著者
斉藤 昌之
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.210-216, 2020 (Released:2020-04-01)
参考文献数
17

ヒトを含めて哺乳動物には白色と褐色の2種類の脂肪組織が存在する. 白色脂肪がエネルギーを中性脂肪として蓄積し飢餓への備えをするのに対して, 褐色脂肪は脂肪エネルギーを熱に変換する代謝性の非ふるえ熱産生の特異的部位であり, 寒冷環境下での体温維持や, 感染・炎症時の発熱やストレス性高体温に関与している. さらに, 褐色脂肪は体温のみならず全身エネルギー消費や体脂肪の調節にも寄与するので, 抗肥満ターゲットの1つとしても注目されている. 最近, がんの画像診断法であるFDG-PETを利用してヒトの褐色脂肪を評価する手法が開発され, 多くの知見が集積されつつある. 本稿では, 健常成人の褐色脂肪について, 体温や体脂肪調節における役割を中心に紹介する.
著者
小牧 元 前田 基成 有村 達之 中田 光紀 篠田 晴男 緒方 一子 志村 翠 川村 則行 久保 千春
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.43, no.12, pp.839-846, 2003-12-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
11
被引用文献数
3

われわれは先にアレキシサイミア評価のための構造化面接法を開発した.今回,引き続きアフレキシサイミアの自記式質問紙Toronto Alexithymia Scale-20 (TAS-20)日本語版の信頼性と因子的妥当性を検討した.対象は健常群347名と心身症・神経症などの患者群940名である.両群で3因子構造モデルは確証的因子分析により確認,再現された.質問紙全体としてほぼ満足できる内容であり,テスト-再テスト間の安定性も高いことから,日本語版TAS-20の信頼性および因子的妥当性は支持された.ただし,第3因子の外的志向に関しては内的一貫性が低く,その質問項目の均質性には問題があり課題として残された.
著者
岡田 あゆみ
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.217-226, 2020 (Released:2020-04-01)
参考文献数
17

発熱は小児科領域で頻度が高い症状で, さまざまな身体疾患が原因となるが, 心理社会的ストレスもその一因となることがある. 一般に, 発熱以外に随伴症状や炎症所見がなく, 特定の状況や誘因で発熱を認める場合や, 慢性の心理社会的ストレスの影響が推定される場合に 「心因性発熱」 と診断され, 10代や若年成人に多いといわれている. 小児では, 本人が心理社会的ストレス因に自覚のない場合やうまく言語化できない場合, 心因が明らかにならず診断に苦慮することもある. また, 親子が身体疾患を危惧している場合や診断を受け入れられない場合, ドクターショッピングに陥ることもあるので注意を要する. 治療は, 生活指導や心理療法, 薬物療法などが行われるが, 小児の場合は環境調整が重要となる. 学校などの集団生活では, 有熱時の対応の目安が求められるなど, 小児期特有の課題もある. また, 併存症への配慮も必要で, 神経発達症特に自閉スペクトラム症には注意する. 本稿では, 小児の心因性発熱の診療と対応上の注意点を述べる.
著者
澤原 光彦 村上 伸治 青木 省三
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.51-58, 2017 (Released:2017-01-01)
参考文献数
6

本稿では, 成人の心身症を含む精神医学的諸問題とその背景にある発達障害的特性について, いくつかの代表的な症状を呈した症例の素描を提示し, 筆者の見解を述べた. 発達障害を背景に生じうる状態像として, ①統合失調症類似の状態, ②うつ病・抑うつ状態, ③双極性障害・双極Ⅱ型障害, ④心身症, ⑤心気症的こだわり, ⑥強迫性障害, ⑦摂食障害, ⑧境界性パーソナリティ障害, を挙げた. これら精神医学的な各症状においては, 症状の表層にのみ関心を奪われ, 背景の発達障害的問題に配慮した支援を行わなければ, 難治化・遷延化の危険がある. 診断においては, 常に成育史に関心を払い, 患者の症状がその疾患の典型病像とどのように異なっているかを細心の注意をもって吟味する必要がある.
著者
大津 光寛 軍司 さおり 苅部 洋行 石川 結子 若槻 聡子 羽村 章
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.59, no.6, pp.560-567, 2019 (Released:2019-09-01)
参考文献数
8

