著者
酒井 利奈 糸満 盛憲 根武谷 吾 馬渕 清資
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.210-218, 2005-11-01
参考文献数
18
被引用文献数
4 2

セメントレス人工股関節の初期固定においては,広範囲・低応力接触が重要と考えられている.一方,工学分野においては,力学的安定状態は三点固定に代表される接触部の制限が望ましいと考えられている.これは相反する理念であり,人工関節の強固な固定を実現するためには,ステム上の適切な部位に制限した接触を目指すべきである.広範囲接触を求めた場合,固定部位が流動的に動く危険性があるからである.本研究においては,対象として固定法の概念が特徴的である既存の3種類の人工股関節PerFix SV^[○!R](JMM, JPN), IMC^[○!R](JMM, JPN), VerSys^[○!R](Zimmer, USA)を用い応力解析と応力測定を行い固定法の評価を行った.生物学的な固定に到達する以前の初期段階においては,近位部に流動的でない応力分布を有することが望ましい.従来一般に信じられている低応力という基準は改めるべきである.
著者
岩村 吉晃
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.171-177, 2007-11-01
被引用文献数
2 5

能動的触知覚(アクティヴタッチ)について,研究史,運動感覚の貢献,能動的触知覚成立の大脳メカニズムなどを概観した.
著者
劉 浩
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.207-215, 2010 (Released:2016-04-15)
参考文献数
13

生物は,ナノサイズの分子やタンパク質から,サブミクロンレベルの細胞やバクテリア,ミリサイズの昆虫や魚類,そしてメータサイズのイルカやクジラまで,11 桁にも亘る広大なスケール間に多様な形態,複雑な運動・機能が常にまわりの環境に適応し淘汰・進化する.生物の運動は,各スケールにおいて船や飛行機の人工物のような‘直線的推進’ではなく,横の運動,いわゆる波動によるものが殆どであり,これらの最適化された運動機構が非定常性と波動性の調和によるものと考えられる.本稿では,著者がこの生物流動波というコンセプトを導入し,新しい視点に立って,遊泳・飛翔生物の運動における非定常性と波動性を考察し,生物運動メカニズムに対して統一的に取り扱う考え方について述べる.
著者
寺田 佳代
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.141-146, 2018 (Released:2019-08-01)
参考文献数
20

馬術には,馬と騎手の2 つのそれぞれの個体の中で,情報の受け取り,解釈,アウトプットのループが存在する.また,騎手は馬上にいるため,そして馬は騎手が騎乗しているためその存在自体も常時相互に影響をしている.そのような中,人馬が一体となって演技をするには人馬間のコミュニケーションが鍵となる.人馬のコミュニケーションには様々な方法があるが,本稿では主に鞍を介して行う騎座のコミュニケーションと,手綱を介して行う拳のコミュニケーションに焦点を当てて解説する.鞍の座位部は厚みを有するが,本稿ではそのような形状の鞍の上で騎手の意思が馬に伝わるのかを含めた馬の研究を幾つか紹介する.
著者
齋藤 早紀子 小林 吉之 河内 まき子
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.228, 2023 (Released:2023-11-23)
参考文献数
23

若年女性の歩容から受ける美的印象に対する観察者の性別の影響を調べた.はじめに,歩行動作の印象を具体的なイメージとして喚起するような評価用語を検討した.重回帰分析の結果,色っぽい,スムーズである,バランスが悪い,が選定された.20 の歩行動作に女性のデジタルマネキンをあてはめた動画を作成し,各用語がどの程度当てはまるかを5 件法で回答させた.その結果,同じ歩容から受ける色っぽいという印象は,男性観察者群の方が女性観察者群よりも有意に高い評価得点を示し,スムーズである,バランスが悪いには有意差がなかった.さらに,色っぽいという用語のみ,男性観察者と女性観察者の評価得点間に有意な相関が見られなかったことから,男性観察者と女性観察者では色っぽいと感じる女性の歩容が異なるものといえる.そこで,提示画像に用いた1 歩分の関節角度を主成分分析によって分析し,動作特徴を抽出し,「色っぽい」という語の評価得点との関連を調べた.「色っぽい」という語の評価得点は,男性観察者では第5 主成分得点との間に有意な負の,女性観察者では第3 および第5 主成分得点との間に有意な負の相関がみられ,男性観察者と女性観察者では,色っぽいという印象をうける女性の歩行特徴が異なっていた.また色っぽいという印象をうける女性の歩容は,先行研究とは異なり,必ずしも歩行者の腰部の動きが大きいこととは関係していなかった.
著者
稲垣 宏樹 権藤 恭之
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.18-22, 2003 (Released:2004-02-27)
参考文献数
20
被引用文献数
2

