著者
八田 宏之 東 あかね 八城 博子 小笹 晃太郎 林 恭平 清田 啓介 井口 秀人 池田 順子 藤田 きみゑ 渡辺 能行 川井 啓市
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.38, no.5, pp.309-315, 1998-06-01 (Released:2017-08-01)
被引用文献数
20

この研究では, 大学および職域においてhospital anxiety and depression scale (HAD)の日本語版の妥当性と信頼性を検討した.大阪府と京都府において, 1983年に, 106名の学生と62名の勤労者を対象に調査は行われた.信頼性を決定するために, アイテム間相関と内的一貫性を求めた.STAIとSDSを用いて共存的妥当性を調べた.両者の集団において, 感情障害の頻度は19〜26%であった.Cronbachのα係数は, 不安尺度に関して0.8であったが, 抑うつ尺度に関しては0.5以上であった.HADの不安尺度とSTAI得点とのSpearmanの係数は, 学生の場合0.65であり, 勤労者の場合0.63であった.HADの抑うつ尺度とSDSとの同係数は学生の場合0.46であり, 勤労者の場合0.50であった.HAD日本語版は, 女性において感情障害スクリーニング法として有用であると考える.
著者
伊藤 英樹
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.9, pp.944-954, 2017 (Released:2017-09-01)
参考文献数
24

目的 : 一般外来で簡単に使用でき利便性の高いうつ病評価尺度 (Jiテスト) の開発を目指した.  方法 : うつ病症状の代表的な9項目 (抑うつ, 興味や喜びの喪失, 易疲労性と気力の減退, 実存, 希死念慮, 不安, 思考力・注意力・集中力の低下, 身体化, 睡眠障害) を抽出し下位尺度とした. 各項目における症状を日常生活障害とし, 4件法での回答により総得点 (0~90点) を総合的指標として統計的解析を実施した.  結果 : 当診療所における新患91名を対象とし, 回答者91名の平均年齢は45.3歳, 男女比は27名/64名, 平均得点は40.0点であった. 信頼性を示すCronbachのα係数は0.938であった.  結論 : 既存尺度との比較による内容妥当性も有意な相関を認め, Jiテストの信頼性および妥当性は十分と考えられた. また臨床診断における総合評価との比較も実施し十分な信頼性を得られた. 現在, 施行されているストレスチェックへの展望も鑑み, 検証データの考察から詳細なご報告をしていきたい.
著者
増田 彰則 山中 隆夫 武井 美智子 平川 忠敏 志村 正子 古賀 靖之 鄭 忠和
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.44, no.12, pp.903-909, 2004-12-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
9
被引用文献数
1

子どもからみた家族機能が, 心身症の発症, 学校での適応, 思春期の精神面や生きる喜びに与える影響について検討した. その結果, 家族機能不良群は, 心身症の発症の相対危険度が良好群に比べ2倍であった. 小学, 中学時代にいじめを受けた者は2倍, しばしば学校を休んだ者が3倍高かった. 思春期になると一入こもるようになった, 他人の視線が気になる, 自己主張ができない, 人間関係をうまくつくれないと答えた者が約2倍高かった. さらに, 人を信用できない者は約5倍, 誰も相談相手がいない者は良好群に比べ相対危険度が3倍高く, 自分が必要とされていない, 生きる喜びがないと答えた者も約4倍高かった. 家族機能は, 心身症の発症のみならず, 学校適応や思春期の精神面, 生きる喜びにも影響を及ぼしていることがわかった.
著者
増田 彰則
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.51, no.9, pp.815-820, 2011-09-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
10
被引用文献数
1

不登校を合併した子どもの睡眠について調査したので報告する.対象:当院を受診した患者108名(10〜18歳)のうち,不登校合併例51名,不登校合併のない心身症例57名と健常高校1年生64名である.結果:不登校例では,(1)31%が入眠障害を訴え(健常高校生は3%),24%が中途覚醒(同8%)を訴えた.(2)不眠でつらい思いをしている割合は24%(同8%),朝だるさを訴える割合は61%(同36%),悪夢をみる割合は53%(同36%)であった.(3)テレビを3時間以上みる割合は52%(同13%)で携帯電話,インターネット,ゲームを3時間以上する割合はそれぞれ18%(同11%),18%(同5%),10%(同2%)であった.(4)これら電子機器を1日5時間以上すると答えた患者の62%は不登校を合併していた.考察:不登校合併例の多くに睡眠障害がみられた.特に入眠障害と朝起きられない問題を抱えていた.原因の1つとして子どもの生活が深夜型化していることが挙げられた.
著者
石﨑 優子
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.39-43, 2017 (Released:2017-01-01)
参考文献数
10
被引用文献数
1

