著者
三保 仁
出版者
一般社団法人 日本総合健診医学会
雑誌
総合健診 (ISSN:13470086)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.370-376, 2019-05-10 (Released:2019-08-01)
参考文献数
5

スクーバダイビングは、水中という高気圧環境下で行われる特殊な活動であるため、健康適正基準が特殊なものになる。本邦には、世界的な基準であるRecreational Scuba Training Councilに基づき、日本高気圧環境・潜水医学会が作成した「ダイバーのためのメディカルチェック・ガイドライン」が存在する。ダイバーの検診項目は、このガイドラインを満たすものであるかどうかで個々に決定される。まず、ダイバーは健康問診票を記入し、該当項目がない場合には一般的な検診を行うに留まるが、該当項目がある場合には、追加検診項目をガイドラインを参考にしながら決定してゆく。ガイドラインの内容は多岐広範囲にわたるため、本論文では、一般的なスポーツでは問題にならない疾患や病態が、潜水活動では重大な障害をもたらし、誤判断を招きやすい疾患群を抜粋して解説する。神経系では、意識障害および失神発作を起こしうる病態は潜水禁忌である。特にてんかんは死亡事故が多い。循環器系では、9METSの運動能力があること、心臓シャントがないこと、高血圧症では指定の薬剤のみで良好にコントロールされていることが必要である。呼吸器系では、肺の空洞性病変がないこと、喘息のコントロールがガイドラインを満たしていること、気胸病歴がないことが求められる。消化器系では、嘔吐する可能性がある疾患は潜水禁忌である。血液疾患では、出血傾向および血液が高粘調度な病態では潜水不可である。内分泌系では、糖尿病は投薬が必要な状態では潜水不可である。また、高気圧環境下特有の疾患である減圧障害を知ることは、ダイバーの検診および診断の一助になる。これには、減圧症(Decompression sickness)と動脈ガス塞栓症(Arterial Gas Embolism)があり、浮上中の減圧時に発症する特殊な疾患である。
著者
澤村 貫太 岡本 永佳 浅川 徹也 水野(松本) 由子
出版者
一般社団法人 日本総合健診医学会
雑誌
総合健診 (ISSN:13470086)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.253-258, 2013 (Released:2013-11-01)
参考文献数
18

幼少期の親子関係において良好な関係を築けなかった人は、青年期において人間関係構築の困難や精神疾患を引き起こす可能性が示唆される。そこで、健常成人87名を対象に内的作業モデル尺度(Internal Working Model: IWM)、気分プロフィール検査(Profile of Mood States: POMS)とCornell Medical Index(CMI)を用いて、青年期の親子関係と気分状態・心身状態を調べることを目的とした。IWMを用いて安定型、回避型、アンビバレント型の得点を被検者ごとに求めた。さらに、各被検者の得点のうち最も高値を示した型に基づいて、被検者を安定群、回避群、アンビバレント群に分類した。3群におけるIWMとPOMS、CMIの関連を統計的に比較した。IWMとPOMSを比較した結果、安定群は気分状態が安定していた。アンビバレント群はネガティブな気分状態が高値を示した。回避群では有意な特徴はみられなかった。IWMとCMIを比較した結果、安定群の心身状態は健康であった。回避群は身体的自覚症が高値を示した。アンビバレント群は精神的自覚症が高値を示した。今回の結果より、安定群はストレスに対する抵抗性が高く情緒的に安定していると考えられた。回避群は心理的苦痛を身体症状に転換し逃避するために、身体的自覚症状が顕著にみられると考えられた。アンビバレント群は自己不全感が強く、愛着反応に対して強いストレスを感じており、ストレスに対する脆弱性が高くなることで精神的自覚症が顕著にみられたと考えられた。これらのことより、親子関係と青年期の気分状態や心身状態が関連していることが示された。青年期における不適切な愛着関係を早期発見、修正することで精神疾患を予防することができることが示唆された。
著者
安田 万里子 中川 一美 中川 高志 鈴木 絢子 髙橋 麻美 梶川 歩美 西舘 美音子 野老 由美子 松澤 範子 齋藤 晃 森山 優
出版者
一般社団法人 日本総合健診医学会
雑誌
日健診誌 (ISSN:13470086)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.385-391, 2015
被引用文献数
3