緒言 : これまでの研究では摂食障害の歯科的合併症は過食嘔吐が最大の要因であるとされてきた. しかし今回チューイングのみでほぼ全歯が残根状態となった症例を経験した. 症例 : 26歳女性. 精神科診断名 : 心的外傷後ストレス障害, 強迫性障害, 神経性やせ症過食・排出型, 選択的セロトニン再取り込み阻害薬服薬中. 歯科既往 : チューイング開始直後から歯痛などが出現し近医受診, 入退院を繰り返すうちに近医での治療が困難と判断され当センター紹介受診. 当センター受診時にはほぼすべての歯が残根状態であり, 咬合は崩壊していたため, チューイング内容の改善やチューイング後の口腔衛生指導を中心に対応した. 考察 : 本症例は加糖飲料などのチューイングを繰り返すことで口腔内が酸性に保たれ, う蝕発生環境が長期保持されることが歯科的問題を発生させることを示唆している. また, 服用中のSSRIの副作用も疑われた. これらの症例に対しては症例に合わせた歯科対応が必要である. また重症化を防ぐためにも広範囲への啓発が重要である.
著者
水野 泰行
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.50, no.12, pp.1133-1137, 2010-12-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
9
被引用文献数
1

慢性疼痛における破局化とは痛みに対して注意がとらわれることや無力感,そして痛みの脅威を過大評価することで特徴づけられる認知過程である.それは痛みの難治化を説明するfear-avoidance modelの一部を構成するものであり,痛みの強さや障害,予後に強く関係しているため,慢性疼痛の心身医学的治療においては看過できないものである.破局化の評価法には疼痛破局的思考尺度(PCS)があり,反芻,無力感,拡大視の3つの下位尺度がある.痛みにとらわれた考えや不安をそのまま無批判に体験するマインドフルネスが破局化と痛みの関与を和らげるといわれており,治療としての有用性が示唆されている.
著者
山本 ゆりえ 庄子 雅保 細川 真理子 村上 匡史 田村 奈穂 河合 啓介
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.60, no.8, pp.719-727, 2020 (Released:2020-12-01)
参考文献数
14

摂食障害患者の下剤乱用は予後不良因子の1つである. 入院治療において薬剤師による下剤乱用や便秘に焦点を当てた教育的指導を実施した後, 下剤の処方量と患者の認識の変化, 退院1年後の下剤乱用量について調査した. 下剤乱用患者33名は入院時処方に比較して, 退院処方では刺激性下剤に関して有意な変化を認めなかった (p=0.435) ものの, 入院前の下剤乱用量を考慮すると刺激性下剤の総量としては減少したと推察する. 医師らと連携しながら薬剤師が教育的指導を実施したところ, 患者の排便や下剤に対するこだわり発言に変化がみられた. 追跡調査として対照群を設定し, 入院前と退院1年後の下剤の乱用量を比較した. 入院前の下剤乱用量が少ないこと (p=0.000), 薬剤師の介入 (p=0.029) は, 退院後の下剤乱用量を減少させる因子であることがわかった. 摂食障害患者に対するチーム医療において, 薬剤師の関わりは有用である.
著者
中塚 幹也
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.61, no.7, pp.608-615, 2021

