著者
伊藤 壽一
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.175-180, 2014-06-30 (Released:2014-11-06)

要旨: 1985年に我が国で最初に人工内耳手術が行われてから30年近くになり, すでに7000人以上の方が手術を受けている。人工内耳は高度難聴に悩む方への福音となっている。各人工内耳機器の改良, 適応の拡大などによって, さらに今後手術を受ける方が増加していくものと考えられる。一方, 現在の人工内耳の適応が適切か, 手術後のリハビリテーション施設数, 言語聴覚士の数の問題, 聴覚以外のコミュニケーション手段との関係, 人工内耳機器の取り換え (アップグレード), 人工内耳に関わる費用の問題など検討すべき課題も多い。本稿では表1の各項目に関し, 人工内耳医療の現状とその問題点を, 医学のみでなく, 社会医学的な問題として解説する。
著者
水足 邦雄
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.174-180, 2020-06-30 (Released:2020-07-16)
参考文献数
11
被引用文献数
1 1

要旨: 適切な補聴器フィッティングの評価をする上で, 補聴器適合検査は不可欠である。実耳測定は補聴器適合検査の指針にも掲載されているが, 充分に普及しているとは言えない。本稿では実耳測定の実際と特に小児とオープンフィッティングでの活用方法を紹介する。また, 新しい中耳機能測定装置であるワイドバンドティンパノメトリについて解説し, その補聴器適合での活用の可能性について具体例を提示した。従来の補聴器適合検査では不安が残る症例では, これらの検査を追加することでよりよいフィッティングを行うことができる。
著者
佐治 直樹
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.45-53, 2021-02-28 (Released:2021-03-20)
参考文献数
19

要旨: 本邦は高齢化社会を迎え, 認知症対策が喫緊の課題である。軽度認知障害 (認知症になる前段階) における, より早期での生活改善も認知症予防の視点から提唱されている。改善可能な認知症の危険因子のうち, 難聴は最も重要である。しかし, 補聴器の導入による認知症の予防効果は未解明な部分も多い。筆者らも, 耳鼻咽喉科ともの忘れ外来との協業で臨床研究を実施している。また, プレリミナリー研究の結果から, 難聴は認知症に伴う行動・心理症状の独立した関連因子であり, 難聴群ではもの忘れの自覚や不安感, 焦燥を感じる割合が多く, 抑うつ傾向であったことなどを見いだした。さらに, 地域在住高齢者の住民健診データを収集し多変量解析したところ, 難聴があると認知機能低下の合併が1.6倍多いことも判明した。補聴器導入が認知症の発症リスク軽減に寄与するのであれば, 今後は, 高齢者の聞こえや認知機能についてのチェックがさらに重要となるだろう。
著者
大島 美絵 小渕 千絵
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.254-261, 2018-08-30 (Released:2018-09-27)
参考文献数
12

要旨: 難聴乳幼児のコミュニケーションの基礎の形成や良好な発達のためには, 保護者, 中でも母親の役割が重要である。本研究では, 難聴乳幼児を育てる上での母親の育児ストレスの実態について調査, 分析し, 必要とされる早期教育支援について検討した。 母親の育児ストレスに関する8項目からなる独自の質問紙を作成し, 難聴乳幼児を育てる母親17名に記入してもらい, そのストレス得点, 及び年齢, 聴力程度, その他の要因から分析した。その結果, 精神的苦悩, 将来への不安が顕著に高く, 社会的孤立, 家族和合の欠如が顕著に低かった。またストレス得点と年齢, 聴力, KIDS 発達指数, 相談室での相談期間, 兄姉の有無からの比較では, 有意な関係はみられなかった。 これらの結果より, 難聴乳幼児を育てる母親の育児ストレスは, 様々な要因により出現している可能性があり, 明確な要因の抽出は困難であると推測された。このため, 早期教育支援においては, 対象児の個別性に配慮した支援の必要性があると考えられた。

2 0 0 0 OA 総索引

出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.63, no.6, pp.569-576, 2020-12-28 (Released:2021-01-16)
著者
佐藤 宏昭
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.241-250, 2010 (Released:2010-09-28)
参考文献数
78
被引用文献数
6 1

