著者
中塚 幹也
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.61, no.7, pp.608-615, 2021 (Released:2021-10-01)
参考文献数
30

ジェンダークリニックにおける性同一性障害/性別違和/性別不合のチーム医療の中で,産婦人科医は,精神科医,泌尿器科医,形成外科医などとともに診療を行っている.産婦人科医は,診察や検査により生物学的性(身体の性)を確定することで診断に関わるとともに,トランス女性(MTF当事者)への女性ホルモン治療やトランス男性(FTM当事者)への子宮・卵巣の切除術(性別適合手術)を行う.さらに,性別適合手術が終了すると,戸籍の性別変更を希望した当事者が家庭裁判所に提出するための診断書作成も行う.産婦人科医の中でも生殖医療を専門とする場合には,ホルモン療法や手術療法による妊孕性の低下への対応としての精子凍結や卵子凍結,また,第3者精子による人工授精などの生殖医療に関する説明を行うことも多い.さらには,学校の中で性教育をすることも多く,性の多様性についての講演や授業,家族形成も含めたライフプラン教育にも関与する.学校との連携に関しては,思春期の児童・生徒に対する二次性徴抑制療法の実施などの点でも産婦人科医の役割は重要である.
著者
仲 紘嗣
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.51, no.8, pp.737-747, 2011-08-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
26
被引用文献数
1

「心身(シンシン)一如」は心身医学で重要な概念であるが,この言葉の由来は従来から「道元の言葉"身心(シンジン)一如"とされ,」とあいまいである.近年は栄西の言葉「心身(シンジン)一如」とする説もある.栄西(1141〜1215年)は1198年に『興禅護国論』を執筆しているが,その原本は紛失して現存していない.現在,われわれが一般に読むことができるのは1778年以降の校訂本である.その校訂本では,「心身一如」を含む前後の句を『禅苑清規』(1103年,中国の文献:禅僧の生活規範が記してある)から引用して示している.しかし,『禅苑清規』には「心身一如」ではなくて「身心一如」と記載されている.したがって,栄西の執筆時の言葉は「身心一如」であったと推測される.一方,道元(1200〜1253年)の言葉「身心一如」の出典は『正法眼蔵』「辧道話」(1231年)である.道元の言葉を今日用いている「心身一如」の由来とするには身と心の語順の逆転が問題となるが,そのことに関しては本文で示した理由により納得できるものであった.以上,これらの言葉の出典や原典の検討から,今日用いている「心身一如」の由来は道元の言葉「身心一如」であって,また,「身心一如」は推測ながら栄西の執筆時の言葉でもあったであろう.道元・栄西それぞれの言葉の意味するところは本文で示した.歴史的には「身心一如」は身を重視し「心身(シンシン)一如」は心を重んじてきた.「心身一如」の本来の意味は身を重視した「身心一如」にあり,この概念は心身医学分野ですでに生かされているが,いっそうこの点を念頭に置いて研究・診療にあたるべきであろう.
著者
遊佐 安一郎
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.55, no.8, pp.920-927, 2015-08-01 (Released:2017-08-01)

PTSD,境界性パーソナリティ障害,摂食障害,双極性障害などで感情調節が困難な患者の多くは,精神症状に加えさまざまなストレス関連性の身体症状も呈するために,心身医学的治療を必要とするものが少なくない.これらの患者は強い感情反応性のために治療困難例とみなされることが多い.このような患者のために効果が実証されている弁証法的行動療法において「承認」と呼ばれる治療者のかかわり方は,包括的統合的な認知行動療法的戦略と対をなして重要だと考えられている.弁証法的行動療法の包括的認知行動的実践が困難な日本の医療現場では,承認がなお一層重要だと考えられる.したがって,ここでは承認の理論的背景に加えて,治療者がどのように承認的な行動を取れるかについての工夫を紹介する.
著者
濱野 清志
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.61, no.6, pp.516-521, 2021 (Released:2021-09-01)
参考文献数
11

本稿は,中国に古来から伝承された気功を身心医学に活用しようとするための序論と呼ぶべきものとなっている.気功は導引,吐納,静定,存思,内丹の5つにその鍛錬領域に応じて分類できるが,現代の気功は最初の3つに焦点を絞って,誰でも活用できる健康増進の技術として紹介されている.しかし,気功の本質は存思や内丹へと進み,とりわけ内丹における自発動の活用に隠されているということができる.ここでは自発動について私見を述べ,その可能性を検討した.
著者
藤井 智香子 岡田 あゆみ 重安 良恵 塚原 宏一
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.57-63, 2021 (Released:2021-01-01)
参考文献数
22