<p>ジェンダークリニックにおける性同一性障害/性別違和/性別不合のチーム医療の中で,産婦人科医は,精神科医,泌尿器科医,形成外科医などとともに診療を行っている.産婦人科医は,診察や検査により生物学的性(身体の性)を確定することで診断に関わるとともに,トランス女性(MTF当事者)への女性ホルモン治療やトランス男性(FTM当事者)への子宮・卵巣の切除術(性別適合手術)を行う.さらに,性別適合手術が終了すると,戸籍の性別変更を希望した当事者が家庭裁判所に提出するための診断書作成も行う.</p><p>産婦人科医の中でも生殖医療を専門とする場合には,ホルモン療法や手術療法による妊孕性の低下への対応としての精子凍結や卵子凍結,また,第3者精子による人工授精などの生殖医療に関する説明を行うことも多い.さらには,学校の中で性教育をすることも多く,性の多様性についての講演や授業,家族形成も含めたライフプラン教育にも関与する.学校との連携に関しては,思春期の児童・生徒に対する二次性徴抑制療法の実施などの点でも産婦人科医の役割は重要である.</p>
著者
増田 彰則 中山 孝史 古賀 靖之 八反丸 健二 長井 信篤 皆越 眞一 鄭 忠和
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.45, no.8, pp.581-588, 2005-08-01 (Released:2017-08-01)
被引用文献数
1

慢性疼痛患者に対して, 認知行動療法とリハビリテーション, 運動療法に加えて温熱療法を併用したところ(温熱療法群n=22), 併用しなかつた群(非温熱療法群n=24)に比べ, (1)痛み行動が有意に減少した, (2)情動面では, 怒りスコアが有意に改善した, (3)治療への満足度が高かつた, (4)退院して18カ月後, 仕事に復帰した割合は, 非温熱療法群の58%に比べ温熱療法群は82%と高かつた.以上より, 慢性疼痛の治療として温熱療法の併用は有効であることが示唆された.
著者
松岡 紘史 森谷 満 坂野 雄二 安彦 善裕 千葉 逸朗
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.152-157, 2018 (Released:2018-03-01)
参考文献数
17

頭頸部領域の心身症に対する認知行動療法では, 症状を悪化・維持させている習慣行動や症状に対する認知的評価が中心的な治療ターゲットであり, その有効性が明らかにされている. 舌痛症およびドライマウスに関しては, 認知的要因の重要性を指摘する研究は存在するものの, 回避行動や安全行動の重要性についての報告はこれまで存在してないが, 症状を悪化・維持させている習慣行動を治療要素に取り入れることで, 良好な結果が得られた. 舌痛症およびドライマウスに対しては, 認知的要因への介入に加えて, 回避行動や安全行動などの習慣行動を治療対象とすることで, より効果的な治療の提供が可能になると考えられる. また, 舌痛症やドライマウス以外の頭頸部の心身症に対しても, 症状を悪化・維持させている習慣行動や症状に対する認知的評価に基づく認知行動療法が効果的な治療法となる可能性があるといえる.
著者
松本 珠希 後山 尚久 木村 哲也 林 達也 森谷 敏夫
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.48, no.12, pp.1011-1024, 2008-12-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
50
被引用文献数
3

月経前症候群(premenstrual syndrome; PMS)は,身体・精神症状から社会・行動上の変化に至るまで広範囲にわたる症状が,黄体期後半に繰り返し出現し,月経開始後数日以内に軽快するという特徴をもつ.種類や程度,継続する期間を問わなければ,性成熟期女性の大半が何らかのPMS症状を自覚しているといわれているが,その成因はいまだ明らかにされていない.本研究では,PMS症状のレベルが異なる女性を対象に,"体内環境の恒常性維持に寄与し,心の状態にも影響を及ぼす"とされる自律神経活動の観点から月経前の心身不調の発症機序について探求することを試みた.正常月経周期を有する20〜40代の女性62名を対象とした.実験は卵胞期と黄体後期に各1回行った.月経周期は,月経開始日,基礎体温および早朝第一尿中の卵巣ホルモン・クレアチニン補正値を基準に決定した.自律神経活動は,心拍変動パワースペクトル解析により評価した.月経周期に伴う身体的・精神的不定愁訴および行動変化は,Menstrual Distress Questionnaire (MDQ)により判定した.MDQスコアの増加率に応じて,被験者をControl群,PMS群,premenstrual dysphoric disorder (PMDD)群の3群に分け,卵胞期から黄体後期への不快症状増加率と自律神経活動動態との関連を詳細に検討した.PMS症状がないあるいは軽度のControl群では,自律神経活動が月経周期に応じて変化しないことが認められた.一方,PMS群では,卵胞期と比較し,黄体後期の総自律神経活動指標(Total power)と副交感神経活動指標(High-frequency成分)が有意に低下していた.PMDD群では,黄体後期の不快症状がPMS群よりもいっそう強く,自律神経活動に関しては,他の2群と比較すると卵胞期・黄体後期の両期において心拍変動が減衰,併せて,すべての周波数領域のパワー値が顕著に低下していた.PMSは,生物学的要因と・心理社会的要因が混在する多因子性症状群であり,その病態像を説明するさまざまな仮説が提唱されてはいるが,統一した見解が得られていないのが現状である.本研究からPMSの全貌を明らかにすることはできないが,得られた知見を考慮すると,黄体後期特有の複雑多岐な心身不快症状の発現に自律神経活動動態が関与することが明らかとなった.また,PMDDのようなPMSの重症例では,月経周期に関係なく総自律神経活動が著しく低下しており,黄体後期にいっそう強い心身不調を経験するとともに,月経発来後も症状が持続するのではないかと推察された.
著者
永田 勝太郎 島田 雅司 長谷川 拓也 真木 修一 秦 忠世 大槻 千佳
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.50, no.12, pp.1151-1156, 2010
参考文献数
12
被引用文献数
1

