著者
前田 晃秀 廣田 栄子
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.59, no.6, pp.632-643, 2016-12-28 (Released:2017-04-22)
参考文献数
18
被引用文献数
1 1

要旨: 全国97自治体の協力を得て実施した実態調査により得た高齢期の盲ろう者2,018名のデータをもとに, 障害やコミュニケーションの状況について検討した。 その結果, 高齢期の盲ろう者は, 視覚・聴覚いずれも後天的に受障した者が74.6%を占め, 聴覚活用が可能な弱視難聴は46.1%, 全盲難聴は25.6%, 聴覚活用が困難な全盲ろうは10.3%, 弱視ろうは8.9%であった。 補聴器の受給は46.4%に止まり, 難聴で補聴器を受給している者であっても初対面者の発話が理解可能なものは半数に過ぎなかった。 さらに, 全盲ろう者では, 会話頻度が月2日以下の社会的な孤立状況にある者が32.4%を占めていた。 盲ろう者に関わる各種専門職が連携して, 障害の程度や受障の経緯に応じ, 補聴や聴覚活用, 代替的コミュニケーション・モードやリハビリテーションに関する情報提供とともに, 専門的支援の体制化が必要であることが示唆された。
著者
古木 省吾 佐野 肇 栗岡 隆臣 井上 理絵 梅原 幸恵 原 由紀 鈴木 恵子 山下 拓
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.256-262, 2020-08-30 (Released:2020-09-09)
参考文献数
15

要旨: 補聴器増幅特性の決定は補聴器フィッティングの中で最も重要なプロセスである。 NAL-NL 法や DSL 法などの処方式を選択しソフトウェア上で算出した設定値は平均的な外耳道, 鼓膜の特性を基に計算されたものであり各耳の個体差は考慮されていない。そこで我々は, 純音聴力検査の結果をフィッティングソフトに入力し選択した処方式から算出された設定値と, 実耳測定を用いてターゲット値に近似するように調整した後の設定値との差を比較し, フィッティングソフトにより算出される設定値の妥当性を評価した。結果, 全周波数の修正が±4dB以内に止まった割合は NAL-NL2では10% (2/20耳), DSLv5では5% (1/20耳) とかなり低値であった。適切なフィッティングには実耳測定が重要であることが再認識された。しかしながら, 実耳測定を行っている施設はおそらく限定的である。どのような方法で実耳測定の代用方法を構築できるかは今後の課題である。
著者
亀井 昌代 佐藤 宏昭 上澤 梨紗 米本 清 小田島 葉子
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.308-314, 2021-08-30 (Released:2021-09-22)
参考文献数
14

要旨: 補聴器が音声を実質的にどれだけ増幅しているか測定する方法として2015年に JIS より「音声に近い試験信号による補聴器の信号処理特性の測定方法」が発行された。我々は, 4機種の補聴器に国際音声試験信号 (以下 ISTS) を提示したときの長時間平均音声スペクトル (以下 LTASS) やパーセンタイル音圧レベルを測定算出し, 種々の機能を on や off の条件で比較検討した。また, 難聴症例50例を対象として装用している補聴器の LTASS やパーセンタイル音圧レベルを測定しその結果と, 補聴器適合検査結果と比較検討した。一般的に補聴器の特性は機能を on と off の条件で同じであることが望ましいが, 本研究の結果では補聴器メーカによっては差がみられることがわかった。また難聴症例の中には, 補聴器適合検査結果と ISTS の測定結果との間に乖離のある症例もみられた。しかし, この測定方法 (分析方法) は補聴器を装用している条件で分析でき, その特性に会話音域が十分含まれているかの判断材料となると考えられた。
著者
岡本 康秀 神崎 晶 貫野 彩子 中市 健志 森本 隆司 原田 耕太 久保田 江里 小川 郁
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.57, no.6, pp.694-702, 2014-12-28 (Released:2015-04-10)
参考文献数
21
被引用文献数
1 2

要旨: 音声の情報として, 周波数情報に加えて時間情報は極めて重要な因子である。 今回時間分解能の評価として Gap detection threshold (GDT) と temporal modulation transfer functions (TMTF) を用いた。 対象を老人性難聴者とし, 年齢, 語音明瞭度を中心に時間分解能の検討を行った。 その結果, 加齢により GDT と TMTF の低下傾向を認めた。 また, 語音明瞭度に影響する因子として, TMTF における peak sensitivity (PS) が強い相関を認めた。 このことは音声知覚において, PS のパラメータであらわされる時間的な音圧の変化の検知能力が語音聴取能力に強く影響を及ぼしていることが示唆された。 今後は時間分解能の臨床応用に加えて, 時間情報をもとにした強調処理などの補聴処理技術が開発されることが望まれる。
著者
山岨 達也
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.54, no.6, pp.649-664, 2011 (Released:2012-02-09)
参考文献数
26
被引用文献数
3