過敏性腸症候群 (irritable bowel syndrome : IBS) は児童・思春期の代表的な機能性消化管疾患であるが, その実態については不明な点も多い. IBSは心理的ストレスの影響を受けやすく, 患者の心理社会的背景を理解することは適切な治療介入につながると考えられる. 児童・思春期のIBS患者の特徴を明らかにすることを目的に, 岡山大学病院小児科を受診したIBS患者のうち発症が18歳以下であった69例の性別や併存疾患などの特徴について検討を行った. 男性35例, 女性34例で, 59例は不登校状態にあり, 外出困難をきたしている症例もあった. 併存疾患として起立性調節障害やアレルギー性疾患を有する症例が多く, 24例が自閉スペクトラム症 (autism spectrum disorder : ASD) の診断を受けていた. ASDの感覚過敏やこだわりが強いという特性が, 症状の遷延や訴えの増加につながる可能性があり, 発達特性に留意して診療を行うことが必要であると考えられた. また男性に外出困難を伴う症例を多く認め, このような症例では特に, 環境調整や心理療法を含めた対応が有効だった.
著者
宮岡 等 小川 陽子
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.59, no.5, pp.416-421, 2019 (Released:2019-07-01)
参考文献数
2
被引用文献数
2

・発達障害診断は発達障害とひとくくりせず, 自閉スペクトラム障害 (ASD) と注意欠如・多動性障害 (ADHD) に分けて議論しなければならない.・大人のASDとADHD診断, および他の精神疾患の鑑別と合併に重要なのは 「大人の精神疾患全般の症状や診断をよく知る」 と 「生育環境や性格の問題の関与を十分検討しなければ, 過剰診断や過小診断につながる」 である.・大人になってから診断されるASD, ADHDには他の精神疾患と区別しにくい症状があるといわれるが, 慎重な問診で鑑別できることが多い.・大人においてASD, ADHDを診断するために有用なのは発達歴と経過であり, 幼小児期から特徴的な症状があり, 成人になるまで連続性をもつ. 他の精神疾患では発症時期の急な変化を見い出せることが多い.
著者
安藤 哲也 小牧 元
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.47-56, 2009-01-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
31

摂食障害への罹患しやすさには遺伝的要因が大きく関与している.これまで候補遺伝子法による相関解析ではセロトニン2A受容体遺伝子,セロトニントランスポーター遺伝子,脳由来神経栄養因子遺伝子多型と神経性食欲不振症との関連が,メタアナリシスで示された.罹患同胞対連鎖解析では第1,第2,第13染色体上に神経性食欲不振症との連鎖が,第10染色体上に神経性過食症と連鎖する領域が報告された.グレリンは主に胃から産生され,成長ホルモンの分泌を刺激し摂食と体重増加を促進するペプチドである.筆者らはグレリン遺伝子多型およびハプロタイプが神経性過食症に関連すること,同じ多型が若年女性の体重や体格指数,体脂肪量,腹囲,皮脂厚などの身体計測値,「やせ願望」と「身体への不満」という心理因子,空腹時の血中グレリン濃度と関連することを示した.さらにグレリン遺伝子多型が制限型のANの病型変化のしやすさにも関連していた.マイクロサテライトマーカーを用いたゲノムワイド相関解析により,神経細胞接着関連分子遺伝子領域(11q22)と脳関連遺伝子クラスター(1p41)領域で感受性SNPが検出された.近年,生活習慣病,多因子疾患の疾患関連遺伝子の同定に成果を上げているゲノム全体を網羅するSNPマーカーを用いたゲノムワイド相関解析の実施を摂食障害においても目指すべきである.摂食障害に関する臨床研究,疫学研究での評価項目に遺伝子解析を入れておくことが,発見された摂食障害関連遺伝子の意義を決めるのに重要である.
著者
五島 史行 野村 恭子 中尾 睦宏 瀬戸 泰
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.148-156, 2016 (Released:2016-02-29)
参考文献数
21
被引用文献数
1