日本では、禁煙治療として2006年からニコチン依存管理料が保険適用となり、2008年から禁煙補助薬であるバレニクリン(チャンピックス)が保険適用となった。喫煙率低下に向け、禁煙治療も大きく影響しており、定期的な禁煙治療の評価を行い、有効な禁煙治療を行っていく必要がある。今回我々は、2009年10月1日から2012年3月31日までに禁煙外来にて治療を行った130名(男性97名、女性33名)を対象に、禁煙成功群と禁煙失敗群に分類し、年齢、性別、ブリンクマン指数、TDS、初診時CO濃度値について両者の差異を比較した。有意差が認められたものはブリンクマン指数のみであり、禁煙成功群の方が高い値となった。<br> また、禁煙治療の5回受診を完了した者(5回通院者)は、禁煙成功群93名のうち69名であり、禁煙失敗群では、37名のうち5名であった。禁煙成功率と通院中断の有無に有意差が認められ、禁煙治療5回のプログラムを最後まで通院することが、禁煙の成功を有意に高めていた。<br> 禁煙成功群を対象にし、計5回の禁煙治療終了時点で4週間以上の禁煙に成功している者を完全成功群と定義し、計5回の禁煙治療を中止した者のうち、中断時期から4週間以上の禁煙に成功している者を中断成功群と定義した。禁煙成功群93名のうち、完全成功群は69名、中断成功群は24名であった。完全成功群と中断成功群の1年後の禁煙継続率は完全成功群が73.1%に対し、中断成功群は65.2%であったが、これらの有意差は認められなかった。しかし、2年後の禁煙継続率を見ると、完全成功群が51.1%、中断成功群は31.7%であり、長期的に見ると完全成功群の方が高い値であった。<br> これらのことから、禁煙治療プログラム5回全てに来院することが禁煙治療成功に繋がりやすく、また、長期的な禁煙継続にも影響していると考えられた。
著者
三浦 克之
出版者
一般社団法人 日本総合健診医学会
雑誌
総合健診 (ISSN:13470086)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.280-286, 2015 (Released:2015-05-01)
参考文献数
9

多くの人口ベースの疫学調査において明らかなように人間集団の血圧値の分布はほぼ正規分布を示す。また、集団における血圧の分布は、地域によって大きく異なりまた時代によって大きく変動するものであり、広い意味で集団の栄養状態を示す生体指標(バイオマーカー)と言える。一方で、成人の血圧値はその後の循環器疾患リスク(脳卒中と心疾患の発症や死亡)と強い関連を示すことが国内外の多くの疫学研究(前向きコホート研究)で明らかにされ、確立した循環器疾患の「危険因子」となっている。関連は、血圧の低い方から高い方に向けて連続的・対数直線的な量・反応関係を示し、閾値は認められない。したがって、「高血圧」の定義は人為的なものであり、また、コホート研究で明らかになった将来の循環器疾患リスクの高さによって決定されている。以上の観点からすれば、集団の血圧値の分布する範囲によって「正常値」を決めることはできない。国際的に見ると高血圧の定義は低い方にシフトし、現在ほぼ世界共通に140/90mmHg以上が「高血圧」と定義されている。現在、日本高血圧学会や欧州高血圧学会の高血圧治療ガイドラインでは、「至適血圧(optimal)」「正常血圧(normal)」「正常高値血圧(high-normal)」「高血圧(hypertension)」という分類が用いられている。「高血圧」の基準は、即、薬物治療開始の基準ではない。至適血圧を超える全ての人に、まず生活習慣修正による血圧低下を促すための基準であることも確認したい。2014年に日本人間ドック学会が発表した血圧の「基準範囲」は、その設定方法に多くの問題点と誤謬があり、即刻撤回すべきものである。
著者
島津 明人
出版者
一般社団法人 日本総合健診医学会
雑誌
総合健診 (ISSN:13470086)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.320-325, 2016 (Released:2016-05-01)
参考文献数
17
被引用文献数
1

