著者
奥沢 忍 廣田 栄子
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.72-82, 2017-02-28 (Released:2017-06-29)
参考文献数
22
被引用文献数
2

要旨: 全国の聴覚特別支援学校及び通常校に勤務する聴覚障害教員120名を対象に, 郵送および web による自記式質問紙調査を行い, 就労の実態と課題, 心理社会的影響について調査し, 職場環境の在り方について検討した。その結果, 就労の際の情報保障についてろう学校で手話が多く用いられ, 通常校で低下した。教員は, 聴覚障害による各種制約, 保護者との連携, 児童の教育遂行などのコミュニケーションをストレッサーと感じ, 課題対応のコーピング行動としては教師間の協働など各種の人間関係形成が有効とされた。通常校の教師では, コーピング行動はストレス低減に関与せず, ストレス解消行動の形成に課題を示した。教師の職務満足度は概ね高いが, 職務開発や能力開発, 昇任など, キャリア形成に関わる領域では低下し, 聴覚障害教員の就労には, 障害に関する啓発や, 校内での情報支援と人間関係形成支援の体制化が必要であるといえる。
著者
高梨 芳崇 川瀬 哲明 沖津 卓二 八幡 湖 奥村 有理 佐々木 志保 宮崎 浩充 香取 幸夫
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.136-142, 2015-04-28 (Released:2015-09-03)
参考文献数
13
被引用文献数
1 1

要旨:小児期における聴覚障害は言語発達, 学習, 心理面に大きな影響を与えるため, 早期発見と支援, 療育が重要とされている。難聴の早期発見のためには新生児聴覚スクリーニングが有用とされており, 現在では全国的に普及している。難聴の早期発見ができるようになったことに伴い, 難聴児への早期支援体制の充実が必要であると考えられている。しかし, 難聴児に対する早期支援体制に対しては地域格差があり, フォローアップに不十分な点がみられることもある。今回, われわれは宮城県の小児難聴の医療, 療育の現状と問題点について報告した。本県の新生児聴覚スクリーニングの施行率には地域差があり, 特に仙台市以外の地域では満足できるレベルに達してはおらず, 難聴児の発見の遅れに伴う, 療育開始の遅れが問題となる症例が散見された。また, 新生児聴覚スクリーニング後の家族への心理的サポートについても改善の必要性があるように思われた。これらの問題を解決するためには医療, 療育, 行政の連携が大切であり, 耳鼻咽喉科医師の主導のもと, 緊密に連携をとるよう努力していくのが望ましいと考えられた。
著者
小川 郁
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.113-117, 2011 (Released:2011-05-19)
参考文献数
14
被引用文献数
1

耳鳴の発生機序がまったく推測の域を出ていないことや耳鳴の他覚的検査法が確立されていないことなどから, 耳鳴診療に関してはいまだ大きな課題が残されている。本稿では最近普及してきた耳鳴に対する新しい治療戦略であるtinnitus retraining therapy (TRT) と, その中心的役割を担っている音響療法について概説した。サウンド・ジェネレータを用いた音響療法を施行した症例では約80%が苦痛度の軽減を自覚している。しかし, TRT単独では満足できる効果が得られない場合も多く, うつや不安傾向が強い場合は精神神経科と協力して適切な抗うつ薬, 抗不安薬を併用し, ストレスに対する否定的評価傾向が強い場合には認知行動療法を, 緊張や疲労感, 不眠が強い場合は自律訓練法などのリラクゼーション法を併用すべきである。今後, 音響療法をより普及させる必要があるとともに, 最終的には耳鳴に対する耳鳴治療薬の開発が期待される。耳鳴診療の高いハードルを越えることは我々のこれからの重要な責務であり, 耳鳴患者のドクターショッピングをなくすためにもこの領域の研究が一層進歩することを期待したい。
著者
鈴木 恵子 岡本 牧人 鈴木 牧彦 佐野 肇 原 由紀 井上 理絵 大沼 幸恵 上條 貴裕 猪 健志
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.52, no.6, pp.588-595, 2009 (Released:2010-01-20)
参考文献数
10
被引用文献数
2 4

『きこえについての質問紙2002』のうち “聞こえにくさ” に関わる10項目を, 補聴器適合のための主観評価法として応用することを目指し, 補聴器装用者232例 (軽~高度難聴), および補聴器適合を行った軽中等度難聴82例 (補聴器装用前・装用後ともに資料あり) の回答を解析した。解析結果をもとに, 軽中等度, 高度の群別に得た各項目の回答スコアの中央値, および装用前からの1以上のスコア軽減を評価基準とする補聴器適合のための評価表を試作した。中央値以下のスコアを得た項目数が, 補聴器に対する全体としての満足度, および装用時の語音明瞭度と有意な正の相関を示し, スコアの中央値を評価基準とすることの妥当性が示唆された。以上から, “聞こえにくさ” 10項目と評価表を, 適合評価のために応用できると結論した。
著者
八木 昌人 尾関 英徳 井上 亜希 中西 重夫 室伏 利久
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.56-62, 2011 (Released:2011-04-16)
参考文献数
9
被引用文献数
1

250Hzから4000Hzまでの5周波数聴力閾値の平均が40dB未満 (grade1) の突発性難聴症例について検討した。高度の感音難聴ではないことから, 突発性難聴以外にオージオグラムの型により急性低音障害型感音難聴, 急性感音難聴といった診断がなされており, 担当医の違いにより診断が影響されていた。予後については, 治癒率は66%であったが, 著明回復は1例も見られなかった。これは, 著明回復が30dB以上の改善と定義されているためで, grade1ではこれは治癒と重なってしまうためと考えられた。突発性難聴にgrade1症例を含めるかどうかの是非を含め, 難聴の程度に応じた診断基準, 聴力回復の判定基準の作成が望まれた。