発達障害児はその発達特性により, 学校や集団で不適応を起こしやすく, また自己の感情表現が苦手なため, 身体化して心身症を発症しやすい. よって子どもの心身症, 問題行動や不登校に対峙する際には, 背景にある児の認知の問題, すなわち発達特性を知り, 特性と児を取り巻く環境の関係について考えることが重要である. そしてその問題の解決に向けては, 児を取り巻く環境, 特に学校関係者と連携し, 児の特性に応じた配慮を求めることが肝要である.
著者
福土 審
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.45-52, 2011-01-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
25

心身医学では,陰性情動がどのように成立するのか,そしてその異常がなぜ生じるのか,という問題が特に重要である.代表的な心身症である過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)の病態生理を解くことはこの問題解決につながる.生体に加わった刺激は大脳皮質と皮質下の処理により情動を惹起する.情動にはどんな感じがするかという感情と身体状態である情動状態の2つの成分があり,変化した身体状態(内的感覚)が感覚信号を介して再び中枢に入力される.この刺激の作用点を内臓に置くことにより,内的感覚から情動が生成される根本的な機序を解明できる.健常者の大腸を刺激すると,視床,島,前帯状回,前頭前野の活性化が認められ,同時に腹痛と不快情動が惹起される.IBS患者では同一の刺激に対するこれらの部分の活性化が大きく,腹痛と陰性情動も強い.これらの内臓刺激による中枢処理は個体のもつ性格,遺伝子,先行する強い陰性情動体験によってパターンが異なる.これまでの研究から,島,扁桃体,前帯状回を中心とする局所脳の活性化の程度とセロトニンやcorticotropin-releasing hormone(CRH)などの制御物質が腹痛と陰性情動を決めることが示唆される.次の課題はこれらがどのような回路,細胞,物質の動態により制御されるかを明らかにすることであろう.
著者
村上 正人 松野 俊夫 金 外淑 小池 一喜 井上 幹紀親 三浦 勝浩 花岡 啓子 江花 昭一 橋本 修
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.49, no.8, pp.893-902, 2009
参考文献数
24
被引用文献数
5

近年わが国でも注目されてきた線維筋痛症候群(fibromyalgia syndrome;FMS)は,長期間持続する全身の結合織における疼痛と多彩な愁訴を呈する慢性疼痛のモデルともいえる病態であるが,心身症としての側面を濃厚に有している疾患でもある.発症の背景には何らかの遺伝的,生理学的要因に加え,女性の内分泌的な内的環境の変化やライフサイクル上の多彩な心理社会的ストレス要因も大きく関係する.患者の90%以上に発症の時期に一致して手術・事故・外傷・出産・肉体的過労・過剰な運動などのエピソードがあり,天候,環境変化や不安・抑うつ・怒り・強迫・過緊張・焦燥などの心理的ストレスと連動して病態が変動する,強迫,完全性,執着などの性格特性がみられる,など強い心身相関が認められる.患者の尿中セロトニン,ノルアドレナリンの代謝産物である5HIAAやMHPG,骨格筋の解糖系に関与するアシルカルニチンはうつ病患者と同等に低値であり,FMSの痛みや倦怠感,多彩な身体症状,精神症状の背景にモノアミンやカルニチン代謝が関与していることが示唆される.FMSの治療には通常の対症療法が奏効しないため,的確な薬物療法が重要でSSRIやSNRIなどの抗うつ薬,抗けいれん薬,漢方薬などが併用される.さらにストレス緩和のための生活指導や心身医学的な視点からのカウンセリング,認知行動療法など全人的治療が必須である.この考え方はFMSのみならず他の慢性疼痛にも共通しており,薬物や理学的治療法などの「医療モデル」に加え「成長モデル」からアプローチする重要性は変わらないものである.
著者
本田 美和子
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.7, pp.692-697, 2016 (Released:2016-07-01)
参考文献数
11

