著者
三木 治
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.42, no.9, pp.585-591, 2002-09-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
5
被引用文献数
12

心療内科のプライマリ・ケアにおける初診患者330例におけるうつ病の実態調査を行った.問診票および面接にてうつ症状を主訴とするか,self-rating depression scale(SDS)45以上を示す者をうつ症状群とした.うつ症状群の中でDSM-IVによるうつ病の診断を行い,さらに初診診療科,初診医による診断および予後について検討を行った.全症例中,うつ症状群は161例(48.7%)にみられ,内うつ病性障害は101例(62.7%)に認められた,うつ病性障害の内訳では大うつ病21.7%,特定不能のうつ病性障害73.2%,気分変調症4.9%であった.うつ症状群の初診診療科では内科が64.7%ともっとも多く,次いで婦人科9.5%,脳外科8.4%,精神科5.6%などであった.初診医診断の主なものは,消化器疾患23.4%,自律神経失調症15.7%,ストレス反応12.5%などであった.6カ月後の予後では大うつ病52.8%,特定不能のうつ病性障害62.9%,気分変調症33.3%の寛解率であった.
著者
端詰 勝敬 岩崎 愛 小田原 幸 天野 雄一 坪井 康次
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.303-308, 2012-04-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
22

広汎性発達障害は,他の精神疾患を随伴しやすいことが報告されている.しかし,摂食障害の随伴については不明な点が多い.今回,われわれは摂食障害と自閉性スペクトラムとの関連性について検討を行った.84名の摂食障害患者に対し,自己記入式質問紙による調査を実施し,健常群と比較した.摂食障害は,健常群よりも自閉性スペクトル指数(AQ)の合計点が有意に高かった.病型別では,神経性食欲不振症制限型が「細部へのこだわり」とAQ合計点が健常群よりも有意に高かった.摂食障害では,自閉性スペクトラムについて詳細に評価する必要がある.
著者
片上 素久
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.47, no.5, pp.331-338, 2007-05-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
17

近年のパニック障害に対する研究においてさまざまな評価尺度の開発が行われたが,現在最も広く使用されている評価尺度として, ShearらによるPanic Disorder Severity Scale (以下,PDSS)がある.古川らにより作成されたその日本語版であるPDSS-Japanese (PDSS-J)は,高塩らによりパニック障害の重症度および反応性の評価尺度として有用であることが報告されている.その一方で,より簡便に施行が可能な自己記入式Panic Disorder Severity Scale であるPDSS-Self-report (以下,PDSS-SR)の開発がHouckらによって行われ,その信頼性について検討がなされている.本研究では, PDSS-SRをもとにその日本語版であるPDSS-SR-Japanese (以下, PDSS-SR-J)を作成し,DSM-IVにおいてパニック障害と診断された外来患者93例に対して施行した.その結果,PDSS-SR-Jは一因子構造からなることが示され,パニック障害患者においてPDSS-SR-Jが重症度を評価するうえで高い信頼性と妥当性を持つ評価尺度であることが示唆された.
著者
大武 陽一
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.155-161, 2020 (Released:2020-03-01)
参考文献数
13

サイコネフロロジーとは腎臓病学と心身医学・精神医学・心理学・看護学などとの共通する部分を扱う学問である. サイコネフロロジーで扱う領域は①慢性腎臓病患者の精神的ケア, ②腎代替療法に関わるスタッフのメンタルヘルス, ③慢性腎臓病患者の腎代替療法に関わる意思決定支援, ④非がん患者の緩和ケア, ⑤精神疾患や精神症状をもつ慢性腎臓病患者の診療などがある. 慢性腎臓病は, その経過に心理社会的な因子が強く関連する心身症としての側面をもち, 心身医学的アプローチが有用である. 慢性腎臓病患者が腎代替療法に至る背景には 「対象喪失」 の心理がある. さらには抑うつや不安, 治療のノンアドヒアランスなどに至ることもあり, 慢性腎臓病の診療全体を通じて継続した関わりができる心療内科医の存在が, 今後ますます期待される.
著者
細井 昌子 久保 千春
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.49, no.8, pp.885-892, 2009
参考文献数
6