酸化バランス防御系は,生体調節機構の1つと考えられる.そのゆがみは生活習慣病の発症に関与する.疼痛性疾患である,慢性腰痛,線維筋痛症,関節リウマチ患者について,酸化ストレス(d-ROM test),抗酸化力(BAP test),潜在的抗酸化能(修正BAP/d-ROM比:修正比)をFRAS4(Free Radical Analytical System 4)により,測定した.健常者群に比し,線維筋痛症の酸化ストレス,修正比は悪化していたが,関節リウマチほどではなかった.酸化バランス防御系の是正のため,抗酸化剤である還元型coenzyme Q10を3ヵ月間投与した.その結果,疼痛VASの改善,酸化バランス防御系の改善がみられた.線維筋痛症の診断・治療に酸化バランス防御系の評価は重要であると考えられた.
著者
大屋 栄一 宮保 進
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.33, no.7, pp.601-605, 1993-10-01 (Released:2017-08-01)

Very low calorie diets (VLCD) have many advantages, as they are inexpensive, safe and easy to give rapid and encouraging weight loss. On the other hand, many patients complain of psychic and somatic discomforts. Six simple obese patients (1 male and 5 females) had median body mass indexes of 32. 9 kg/m^2 and had median ages of 31 years. Associated medical problems included fatty liver, hyperlipidemia, and vertebral spondylosis in each 2 patients. Eating habits revealed irregular diet, anorexia, overeating, and unbalanced diet. In psychological tests, one male had near normal mentality, but 5 females showed some deviations of anxiety, dependency and hypomania. Affirmative attitude to self and/or others in egogram agreed well with our empirical assessment of patients. Typical weight loss during 2 complete formula diets and 4 combination diets was around 22 kg in 92 days. All patients demonstrated the elevation of the ketone body for starvation. Associated mental problems included anorexia (3/6) , depression (3/6), and insomnia (1/6) . Anorexia was the most important and concerned symptom since it was severe enough to suspect anorexia nervosa. Fortunately these problems were temporary, so VLCD could be continued without interruption. Other physical complaints were faintness and Gl symptoms (nausea, epigastralgia) , which were improved by conservative therapies. VLCD resulted in reliable weight loss in all cases. Among mental and physical complaints during VLCD anorexia occurred frequently. It was often severe enough to be suspicious of beginning of anorexia nervosa, but did not last long and VLCD could be continued. Consequently, psycho- somatic approach is needed to obese patients who undergo VLCD therapy.
著者
細井 昌子 安野 広三 早木 千絵 富岡 光直 木下 貴廣 藤井 悠子 足立 友理 荒木 登茂子 須藤 信行
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.5, pp.445-452, 2016

