著者
渡部 雪子 新井 邦二郎 濱口 佳和
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.15-27, 2012 (Released:2013-01-16)
参考文献数
38
被引用文献数
1

本研究は, 親からの期待の受け止め方を測定する尺度を作成し, 期待を感じる程度を統制した上で期待の受け止め方と内的適応との関連を検討することであった。研究1において, 積極的受け止め, 負担的受け止め, 失望回避的受け止めを含む3因子構造から構成される親の期待に対する子どもの受け止め方尺度(受け止め方尺度)が作成された。中学生383名のデータを分析したところ, 一定の信頼性と妥当性が確認された。研究2では, 中学生312名を対象として質問紙を実施し, 期待を感じる程度および交互作用を統制した上で親の期待の受け止め方と適応の関連を階層的重回帰分析を用いて検討した。本研究の結果から, 期待を感じる程度よりも期待の受け止め方が内的適応に対する説明力が大きいことが示唆された。積極的受け止めは, 自己価値といった適応を促進することが示され, 負担的受け止めは, 不機嫌・怒り, 抑うつ・不安, 無気力, 身体反応を含むすべてのストレス反応を促進する事が示された。
著者
佐々木 正人 渡辺 章
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.182-190, 1984-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
24
被引用文献数
5 4

ほぼすべての日本人成人に観察される空書行動 (単語等の想起時の手指による書字類似行動・動作) が漢字文化に起源を持つとする仮説を検討するために, 日本と同一の漢字圏, そして非漢字圏からの留学生を対象として 5つの実験が行われた。結果は以下のようであった。1) 日本と同様に母国語の文字体系に漢字を有する中国語話者では, すべての者 (21名) に漢字課題解決時の空書の自発が観察された。2) 中国語を母国語とする者においては, 日本人成人に見られたと同様な空書行動の漢字問題解決促進効果が確認された (FIG. 1)。3) 3種の英単語課題 (単語綴り順唱, 逆唱, 欠落英単語完成課題) 事態で日本人 (83名) と非漢字圏からの留学生 (23名) を対象に空書行動の出現の有無が観察された, 結果, 英単語事態での空書の自発は, ほぼ日本人に限定しうることが明らかとなった (FIG. 4)。4) 英単語完成課題を用い空書行動の機能を日本人と非漢字圏で比較した。結果は空書の英単語想起効果は同事態で空書の出現した日本人のみに見られることを示した。非漢字圏では空書行動を求める手続は, むしろ妨害的ですらあった (FIG. 2)。5) 中国語を母国語とする者を対象とし, 3) と同様な英単語課題事態で空書の出現が観察された。彼等にも日本人同様にすべての課題で空書の自発が見られたが, その出現率には日本人と微妙な差異が見られた (FIG. 4)。以上の結果が空書行動の「漢字文化起源説」及び比較文化認知心理学との関連で議論された。また, 日本人の漢字圏における特殊性が指摘された。
著者
篠ヶ谷 圭太
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.256-267, 2008-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
31
被引用文献数
11 11

本研究では, 事前に教科書を読むという予習が授業理解に与える影響とその個人差について, 中学2年生を対象とした歴史授業を用いて実験的に検討した。また, 予習の効果の授業内プロセスについて検討を行うため, ノートのメモなどの授業中の学習方略に注目した。さらに本研究では, 予習が授業への興味に与える影響や, 予習時の質問生成の効果についても併せて検討した。予習群, 質問生成予習群, 復習群を設定した実験授業を行い, 予習-復習, 質問生成あり-なしの対比を用いて検定を行った結果, 予習は歴史の背景因果の理解に効果を持つことが示された。ただし, 学習観を個人差変数とした適性処遇交互作用 (ATI) の検討の結果, そのような予習の効果は学習者の意味理解志向の高さによって異なることが明らかになった。また, 学習方略に注目した授業内プロセスの検討の結果, 予習が授業理解に与える影響とその個人差は授業中のメモを媒介して生起することが示された。さらに本研究では, 予習は授業への興味を下げないことや, 予習時の質問生成には効果が見られないことが示された。
著者
外山 美樹
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.560-574, 2008-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
69
被引用文献数
2