急性低音障害型難聴 (ALHL) が突発性難聴と異なる疾患として認知されるようになって30年が経過した。2000年には厚生労働省急性高度難聴に関する調査研究班により本疾患の診断基準 (試案) が設けられ, この基準に基づく多くの報告がなされてきた。本総説では, ALHLの問題点として, 診断基準, 難治例, 治療薬剤について取り上げた。診断基準では高音部に加齢による難聴を有する例を準確実例として診断基準に加える必要があること, およびALHLの反復, 再発例とメニエール病非定形例 (蝸牛型) の名称の問題について述べた。長期的にみるとALHLは反復, 再発例やメニエール病への移行例が少なくなく, 少数ながら進行性の感音難聴をきたす例もみられ, この中には稀であるが低音障害型感音難聴で発症する聴神経腫瘍もあり注意を要する。また, ステロイドやイソソルビドなど現在使われている薬剤の有効性に関しても, 十分なエビデンスが得られていない点が問題点といえる。
著者
白石 君男
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.261-275, 2019
被引用文献数
2

<p>要旨: 日常生活における音源定位は,音の刺激が両方の耳に与えられるような音の聴取状態である両耳聴 (binaural hearing) の重要な機能の一つである。これまで, 両側性小耳症・外耳道閉鎖症などの伝音難聴では, 骨導補聴器は片側装用されることが多かったが, 両耳に骨導補聴器を装用すると健聴者と同程度の方向感の精度をもたらさないものの, 方向感を有することが明らかとなった。骨導補聴器の両耳装用は, 小耳症・外耳道閉鎖症などの幼児では聴覚系の発達を促し, 成人の伝音難聴では日常生活の不便さを減少させるものと思われる。</p>
著者
佐野 肇
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.201-209, 2017-08-30 (Released:2017-12-19)
参考文献数
29
被引用文献数
2

要旨: 補聴器を個々の難聴者に適合するように設定していく方法について概説した。 大きく比較選択法と規定選択法という二つの手順が存在するが通常の臨床では両者が併用されている。 規定選択法はハーフゲインルールに始まりその後補聴器性能の進歩に伴って数多くの方法が発表されてきたが, 現在では NAL-NL 法と DSL 法が広く用いられている。 両方法の補聴効果を比較した研究の結果では語音明瞭度の成績では差はみられていないが DSL 処方の方が利得は大きい。 これらの規定選択法で示されるターゲットは基本的には最終的な設定への指標と考えるべきで新規の装用者ではそれより小さな利得から徐々に上げていく方法が提案されている。 欧米で開発されたこれらの処方ターゲットが英語とは音響的特徴が異なる日本語においても妥当であるかどうかについては今後検討する必要があると思われる。
著者
岩崎 聡 西尾 信哉 茂木 英明 工 穣 笠井 紀夫 福島 邦博 宇佐美 真一
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.56-60, 2012 (Released:2012-03-28)
参考文献数
8
被引用文献数
1

感覚器障害戦略研究「聴覚障害児の療育等により言語能力等の発達を確保する手段の研究」事業として平成21年から1年間に調査した症例対照研究のうち, 人工内耳装用児の現状と語音明瞭度・言語発達に関する検討を行った。対象は幼稚園年中から小学校6年までの両耳聴力レベル70dB以上の言語習得期前の聴覚障害児で, 124施設が参加した。言語検査が実施できた638名のうち人工内耳装用児は285名 (44.7%) であり, 言語発達検査の検討はハイリスク児を除外した190名であった。人工内耳+補聴器併用児が69.5%, 片側人工内耳のみが29.8%, 両側人工内耳が0.7%を占めた。難聴発見年齢は平均11.7ヶ月, 人工内耳装用開始年齢は平均3歳6ヶ月であった。人工内耳装用月齢と最高語音明瞭度とは高い相関を認め, 人工内耳装用開始時期が24ヶ月前とその後で言語発達検査を比較するとすべての検査項目で早期人工内耳装用児群で高い値が得られ, 早期人工内耳の有効性を支持する結果となった。
著者
山田 奈保子 西尾 信哉 岩崎 聡 工 穣 宇佐美 真一 福島 邦博 笠井 紀夫
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.175-181, 2012 (Released:2012-09-08)
参考文献数
15
被引用文献数
1 1