線維筋痛症は病態が未解明な部分が多いが, 独特な心理特性, 免疫学的異常, 脳機能異常, 自律神経機能異常など多面的な病態が近年の研究で報告されている. 本稿では, 九州大学病院心療内科での治療経験をもとに, ペーシングの異常, 受動的な自己像が構築される背景と過剰適応・過活動, 安静時脳活動の異常について, 線維筋痛症における心身相関と全人的アプローチの理解促進のために, 病態メカニズムの仮説について概説した. 線維筋痛症では, default mode networkと呼ばれる無意識的な脳活動が島皮質と第2次感覚野と強く連結しているといわれており, これが中枢性の痛みとして, 過活動に伴う筋骨格系の痛みや自律神経機能異常といった末梢性の痛みと合併し, 複雑な心身医学的病態を構成していると考えられる. ペーシングを調整し, 意識と前意識や無意識の疎通性を増すための線維筋痛症患者に対する全人的アプローチが多くの心身医療の臨床現場で発展することが望まれる.
著者
木村 祐哉
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.49, no.5, pp.357-362, 2009-05-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
35
被引用文献数
1

少子高齢化の進む現代の日本において,ペットは家族の一員として重要な存在となっている.そのようなペットの喪失によって強い悲嘆が生じうることは,「ペットロス」という言葉とともに知られるようになったが,十分な社会的理解が得られるには至っていない.本稿では,ペットロスに伴う悲嘆反応とそれに対する支援について諸文献から考察した.ペットロスは対象喪失の一種であり,親しい人物との死別の場合と同様の悲嘆のプロセスを経るとされる.専門的介入もまた有効であると考えられているが,安楽死の決定にかかわる罪悪感や,周囲との認識の違いによる孤独感など,ペットロスに特異的な状況が存在するということにも注意する必要がある.本稿ではさらに,日本におけるペットロスの現状について触れ,今後の研究に求められる課題を明らかにすることを試みた.
著者
金 外淑 村上 正人 松野 俊夫 釋 文雄 丸岡 秀一郎
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.5, pp.439-444, 2016 (Released:2016-05-01)
参考文献数
10
被引用文献数
2

線維筋痛症は身体症状の複雑化とともに, 怒り, 不安, 抑うつなど多岐にわたる心理的状態をきたすため, 心理的支援に限らず, 種々の専門科の専門性を生かした適切な支援の充実が必要とされている. 本研究では, 線維筋痛症患者特有の痛みが起こる状況を取り上げ, これまでの調査, 臨床での実践研究を通して得られた知見をもとに, 痛みが起こる諸要因の動きに着目し, 患者個人に応じた支援を充実させる心理的支援の方策を探った. その結果, 痛みが起こる背後に隠れている複数の要因を4つのタイプに分類し, それをもとに心理的支援の新たな基盤づくりを試みた. また, 患者が訴える痛みの強度や頻度に意識を向けるだけではなく, 痛みと向き合える心身の健康づくりや, 家族面接を契機に痛み症状の改善につながった例を取り上げ, 臨床の実際について提言した.
著者
北啓 一朗
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.177-183, 2007-03-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
12

Evidence based medicine(EBM)は疫学的データ(エビデンス)を重視する医療である.現在,心身相関の考えを支持するエビデンスが多く報告されている.また,EBMには対話を促進し認知の変容を促すという特徴があり,心身医療の実践にとって有用である.Narrative based medicine(NBM)では,患者の主観的世界が重視される.患者の主観的健康感の重要性は,疾病予後に強く相関するという観点から疫学的データも支持している.また,NBMは「心身相関」などの心身医学の考えも『それもまたひとつの物語』とみなす,相対主義的な広い世界観である.心身医療は心身症という「体でしか語れない人々」の語られざる語りを聴く医療であり,その実践にはNBMの多様なものを認め合う世界観が有用である.EBM,NBMの実践は,日常の心身医療をより豊かなものにする.総合診療の現場は心身症も含めたさまざまな患者が訪れることから,EBM,NBMを意識した心身医療を実践するに適したフィールドと思われる.今後,心身医学と総合診療医学との交流が望まれる.