著者
西山 崇経 新田 清一 鈴木 大介 坂本 耕二 齋藤 真 野口 勝 大石 直樹 小川 郁
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.235-239, 2019-06-30 (Released:2019-07-17)
参考文献数
8

要旨: 聴覚過敏は, 日常的な音に対して過敏性や不快感を示す状態で, 外界からの音によらない耳鳴や, 自分の声のみが強く聞こえる自声強聴とは異なった病態を表すと考えられている。しかし, 過敏症状には「響く」,「大きく (強く) 聞こえる」など多彩な表現が存在するにもかかわらず, 各表現を分類して意義を検討している報告はない。そこで, 過敏症状を訴えた168名を対象に, 過敏症状の自覚的表現と疾患との関連や, これらの表現の臨床的意義について検討した。疾患の内訳は, 約3分の2が急性感音難聴で, 次いで加齢性難聴であり, 聴力検査上異常を認めない症例も 1割程度含まれていた。「響く」が最も多く,「響く」か否かを問診することは過敏症状のスクリーニングに役立ち,「割れる」や「二重に聞こえる」は感音難聴の存在を疑い,「大きく (強く) 聞こえる」は極めて軽微な内耳障害や, 聴覚中枢を含めた病態の関与を考える必要がある表現と考えられた。
著者
山本 弥生 小渕 千絵 城間 将江 麻生 伸
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.282-289, 2019-08-30 (Released:2019-09-12)
参考文献数
16

要旨: 聴覚障害児者の語音聴取能には時間分解能が関係しているとされている。本研究では, 聴覚障害乳幼児の時間分解能について検討するため, 聴覚障害乳幼児32名 (6カ月~6歳4カ月) を対象に, 振り向きやボタン押しなどの反応様式を用いたギャップ検出閾値課題を実施した。その結果, 聴覚障害乳幼児においてもギャップ検出閾値測定は可能であった。また, ギャップ検出閾値については, 裸耳聴力や装用閾値とは関係せず, 課題への集中度および年齢と有意な関係を示し, 正確な測定が可能となるまでには時間を要した。反応様式は3歳以降で自覚的応答へと移行して閾値が安定しやすく, この頃のギャップ検出閾値上昇は, 難聴による時間分解能への影響が示唆された。
著者
武市 紀人 柏村 正明 中丸 裕爾 津布久 崇 福田 諭 鈴木 美華 宇佐美 真一
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.214-219, 2009 (Released:2009-09-18)
参考文献数
11

難聴遺伝子診断が有用であった1例を経験した。本例は成人両側感音難聴症例であるにもかかわらず, 現病歴, 家族歴が不明であり, 合併症である転換性障害による機能性難聴の可能性も否定できず, 診断と治療に苦慮した。難聴遺伝子診断によりGJB2遺伝子異常による遺伝性難聴の確定診断となり人工内耳埋め込み術を施行した。本例はGJB2遺伝子による難聴としては緩徐に進行した非典型例であったが, 人工内耳の装用効果は十分であり, 術前は困難であったテレビ視聴や単独での外出も可能となった。遺伝子診断は倫理的な課題も多く, 通常の検査と異なり専門医による十分な配慮, 準備が必要である。当院では遺伝子診療部が中心となり遺伝子に関する業務を行っており良好な検査の施行が行えた。難聴遺伝子診断は難聴患者の診断法として非常に有用と考えられるので今後のさらなる普及が望まれる。
著者
中嶋 聡美 栗岡 隆臣 古木 省吾 原 由紀 井上 理絵 鈴木 恵子 梅原 幸恵 小野 雄一 佐野 肇
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.253-261, 2022-08-30 (Released:2022-09-17)
参考文献数
16

要旨: 高齢中等度難聴者の QOL を, 包括的健康関連 QOL, 主観的幸福度, 社会活動性を評価する質問紙を用いて調査すること, さらに各尺度の相互関係, 各尺度に影響する要因を検討することを目的として研究を実施した。 対象は北里大学病院耳鼻咽喉科の補聴器外来または難聴外来に, 2019年10月から2020年12月までに受診した65歳以上の中等度難聴者149名であった。 質問紙は「基本的質問」,「SF-36ver2」,「Subjective Well-Being Inventory (SUBI)」,「いきいき社会活動チェック表 (社会活動)」で構成した。SF-36 の平均値と国民標準値の比較では70歳代の Mental Component Summary (MCS) のみ有意な低下を認めた (p<0.025)。MCS と SUBI, 社会活動と MCS, SUBI に正の相関を認めた。MCS の重回帰分析において, 平均純音聴力レベルの悪化に伴い改善を認め (p<0.05), 補聴器装用が悪化に影響する傾向があり (p=0.072), 通院している高齢中等度難聴者の精神的 QOL の特徴として注意を払うべき結果と思われた。 今後の検討でも各評価法を併用して QOL を検討することが有用と考えられた。
著者
奥沢 忍 廣田 栄子
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.185, 2022-06-30 (Released:2022-07-15)
参考文献数
18