本論文は、近年、新しく紹介されたワーク・エンゲイジメント(仕事に関して肯定的で充実した感情および態度)について概観したものである。最初に、エンゲイジメントが、活力、熱意、没頭から構成される概念であることを定義したうえで、先行要因と結果要因について言及した。すなわち、ワーク・エンゲイジメントは、仕事の資源(自律性、上司のコーチング、パフォーマンスのフィードバックなど)や個人の資源(楽観性、自己効力感、自尊心など)によって予測されるとともに、心身の健康、組織行動、パフォーマンスを予測することができる。次に、ワーク・エンゲイジメントに注目した組織と個人の活性化の方策について言及した。最後に、組織の活性化に向けたストレスチェック制度の戦略的活用について言及した。
著者
新井 俊彦
出版者
一般社団法人 日本総合健診医学会
雑誌
総合健診 (ISSN:13470086)
巻号頁・発行日
vol.33, no.6, pp.564-578, 2006

各種肥満度の指標と健康度の指標である生理学的・生化学的・血液学的検査値の相関を調べ, 相互の指標間の関係を明らかにすることを試みた。40歳から60歳まで男女85名の身体計測値, 体脂肪率, CTによる体脂肪分布値, 体組成解析値, 代謝解析値および臨床検査値を求めて, Microsoft Excelに記録し, 各指標値の相関係数を求めて, 各指標問の関係を考察した。中性脂肪が内臓脂肪の蓄積を起こし, インスリンは皮下・内臓いずれの脂肪も同等に増やすことが示された。男性では別の要因が関与するために明かではないが, 女性では, 内臓脂肪の増加が肝障害を起こすこと, 皮下脂肪の増加が腎機能の低下の原因になっていること, 血糖値の増加は内臓脂肪のみの増加を起こすことが分かった。簡易な肥満の指標とされているウエスト, ウエスト/ヒップおよびウエスト/身長ではウエストが最も良く脂肪量と相関するが, 皮下脂肪量を最も良く反映して, 内臓脂肪を良く反映する指標ではないことが分かった。エネルギー代謝率および消費カロリーは脂肪量とは相関せず, 体重とのみ相関し, 消費されるものが脂肪か炭水化物かは無関係であることが分かった。血圧も男性では別の要因に隠されて明かではないが, 内臓脂肪量の増加は血圧を上昇させ, 皮下脂肪量の増加は低下させる効果があることが示唆された。LDLコレステロールが最も相関したのはbody mass indexであった。
著者
光宗 皇彦 松尾 和美 藤原 武 光宗 泉 赤木 公成 妹尾 悦雄 萱嶋 英三 安達 倫文 沼田 尹典 原 義人
出版者
一般社団法人 日本総合健診医学会
雑誌
日本総合健診医学会誌 (ISSN:09111840)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.367-371, 2000-12-30 (Released:2010-09-09)
参考文献数
13
被引用文献数
1