慢性疼痛は無効な医療の繰り返しになることが多く,不快情動が増大するため患者や家族のQOL(quality of life)を障害し,医療コミュニケーションの問題を起こし,社会医療経済学的にも大きな問題となっている.国際疼痛学会は,国際的な痛みの臨床研究評価のコンセンサスとして,2003年および2005年にIMMPACT recommendationを提起した.この評価軸を参考に,九州大学病院心療内科でも,多数の医療機関の診療を受けた後に来院される難治の慢性疼痛患者の心身医学的な治療対象を明確化するために,痛みの自覚的強度,生活障害,不安・抑うつ・破局化,失感情傾向,器質的および機能的病態,パーソナリティ傾向やパーソナリティ障害・発達障害,精神医学的障害,疼痛行動の分析,痛みに対する認知と対処法,家族や社会との交流不全(役割機能障害),医療不信といった観点で病態を評価する多面的な評価法を行っている.心身医学的治療法に結びつく慢性疼痛の評価法は発展途上であり,今後の発展が急務である.
著者
藤本 晃嗣 細井 昌子
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.50-56, 2022 (Released:2022-01-01)
参考文献数
26

器質的疾患を指摘できない慢性疼痛において,近年その生物学的基盤が明らかになりつつある.特に注目を浴びているのが,神経炎症である.視神経脊髄炎スペクトラム障害などの脱髄疾患を中心として神経炎症との関連が明らかになるにつれ,病態に基づいた治療が実臨床に導入されつつある.慢性疼痛においても炎症メディエーターやミクログリアの関与が知られているが,近年グリア細胞の活性をin vivoで評価できる18kDa-translocator protein(TSPO)をリガンドとして用いたPET検査が行われるようになり,病態の解明が進んでいる.また,統合失調症や自閉症スペクトラム障害での関与が疑われているシナプス刈り込みも慢性疼痛の病態形成に関与している可能性がある.遺伝子ビッグデータを用いた研究においても,抑うつ,PTSDや自己免疫性疾患との関連が確認された.近い将来,慢性疼痛の生物学的基盤の理解がさらに進み,臨床的場面で有用なバイオマーカーの開発につながることを期待する.
著者
井上 猛 小山 司
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.291-297, 2009-04-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
17

選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)はほとんどすべての不安障害亜型に対して有効であるが,その作用機序は十分に解明されていない.われわれは恐怖条件づけストレス(conditioned fear stress;CFS:以前に逃避不可能な電撃ショックを四肢に受けたことのある環境への再曝露)を不安・恐怖の動物モデルとして用い,不安・恐怖とセロトニンの関連について検討してきた.すくみ行動を不安の指標として用いると,ベンゾジアゼピン系抗不安薬と同様に,SSRIはラットのCFSで抗不安作用を示す.SSRIの両側扁桃体基底外側核への局所投与はCFSで抗不安作用を示した.さらに,CFSによって扁桃体基底外側核のc-Fos蛋白発現は亢進し,SSRI全身投与はCFSで抗不安作用を示すと同時に,CFSによるc-Fos蛋白発現を抑制した.以上のことから,SSRIの不安障害への効果は扁桃体に対する抑制効果を介していることが示唆された.
著者
鈴木 仁一
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.22, no.5, pp.451-458, 1982-10-01 (Released:2017-08-01)
被引用文献数
1

From time immemorial, it has been well known that fasting has an excellent effect on various diseases and has been practiced in world-wide areas as a religious asceticism. However, nowadays, it has being practiced as a proper medical therapy for psychosomatic disorders. Our scientific study of fasting started from 1967,and has been carried out in 576 cases with an efficacy rate of 87%.The following diseases were considered as suitable indications for the therapy; irritable colon, abnormal eating behavior, functional disorders of the digestive organ, neurocirculatory asthenia, borderline hypertension, variable psychosomatic symptoms of puberty, hyperventilation syndrome, bronchial asthma, various kinds of neurosis especially conversion hysteria, reactive depression and many others of psychosomatic diseases.The patient is put on 10-day fasting allowing to have only drinking water and 5% pentose solution by I.V., after that a 5-day recovery dieting period with settled menu is programed. During the fasting period, NAIKAN therapy is performed which is a special self-examination that method based on Buddhism. With regard to the mechanism of effectiveness, our conclusion is the regulating of the peripheral and central autonomic nervous system and of the endocrine system may change psychophysiological functions. At the result, a spontaneous deconditioning of maladaptive bodily and mental behavior might be induced and led to a homeostatic adjustment of the human body.
著者
梅本 丈二 安田 弘之 市来 利香 築山 能大 古谷野 潔 都 温彦
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.41, no.6, pp.457-463, 2001-08-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
9
被引用文献数
2