近年の自己概念に関する研究では, 人が自己評価する際に用いる準拠枠の重要性が指摘されている。能力的には同様の生徒であっても, 個人が自分自身を評価する際に使う準拠枠によって, 異なった学業的自己概念が形成される。本稿では, 社会的比較という準拠枠を用いた学業的自己概念の形成, つまり Marsh (1987) が提唱した“井の中の蛙効果”に関する研究を概観する。Marsh (1987) は, 個人の学業水準をコントロールした場合, 学業的自己概念は学校やクラスの学業水準とは負の関係にあることを見いだし,“井の中の蛙効果”と呼ばれる概念を提唱した。これは, 同じ成績の生徒であっても, 良くできる生徒ばかりの学校あるいはクラスの中では, 優秀な生徒たちとの比較のために否定的な学業的自己概念を形成し, あまりできない生徒ばかりの学校やクラスの中では, レベルの低い生徒たちとの比較のために好ましい学業的自己概念を形成しやすいという現象のことである。本稿では, Marshが提唱した“井の中の蛙効果”について広く概観した後に,“井の中の蛙効果”研究についての問題点と今後の展望について述べていくことで,“井の中の蛙効果”に関する諸研究を統合的に検討することを目的とした。
著者
篠ヶ谷 圭太
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.197-208, 2014 (Released:2015-03-27)
参考文献数
16
被引用文献数
1 4

本研究では, 高校英語において, 教師が学習者の予習方略使用や授業内方略使用, そして, それらの関連に与える影響について検討を行った。まず予備調査を行い高校の英文解釈の授業における教師の授業方略を測定する質問紙を作成し, 985名の高校1年生および2年生, また, その英語の授業を担当している15名の教師を対象として本調査を行った。階層線形モデルを用いた分析の結果, 授業中に教師が単語の解説や生徒の指名を多く行うほど, 学習者は辞書を調べておく, 他の人に聞くといった方法で予習を行うことが示された。また, 単語の解説や指名が多いと, 学習者の授業中のメモも増加することが示された。さらに, 本研究では, 予習時に自分なりに単語や文の意味を推測しておく方略(推測方略)の効果が教師の行う授業によって異なることも示され, 教師が単語の意味の成り立ちについて詳しく解説することで, 予習時の推測方略が授業内の学習に促進的に機能することが示された。
著者
高田 利武
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.339-348, 1993-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
29
被引用文献数
3 14

In order to clarify the dominant mode of self-knowledge formation of Japanese college students, their favorite self-evaluative standards were compared with those of Japanese middle ages (Study I) and with American students (Study II). Thier individual difference were also examined (Study III). Respondents were asked to evaluate twelve aspects of their self-concept. They were then required to indicate what standards they used to evaluate themselves: (a) social comparison with similar others,(b) social comparison with dissimilar others, and (c) temporal comparison. In Study III, respondents also evaluated to what extent they agreed with an independent or interdependent construal of self (Markus & Kitayama, 1991). It was found that Japanese students used social comparison with similar others as standards more than middle ages (Study I) or American students (Study II), especially on the social and physical aspects of self-concept. The tendency that these aspects formed an undifferentiated cluster regarding the self-evaluative standard was dominant in Japanese students. Furthermore, these characteristics were found remarkably higher among those who strongly agreed with the interdependent construal of self (Study III).
著者
若松 養亮 大谷 宗啓 小西 佳矢
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.219-230, 2004-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
27
被引用文献数
3

本研究は, 小・中学生を対象に, 学習意欲と「現在の学習活動が自身の成功や幸福の実現のために有効であるとの認知」(学習の有効性認知) との関係について検討した。学習の有効性認知は,「学習内容や活動の意義や正統性を認める (a)」,「将来の職業や生活で役立つ (b)」,「進学や就職の試験で役立つ (c)」,「有効性を認めない (d)」という4カテゴリーを設定した。分析の結果, 小・中学生どちらにおいても,(1) 学習の有効性認知と学習意欲の間には正の関係があること,(2) 各カテゴリーの有効性認知を強く有する人を比較すると, a, b, c, dの順で学習意欲が高いこと,(3)「好きな教科の多少」で統制しても, 学習意欲は有効性認知a, b, c, dの順に高いこと, が明らかとなった。
著者
松田 修
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.52, pp.238-243, 2013 (Released:2013-10-30)
参考文献数
9
被引用文献数
1
著者
奥村 弥生
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.403-413, 2008-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
22
被引用文献数
5 8

人は, 自分の怒りを恥ずかしいと感じたり, 自分の悲しみを大切なものと思うなど, 自己の情動に対して評価を抱くことがある。このような「自己が経験した情動に対する肯定・否定の価値づけを伴う評価」について, 本研究では「情動への評価」として取り上げ, 大学生ら558名に質問紙調査を行って検討した。分析1で, 情動への評価を測定する尺度を作成し, 信頼性・妥当性の検討を行った。この情動への評価尺度は,「他者懸念」「必要性」「負担感」の3つの下位尺度から構成された。次に分析2で, 情動への評価と情動認識困難および情動言語化困難との関連について検討した。その結果, 情動への否定的評価 (「他者懸念」と「負担感」) は, 認識困難・言語化困難傾向と正の関連を持っていた。これにより, 情動への評価は, 情動がシグナルとして適応的に機能するか否かに重要な役割を担っていることが示唆された。
著者
山森 光陽
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.445-455, 2016 (Released:2017-02-01)
参考文献数
36
被引用文献数
2 4