飲酒指導において, アルコールの1日量の減量や休肝日の設置を勧めるのが一般的であるが, 今回, 両者を統合した1週間の総飲酒量 (以下, 酒週量) の有用性について検討した。対象は, 人間ドック受診者14, 379名のうち, 腹部超音波検査により脂肪肝および胆石がなく, HBs抗原陰性, HCV抗体陰性であり, また肝疾患で治療中の者を除く1, 859名 (男性1, 296名, 平均年齢49.1歳±8.7歳, 女性563名, 平均年齢46.3±8.6歳) 。γ-GTPを肝機能異常の指標として, アルコールの1日量, 飲酒頻度, 酒週量との関係について, オッズ比, 相関係数等を用いて分析した。1週間に10合を超える飲酒群における肝機能異常のオッズ比は7.63 (95%信頼区間 (CI) 5.26~11.11) と高く, 1日2合超の飲酒群 (オッズ比6.41: 95%CI4.13~10.00) , 毎日飲酒群 (オッズ比5.10: 95%CI3.47~7.46) より高い傾向がみられた。γ-GTPと酒週量およびアルコール1日量, 飲酒頻度との相関係数 (γ) は, それぞれγ=0.423および0.400, 0.325であり, 酒週量がγ-GTPと一番の相関性を示した。1週間に10合以下ではあるが, 休肝日がないかあるいは1日2合を超えて飲んでいる群と, 1週間に10合を超えるが, 1日2合以下かつ休肝日も設けている群との比較では, 前者の方が, 1%以下の有意差をもってγ-GTPが低かった。γ-GTPは用量依存性に増加するので, たとえ休肝日を設けても, 総飲酒量が多ければ肝機能が悪化する可能性が高くなるので注意を要する。飲酒指導を行う場合, すべてにおいて制限を加えるのではなく, 1週間に10合以下と妥当な線を明示し, 「1日2合なら休肝日が2日必要ですが, 1合なら毎日飲めますよ。」などと具体的な数字を用いることにより, 受診者のquality of lifeを維持でき, しかも効果的ではないかと考える。
著者
川端 秀仁 角南 祐子 千葉 幸惠 麻薙 薫 村田 陽稔 柳堀 朗子 片桐 克美 鈴木 公典 藤澤 武彦
出版者
一般社団法人 日本総合健診医学会
雑誌
総合健診 (ISSN:13470086)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.387-397, 2017 (Released:2017-05-01)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

【目的】日本人の中途失明原因の第一位は緑内障であり、多くは正常眼圧緑内障と言われている。日本緑内障学会で行った疫学調査(多治見スタディ)によると、40歳以上の日本人の5%が緑内障でありうち72%が正常眼圧緑内障と報告されている。しかし、緑内障発見に有効である眼底検査は、2008年度以降の特定健康診査では、ごく限られた対象者にしか実施されていない。 近年安価で、小型軽量な簡易視野計(Frequency Doubling Technology Screener; FDT)が開発されたため、成人眼検診として出張検診で眼底検査とFDT検査を併用した場合の効果と有用性の検証を行った。【方法】2012年度秋に定期健康診断を実施している某企業の従業員2,392名のうち、同意を得て検診を行った892名(男738名、女154名)に成人眼検診(問診、視力、眼底検査、FDT検査)を実施した。判定は、日本緑内障学会のガイドラインに準拠した。また、緑内障疑いで垂直CD比(0.7≦垂直CD比<0.9)かつFDT検査が陰性の者を継続管理者として区分し、精密検査対象者には眼科受診を勧奨した。【結果】成人眼検診で所見が見られた(要精密検査73名、要医療12名)85名のうち、精密検査を受診した59名から、緑内障7名を発見した。40歳以上の成人眼検診結果では、緑内障有病率(補正後)は1.67%となった。 成人眼検診の緑内障(緑内障疑いおよび緑内障関連病を含む)に対する陽性的中率は89.5%となり緑内障の早期発見に有用であることが判った。 また、眼底検査に所見が無く簡易視野検査のみに所見を認めた11名の精密検査結果は、受診した9名中7名の内訳は緑内障1名、網膜神経線維束欠損1名、黄斑変性症3名、乳頭陥凹拡大1名、軽微な網膜異常1名であった。【結論】成人眼検診は、眼底検査では発見できなかった疾患を簡易視野検査で発見できた。また、緑内障発見に対する感度も高く、精密検査対象者の絞込みができ、有用な検診方法であることが認められた。
著者
加瀬沢 信彦 鈴木 啓吾
出版者
一般社団法人 日本総合健診医学会
雑誌
日本自動化健診学会々誌 (ISSN:0386135X)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.125-135, 1981-12-20 (Released:2010-09-09)
参考文献数
15
被引用文献数
1 1

