著者
日本聴覚医学会 聴覚・言語委員会
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.65, no.6, pp.515-534, 2022-12-28 (Released:2023-01-18)
参考文献数
3

要旨: 令和2年度に行った「聴覚領域の業務に携わる言語聴覚士の実態調査」の結果にクロス集計及びテキストマイニングを行い, 言語聴覚士の実態を検討した。 教育施設では医療・福祉施設に比べ, 補聴器・人工内耳関連業務が少ない傾向が認められ, 医療施設内でも所属する科により業務内容に差があることが分かった。 一方で常勤・非常勤の違いによる勤務状況には差が少ないことが推測された。 聴覚関連検査のうち電気生理学的検査を実施している割合は少なく, 検査技師などとの分業が推測された。 各職種連携では医療施設勤務で言語小児難聴にかかわっている場合, 学校教諭や保育士との連携が取れない例が目立った。 卒後教育については, 指導者不足の状況が明らかとなり, 成人領域では今後増加する人工内耳装用者へ対応するため教育・雇用機会の増大が望まれ, 小児領域では臨床経験の機会提供や, 地域教育施設との連携のノウハウ提供が望まれるという意見が多かった。
著者
石川 浩太郎
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.107-112, 2022-04-28 (Released:2022-05-24)
参考文献数
3

要旨: 耳鼻咽喉科医や言語聴覚士は, 聴覚障害者に対して身体障害者障害者福祉法に基づく聴覚障害の認定や障害者総合支援法に基づく補装具費支給制度による補聴器の適合などで, これらの制度に関わる機会が多いが, 一方で制度について養成校や研修先で系統立てて指導を受けた経験は少ないと思われる。今回, 模擬症例を用いながら, これらの制度について基本を解説した。聴覚障害は平均聴力 (4分法) と最高語音明瞭度を基に6級, 4級, 3級, 2級に分けられている。症状固定の状態で診断する必要があり, 平均聴力の計算法や他覚的聴力検査 (ABR 検査など) の実施, 結果添付などに注意が必要である。一方, 補装具費支給制度では補聴器の種類や装用耳の選択に基本的なルールがあり, これに則って対応する必要がある。特例補装具の扱いや人工内耳音声信号処理装置の修理など, 常に情報を更新していく姿勢が必要である。
著者
田中 美郷 芦野 聡子 小山 由美 吉田 有子 針谷 しげ子 熊川 孝三 武田 英彦
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.153-162, 2013-04-28 (Released:2013-09-06)
参考文献数
10
被引用文献数
1

新生児聴覚スクリーニングで難聴が疑われ, 1歳頃より難聴が進行した自閉症スペクトラム障碍及び重度知的障碍を伴う難聴児に3歳11か月時人工内耳を装着させた。本児は聾学校へ入る前から手話を導入した言語教育を受けてきた。本児は現在12歳に達したが, 現在のコミュニケーションは聴覚的言語理解は発達しつつあるものの言語表出は専ら手話である。本児は一時期聴覚過敏症があって人工内耳を拒否するようになった。しかし現在はこれを克服して人工内耳を常用している。本児は社会生活を送る上で必要なskillを実体験を重ねて身に付けつつある。これには両親の熱意はもちろん, 地域社会のいろいろな分野の機関や人々の支援があった。両親は我々のアドバイスにも耳を傾けて, 各方面に働きかけてこの体制を築いてきた。この努力の成果として, 言語発達も含めて社会的経験も積んで本児になりに豊かに育ちつつある。
著者
水吉 朋美 丸山 祐樹 矢野 真衣 木村 百合香 小林 一女
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.49-55, 2023-02-28 (Released:2023-03-29)
参考文献数
13

要旨: 突発性難聴治療において高気圧酸素療法 (HBOT) は全身ステロイドによる治療への反応性不良である時に二次治療として選択されることが多く, 一次治療としての HBOT に関する報告は少ない。当院で一次治療としてステロイド全身投与と HBOT を同時に施行した42症例の成績, 効果に影響を及ぼした要因について検討した。 対象の重症度は Grade1 が8例, Grade2 が11例, Grade3 が15例, Grade4 が8例であった。 治療成績は, 治癒6例, 著明回復5例, 軽度回復10例, 不変16例であった。 治療成績について治療有効群 (軽度回復以上) と不変群を比較した。高齢, めまいの有無, 高血圧, 糖尿病は治療成績に影響を与えていなかった。治療開始まで14日以上の治療遷延群では有意に成績が悪かった。 以上より, 高齢者, 高血圧, 糖尿病, めまい合併症例に対する一次治療としての HBOT の有効性が示唆された。治療遷延群は HBOT を併用しても予後不良であった。
著者
野口 佳裕
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.169, 2022-06-30 (Released:2022-07-15)
参考文献数
19

要旨: 遺伝学的検査と診断は, 全ての医師にとって重要な医療行為になりつつある。難聴は耳鼻咽喉科領域で最も頻度の高い遺伝性疾患であり, 先天性難聴と若年発症型両側性感音難聴の遺伝学的検査は保険診療で可能である。従って, 遺伝性難聴の知識とその存在を念頭においた診療が不可欠である。先天性難聴の半数以上は遺伝性難聴であり, 非症候群性遺伝性難聴においては最も頻度の高い GJB2 遺伝子を含む120以上の原因遺伝子が報告されている。遺伝学的な原因を知ることは, 難聴/遺伝カウンセリングとともに人工内耳の予後推定などに有用である。若年発症型両側性感音難聴は指定難病であり, 診断に遺伝学的検査が必須である。原因遺伝子は ACTG1, CDH23, COCH KCNQ4, TECTA, TMPRSS3, WFS1 遺伝子の7遺伝子であるが, 近日中に EYA4, MYO6, MYO15A, POU4F3 遺伝子が追加される予定である。
著者
水足 邦雄
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.101-107, 2023-04-28 (Released:2023-06-01)
参考文献数
23