著者らが行った東京百寿者研究の結果を中心に, 百寿者の認知及び身体機能の状態と機能維持のための要因を検討した. 多くの百寿者では全般的な認知機能の低下が示され, 従来加齢の影響を受けにくいとされる結晶性知能についても低下が認められた. 身体機能も全般的に低下しており, 特に移動能力において低下が顕著であった. また, 百寿者の特徴として, 認知機能が身体機能の状態と強く関連していた. これらの機能的側面の低下は, 生理的な加齢に強く影響されており, 免れ得ないものである. 超高齢期のサクセスフル·エイジング達成には, 低下した機能を補完する方向での多方面からの積極的介入が重要であると考えられる.

1 0 0 0 OA 園芸療法

著者
田崎 史江
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.59-65, 2006 (Released:2008-01-18)
参考文献数
12
被引用文献数
5 2

私たちは植物のある環境に身を置くことで癒されたり喜びを感じる.都市の中の緑のオアシスである公園やオフィスや病院の中インテリアプランツが,ストレスにさらされている人間を癒すことは科学的に証明されてきている.また,植物の生長に積極的な活動で関わることで心身ともに健康な状態を維持することもできる.長年農業にたずさわっている高齢者や定年後に農業をはじめる高齢者が健康的な生活を楽しんでいる様子がよく見られる.人間は植物の恩恵を受け,生命を維持していることを経験的に知っているのである.園芸療法は植物を育て,使う活動を通して心身機能を良い状態に導いていく手法で,昔から作業療法の作業種目の1つとして用いられてきた.園芸活動は体を動かす健康的運動であるだけでなく,人の五感を刺激し,これにより楽しさや喜び,驚きを感じ,それは心を良い状態に保ち続けることになる.さらに,グループで作業することは会話を楽しみ,帰属感も責任感も養い,社会性を保つことにもつながっていく.高齢社会の現在,介護予防,認知症予防の方向からも園芸療法が取り組まれてきている.
著者
山内 繁
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.205-210, 2019 (Released:2020-08-01)
参考文献数
24
被引用文献数
2 2
著者
河合 隆史
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.11-16, 2019 (Released:2020-02-01)
参考文献数
7

本稿では,VR 空間におけるクロスモダリティの活用について,筆者らの取り組みを中心に紹介する.具体的に,VR空間におけるラバーハンド錯覚の追試をはじめ,クロスモダリティによる身体イメージの操作を意図したシステム設計へのアプローチについて述べる.さらに,VR 空間におけるクロスモダリティの活用にかかる,期待や課題について述べる.
著者
菊池 泰弘
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.61-66, 2020 (Released:2021-10-28)
参考文献数
40

霊長類は哺乳類の中でも多種多様の移動運動様式を持つことから,近縁種間でさえも筋骨格形態が異なるものがあり,機能形態学的な解釈をするうえで欠かせない研究対象と考えられる.骨格は移動の際に運動を支え,軸となる一方,筋は骨格 同士を結びつけ,骨間距離を変化させることで体肢や体幹における様々な動きの原動力となっている.移動運動様式が異なれば,その動きにそれぞれ適応した骨形態を有することが想定され,それに伴い筋形態も連動して違う様相を呈していると想像するに難くない.本稿では樹上性霊長類の筋骨格形態に焦点を当て,移動運動様式に関連した形態の違いを紹介する.
著者
岡田 英孝 阿江 通良 藤井 範久 森丘 保典
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム (ISSN:13487116)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.125-139, 1996-07-25 (Released:2016-12-05)
参考文献数
23
被引用文献数
63 91

