著者
対馬 忠 村山 正治 河合 隼雄 鐘 幹八郎 玉城 政光 水島 恵一 荻野 恒一
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.87-93,185, 1980-03-30 (Released:2012-12-11)

The term “human nature” should, according to the symposium organizer, imply both its positive side or humanitarian love, and negative side or aggression-destructive tendency, cruelty, and jealousy, etc. By recognizing human nature as such, we shall be able to have deeper insight and better understanding both on ourselves and other people.In the twentieth century, after the two World Wars, human nature has been discussed from the viewpoint of “war and peace”,but it should be discussed now in relation to the great development of technology as well as the social systems and its structures.The first speaker, M. Tatara mentioned from the point of view of psychoanalysis the malformation and recovery of human nature. He mainly stressed on Erikson's point of view, but pointed out the fact that the recovery also depended on social situations to some extents.The second speaker M. Murayama, a Rogerian introduced the characteristics of C. Rogers' point of view on human nature. The third speaker H. Kawai, a Jungian, grasped human nature with two opposite poles-logos and pathos-and at present he thinks that human nature should be broadly considered in relation to the highly developed technology. He believes that to understand human nature as a whole it should be based not only on organized logical approach, but also on phenomenological one faithful to facts.The fourth speaker, a Skinnerian, M. Tamaki introduced B. F. Skinner's theory on human nature. As Skinner's opinion was thorough going and stimulating though simple in a way, his talk aroused discussions in a heated atmosphere.The fifth speaker, K. Mizushima connected the above four speakers' talks rather systematically in relation to his own 200 clinical caces.The invited discussant, K. Ogino, a psychiatrist, put much emphasis on the importance of the unreasonable quality of human nature, and he was against Skinner.A question was asked by the audience on the relationship between dependence and Amae, and M. Tatara and H. Kawai were requested to answer.They answered that dependence and Amae had not exactly the same meaning, and in relation to this point, the difference between the concepts of ego in the West and Japan should be considered. Both felt further medication was necessary before well-matured answer could be given.
著者
神崎 真実 サトウ タツヤ
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.241-258, 2018-09-30 (Released:2018-11-02)
参考文献数
34
被引用文献数
4

本研究は,ボランティアと協働することで不登校者を受け入れてきた全日制高校Bで事例研究を行い,一次的援助サービスとしての学級復帰の支援体制について検討することを目的とした。B高校のオープンスペースで,ボランティアとしての参与観察を37回行い,生徒-教師-コーディネーター-ボランティア間の交流を記録し,各支援者の役割を分析した。結果,ボランティアは生徒の学習面,教師や親との関係,友人関係に関わり,中でも生徒同士の友人関係を支える役割を担っていた。コーディネーターは,ボランティアを支援者として位置づけ生徒の状況や支援目標を伝える役割と,支援者として位置づけず自分らしく関わってほしいことを伝える役割を担っていた。教員は,生徒の状況を見立て,授業参加とオープンスペースの滞在をめぐる調整を行っていた。こうした役割分担により,生徒はボランティアとともに様々な居方でオープンスペースに滞在し,多くは学級へ復帰した。結果をふまえ,各支援者の役割と一次的援助サービスとしての学級復帰について考察を行った。従来とは異なる学級復帰支援として,学内における生徒の多様な「居方」を保障する実践を示唆した。
著者
木村 優
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.464-479, 2010
被引用文献数
2

本研究の目的は, 授業における教師の感情経験と, 教職の専門性として説明されてきた認知や行動, さらに動機づけとの関連を検討することであった。高校教師10名に面接調査を実施し, グラウンデッド・セオリー・アプローチによるデータ分析を行った。その結果, 《感情の生起》という現象の中心概念が抽出され, (1) 教師は生徒の行為と自らが用いる授業方略に対して感情を経験し, (2) 状況により教師は異なる感情を混在して経験することが示された。そして, (3)教師が経験する感情の種類, 強さ, 対象によって, 《感情の生起》現象には, 心的報酬の即時的獲得, 認知の柔軟化・創造性の高まり, 悪循環, 反省と改善, 省察と軌道修正, という5つの過程が見出された。喜びや楽しさなどの快感情は教師の活力・動機づけを高めることで実践の改善に寄与し, さらに授業中では教師の集中を高めることで瞬間的な意識決定と創造的思考の展開を促進していた。一方, いらだちなどの不快感情は教師の身体的消耗や認知能力の低下を導くが, 苦しみや悔しさなどの自己意識感情は授業後の反省と授業中の省察に結びつき, 教師が実践を改善し, 即興的に授業を展開するのを可能にしていた。
著者
藤澤 伸介
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.158-167, 2003-03-30 (Released:2012-12-11)
参考文献数
52

1999年後半から,「学力低下」が国民的関心事となった。学習指導要領の改訂と関連して, 初めのうちは「ゆとり教育推進派」対「基礎学力徹底派」の対立として議論が展開しそうになったが, 教育心理学者の働きかけもあり, 現在は比較的多面的な認識が世論の主流を占めているように見える。教育心理学の立場からは, これまで教育観に含まれる誤概念が数々指摘されており, これが日本の教育を変質させて学習の質的低下を招き, 学力が低下してきている可能性を見てとることができる。そこでは, 自己を成長させるはずの学習が単なる「労役」と化し, 学習者に意義の感じられないものとなり, 学びからの逃走が発生しているのである。教育心理学の「実践化」の動きとして, 学習の質的向上への働きかけが直接学習者になされ, 教育の質的向上を目指した試みが教員養成活動としてなされている。その他学校への働きかけまで含めると, 教育心理学の「実践化」は加速している。
著者
平井 美佳
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.462-472, 2000-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
53
被引用文献数
2 1