要旨: 近年世界的に難聴者の増加が大きな社会問題となっており, 世界各国で対応が行われている。本稿では, 音響性聴覚障害の病態に焦点を当てて, 特に急性音響性聴器障害による外有毛細胞障害, および近年注目されている内有毛細胞のシナプス障害である cochlear synaptopathy について概説する。このような蝸牛病態を理解することで, 臨床の現場で患者の訴えをより正確に把握することが可能となり, より適切な対処をすることが出来るようになると著者は考えている。さらに, 聴力が正常であっても聞き取りに問題がある場合は cochlear synaptopathy の病態を理解することで正確な対処の参考になる。また, 近年の研究によって音響性聴器障害の病態と, 他の加齢性難聴の病態が極めて類似していることが明らかとなっている。このことは加齢性難聴の予防に騒音対策が最も重要である事を示唆しているだけでなく, これまでの音響性聴器障害に対して行われてきた研究成果が加齢性難聴に対しても応用可能であることを示している。
著者
中市 真理子 廣田 栄子 綿貫 敬介 成沢 良幸
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.209-215, 2014-06-30 (Released:2014-11-06)
参考文献数
6

要旨: 本研究では, 全国の乳幼児補聴器適合施設に対し, 補聴器装用・機能の状況と, 補聴器選択に関して調査した。乳幼児に適合されている補聴器型は, 耳かけ型が最も多く, ベビー型の使用数は低かった。乳幼児の補聴器機能では, ボリューム固定, ハウリング抑制, 雑音低減, ワイヤレス, 指向性の順で使用されていた。常用や装用を妨げる原因にハウリング, 補聴器を嫌がる, 耳から外れやすいがあり, 補聴器の故障原因は, 汗が多かった。乳幼児の補聴器選択において, 経済的負担軽減 (障害者自立支援法: 現障害者総合支援法対応), 耳介にあった形状, ハウリング抑制機能, 装着のしやすさ, 防水性能が重視されていることが確認された。補聴器適合担当者は, 補聴器の日常使用の利便性の向上と, 発達への対応における保護者負担の軽減への要望が高かった。また, 早期難聴診断や補聴・支援に関する社会啓発と, 診断機関と療育・教育機関の情報共有の指摘も高かった。
著者
高橋 宏知
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.245-253, 2018-08-30 (Released:2018-09-27)
参考文献数
27

要旨: 大脳皮質の解剖学的・機能的な特徴として, 一つの神経細胞は104 のオーダーの膨大なシナプス入力を受けることや, 脳内の情報は再帰的に処理されることを考慮し, 著者らは, ラット聴覚野の神経活動の位相同期と聴知覚との関係に注目してきた。本稿では, 神経活動の位相同期の一般的な指標として, 試行間位相固定性 (ITPC) と位相同期度 (PLV) を解説した後, 著者らの最近の研究を紹介しながら, 位相同期が聴知覚に担う役割を考察する。著者らの生理実験では, ガンマ帯域の ITPC は, 誘発反応の振幅よりも, 音脈分凝の心理測定特性を矛盾なく説明できた。また, PLV は, 協・不協和音, 長三・短三和音といった音色で帯域特異的に変化した。これらの実験データから, 聴覚野の位相同期は, 従来の誘発電位の特徴よりも, 主観的な聴知覚の特性に関わると考える。
著者
富澤 晃文 力武 正浩 伏木 宏彰 坂田 英明 加我 君孝
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.43-52, 2017-02-28 (Released:2017-06-29)
参考文献数
15
被引用文献数
1

要旨: 聴覚障害乳児における VRA の条件付け形成月齢を明らかにすることを目的とした検討を行った。中等度~重度難聴の20名を対象に, インサートイヤホン装着下の気導 VRA (および骨導 VRA) による純音聴力測定を実施した結果, 月齢 6 ~ 11ヵ月の期間に19名 (95%) の条件付けが形成された。VRA の測定可能率は, 0 歳 6 ヵ月時点で 1名 (5%), 7 ヵ月で 5名 (25%), 8 ヵ月で 11名 (55%), 9 ヵ月で14名 (70%), 10 ヵ月で 18名 (90%) であった。気導 VRA の反応閾値 (2000Hz) と ABR の V 波閾値の間には強い正の相関 (r = 0.87) がみられ, 両者は近似した。VRA の平均反応閾値と条件付け形成月齢の間にはやや強い正の相関 (r = 0.58) がみられ, 聴力の程度が増すほど条件付け形成月齢が遅れる傾向が示された。一方, 運動発達 (定頸, 座位, 独歩) の遅れは条件付け形成月齢に有意な遅れをもたらさなかった。早期の聴覚補償とハビリテーションの上では, 0歳後半の月齢期に気導/骨導 VRA を重点的に実施した上で他覚的検査とのクロスチェックを行うことが重要と考えられる。