乳幼児難聴では早期発見・早期支援が重要であり, 新生児聴覚スクリーニングを広く行うことに大きな意義があるが普及率は高くない。スクリーニング未施行例や進行性難聴例では介入が遅れる傾向にある。高度難聴のみでなく軽度から中等度難聴でも早期発見・早期介入が重要であり, 看過された場合はコミュニケーションに支障をきたし, 言語発達, 情緒, 社会性の発達などに影響が生じる。補聴効果に限界があると予想される高度難聴の場合はコミュニケーションモードの選択を視野に入れた対応が求められ, 療育上人工内耳が選択肢と考えられる場合には速やかに人工内耳医療を専門とする医療施設に紹介することが重要である。小児における人工内耳の術後成績には手術年齢, 難聴の原因, 重複障害の有無, コミュニケーションモードなど多くの因子が影響する。手術適応決定にはこれらの因子を含め考慮すべき多くの因子があり, 多職種によるチーム医療での対応が求められる。乳幼児難聴の臨床上の特徴は患児のみならず保護者も対象とし, その経過が長期にわたる事とダイナミックな発達的変化を含む事である。聴力検査一つをとっても高い専門性が求められ, 児の生活上の困難や保護者のニーズを把握するには聴覚医学だけでなく発達医学や心理学の知識も必要である。適切な時期の適切な判断が児の将来の発達に影響することを念頭に置いて治療にあたることが肝要である。
著者
川崎 美香 森 壽子 森 尚彫 黒田 生子 藤本 政明
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.47-57, 2009 (Released:2009-05-20)
参考文献数
25
被引用文献数
1

発見年齢が異なり, CI装用年齢にも差がある進行性難聴児2例を対象に, CI装用後の言語や認知諸能力の獲得過程を追跡・調査し, 進行性難聴児固有の問題, CI装用効果, 言語指導上の留意点や言語聴覚士の役割を考察し以下の知見を得た。1. 2例の経過から, 進行性難聴児に対するCI装用は有効であった。3歳6ヵ月でのCI装用効果は高かったが, 6歳11ヵ月でのCI装用でも効果があった。2. 進行性難聴児の発見直後から指導を行う言語聴覚士は, できるだけ早期に個々のこどもの言語学習上の問題をみつけ, 言語学習条件を整備し, 適切な言語指導を行うことが必要と考えられた。そのために使用する森式チェックリストは臨床的に有用であった。3. 就学前・就学後に体系的言語訓練プログラムに従った言語指導を一定期間実施することで, 9歳時までに言語・認知諸能力を年齢相応に獲得させることができた。
著者
高野 賢一 海﨑 文
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.149-154, 2021-04-28 (Released:2021-05-19)
参考文献数
13

要旨: 新型コロナウイルス感染症が世界的に拡大する状況下で, 移動や受診に伴う患者の感染リスクおよび対面診療による医療者の感染リスクを軽減する観点からも, 遠隔医療の導入が急速に進みつつある。人工内耳装用者にとって, マッピングや言語訓練のために遠方から受診することが, 患者やその家族に負担となっていたことから, われわれは遠隔地の人工内耳装用者を対象とした遠隔マッピングを行ってきた。遠隔地の装用者には地元の病院や医院を受診し, ビデオチャット用とマッピング用のそれぞれの端末を, 大学病院サイトと遠隔サイトでインターネットを介して結び, 対面式と遜色ない遠隔マッピングを実施できている。これまでのマッピングソフトウェアでは, マップ書き込み数などいくつかの制限があったが, 新たにリリースされた Custom Sound Pro においては問題点が改善されており, さらなる対象拡大と満足度の向上が期待されている。
著者
小池 毬子 樫尾 明憲 尾形 エリカ 赤松 裕介 小山 一 浦中 司 星 雄二郎 岩﨑 真一 山岨 達也
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.195-203, 2021-04-28 (Released:2021-05-19)
参考文献数
29