過食症患者は嘔吐を繰り返すため, 口腔内が頻繁に食渣や胃酸にさらされることになり, 歯の脱灰, 実質欠損をきたすことが報告されている.本研究では嘔吐と歯の実質欠損に関する予備的調査を行った.嘔吐歴が4年以上の対象者は4年未満の者に比べてう蝕の既往が多かったが, 対象患者に歯牙酸蝕の所見は認められなかった.う蝕増加の既往と嘔吐との関連性はさらに今後の検討問題として残された.また歯科治療の際, 摂食障害について話すことに抵抗感があるとの質問紙に対する回答から, 摂食障害患者の自分の症状を知られたくないという心理面も窺えた.いずれにせよ, 医師・歯科医師双方が本件に留意して, 臨床にあたることが重要である.
著者
吉田 さちね 黒田 公美
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.55, no.8, pp.958-966, 2015-08-01 (Released:2017-08-01)

目的:母親が母乳で子を育てる養育(子育て)は哺乳類に共通する特徴である.効率よく養育を受けるため,子どもの側も親を覚え,後を追い,シグナルを送るなどの愛着行動を積極的に行っている.このような母子関係の維持に貢献する子からの行動はあまり研究されておらず,その脳内基盤については未知の部分が多い.そこで親が子を運ぶ際に子が示す協調的反応「輸送反応」についてヒトとマウスで検討した。方法・結果:母親が生後1〜6カ月の乳児を抱きながら歩くと,抱いたまま座っているときに比べて,乳児の自発運動の量が約1/5(Fig.1B),泣く量が約1/10(Fig.1C)に低下し,心拍数も母親が歩き始めて3秒程度で顕著に低下した.一方で母親が口でくわえて運ぶのを模して仔マウスを指でつまみ上げると,仔マウスはヒトと同様に不動化(自発運動の減少),超音波発声の減少,心拍数の低下を示した.さらに仔マウスの輸送反応を詳細に検討した結果,痛覚閾値の低下,四肢の収縮,体幹の弛緩など複数の要素が同時に惹起される複雑な反応であり,それぞれの反応は独立な発達曲線および制御機構をもつことが明らかになった.さらに感覚遮断により仔マウスの輸送反応を阻害すると運ばれているときに暴れてしまうが,そのような仔マウスを母親が運ぶのにはより多くの時間を要した.結論・考察:以上から,マウスとヒトの乳幼児において,親が運ぶ際に鎮静化によって協調する輸送反応が進化的に保存されていると考えられた.抱いて運ばれる際の子どもの協調的反応が定量・可視化されれば,育児の効率に対する養育者の自信や意欲を高めたり,またバイオフィードバック学習を行ったりすることが可能になる.また,発達障害児において,親に抱かれる際の反応に特徴がある可能性についても検討の余地があると考えられた.
著者
土屋 裕睦
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.159-165, 2018 (Released:2018-03-01)
参考文献数
4
被引用文献数
6

本稿の目的は, わが国におけるスポーツ心理学の成り立ち, 研究領域の特徴から現状を整理し, 今後の課題を明確化することである. はじめに, スポーツ心理学の成り立ちに関して, 日本スポーツ心理学会 (JSSP) の発足は1973年であるが, 日本体育学会が1950年の設立以来, すでに体育心理学に関係する研究のプラットフォームになっており, 少なくとも65年以上の歴史があると指摘した. 次に, JSSP編によるスポーツ心理学事典などの目次をもとに, 研究領域を整理すると, 運動学習と制御, スポーツ社会心理研究 (スポーツ参加の動機づけ研究を含む), 健康スポーツの心理, 競技スポーツの心理 (メンタルトレーニングと臨床スポーツ心理を含む) の4領域が中心的な領域であると考えられた. 特に, JSSPによる2000年の 「スポーツメンタルトレーニング指導士」 資格認定が開始されて以降, 競技スポーツ分野への関心が高く, JSSP大会では, さまざまなシンポジウムが開催されている. 一方, イップスに代表される心因性の動作失調への対処などにおいて解決すべき課題も多く, 今後は心身医学との協働によるブレイクスルーが期待されている.
著者
川村 智行
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.39-45, 2023 (Released:2023-01-01)
参考文献数
5

