著者
福田 麻莉
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.346-360, 2017 (Released:2018-02-21)
参考文献数
33
被引用文献数
4

本研究では, 家庭学習でのつまずき場面における, 数学の教科書・参考書の利用量・利用の質に対し, 教科書観, 有効性の認知, コスト感, 学習観ならびに, 授業中の教師による教科書・参考書の使用の程度が及ぼす影響を検討した。中学生・高校生1,850名を対象に質問紙調査を実施し, 仮説に基づき構成したモデルを用いて多母集団同時分析を行った。その結果, 中学生・高校生集団ともに, 教師が授業中に教科書を積極的に使用していると生徒が認識しているほど, 「教科書・参考書は家庭学習でも利用する道具である」という教科書観を抱いていること, また, そうした教科書観が有効性の認知, コスト感を介して, 教科書・参考書の利用量および自律的な利用方法にポジティブな影響を及ぼしていることが明らかとなった。以上の結果から, 数学の授業において, 教師が教科書・参考書を 積極的に使用することの重要性が示された。ただし, 有効性の認知と依存的な利用方法との間にも正の関連が示されたことから, 質を高めるためには更なる工夫が必要であることが示唆された。
著者
濱口 佳和 石川 満佐育 三重野 祥子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.393-406, 2009 (Released:2012-02-29)
参考文献数
29
被引用文献数
4 6

本研究は, 中学生の反応的攻撃性と能動的攻撃性の因子構造を明らかにするとともに, これらの攻撃性と反社会的行動欲求および抑うつ傾向との関連性を明らかにするために行われた。濱口(2004, 2005)が開発した中学生用の反応的攻撃性尺度と能動的攻撃性尺度, CES-D(抑うつ尺度), 14の反社会的行動欲求項目が, 中学生男女603名を対象に実施された。検証的因子分析の結果, 反応的攻撃性, 支配的能動的攻撃性, 利己的能動的攻撃性の斜交3因子モデルが最適であることが明らかにされた。また, 抑うつ傾向には男女とも反応的攻撃性が有意な関連を示したのに対して, 能動的攻撃性は有意な関連を示さないこと, 反社会的行動欲求には男子では3種類の攻撃性のすべてが, 女子では支配的能動的攻撃性のみが有意な関連を示すことが明らかにされた。反応的攻撃性と能動的攻撃性が中学生の心理社会的適応に異なる役割を果たすこと, 3種類の攻撃性の相互相関や, これらの攻撃性と反社会的行動欲求との関連について性差が存在することが示された。また, 従来指摘されていた青年の行為障害と大うつ病性障害の併存率が, 反応的攻撃性によってもたらされる可能性があることが指摘された。

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著者
内田 伸子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.162-177, 1986-03-30 (Released:2012-12-11)
参考文献数
71
被引用文献数
2 1
著者
及川 昌典
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.504-515, 2005-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
48
被引用文献数
6 2

近年の目標研究によって, 意識的な目標追求と非意識的な目標追求は, 同じような特徴や効果を持つことが明らかになっている。しかし, これら2つの目標追求が, どのような状況で, どのように異なるのかは明らかではない。本研究は, 抑制のパラダイムを用いて, 教示による意識的抑制と, 平等主義関連語をプライミングすることによる非意識的抑制との相違点を明らかにするために行われた。実験1では, 非意識的に行われる抑制においては, 意識的に行われる抑制に伴う弊害である抑制の逆説的効果が生じないことが示された。教示により外国人ステレオタイプの記述を避けた群は, 後続の課題で, かえってステレオタイプに即した印象形成を行うのに対し, 非意識的に抑制を行った群では, そのような印象形成は見られなかった。実験2では, 非意識的な抑制は, 意識的な抑制よりも効率的との想定を基に, 相対的に抑制に制御資源が消費されないだろうと予測された。抑制後に行われた自己評定においては, 意識的抑制群においてのみ, 強い疲弊感が報告されていたが, 後続のアナグラム課題においては, 意識的抑制群も非意識的抑制群も同様に課題遂行が阻害されており, 両群において消費される資源量には違いがないことが示された。抑制意図と行動, それに伴う意識の関係について論じる。
著者
平田 祐太朗
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.48-62, 2015-03-30 (Released:2015-08-22)
参考文献数
25
被引用文献数
5 5

本研究は, 発達障害児童の保護者・教員間の協働を支えるスクールカウンセラー(以下, SCと略記)のアプローチについて明らかにすることを目的として行われた。17名のSCへ半構造化面接を行い, その中から得られた30の事例に関するインタビューデータを, グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析を行った。分析のステップは大きく4つに分かれ, その結果, 5つの仮説的知見とモデルを生成した。これらの仮説的知見・モデルに考察を加えたところ, SCのアプローチは多面的な見立てに基づく, 保護者・担任双方への関わりを通して,保護者と担任教師のつなぎを行い子どもの成長を一緒に考えることを目指していた。さらにその関わりは保護者・担任それぞれに対する関わりだけではなくそれらが相互に影響し合う包括的な関わりであった。また保護者への関わりは『保護者のニーズの汲み上げ』『保護者の後押し』『保護者の揺れへの寄り添い』の3つ, 担任への関わりは『担任のバックアップ』『他機関利用に関する担任への助言』の2つで構成されていた。保護者・担任間のつなぎはコミュニケーション, 子ども理解, 両者の想いの3つに整理された。また本研究の課題としてSCの語りから得られた限定的なモデルであるという点, さらに一般化の問題が挙げられた。
著者
川井 栄治 吉田 寿夫 宮元 博章 山中 一英
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.112-123, 2006-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
13
被引用文献数
6 3