高齢社会を迎えた日本では, 加齢によって認知機能が低下するにつれてケア実施困難となる高齢者が増加している. 現在の医学・看護学は「治療の意味が理解でき, 検査や治療に協力してもらえる人」を対象とすることを前提にしているが, 認知機能が低下した方々にとってはその前提条件は必ずしも得られていない. 提供される医療やケアが自分のためと理解できずに激しく抵抗する人々に, ケアを行う人が疲弊して職を辞すなど, 看護・介護人材の離職にも直結している. ユマニチュードは体育学を専攻するイヴ・ジネストとロゼット・マレスコッティの36年にわたる経験の中から創出した, 知覚・感情・言語による包括的コミュニケーションに基づくケア技法である. 「あなたは大切な存在です」という言語および非言語によるメッセージを, ケアを受けるひとが理解できる形で届けるための方法でもある. 本稿では, このケアの基本的な考え方と基礎技術について論述する.
著者
内藤 明子 印東 利勝
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.357-360, 1982-08-01 (Released:2017-08-01)

We report two cases of young women with psychogenic gait disturbance. Case 1 was a 25-year-old female who was difficult to take the first step forward at start for 5 years.Case 2 was a 14-year-old female who attempted suicide by taking high doses of sleeping drugs and showed astasia-abasia after recovery from comatose state. These two cases showed a discrepancy between neurological findings and neuroanatomical examinations.Both psychological and social backgrounds were significantly positive in each case.Whenever discrepancies were found between neurological findings and neuroanatomical standpoints, we postulate that psychosomatic consideration is essential prior to a neuroradiological approach or laboratory examinations.
著者
大内 佑子
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.12, pp.1192-1196, 2016 (Released:2016-12-01)
参考文献数
2

Acceptance and commitment therapy (以下, ACT) を用いたケースでの心理教育の実践例について, 模擬事例をもとに報告した. 模擬事例としては, 医療現場での個別の心理療法の場面, その中でも心身医学的問題として過敏性腸症候群のケースを扱った. ACTの心理教育は, 随伴性と悪循環の理解を重視する点は従来の認知行動療法と共通するが, 疾患ごとのモデルや特定の症状モデルを用いることはほとんどないという点が異なる. ACTでは, クライエントが現実を体験することに重点を置くが, 並行してそれらの体験を通して体験の回避や認知的フュージョン, アクセプタンスとコミットメントという概念の理解を促進することも目的としている. したがってACTは, 他の療法に比しても心理教育的な要素を重視する心理療法ととらえることができるかもしれない.
著者
金 外淑 松野 俊夫 村上 正人 釋 文雄 丸岡 秀一郎
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.327-333, 2018 (Released:2018-05-01)
参考文献数
7

慢性痛のセルフマネジメントに有効とされる認知行動療法を取り上げ, 線維筋痛症患者に対する多元的な視点による痛みのアセスメントと, 痛みの変化や今ある痛みと上手に付き合うための支援について述べた. また, 地域での新しい取り組みとして, 痛みで困っている患者やその家族を対象とした, 心理教育を中心とするセルフヘルプ支援をグループで学ぶ認知行動療法を試みた. 4つの地域での自由記述と予備調査の結果, 患者と家族間の考え方のズレや葛藤が読み取れ, さらに痛みが起こりやすい考え方や行動タイプなどの共通点が推測された. 特に慢性痛に現れやすい痛み関連行動が起きやすい内的・外的状況を把握し治療環境を整えることが, 今後起こり得る痛み行動の予防につながることも再認識できた. 最後には, これらの結果を踏まえ, 症例でみる痛み関連行動が起こる前後の状況に応じた支援の実際について報告した.
著者
長谷川 和夫
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.5, pp.411-417, 2016 (Released:2016-05-01)
参考文献数
20

高齢化社会の現在, 高齢者の幸福度は健康, 家族そして収入であろう. ことに高齢になると身体機能の衰退に加えて精神機能が低下し心身医学的な保健, 医療, 福祉の対応が基盤として整備されていることが必要になり, 私たち日本心身医学会に期待されている. 中でも認知症への対応は喫緊の課題であり, 薬物療法や対応するケアそして一般市民への啓発活動を行って, 虚弱高齢者を含めた地域ではぬくもりのある絆を作っていくことが求められる. 認知症ケアの国際的な主流であるパーソンセンタードケアの実施, すなわち個別的な自分史を十分に理解し, その人らしさを尊重する支え方が大切になる. さらに認知症の当事者が自分の体験を語る機会が増えているが, 患者さんや利用者の想いを取り入れていくことや, 介護する家族らを支えていくことなど, 私たち心身医療者へのなすべき責務を痛感する次第である.