はじめに : めまいの多くは末梢前庭障害によるものであり, 一時的な症状で改善することが多い. しかし, 一部では症状が遷延化する. 本研究では, 3カ月以上にわたりめまい症状が遷延している難治性めまい患者における重症度に影響している要因について検討した.  対象と方法 : 都内単一医療施設耳鼻咽喉科外来にて3カ月以上一般的治療を行ったにもかかわらず, めまい症状が遷延した患者のうち, 2012年4~11月の間に入院による積極的な治療を希望した難治性末梢性めまい210例 (女性75%, 平均年齢65歳) を対象とした. 検討した項目は性別, 年齢, 就労の有無 (無職/就労), 最終学歴 (短期大学以下/大学以上), 心理尺度である. 心理尺度には, (a) 身体感覚に対する破局的思考尺度 (Somatosensory Catastrophizing Scale : SSCS), (b) 身体感覚増幅尺度 (Somatosensory Amplification Scale), (c) 身体症状評価 (Medical Symptom Checklist), (d) 自己評定式抑うつ尺度 (Self-rating Depression Scale : SDS) のそれぞれについて自記式質問紙を用いて尋ねた. めまいの頻度が週に1回以上をめまい重度群, それ未満をめまい軽度群と定義し, それぞれの因子との関連を統計学的に検討した.  結果 : めまい軽度群に比べて, めまい重度群は有意に若く (p=0.001), 就労しており (p=0.001), 最終学歴は大学以上であった (p=0.013). また, 心理尺度のSSCS (p<0.0001) ならびにSDS (p=0.049) の平均点はめまい重度群が軽度群よりも有意に高かった. めまいの重症度に影響する因子を検討するロジスティック回帰分析では説明変数としてSSCSの合計値を投入したモデル1とSSCSの各因子の値を投入したモデル2を行い, 就労していない場合に比べ就労しているとめまいは約3倍重症化しやすく (モデル1 OR 3.47, 95%CI : 1.51~8.00;モデル2 OR 3.18, 95%CI : 1.36~7.45), モデル1にてSSCSの合計点が1点上昇するごとにめまいは3% (95%CI : 1.01~1.05) 重症に傾きやすい傾向を, モデル2にてSSCSの第二因子 (生活上の支障) が1点上昇するごとにめまいは11%重症化に転じる傾向 (OR 1.11, 95%CI : 1.03~1.19) を認めた.  考察 : 難治性めまいにおいて身体感覚に対する破局的思考は重症度に影響を与えていることが明らかとなり, 認知の歪みの影響を受ける病態であることが示唆された. その他の背景因子の中では, めまい重度群では就労しているものが多く, 今後の検討事項に外的な要因として職場での人間関係やサポートなどの社会的環境因子が考えられた.
著者
辻内 琢也 河野 友信
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.39, no.8, pp.585-593, 1999-12-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
27
被引用文献数
5
著者
関根 里恵
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.262-268, 2020 (Released:2020-04-01)
参考文献数
4
著者
斎藤 清二 北 啓一朗 桜井 孝規
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.31, no.7, pp.587-590, 1991-10-01 (Released:2017-08-01)
被引用文献数
1

A long-term course of physical and psychological treatment on a patient with laxative abuse was described in this report. A 52-year-old woman was referred to our hospital because of chronic diarrhes, hypokaremia, and general weakness with unexplained cause. Laboratory data showed hypokaremia and high value of plasma renin, angiotensin and aldosterone, which indicated pseudo-Bartter syndrome. Multiple diagnostic procedures on digestive organs including endoscopy and barium study revealed no organic abnormalities. A room search showed a package of laxative tablets (containing bisacody1), and the diagnosis of surreptitious laxative abuse was confirmed. Guide lines of management for this patient were introduced as follows; (1) The target of treatment should not be diarrhea but constipation and abdominal distention. (2) Confrontation regarding laxative use should be avoided until good physician-patient relationship would develope. (3) Psychotherapy would be introduced in a regular shedule. The patient could stop laxative use during the first admission. After laxative withdrawal, severe constipation and idiopathic edema developed. Supportive treatment fron both physical and psychological aspect was continued throughout several admissions and at the outpatient clinic. The patient has been free of laxative and diuretics ato the time 5 years after initial admission. Diagnosis and treatment of laxative abuse are usually difficult because patients often deny their laxative use. Another difficulty is to manage water retention and constipation after withdrawal of laxative. Long-term energetic support from both somatic and mental aspect seem to be essential help the patient give up laxative abuse.
著者
深尾 篤嗣 高松 順太 小牧 元 呉 美枝 槙野 茂樹 小森 剛 宮内 昭 隈 寛二 花房 俊昭
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.42, no.10, pp.643-652, 2002-10-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
26
被引用文献数
2