本研究の目的は, 学級規模の大小によって児童の過去の学力と後続の学力との関係に違いが見られるかを検討することである。対象児童を小学校2年生, 対象教科を国語とし, 全国の公立小学校のうち単式学級が2以上ある学校に属する児童を母集団とした児童数の大きさに応じた確率比例抽出により抽出された調査対象校のうち, 国語の少人数指導を実施した学校9校を外した48校を分析対象とした。調査対象校の児童に対して調査期間中2回(7月と12月)の学力検査を実施し, 2回目の学力検査の正答数を目的変数, 1回目の学力検査の正答数と学級規模を説明変数とした階層的線形モデルによる分析を行った。その結果, 過去の学力が平均程度であった児童で比較すると, 小規模学級に在籍した児童の方が後続の学力が高いことが示唆された。
著者
植木 理恵
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.277-286, 2004-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
16
被引用文献数
5 5

本研究は,「自己モニタリング方略」の重要性および児童生徒への定着の困難さを問題として掲げ, これを解決するための介入方法の提案を目指したものである。一連の実験の結果,(1) 方略志向の学習観を促すだけでは自己モニタリング方略の使用には効果がないこと,(2) 方略知識を教授することによって, 自己モニタリング方略は一時的に使用されるようにはなるが, 教授後3ヵ月以上経過すると使用されなくなること, そして,(3) 方略知識と推論方略を併せて教授すれば, 7ヵ月後の時点においても自己モニタリング方略はよく記憶され使用され続けること, が明らかになった。
著者
帆足 喜与子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.65-74,126, 1961-08-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
17

要求水準とパーソナリティとの間に関係ありと認められた事柄は次のとおりである。(1) 安定感のあるものは, 成功すれば水準を上げ, 失敗すれば下げるというふうに適応的反応をする。(2) 失敗をまともにうけ入れるものも適応的反応をする。(3) 自分の地位に満足するものも適応的反応をする。(4) 妥協的, 協調的のものは場面によって設定態度を変化させる。(5) 競争心の強いものは目標を固執する傾向にある。(6) 本実験においては, 常にパーソナリティ評点のよいものの方がGDSが大きかった。個人について設定態度が比較的固定しているところから見ても, また特定のパーソナリティと特定の設定態度との関連性の存在から見ても, 要求水準には個性が相当にあらわれるといいうる。
著者
藤野 京子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.403-411, 2002-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
18
被引用文献数
1

少年鑑別所に入所中の221名の男子少年を対象に, 最近一緒にいる友人一人を思い浮かべさせ, その交友関係について調査した。まず, 大半の少年が, その交友について, 親をはじめとする周囲が認めており, 今後もその関係を断つつもりがないことが示された。その友人と一緒にいる理由については,「信頼・親和」,「被受容・被理解」,「不快回避」の3因子が抽出され, その友人との実際の付き合い方については, 「内面共有」,「防衛」,「享楽」,「独立」の4因子が抽出された。これらの回答結果からは, その交友関係が, うわべを取り繕ったその時その場限りのものではないことが示された。また, これらの因子間の関係を分析したところ, 「内面共有」には「被受容・被理解」及び「信頼・親和」が,「独立」には「信頼・親和」及び「不快回避」が影響を及ぼしていることが明らかにされた。加えて, それぞれの因子に, 非行少年自身の年齢, 非行歴, 加えて, 友人の非行歴がいかに影響を及ぼしているかについても検討した。
著者
田中 真理
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.193-205, 2013 (Released:2013-10-10)
参考文献数
30
被引用文献数
3

本研究は, 注意欠陥/多動性障害児・者(以下, AD/HD者)の自己認識について, 自分のパフォーマンスに影響を与えた要因をどのように自身がとらえているのかという原因帰属スタイルの様相に焦点をあてた研究動向について検討することを目的とした。原因帰属は自己統制感や効力感に関する自己認識のひとつの側面であり, 抑うつ状態などの二次障害への心理的支援において重要な知見を提供している。研究方法としては, 呈示された項目についてどのような原因帰属をするかを対象者自身が評定していく質問紙による調査と, 対象者がある課題を実際に遂行しそのパフォーマンスについて自分自身がどのような原因帰属をするかを評定する実験的調査とに分類された。原因帰属については統制性, 安定性, 特殊性, 内在性の複数の次元にわたり検討されており, 定型発達者との比較検討の結果, 児童・思春期のAD/HD者では, 失敗状況に対しては安定的・全体的および外在的原因帰属スタイルがみられ, 成人期では安定的・全体的・内在的な原因帰属スタイルがみられたことが共通して示された。最後に, AD/HD者にとっての適応的な原因帰属スタイルと学習性無力感との関連が議論された。