In the analysis of human movement, it is significant that appropriate parameters of the inertia property of body segments should be used because they will affect various computed kinetic variables. When analyzing the movement of elderly people, it is also desirable to use the inertia parameters of the body segments suitable for the elderly. Although there are appropriate sets of inertia parameters of the body segments for children (Yokoi et al., 1986) and young adults (Ae et al., 1992) of Japanese, no report exists on those for Japanese elderly. The purposes of this study were to determine the mass, the location of the center of mass (CM) and the principal moments of inertia about three axes of the body segments for Japanese elderly males and females by using an elliptical zone model (Jensen, 1978; Ae et al., 1992), and to develop a set of regression equations to estimate inertia parameters of the body segments using simple anthropometric measurements as predictors. Subjects were 90 Japanese elderly males aged 62 to 86 yr. (mean 75.1 yr.) and 89 Japanese elderly females aged 61 to 83 yr. (mean 73.0 yr.). Each subject, wearing swimming suit and cap, was photographed in a standing position in the measurement frame with a thin mirror mounted at an angle of 45° to the subject. Body segments were the head, whole torso, upper arms, forearms, hands, thighs, shanks, feet, upper torso and lower torso. They were modeled as a stacked system of elliptical zones 2cm in thickness. Segment density was assumed to be uniform and selected from 26 sets of segment densities after Dempster (1955) and Chandler et al. (1975). The mean errors in the estimation of total body mass were -0.07±0.54% (maximal error: -2.03%) for the males and -0.01±0.45% (maximal error: -1.27%) for the females. Equations for the estimation of the body segment inertia parameters were determined using a stepwise multiple regression with age, standing height, body weight and segment length as predictors. The results obtained could be summarized as follows: 1) There were significant differences in many body segment inertia parameters between the elderly males and females. The percent mass ratios of the forearm, hand, foot and upper torso for the elderly males were significantly larger than those for the elderly females, but the thigh, shank and lower torso ratios for the elderly females were significantly larger than those for the males. 2) There were significant differences in many body segment inertia parameters between the elderly and the young adults (Ae et al., 1992) and between the Japanese elderly and the Canadian elderly (Jensen et al., 1993; 1994). 3) The correlation coefficients between the body segment inertia parameters determined and estimated from the regression equations were all significant (0.328-0.979; p<0.01). The equations determined in this study should be valid for estimation of the body segment inertia properties for Japanese elderly.
著者
佐々木 亮
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.183-188, 2017 (Released:2018-11-01)
参考文献数
45

ヒトが空間内を自由に動きまわり,同時に動く物体を知覚し,判断するとき,脳は実に複雑な計算処理にさらされることになる.網膜から入力される視覚情報に基づく脳神経細胞の活動を,いかにして知覚,判断へと結び付けているのだろうか.本稿では,物体の動きに関する座標表現について取り上げ,視覚-前庭情報統合の神経基盤について,覚醒行動下のサルの空間物体運動知覚を対象とした,心理行動,神経生理及び計算論的アプローチから得られた総括的な知見を基に解説する.
著者
池井 寧
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.17-22, 2019 (Released:2020-02-01)
参考文献数
1
被引用文献数
2 2

過去の体験をバーチャルリアリティ技術によって伝えるための手法について述べる.従来の追体験は多くの場合,身体を使わないメディアで体験を伝えるものであったが,バーチャルリアリティ技術を応用することより,一人称の知覚体験で過去の体験を再現し,身体感覚にも伝えられるようになる可能性がある.本稿では,身体的な追体験の考え方を述べ,実装方法の1つを示す.身体的追体験は,体験学習,身体技能の伝承,身体運用に制約のある人のQOL などに貢献できる可能性がある.
著者
村澤 智啓 小林 吉之 小関 道彦
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.176-184, 2022 (Released:2023-03-03)
参考文献数
29

ランニング中の大きな leg stiffnessは優れた長距離走パフォーマンスに関連づけられるが,大きな leg stiffnessに関連づけられる運動学的特徴は十分明らかにされていない.そこで本研究では, 14名の優れた長距離ランナーを含む 28名の実験参加者の,ランニングにおける運動学的変数に対し主成分分析を行い,優れた長距離ランナーの運動学的特徴を記述する主成分と leg stiffnessの間の関係を調べた.その結果,第 1主成分のみが優れた長距離ランナー群で有意に大きく( p ‹ 0.01),かつ leg stiffnessと有意に相関する( r = 0.77, p ‹ 0.01)ことが明らかになった.この主成分は,立脚期における,小さな骨盤下降変位や小さい膝関節の屈曲運動範囲など,大きな leg stiffnessに関係する HRの運動学的特徴を記述していた.