平成21年から22年の間, 聴覚障害児の日本語言語発達に影響を与える因子と, 発達を保障する方法を考える目的で行われた感覚器障害戦略研究・症例対照研究のデータを元に, 人工内耳手術年齢による言語発達の傾向について検討した。 対象は生下時から聴覚障害を持つ4歳から12歳までの平均聴力レベル70dB以上の638名のうち, 聴覚障害のみを有すると考えられる人工内耳装用児182名を, 補聴器の装用開始年齢, 人工内耳の手術年齢のピークで4群に分け比較した。 結果を語彙, 構文レベルの発達と, 理解系, 産生系課題とに分けてみると, 語彙, 構文共に, 理解系の課題においては, 補聴器装用早期群の成績が良好で, 産生系の課題については, 人工内耳手術年齢早期群の成績が良好であった。 このことから, 早期に音を入れることが言語理解に, 早期に十分弁別可能な補聴をすることが言語産生に影響を与える可能性があるという結果が得られた。
著者
杉本 賢文 曾根 三千彦 大竹 宏直 寺西 正明 杉浦 淳子 吉田 忠雄
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.218-223, 2016-08-30 (Released:2017-03-18)
参考文献数
12

要旨: 10歳時に初めて高度難聴を指摘できた人工内耳手術症例を経験したので報告する。 5歳時より難聴を疑わせる症状を呈していたが, 耳鼻咽喉科診療所や総合病院耳鼻咽喉科にて複数回純音聴力検査を受けても難聴は指摘されなかった。 当院初診時の純音聴力検査による聴力レベル (4分法) は右 98.8dB, 左 92.5dB と 500Hz 以上の中高音域にて高度な難聴を認めたが, 右耳の 125, 250Hz では 30~40dB の残存聴力を有していた。 初診10ヶ月後には, 補聴器装用効果不十分のため, 左耳へ人工内耳植込術を実施した。 10歳まで高度難聴を把握できなかった要因としては, 難聴が徐々に進行した可能性, 低音域に残存聴力が存在したこと, 不十分な聴力評価により繰り返し難聴を否定されてきたことなどが考えられた。 小児の聴力検査を行う際は, 他覚的聴覚検査の併用も考慮し, 慎重に診断を行うべきである。
著者
柘植 勇人 富田 真紀子 加藤 由記 稲垣 憲彦 岩田 知之 山脇 彩 宮田 晶子 松田 真弓 中原 裕子 中島 務
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.239-248, 2011 (Released:2011-07-28)
参考文献数
28

Tinnitus Retraining Therapy (TRT) の音響療法を実施する中で, sound generatorのノイズ音に馴染むことが出来ない症例を経験する。そこで, TRTの音響療法として, 自然環境音で同様の効果が得られないかを検討した。sound generator (SG) を十分に使い慣れているTRT実施中の患者10名の協力を得て, 携帯音楽プレーヤーと耳かけオープン型イヤホン (一側耳装用) を用いて, 川のせせらぎなどの5種類の音源の試聴を行い調査した。その結果, TRTにおける音響療法は広帯域ノイズに固執する必要はなく, 自然環境音で代用できる可能性が示唆された。人によっては様々な音源による音響療法が成り立つ可能性と静寂部分が含まれている「波の音」は適さない傾向が示唆された。一方, 広帯域ノイズに似た「滝の音」が好まれるグループがあったので, SGの有効性も示された。今回の結果より, 夜間の静寂を避けて寝室に心地良い環境を作るという意味で, 自然環境音をBGMとして活用する価値も考えられる。今後は, 実際の活用症例の効果を検討する必要がある。
著者
久保田 江里 櫻井 梓 高橋 優宏 古舘 佐起子 品川 潤 岩崎 聡
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.61, no.6, pp.531-537, 2018-12-28 (Released:2019-01-17)
参考文献数
18

要旨: 2017年, 成人人工内耳の国内適応基準が改訂され, 1) 平均聴力レベル 90dB 以上の重度感音難聴, および 2) 平均聴力レベル 70dB 以上 90dB 未満かつ補聴器装用下の最高語音明瞭度が50%以下の高度感音難聴, と新たに定められた。本研究では, 新適応基準の妥当性について, 平均聴力レベルと裸耳の最高語音明瞭度, および平均聴力レベルと補聴器・人工内耳装用下の最高語音明瞭度との関係から検討した。 対象は成人人工内耳装用者37名と, 補聴器装用者77名である。その結果, 平均聴力レベルと裸耳語音明瞭度との間に負の相関がみられ, 平均聴力レベル 70dBHL に値する語音明瞭度は45%であった。また, 補聴器および人工内耳装用下での比較では, 裸耳の平均聴力レベル 70dBHL において両群の語音明瞭度は同等となりその値は50%であった。 医療技術・機器の進歩による聴力温存と, 聴取成績の向上により, 人工内耳適応基準は今後も定期的に検証する必要があると思われた。