるWMはいまだ明らかとなっていない. 本研究は, 走行と歩行の動作様式の違いがWMにおよぼす影響を検証した. 対象は健常成人男性9名とし, 課題動作はトレッドミル上での走行と歩行とした. 解析項目として, WMの指標である内側縦アーチ角度と母趾背屈角度を立脚期で算出した. 走行と歩行で内側縦アーチ角度最小値は変化がみられなかったが (157.4±6.0°, 156.9±4.9°), 走行は歩行と比較して母趾背屈角度ピーク値が有意に低値を示した (32.9±7.3°, 39.9±9.0°; p<0.05). 本研究結果より, 走行時のWMの役割は限局的である可能性が示唆された.
著者
高橋 良輔 金子 文成 柴田 恵理子 松田 直樹
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム (ISSN:13487116)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.59-67, 2018 (Released:2019-09-01)
参考文献数
28

本研究の目的は, 肩関節外旋運動反復トレーニングが肩関節外転運動中の棘下筋を支配する皮質脊髄路興奮性を増大させるのか明らかにすることである. 外旋反復運動をトレーニング課題として, その前後に外転運動中の皮質脊髄路興奮性を経頭蓋磁気刺激による運動誘発電位で評価した. 外旋反復運動は15分毎に100回を3セット実施した. 運動誘発電位は外旋運動反復トレーニング前に2回, 各トレーニング直後, そして3回目のトレーニング直後から30分後と60分後に測定した. 棘下筋の運動誘発電位振幅は3回目のトレーニング直後から60分後まで有意に増大した. 本研究結果から, 肩関節外旋運動反復トレーニングによって, トレーニングと異なる運動である肩関節外転運動中に棘下筋を支配する皮質脊髄路興奮性が持続的に増大することが示された.
著者
板谷 厚 小野 誠司 木塚 朝博
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム (ISSN:13487116)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.33-44, 2020 (Released:2021-07-16)
参考文献数
27

本研究は, 男子大学野球部員20名を対象者とし, 盗塁をモデル化したスプリント走 (投手の投球動画を見て打者方向への投球だと判断した時点でスタートし10 mを全力疾走する) 24試技を実施した. スプリント走タイムとスタート時の投球方向予測の確信度をvisual analog scaleにて測定した. 各対象者のタイムと確信度は総じて負の相関関係にあり, 確信度が高いほどタイムは短縮する傾向にあった. したがって, 盗塁のような予測をともなうプレーは予測が外れ失敗するリスクはつきものだが, 判断に確信をもつことでパフォーマンスは向上し, 成功の可能性を高めることが示唆された.
著者
三宅 美博
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.97-103, 2012 (Released:2016-04-15)
参考文献数
36
被引用文献数
2

共創システムとは人間のコミュニケーションをその内側から捉えるシステムである.本稿では,主観的時間としての「間( ま)」に注目し,その生成とインターパーソナルな共有の仕組みについて紹介する.具体的には,協調タッピング課題を用いたリズム運動の相互引き込みのモデル化を踏まえ,人間と人工物のインタラクション,特に歩行リズムのリハビリテーション支援への有効性を示す.これはリズム運動とその同調を人間の内側から支援する新しいシステム論に向けての第一歩である.
著者
福田 有紗 丸山 将史 白木 仁
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.158-163, 2021 (Released:2021-09-09)
参考文献数
26

本研究の目的は,立位撮影機能搭載型 MRIを用いて,足関節外反位荷重時に足部・足関節において生じる骨挙動について明らかにすることである.対象は,健常成人男性 13名とした.対象者の右足部を,平面板, 10 deg傾斜板, 20 deg傾斜板の 3条件にて,立位撮影機能搭載型 MRI(G-scan brio 0.25T(E-saote社))を使用して撮像した.得られた MRI画像から,後足部アライメント,距骨・舟状骨の最下点の高さおよび内側点を測定した.本研究の結果,傾斜板における足関節外反位での立位荷重時には,後足部の外反,距骨および舟状骨の内側方向への移動が生じる一方で,傾斜角度の増大により,後足部の外反および距骨,舟状骨の内側方向への移動は制限されることが明らかとなった.
著者
玉城 絵美
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.3-9, 2019 (Released:2020-02-01)
参考文献数
4

VR やAR 環境でコンテンツ提供する際,手の体性感覚に関する情報をユーザに提示する方法を紹介する.また,情報提示の種類別にハードウェアや詳細手法について列挙し,体性感覚のうち深部感覚の提示がVR 内のオブジェクトの存在感やコントロールするバーチャルキャラクタへの身体所有感の発生に重要であることを述べる.さらに,現実世界に本来はない感覚の表現の事例や現実世界に近い感覚が必ずしもユーザの満足度につながるわけではない事例についても紹介する.同時に,ゲームや教育分野への応用について具体的な事例を挙げて,今後の研究開発の糸口となるよう要約する.
著者
工藤 大祐 徳重 あつ子 片山 恵 田丸 朋子 岩﨑 幸恵
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.95-104, 2022 (Released:2023-03-02)
参考文献数
14

本研究の目的は,高齢者の普段の点眼姿勢の実態および,点眼時の椅子の背もたれ使用の有無と点眼成否との関係性を明らかにすることである.研究方法は,高齢者の普段の点眼姿勢の実態調査に加え,高齢女性に背もたれの有無で点眼を行ってもらい,点眼動作の動作解析を行った.動画より,点眼時の頭部後傾角度,肘関節角度,体幹後傾角度,点眼容器角度を測定し,背もたれの有無と点眼の成否,点眼液滴下の位置ずれを比較した.背もたれ無しでは,失敗事例で有意に頭部後傾角度が小さく,背もたれを使用すると点眼時に体幹が後傾し頭部が後傾しやすくなり,点眼時における滴下の位置ずれや点眼容器先端との接触による失敗リスクの軽減が望めた .背もたれを使用した点眼姿勢は安全で実施しやすい方法であり,点眼指導に取り入れることが可能であると言える.
著者
藤井 進也
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.217-223, 2020 (Released:2021-11-01)
参考文献数
19

ヒトが音を奏で,聴き,楽しむ行為の中には,ヒトという生物の巧みさを理解するための鍵がたくさん潜んでいる.例えば熟練したプロドラマーは,巧みに身体運動を制御し,独特の時間ゆらぎ構造を持ったリズムを奏でることができる.また音を聴くヒトの脳は,音楽家が生み出した独特の時間ゆらぎ構造を巧みに知覚し,感情の豊かさや好ましさを感じることができる.近年の音楽神経科学研究では,脳の予測的符号化理論の観点から,音を聴いて喜び,身体を動かしたくなる感覚(=グルーヴ感)が生じる脳の計算原理についても理解が進んでいる.本稿では,巧みな音楽家の演奏にみられる時間のゆらぎとグルーヴについて解説し,音を奏で聴き楽しむヒトの脳の不思議さに迫る.