ネガティブな事象に対する認知パタンが自己否定的なものに固定化し, それに伴って自己効力感やセルフ・エスティームが低下することを防ぐための授業を考案して, それを小学校高学年の児童に対して学級単位で実施し, その効果について多面的な検討を行った。実験計画はプリポスト・デザインとポストオンリー・デザインを併用した統制群法であり, 自己否定的な認知パタンを固定化させないようにすることの必要性について説明したうえで, 実際にそのための授業を行う実験群と, 前者の説明のみを行う統制群を設けた。得られたデータを分析した結果, 実験群の児童の方が統制群の児童よりも, 自己否定的な認知パタンを否定する方向の信念を抱くようになっているとともに, 自己効力感とセルフ・エスティームが高まっていることが示された。また, このような効果の持続性および日常への般化の存在も示された。
著者
中島 由佳 無藤 隆
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.403-413, 2007-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
43
被引用文献数
1 1

本研究は, 就職活動におけるキャリア志向, 就職活動プロセス, 就職達成の関係についての検討を試みた。先行研究に基づいて仮説モデルを構築し, 女子学生394名 (短大2年生222名, 大学4年生172名) を対象とした質問紙調査を行った。キャリア志向として挑戦・対人志向, 就職活動中の意思・認知として選択的・補償的2次コントロール, 求職行動として選択的・補償的1次コントロールがモデルを構成する概念として使用された。構造方程式モデリングの結果, 就職への意思である選択2次の媒介因としての働きが明らかとなった。両キャリア志向は選択2次を介して選択1次・補償2次の求職行動に寄与しており, 特に対人志向は, 選択2次に媒介されてのみ直接的な求職行動である選択1次に寄与していた。また, 選択1次が就職の達成に寄与する一方, サポート希求などを含む補償1次は就職達成に負の影響を持つことが示された。しかし補償1次はまた, 選択1次を高める働きも見せた。短大生と大学生との間には, 各変数間の関係における有意な相違は見られなかった。キャリア志向とともに, 媒介因としての選択2次を高めるような援助を学生に行うことの重要性が, 本研究からは示唆された。
著者
岡田 佳子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.193-203, 2002-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
27
被引用文献数
5 1

本研究は, 中学生の心理的ストレス・プロセスにおける二次的反応の生起について検討することを目的とした。540名の中学生を対象として, 学校ストレッサー, 一次的反応としての情動反応, 二次的反応と仮定される, 引きこもり, 依存, 対人不信, 自信喪失, 無気力, 絶望, 攻撃の7カテゴリーの反応について調査を行った。二次的反応と仮定された7カテゴリーの反応をとらえるために使用した項目について探索的因子分析を行った結果,「攻撃」,「引きこもり」,「無気力」,「依存」の4因子が得られた。これらが, 学校ストレッサーやそれによって引き起こされた情動反応といかなる関係にあるのかを検討するために, 学校ストレッサーから情動反応を経て,「攻撃」,「引きこもり」,「無気力」,「依存」反応に至るモデルを共分散構造分析によって分析した。結果は「攻撃」,「引きこもり」,「無気力」,「依存」反応は情動反応が高まってはじめて生起する二次的反応であるとする仮説に反しないものであった。また, 同じ二次的反応であっても, その種類によって生起パターンが異なることが分かった。
著者
日下 菜穂子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.16-29, 2015-06-30 (Released:2015-08-25)
参考文献数
93
被引用文献数
2 4

本稿では,2013年7月から2014年6月までの期間に,日本において発表された青年期・成人期・老年期の発達研究を概観したものである。1年間の研究は,認知・知能に関する発達研究,自己・自我の発達に関する研究,社会的行動・関わりの発達研究,進路・キャリア・社会参加の5つのテーマに分類した。この1年に,認知・知的機能に関する領域を中心に,青年から老年までの成人期全般にわたる幅広い年齢を対象とした研究が報告されていた。年齢的変化を検討する研究に加えて,個人の発達の過程を他者の発達と関連づけた研究や,文化や社会との相互作用に注目する生涯発達的視点からの研究も活発に行われていた。1年間の発達研究には,臨床や教育の場における実践的な応用を念頭におく研究が目立ち,臨床実践から研究への示唆を含む研究も見られた。発達研究の概観を通して最後に,発達の基礎研究と臨床実践との間の往還的関係の重要性について論じた。
著者
松尾 直博
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.165-182, 2016