1型糖尿病は,注射によるインスリン療法が唯一の治療である.近年の1型糖尿病診療は,新しい薬剤や血糖測定のデバイスの進歩が著しい.それでも,インスリン療法に加えて日々の生活の中で最も重要な食生活と運動の管理を生涯継続しなければならない.血糖管理が不十分な場合,糖尿病合併症の発生頻度は非常に高く,生命予後を悪化させる.小児思春期に多く発症する1型糖尿病では,血糖管理が不十分になりやすく,患者指導に難渋することが少なくない.筆者は,そのような患者の対応で困っていたときに動機づけ面接(motivational interviewing:MI)に出会った.MIは,アルコール依存症患者の面談から始まった面接法であり,今ではあらゆる医療面接,教育,司法,矯正などの幅広い分野でその有用性が認知されている.MIでは患者の発言の中の,チェンジトーク(よい発言)に注目し,チェンジトークを引き出して,変化へ向かうチェンジトークへと育てていくことを目的とする.思いやりを含んだ精神をもってクライアントとダンスを踊るように変化の方向へ導いていくのがMIである.筆者は,MIを学ぶことで患者のよい変化を多く経験するようになった.現在ではMIのトレーナーとしてMIの普及活動を行っている.
著者
飯田 俊穂 熊谷 一宏 細萱 房枝 栗林 春奈 松澤 淑美
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.48, no.11, pp.945-954, 2008-11-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
19

動物とのふれあいが人によい効果をもたらすことは知られている.特に子ども・障害者・高齢者などによい効果をもたらすことが新聞,雑誌などで取り上げられており,不安やストレスの軽減効果が示されたとの報告や,ペットといるだけで精神状態が安定し自然治癒力が高まるなどの報告もある.そこで今回われわれは,学校不適応傾向の児童・生徒に対するアニマルセラピーの心理的効果についての分析を試みた.結果として3回以上のアニマルセラピーで,Profile of Mood States(POMS)(緊張-不安,活気,疲労,混乱),AN-EGOGRAM(NP,FC,AC)に有意な変化を認めた.POMS(抑うつ-落ち込み,怒り・敵意)の値は低下,AN-EGOGRAM(CP,A)の値は上昇したものの有意差は認めなかった.以上のことより,アニマルセラピーを3回以上施行した症例に対し,心理状態(緊張-不安,活気,疲労,混乱)の改善,自我状態の安定傾向を認めた.
著者
永田 頒史 廣 尚典 真船 浩介
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.109-121, 2009-02-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
12

職場のメンタルヘルス対策の有効性を調べるために,1次予防(疾病の発生予防),2次予防(早期発見・早期対処),3次予防(疾病管理,復職支援)のアプローチ事例を対象として比較検討を行った.1次予防に関しては,2004年にメンタルヘルス改善意識調査票(MIRROR)を開発し,2005年度に15事業場9,800名を対象として,職場環境改善のための介入的アプローチを行い,2006年度に効果評価を行った.改善が行われた部署では,ストレスの軽減がみられた.費用便益の評価では,6社中4社で疾病休業は減少していたが,今回用いた計算法では2社のみが黒字であった.また,継続的な管理職研修を含めた総合的対策により,休職事例数が半減した.2次,3予防に関しては,3事業場の相談事例162名および臨床事例113例に対する比較調査を行った.事業場の事例に関しては55.6%,臨床事例に対しては20.4%に対して職場調整を行ったが,前者のほうが有意に有効事例が多かった.転帰に関しては,事業場事例のほうが治癒率は有意に高かった.
著者
貝谷 久宣
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.44, no.5, pp.361-367, 2004-05-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
5
被引用文献数
1