成人健診における実用的な肥満判別法について検討を行ない, 次の知見が得られた。1.身長別に標準体重を推定する従来の各種方法 (算出式や表) は, 性, 年齢, 異常データの混入状態など標本集団の不均質に基づく要因によって常に一定の指標が得られないという欠点があり, 肥満指数として普遍妥当性に乏しい。2.三種の体格指数 (W/H比, W/H2, W/H3) を健常成人データを用いてその実用性を比較すると, W/H比が体重との相関が最も強く, 年齢や身長の影響を受けにくく, かつ算出が容易であるという点において, 肥満度指標として最適であった。3.W/H比の健常成人のヒストグラムは男女とも正規分布とみなし得るので, パラメトリックな統計処理が可能である。すなわち, 著者らは平均値を中心として, 1S.D.間隔ごとにW/H値を区分し, 7段階の肥痩判定を行う方法を考案したが, これは統計学上, 利便を有するものである。4.W/H比の基準分布は“健常者集団”から容易に算出される。著者らは最近5年間のデータから, 20~75歳の人間ドック健常者を対象として男子33~41, 女子30~38のW/H基準値 (平均値土1S.D.) を得たが, 実用的な基準値の設定にあたっては, 性, 年齢, 地域, 時代, 種族等を考慮して決められることが望ましい。その場合, W/H値自体は共通の指標として相互比較が可能である。5.W/H判定法に皮下脂肪厚測定を組合せることにより, 成人肥満のスクリーニングとしての信頼性がさらに向上する可能性が示唆された。(本論文の要旨の一部は, 第8回および第9回日本自動化健診学会学術大会, 並びにExcerpta Medica-ICS 539 (1981) に報告した。)
著者
鈴木 隆史
出版者
一般社団法人 日本総合健診医学会
雑誌
総合健診 (ISSN:13470086)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.226-235, 2019-03-10 (Released:2019-07-01)
参考文献数
31
被引用文献数
1 1

臨床検査には大きく、検体検査、生理機能検査や画像検査、さらに特殊検査として内視鏡検査がある。医師は、問診や診察に加え、必要と思われるこれら検査を組み合わせることにより疾患・病態の診断、治療とその後の経過観察を行っていく。そのため臨床検査は重要な役割を担っている。健診においてはその多くが症状のない受診者が対象であり、検査の占める割合は大きなものとなっている。したがって、これら検査がきちんとなされていることが、患者あるいは受診者の信頼を得るうえで重要であることは言うまでもない。そのためには検査の高い精度や正確性が求められる。これらを担保するのが精度管理であり、施設あるいは検査室内で行われる日々の管理としての内部精度管理と施設を横断して自らの施設のデータが他施設と比較してどのくらいの位置にあるのか、それを確認し足元を見直すために行われるのが外部精度管理である。内部精度管理あっての外部精度管理ともいえる。本稿では内部ならびに外部精度管理について概説する。一般的に広く行われている血液、尿、便などの検体検査で普及してきた精度管理であるが、生理機能検査や画像検査にもその必要性が求められてきている。さらにベッドサイドで用いられるPOCTにおいてもしかりであり、現状についても触れる。検体検査においては機器や試薬の進歩によりデータの集束状況は非常に良好な状態になってきているが、検査室における日常業務の中にあって機器任せにすることなく絶えずデータを気にしておく姿勢が内部精度管理には欠かせない。外部精度管理では本学会の精度管理事業の位置づけを示しつつ、その重要性について紹介する。昨今、ISO15189 ならびに医療法における「精度の確保」など、検査室の品質保証が叫ばれている。本稿がそれらの理解につながれば幸いである。
著者
中山 富雄
出版者
一般社団法人 日本総合健診医学会
雑誌
総合健診 (ISSN:13470086)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.237-241, 2023-03-10 (Released:2023-05-10)
参考文献数
10

これまでのがん検診は臓器ごとの検査が行われてきた。わが国でのがん検診の導入は、当初専門家の意見で導入された経緯があるが、がん対策としてのがん検診という考え方の広まりに伴い、利益と不利益の対比を基準とした科学的評価による推奨、実効性を加味した議論に沿って厚生労働省の指針によって推奨されるという体制が近年整備されてきた。近年血液などで全身のがんのスクリーニングを目的としたMCED(Multi-cancer early detection)検査が注目されているが、発表された報告のほとんどがtwo-gate designを用いており、その結果をsingle-gate designで行われた既存の検査法の結果と比較してはいけない。リキッドバイオプシーに限っては、米英の大規模研究が進行中であり、その結果が期待されるところである。
著者
市川 由理 深草 元紀 服部 加奈子 武田 京子 石田 也寸志
出版者
一般社団法人 日本総合健診医学会
雑誌
総合健診 (ISSN:13470086)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.253-260, 2015 (Released:2015-05-01)
参考文献数
15
被引用文献数
1 1