要旨: 当科で経験した人工内耳埋込術を行った蝸牛神経低形成または欠損を認めない小児内耳奇形例23例を Sennaroglu 分類による内耳奇形に分類し, 就学期の聴取能や語彙理解能力及び就学状況について報告した。内耳奇形の内訳は, incomplete partition type I (IP-I) が7例, IP-II が7例, IP-III が1例, cochlear hypoplasia III (CH-III) が1例, cochlear hypoplasia IV (CH-IV) が4例, common cavity (CC) が3例であった。IP-II 症例では聴取能, 語彙理解能力ともに良好な症例を多く認めた。IP-I, CC 症例では症例間での差はあるものの, 聴取能, 語彙理解能力ともに良好という症例も存在した。一方, CH-IV 症例では聴取能が良好であっても, 語彙理解能力はいずれも不良であった。就学時普通学級選択状況については他の内耳奇形を伴わない症例の報告と大きな違いはなかった。予後の不確実性はあるが, 内耳奇形の種類に関わらず良好な成績をおさめる症例は存在し, 人工内耳手術は選択肢の一つとして考慮されるべきと思われた。
著者
立入 哉 今井 香奈
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.178-185, 2021-04-28 (Released:2021-05-19)
参考文献数
19
被引用文献数
1

要旨: 一側性難聴者用に有線式 CROS 補聴器 (EHIME) を開発し, 実耳測定, 音場での語音明瞭度検査, 質問紙調査を行い, EHIME の有用性を検討した。この結果, 実耳測定では頭部陰影効果を補償するゲインを与える周波数特性決定法が好まれる傾向が見られた。語音明瞭度検査では, EHIME の装用による逆効果より効果が高くなることを観察できた。クロス補聴器のゲインと語音明瞭度に対する効果と逆効果には関連があることが予想され, ゲインの設定には実耳での評価と語音明瞭度の測定が有用と思われた。質問紙調査では, 雑音下聴取と明瞭度では向上が見られたものの方向感・遠近感は逆に低下した。しかし, 中には音の違いを元に方向感をつかめた者もおり, 追加の検討が望まれた。最終的に, わずらわしさより, 快適さ・生活の質の向上について向上したとの回答が得られた。
著者
原田 公人 廣田 栄子
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.65-72, 2013 (Released:2013-06-14)
参考文献数
13

人工内耳自助組織に加入している幼児から大学生の人工内耳 (CI) 装用児をもつ保護者250名を対象として, アンケート調査を実施し回答を得た195名を対象に, CI満足度と, 聴覚補償やコミュニケーション等の現状について明らかにすることを目的とした。質問項目は, 対象児の属性, 現在の所属教育・療育等施設, 埋め込み手術年齢, 術前・術後のコミュニケーションモード, CI装用下における聞き取りの改善, CI装用の満足度, コミュニケーション等の10項目とし, 郵送による自記式質問紙調査法を用いた。その結果, 対象児のインクルーシブ教育・療育機関の帰属, CI装用の低年齢化, 聴覚コミュニケーションモードへの移行, 教育機関等での情報補償の不十分さ等についての現状と課題が示された。大方の保護者はCI装用に満足感が高いが, 年齢が高くなるにつれてコミュニケーションの不全感を指摘し, 発達段階や個別状況に応じた教育・療育的支援の必要性が示唆された。
著者
増田 佐和子 鶴岡 弘美 須川 愛弓 臼井 智子
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.54-60, 2021-02-28 (Released:2021-03-20)
参考文献数
15

要旨: 自動 ABR による新生児聴覚スクリーニング (NHS) で一側リファーとなり両側難聴と診断した19例を検討した。5例に難聴の家族歴を認め, 7例は複数回のスクリーニングで両側リファーとなったことがあった。パス側で判明した難聴の程度は軽度7例, 中等度11例, 高度1例, 聴力型は水平型9例, 低音障害型4例, 高音漸傾型3例, 高音急墜型2例, 不明1例であり, リファー側とパス側の難聴の程度は17例で, 聴力型は13例で一致した。パス側の偽陰性の理由は, 11例が境界域の聴力レベル, 6例が高音域の閾値が正常範囲内の聴力型, 1例が進行性難聴によると推定され, 1例は不明であった。18例が補聴器の適応とされたが4例は装用を拒否または受診を中断した。一側リファー例でも慎重に対応し, 難聴の家族歴をもつ場合, 複数回のスクリーニングで両側リファーがあった場合, リファー側が軽・中等度難聴や特殊な聴力型である場合などは特に注意すべきであると考えられた。