バセドウ病甲状腺機能亢進症において,患者の自我状態と,抑うつ傾向,アレキシサイミア傾向,および治療予後との関連について前向き検討を行った.対象は73例の本症患者で,抗甲状腺剤治療開始後euthyroidになった時点で,TEG(東大式エゴグラム)によって調査したAが50パーセンタイル以上のhighA群(44例),50パーセンタイル未満のlowA群(29例)に分け,治療開始3年目までの予後およびSDSやTAS-20の得点との関連を調べた.次いでFCがACより高いFC優位群(40例)と,逆のAC優位群(33例)に分けた2群でも同様に検討した.寛解率はlowA群(10%)がhighA群(41%)より有意に(p=0.0048)低かった.また,AC優位群(18%)がFC優位群(40%)より有意に(p=0.0432)低かった.SDSおよびTAS-20総得点は,いずれもAC優位群のほうがFC優位群に比して有意に(p=0,0001,p<0.0005)高かった.TAS-20の因子1および因子2もまたAC優位群のほうがFC優位群に比して有意に(p=0.0022,P<0.0001)高かった.以上の結果より,合理的判断力や感情表出力が低い自我状態のバセドウ病患者では,抑うつ傾向やアレキシサイミア傾向とも相まって,甲状腺機能亢進症が難治化する心身相関の存在が示唆された.
著者
清水 研
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.399-404, 2015-05-01 (Released:2017-08-01)
被引用文献数
1

本稿においては,心身医学講習会で取り上げた内容の中で,「心的外傷後成長」に焦点を当てて解説を行う.がん罹患に伴う精神的苦痛は大きく,うつ病などの病的な状況に陥る患者も少なくない.一方で,がん体験は必ずしも心理的に負の影響をもたらすだけではなく,精神的な成長を実感するなど,肯定的な変化をもたらすことも少なくない.このような外傷的な体験の後の肯定的な変化について,心理学的な手法を用いてまとめられた概念が「心的外傷後成長」である.心的外傷後成長モデルは人が危機的な状況に陥った後の心像の変遷について,わかりやすく示している.心的外傷を負った人のケアを担う医療者は,必然的に無力感に直面することになるわけであるが,心的外傷後成長モデルを知ることはその無力感をもちこたえ,治療者としてあり続けるためのヒントを与えてくれると筆者は感じている.
著者
小林 伸行 濱川 文彦 金澤 嘉昭 廣松 矩子 高野 正博
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.55, no.12, pp.1380-1385, 2015-12-01 (Released:2017-08-01)
被引用文献数
3

目的:排ガス(おなら)臭を主訴とする自己臭症の患者における腹部症状を質問紙を用いて調べた.対象と方法:当院心療内科を初診したおなら臭を主訴とした自己臭症患者47名(男性20名,女性27名,平均年齢27.7±12.4歳,以下,自己臭群)と健常者82名(男性48名,女性34名,平均年齢37.3±9.7歳,以下,対照群)を対象とした.当科初診時にRomeIII診断基準に基づいて作成した問診票を用い腹部症状を調査した.結果:過敏性腸症候群(IBS)の診断基準を満たしたのは,自己臭群25名(53%),対照群17名(21%)と自己臭群で有意に高頻度であった(p<0.001).自己臭症とIBSを併存するものは対照群のIBSと比較していきみ,排便困難感,残便感の頻度が高かった(すべてp<0.001).自己臭患者の中でIBS患者と非IBS患者を比べると排便困難感がIBSで高頻度であった(p<0.05).結論:おなら臭を主訴とする自己臭症には高頻度でIBSを併存していた.今後,下部消化管の機能異常の解明により自己臭症の病態理解を促進すると考えられる.
著者
倉恒 弘彦
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.54, no.11, pp.1002-1009, 2014-11-01 (Released:2017-08-01)

慢性疲労症候群(CFS)という疾病の病因・病態がしだいに明らかになってきた.CFSでは,明らかな原因がみつからないにもかかわらず,長期にわたって激しい疲労とともに微熱,頭痛,筋肉痛,関節痛,脱力感,思考力低下,抑うつ,睡眠障害などがみられ,多くの患者が日常生活や社会生活に支障をきたしている.長期にわたり外出することも困難で,ほとんど自宅内で生活をせざるを得ない患者も多く,CDC(米国疾病予防管理センター)はCFSを克服すべき重要な疾患の一つととらえてその対策に取り組んでいる.われわれは,CFSは感染症を含む種々の生活環境ストレスや遺伝的な要因がきっかけとなった神経・内分泌・免疫系の変調であり,内在性のウイルスの再活性化に伴い産生されたサイトカイン(TGF-βやインターフェロンなど)による脳・神経系の機能障害であるという仮説を1998年に発表し,病因・病態の解明に向けた取り組みを進めてきた.ごく最近,CFS患者に対して脳内ミクログリアの活性化を直接調べることのできるポジロトンCT検査を行ったところ,CFSでは視床,中脳,橋などの脳幹部や海馬,帯状回,扁桃体などにおいて神経炎症が存在し,神経炎症の程度と痛み,抑うつ,認知機能障害の程度が相関していることを世界で初めて明らかにした.そこで,本稿では最近明らかになってきた慢性疲労症候群における病因・病態を紹介するとともに,CFSに陥るメカニズムについて解説する.
著者
松岡 紘史 坂野 雄二
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.95-102, 2007-02-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
29
被引用文献数
23