要旨: 聴覚障害のある教員 (聴覚障害教員) の職業生活と課題に関する質問紙調査結果を用い, 内容妥当性, 構成概念妥当性, 内的整合性など信頼性を確認して, 評価尺度 (40項目) を作成した。本尺度の項目は内容から, 国際生活機能分類 (ICF, WHO) における参加制約, 対応行動, 精神衛生の水準に対応すると解釈された。聴覚障害教員における参加制約は, 聴覚情報の制約, 他職員の障害理解, 保護者や児童生徒との関係, 障害による不安と懸念などの因子で規定されていた。とくに, 聴児を担当する教員や中等度難聴を有する教員において, 聞こえる児童等との関係形成に制約が生じ, 不安・懸念が大きい傾向が示された。課題の解決には, 教育職の意義の自覚に基づいた対応行動形成が重要であると指摘した。本尺度を用いて, 聴覚障害教員の職業生活と課題について個別に検討することで, 教育現場での参加制約の改善を図ることが有用と示唆された。
著者
市島 龍 水上 真美子 枝松 秀雄
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.233-238, 2015-08-30 (Released:2016-02-04)
参考文献数
20

要旨: 高周波数領域での加齢による変化を検討するため, 8kHz 以上の聴取能測定と DPOAE 記録を20歳から41歳の純音聴力正常者14名 (男性12, 女性2) で検討し, 検査音にはモスキート音と呼ばれる主要周波数12.5kHz (A音), 16kHz (B音), 20kHz (C音) の3種類の高周波数音を使用した。A音は14名全員で聴取可能となり, B音は聴取可能7名と聴取不能7名に分かれ, C音は14名で聴取不能であった。B音の聴取可能群の平均年齢は聴取不能群より10.9歳有意に低かった。一方, DPOAE ではB音聴取可能群の7名中5名が5,042Hzから6,348Hzにかけて DP レベルが上昇するパターンを示し, 聴取不能群では全員が5,042Hzにピークを形成し6,348Hzでは低下するパターンを示した。 聴取能測定による心理学的検査と DPOAE による他覚的検査の組み合わせにより, 高周波数領域での加齢変化を簡便に早期から検出できると考えられた。
著者
中西 啓 喜夛 淳哉 西尾 信哉 宇佐美 真一 三澤 清
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.145-151, 2022-04-28 (Released:2022-05-24)
参考文献数
17

要旨: 常染色体優性遺伝性難聴家系において遺伝学的検査をおこない, 本人と母に TECTA 遺伝子多型を同定した。 TECTA 遺伝子多型は zona pellucida ドメインに位置しており皿形のオージオグラムを呈することが多いと報告されている。 本人は皿形のオージオグラムを呈していたが, 母は高音障害型であった。 母の経時的なオージオグラムを解析すると, 54歳時には皿形のオージオグラムを呈しており, 加齢とともに高音域の聴力閾値が上昇して高音障害型となっていた。 一方, 母の中音域の難聴の進行度は0.5dB HL/年とほとんど進行していなかった。 これらのことより, zona pellucida ドメインの TECTA 遺伝子変異でも,加齢とともに高音域の聴力閾値が上昇して高音障害型となる可能性が示唆された。
著者
大原 重洋 廣田 栄子 大原 朋美
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.122-133, 2022-04-28 (Released:2022-05-24)
参考文献数
31

要旨: 聴覚音声モードにある中等度難聴幼児学童5名 (平均聴力レベル 61.1 ± 5.3dBHL) のナラティブ発達の特徴について, 高重度児5名 (97.2 ± 15.6dBHL) と比較して, マクロ, ミクロの構造を評価し, 関連する要因を検討した。 マクロ構造については, 中等度難聴児は29.2 ± 3.9%であり, 高重度群50 ± 12.1%より構成要素の使用率が少なく遅滞を示した。 ミクロ構造では, 結束性について難聴程度による差はなかったが, 中等度難聴群では, ナラティブを構成する異なり語彙数が少なかった (中等度 : 18 ± 4.9語, 高重度 : 31 ± 3語) 。 中等度難聴児のナラティブの遅滞に関連する要因として, 療育開始の遅れと, 養育者のコミュニケーションスキル要因に関与を認めた。 中等度難聴児では, 個別に発達を評価し, 必要に応じて養育者と連携して早期からコミュニケーション支援の体制を構成することの重要性が示唆された。
著者
野原 信 廣田 栄子 仲野 敦子 有本 友季子 猪野 真純 奥沢 忍
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.134-144, 2022-04-28 (Released:2022-05-24)
参考文献数
23

要旨: 難聴診断後に早期観察・指導を行った小学校就学前後期の軽中等度難聴児12名に対し, ①言語発達の諸側面と, ②会話時の他者の感情推測の発達について検討し, 4~6歳聴力正常幼児 (聴児) 34名の結果と比べた。 軽中等度難聴児では, PVT-R 語彙検査では概ね年齢相応の発達を示したが, CCC-2 言語評価の形式的・語用的な側面には遅滞を示した。 軽中等度難聴児は5歳で自己準拠, 6~7歳で他者準拠の情報を用い他者の感情推測を行い, 聴児と同様の発達傾向を示した。 行動特性による他児の感情推測は, 5歳で遅滞を示すものの6歳で良好な発達を示し, また, 検査時月齢と言語の形式面 (音韻・語彙・構文・談話) 要因の関与が認められ, 長期的な観察と指導適用の検討が必要と考えられた。 軽中等度難聴児では, 場面状況, 行動特性などの複数情報を用いた他者準拠型の感情推測に基づいた会話理解の発達について注目することの有用性が示唆された。