日本の道徳教育は大きな転換点を迎えようとしている。小中学校において, 今まで領域とされていた道徳の授業が, 「特別の教科 道徳」として教科として位置付けられ小学校では平成30年度(2018年度), 中学校では平成31年度(2019年度)から実施されることとなった。道徳教育, 道徳科の授業の目標が明確化され, 効果的な授業についてもより開発の必要性が高まっている。近年日本で行われた道徳性や道徳教育に関わる研究を概観しつつ, その知見が道徳教育にどのように貢献できるかについて考察を行った。その結果, 道徳的判断, 子どもの道徳性の経年比較, 感情が道徳的認知に及ぼす影響, 共感, 海外の道徳教育, 道徳の授業実践に関する研究などが行われており, そのような研究の道徳教育への応用可能性について考察した。今後の展望として, さらなる基礎, 授業に関する実践研究などの必要性が述べられた。
著者
吉澤 寛之 吉田 琢哉 原田 知佳 浅野 良輔 玉井 颯一 吉田 俊和
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.281-294, 2017 (Released:2017-09-29)
参考文献数
26
被引用文献数
6

先行研究においては, 養育者の養育や子どもの養育行動の認知が適応的側面と不適応的側面という両方の社会的情報処理を媒介して反社会的行動を予測するメカニズムが検討されていない。本研究では, 養育者の養育態度は実際の養育行動として表出され, 子どもがこうした行動を認知することで養育者の養育態度に関するイメージを表象し, その表象が適応的, 不適応的な社会的情報処理を介して反社会的行動に影響するとする仮説を検証した。中学校1校の327名の中学生(1年生193名, 2年生79名, 3年生55名)とその養育者(母親303名, 父親19名, その他5名), 大学2校の471名の大学生とその養育者(母親422名, 父親40名, その他9名)からペアデータが収集された。子どもと養育者は, 子どもが幼少期の頃の養育としつけについて回答した。子どもからは, 社会的ルールと, 認知的歪曲や規範的攻撃信念による反社会的認知バイアスについても測定された。大学生は高校時代の反社会的行動の過去経験を報告した。構造方程式モデリングを用いた分析により, 中学生と大学生のサンプルの両方で本研究の仮説モデルに整合する結果が得られた。本知見から, 養育者は自らの養育行動が意図した通りに正しく子どもに認知されているか確認する必要性が推奨された。
著者
一二三 朋子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.490-500, 1999-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
20
被引用文献数
2 1

本稿の目的は, 日本語非母語話者との会話における, 母語話者の言語的処理及び内的処理の特徴を明らかにし, その関連を検討することである。母語話者同士, 母語話者・非母語話者を, 2人1組とし, 2つの話題で行わせた会話の録音資料と母語話者に対し行った質問紙調査を分析する。録音資料をカテゴリーに分類し, 出現頻度を換算, 対話者×目的の2要因分散分析を行った結果, 対話者が非母語話者のとき'情報要求と意味交渉, 母語話者のとき情報提供, 意見, 評価が, 有意に出現頻度が高かった。質問紙調査結果を分散分析した結果, 対話者が非母語話者のとき主導的役割の必要性, 母語話者のとき会話を楽しむ気持ちが, 有意に高く認知されていた。また, 会話中の配慮に関する因子の因子得点を分散分析した結果, 対話者が非母語話者のとき会話を円滑に進める配慮, 母語話者のとき自己表現を積極的に行う配慮が, 有意に高かった。最後に, 相手及び自己の発話カテゴリー, 質問紙評定値, 因子得点を用い重回帰分析を行った結果, 相手の情報要求, 評価, 相槌と内的処理, 相手の日本語レベル, 親密度と自己の発話との関連が明らかになった。
著者
石川 信一 岩永 三智子 山下 文大 佐藤 寛 佐藤 正二
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.372-384, 2010-09-30 (Released:2012-03-07)
参考文献数
34
被引用文献数
3 8

本研究の目的は, 小学校3年生を対象とした集団社会的スキル訓練(集団SST)の実施による進級後の抑うつ症状への効果を検討することであった。本研究では, ウェイティングリストコントロールデザインが採用された。対象児童は, 先に集団SSTを実施する群(SST群114名)と, SST群の介入終了後, 同一の介入がなされるウェイティングリスト群(WL群75名)に割り付けられた。集団SSTは, 学級単位で実施され, 上手な聞き方, あたたかい言葉かけ, 上手な頼み方, 上手な断り方, 教師に対するスキルの全5回(1回45分)から構成された。加えて, 獲得された社会的スキルの維持促進の手続きとして, 終了後に集団SSTのポイントが記述された下敷きを配布し, 進級後には教室内でのポイントの掲示, ワンポイントセッション, ブースターセッションといった手続きが採用された。その結果, SST群とWL群において, 訓練直後に社会的スキルの上昇がみられ, 進級後もその効果が維持されていることが示された。さらに, 訓練群とWL群は, 1年後の抑うつ症状が有意に低減していることが示された。以上の結果を踏まえ, 早期の抑うつ予防における集団SSTの有効性と有用性に加え, 今後の課題について議論がなされた。