100名のパニック障害患者に大うつ病が34名みられ,その62 5%は非定型うつ病であったことを示す筆者らの最近の報告を紹介したこのようなパニック障害にみられるうつ病-パニック性不安うつ病の特徴について示した最後に,パニック性不安うつ病を示した広場恐怖を伴うパニック障害の母親と,軽い広場恐怖と不全パニック発作を示した2人の娘の家族症例を示し,一部の広場恐怖を伴うパニック障害と非定型うつ病との間に病因的に関係があることを述べた
著者
一條 智康
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.11, pp.1143-1150, 2017 (Released:2017-11-01)
参考文献数
20

ユマニチュード®はジネストとマレスコッティの2人によって創案された認知症ケアの技法である. 本稿では, ユマニチュードの語源をネグリチュードの歴史的意義にまで遡って解説し, 「ユマニチュード®」 の概略を紹介した. さらに, 治療的自己, マルチモダール, オキシトシンなどの観点から文献的考察を加えた.超高齢社会を迎えた日本にとって, ユマニチュード®の有用性は今後ますます広く受け入れられると思われる. その哲学を学び実践できれば, 人と人の 「絆」 という最も根本的に重要でありながら, 現代社会において希薄となっている大事な視点にわれわれが立ち返るきっかけをつかめるかもしれない. 「われわれがお互いに『人間としての尊厳』が保たれていることを再認識できる」 ユートピアが実現できることが期待される.
著者
薗田 将樹 若林 邦江 田村 奈穂 石川 俊男
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.5, pp.453-459, 2016 (Released:2016-05-01)
参考文献数
15

目的 : 摂食障害は慢性難治性の疾患で, さまざまな身体合併症がみられる. その中でも腎機能障害がしばしば認められる. 今回, 当院の入院摂食障害患者の腎機能障害についてretrospectiveに調査検討を行った. 方法 : 対象は2010年4月~2013年11月までに当科に入院した摂食障害患者で, 書面で研究の同意を得た198例 (ANbp 93名, ANr 52名, BNp 32名, EDnos11名) であった. 対象の病型, 入院時年齢, 入院時BMI, 罹病期間, 生化学所見を診療録より調査し, 欠損値のある症例を除いた計149例に対して, 統計学的手法を用いて病型別に検討した. 結果 : 149例のうち, 慢性腎臓病 (chronic kidney disease : CKD) を合併していた入院摂食障害患者数を調べたところ, 38.3% (57/149名) であり, 病型別の割合はANbp : 58.4% (45/77名), ANr : 18.4% (7/38名), BNp : 19.2% (5/26名), EDnos : 0% (0/8名) であった. 各病型のeGFR (estimated glomerular filtration rate) はANbp : 中央値 ; 54.3, 四分位範囲 (39.4~74.8), ANr : 中央値 ; 76.8, 四分位範囲 (62.2~92.0), BNp : 中央値 ; 77.7, 四分位範囲 (61.7~89.8), EDnos : 中央値 ; 78.7, 四分位範囲 (74.2~92.9) であった. ANbpはANr, BNp, EDnosに比較してeGFRの有意な低下がみられた (p≦0.05). ANbpで, eGFRとBMI, eGFRと罹病期間の項目間で有意な相関がみられた (eGFRとBMI : r=0.38, p<0.01, eGFRと罹病期間 : r=0.44, p<0.01). また, BNpでeGFRと罹病期間の間に有意な相関がみられた (eGFRと罹病期間 : r=−0.60, p<0.05). 各病型のeGFRにおいて, 低カリウム (K) 血症 (K<3.5mEq/l) の有無の群間でMann-WhitneyのU検定を行ったところ, ANBpとBNpで群間に有意差がみられた. 考察 : ANbpでは摂食障害の他の病型と比較して, eGFRの統計学的に有意な低下がみられた. また, ED患者においてBMI低値, 長期間の罹病期間, 低K血症がCKDのリスクとなるという結果であった. 結論 : ED患者の腎機能障害は頻回に遭遇する病態と考えられ, 腎機能保護を考慮した治療が必要である. 特にANBpにおいては高度の腎機能障害のリスクが高いため, 早期よりの評価・介入が望ましい.