本研究は, 人が“自己”と“他者”の両者の利益にともに配慮しながら, 状況に応じた自他の調整を行うプロセスを実験的に明らかにすることを目的とした。状況の規定要因として, 問題になる他者の種類と問題の深刻度の2要因を扱った。自己と他者の要求が葛藤する3種類の他者 (家族友人, その他の集団) と3水準の問題の深刻度 (レベル1; 低, レベル2; 中, レベル3; 高) に属す9つ [=3 (他者)×3 (水準)] のジレンマ課題を作成した。大学生63名 (男子29名, 女子34名, 18-23歳) を対象として, 各場面について「もし私だったらどうするか」について推論するプロセスを発話思考法によって検討した。その結果, 主に次の3点が明らかとなった。第1に, 推論のプロセスにおいて自己と他者の両者がともに配慮されること, 第2に, ジレンマに関わる他者別に見ると, 家族とのジレンマにおいては自己を優先させる傾向が強く, 友人およびその他の集団との葛藤においては相手を優先させる傾向があること, 第3に, 問題が深刻になるほど自己を優先させ, 問題が深刻でないほど他者を優先させる傾向があることであった。これらの結果から, 状況に応じた自己と他者の調整プロセスについて論じ, さらに, 研究方法と文化差についての理論の問題についても言及した。
著者
宇佐美 慧
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.163-175, 2010 (Released:2012-03-27)
参考文献数
51
被引用文献数
5 7

小論文試験や面接試験, パフォーマンステストなどに基づく能力評価には, 採点者ごとの評価点の甘さ辛さやその散らばりの程度, 日間変動といった採点者側のバイアス, および受験者への期待効果, 採点の順序効果, 文字の美醜効果などの受験者側のバイアス要因の双方が影響することが知られている。本論文ではMuraki(1992)の一般化部分採点モデルを応用して, 能力評価データにおけるこれら2種類のバイアス要因の影響を同時に評価するための多値型項目反応モデルを提案した。また, 母数の推定については, MCMC法(Markov Chain Monte Carlo method)に基づくアルゴリズムを利用し, その導出も行った。シミュレーション実験における母数の推定値の収束結果から推定方法の妥当性を確認し, さらに高校生が回答した実際の小論文評価データ(受験者303名, 採点者4名)を用いて, 本論文で提案した多値型項目反応モデルの適用例を示した。
著者
池田 琴恵 池田 満
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.162-180, 2018-06-30 (Released:2018-08-10)
参考文献数
34
被引用文献数
5

本研究では,学校評価は管理職が行うものと考えていた校長の意識が,学校全体で実施しようという意識へと変容する過程,および意識変容を促進する専門家の支援のあり方について検討した。本研究の実践では,協働的で自律的な実践活動を支えるエンパワーメント評価アプローチのツールであるGetting To OutcomesTM (GTOTM)1に基づき,日本の学校評価用に開発された学校評価GTOの導入を試みた。複線径路等至性モデルを用いた分析の結果,学校評価GTOを実施することで,(a)目標設定,実践計画,評価実施までを事前に準備することができ,学校評価の改善が可能であるという気づき,(b)学校全体での取り組みを試みる中で校長自身の学校運営に対する統制感の獲得といった意識変容の過程を経て,学校全体での実施という意識に至ることが示された。さらに校長の意識変容を促すために,校長の問題意識がない場合には導入の必要性を検討し,年度途中での運用上の修正が可能な提案,校長自身が学校教育計画や学校評価報告書に統制感を持つための支援,全校実施をイメージできるような実践ツールの提供,学校の特色に応じて実効性のあるツールへと改良するといった,専門家による支援の重要性が示された。
著者
下山 晴彦
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.350-363, 1996-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
153
被引用文献数
2 2

The term “Student Apathy” was originally proposed in US to describe the male university students who continued to avoid confronting their conflicts. However, it has been studied and conceptualized only in Japan. The primary purpose of this paper was to review the studies on the disorder of Student Apathy and make clear the points of controversy. At first, the trends in conceptualizations were considered from an historical point of view. It was found that the concepts suggested thus far, were so various that it was difficult to categorize the disorder as a clinical entity. Next, the studies were examined from a psychopathological and developmental point of view. It was suggested that the disorder level should be shifted from neurotic to personality disorder and the integrated concept should be formed to distinguish it from generally apathetic tendency found in adolescence in Japan, which should be searched as a background of Student Apathy.
著者
宇佐美 慧 名越 斉子 肥田野 直 菊池 けい子 服部 由起子 松田 祥子 斉藤 佐和子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.278-294, 2011 (Released:2012-03-27)
参考文献数
27

発達障害・知的障害のある子どもたちに対して適切な支援を行う上で, 社会適応上必要なスキルを安定的かつ多面的に測定する検査の開発が求められている。そこで, 本研究では, 社会適応スキル検査の作成を試みた。まず予備調査では, 項目内容や採点法の適否等に関する検討を行い, また定型発達群(N=959)の標本をもとに各項目の困難度, 内的整合性の検討を行った。その結果を踏まえて, 本調査では, 特別な教育的ニーズのある群(N=560)と定型発達群(N=2,027)の標本をもとに, 各項目の内的整合性の再評価や因子分析モデルに基づく妥当性検証を行った。その結果, 検査の下位スキルとして設定した「言語スキル」, 「日常生活スキル」, 「社会生活スキル」, 「対人関係スキル」において実用上十分な内的整合性が認められ, また一因子性の観点から下位項目の因子的妥当性も確認された。また, 実用上の観点から, パーセンタイルに基づく社会適応スキル指数の算出や, 水平線表示を利用した個人内評価の方法についても検討を行った。最後に, 本検査を適用したADHDの子どもの一事例を通して本検査の臨床的有用性を考察した。