【背景】近年、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の罹患者が増え、COPD発症の好発要因となる喫煙を指摘し禁煙支援する目的で日本呼吸器学会が提唱した「肺年齢」の有用性が期待される。当院でも肺機能検査にてこの肺年齢を提示し、受診者にとって身近なものとなりつつある。そこで禁煙支援を目的の一つとするのであれば、当院の人間ドック受診者を喫煙状況の差で肺年齢の差が明確に表されることが期待できなければならない。また肺年齢が生活習慣病に関係する因子に影響があるかどうか、傾向を知るところが目的である。【対象】当院の宿泊人間ドック受診者のうち、肺機能検査を実施した者を対象とした。ただし呼吸器疾患を有する受診者は対象から除外した。また複数回受診している対象者は最終受診時のみの結果を用いた。【方法】評価は肺年齢と実年齢との差(以降肺年齢差)を算出し、肺年齢差の比較は喫煙状況では現在喫煙、過去喫煙、非喫煙の3群に分け、また喫煙指数を600で分けたものでそれぞれ検討した。次に、生活習慣病と肺年齢差の関係について、肺年齢差を低値から順に4分割にしたときの血液検査(中性脂肪、HDL-cho、LDL-cho)、腹囲、血圧の生活習慣病の危険因子と比較した。【結果】肺年齢差は男性は現在喫煙者が過去喫煙者または非喫煙者より大きく、女性では現在喫煙者が非喫煙者より大きい結果となった。男性では喫煙指数が高くなると、肺年齢差も大きかった。また男性で肺年齢差が大きい集団ほど中性脂肪および腹囲が有意に高値となった。【考察】本研究で肺年齢は喫煙の有無、喫煙の程度と明瞭に相関することが改めて示唆された。また、腹部肥満は肺機能低下につながる要因として重要であり、肺年齢の提示が減量への動機付けとなり得る可能性が示唆された。
著者
高橋 亮太郎 奥村 健二 大山 智鈴 小川 晃子 大野 正弘 浅野 美樹 田口 宣子 鈴木 正之 池田 信男 室原 豊明
出版者
一般社団法人 日本総合健診医学会
雑誌
総合健診 (ISSN:13470086)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.277-284, 2012 (Released:2013-09-01)
参考文献数
27

近年、血管内皮機能を非侵襲的に指尖で測定できるreactive hyperemia peripheral arterial tonometry (RH-PAT) が開発された。本研究で我々は、人間ドック受診者を対象にRH-PATを用いた血管内皮機能測定について検討した。当院の2日ドック受診者で脳心血管病の既往がなく投薬を受けていない男性120名(平均年齢53±9歳)を対象とし、2日ドックの検査項目に加え、アポリポ蛋白B100、空腹時インスリン、高感度CRPなどを測定した。また、上腕駆血開放後の動脈拡張反応を指尖容積脈波として検出するreactive hyperemia index (RHI) をEndo-PAT2000を用いて自動計測し、血管内皮機能とした。全例で所要時間30分でRHIの測定が可能であった。RHIの平均値は1.76±0.41あり、RHIは年齢、心拍数、HbA1c、アポリポ蛋白B100、総コレステロール、LDLコレステロール、non HDL コレステロールと有意な負の相関を示した。喫煙歴(packyears)と空腹時血糖値はRHIと有意には至らないものの負の相関の傾向がみられた。RHIを従属変数としたステップワイズ重回帰分析では年齢、LDLコレステロール、心拍数がRHIの独立した規定因子であることが示された。本研究の結果より、人間ドック受診者においてRH-PATを用いて測定した血管内皮機能は心血管病の危険因子との相関がみられ、初期動脈硬化のサロゲートマーカーとしての可能性が確認された。