本研究の目的は,痛みに対する破局的思考の程度を測定するPain Catastrophizing Scale (PCS)の日本語版を作成することであった.大学生449名を対象に自己記入式の調査を行い,探索的因子分析を行ったところ,PCSは3因子13項目で構成され,内的整合性も高かった.また,PCSは痛みの重篤さと生活障害の程度との間に正の相関関係がみられ,PCSの下位尺度のうち「無力感」は他の2つの下位尺度と比べて,Coping Strategy Questionnaire (CSQ)の下位尺度である破滅思考と最も相関が高かった(γ=0.67).さらに,抑うつや不安の程度を統制した場合でも,PCSは痛みの重篤さや生活障害の程度を予測した.以上の結果から,PCSは,高い信頼性と妥当性を有する尺度であることが明らかにされた.
著者
加藤 直子 山岡 昌之 一條 智康 森下 勇
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.43, no.9, pp.609-615, 2003-09-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
5

多彩な解離症状を呈した15歳女子に対し,本人へのカウンセリングおよび薬物療法,さらに親へのガイダンスを行い,症状の改善が認められたので報告した.思春期の解離症状に対しては,退行的側面と前進発達的側面の理解が必要である.家族および治療者は,行動化や外傷体験の背後にある情緒に共感し,解離した体験をつなぐ補助自我的な役割を果たす一方で,発達阻害的な退行を助長しないことが肝要であると思われた.解離症状に伴う強い不安や興奮,身体化症状には薬物療法が有効であった.
著者
永田 利彦
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.225-231, 2019 (Released:2019-04-01)
参考文献数
32

実は受診する摂食障害患者の多くがパーソナリティ障害 (人格の病理) を併存している. 体重さえ回復すれば治るとする意見をHilde Bruchは生涯にわたって 「行動療法や家族療法によって治ったというが, 背景にある重篤な人格の病理ともいえる生きづらさが放置されている」 と非難しつづけた. 摂食障害治療の基本として, 摂食障害には厳しく, 人格の病理 (生きづらさ, パーソナリティ障害) には暖かく (validation) の両立が必須である. 両立すれば, 入院治療に頼らず, 診療所で完結する摂食障害治療が可能となる. やせ礼賛文化の広がりの中, 多くの若年女性がダイエットに勤しみやせすぎに陥っている. やせすぎは寿命を縮める危険な行動であるのに見過ごされてきた. やせ礼賛文化の影響は大きく, 摂食障害に厳しくの立場から, さらにモデルの健康を守るためやせすぎモデルの規制は必要である.
著者
柴山 修 堀江 武 樋口 裕二 大谷 真 石澤 哲郎 榧野 真美 瀧本 禎之 吉内 一浩
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.432-438, 2015-05-01 (Released:2017-08-01)

症例は19歳男性.X-5年激しい腹痛で救急受診し浣腸で軽快以降,排便へのこだわりが強まり,多数の下剤を使用するようになった.X-2年部活動を辞めてからは食抜きをするようになり,BMI18.1から体重減少傾向.X-1年4月大学入学後一人暮らしを始めさらに減少.近医内科より摂食障害として紹介され,X年5月当科外来初診となった(BMI14.1).肥満恐怖やbody imageの障害はなく,特定不能の摂食障害と診断.X+1年4月より語学留学中,排便のリズムが崩れ食抜きが強まり,6月末BMI12-1となり,帰国し当科入院.排便への過剰なこだわりから生活に大きな支障をきたしている認識あり,強迫性障害と診断.曝露反応妨害法とfluvoxamine内服を開始したところ強迫観念は軽減し完食を続け,退院.退院後は休学のうえ実家で生活し,徐々に儀式を減らし,BMI18.5を超え,X+2年4月から復学.一人暮らしに戻っても支障なく経過している.非典型的な摂食障害例で強迫傾向が強く認められる場合は強迫性障害を積極的に疑うことも重要である.