著者
大塚 明子
出版者
一般社団法人日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.171-181, 2003-09-30

本研究は、17歳の身体醜形障害(BDD)を伴う強迫性障害(OCD)の女性患者に対して、曝露反応妨害法(E/RP)を中心とする認知行動療法(CBT)を行った結果、 CBT開始3か月間で不潔恐怖を主とする強迫観念、強迫行為やBDD症状に改善がみられた事例の報告である。治療においては、治療への動機づけや継続性を高める心理教育、治療意欲を高める課題を設定し、宿題でE/RPを繰り返し、成功体験をセルフモニタリングすることを通して、セルフコントロール力を高めることに重点が置かれた。最後に、本研究の結果をもとに、OCDと生物学的ならびに認知行動学的な共通性が指摘されているBDDに対するCBTの効果について考察した。
著者
吉田 裕彦 井上 雅彦
出版者
一般社団法人日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.311-323, 2008-09-30

本研究は、通常学級に在籍している自閉症児におけるボードゲーム(SSTゲーム)を利用した社会的スキル訓練の効果について検討することを目的とした。通常学級での朝の自由時問における行動を般化場面として事前に測定した。訓練は、ボードゲームをクラスの仲間とともに20分の休み時間を利用して4週間に8回実施した。ゲームにおいてプレーヤーは、サイコロをふり、出た目の数だけコマを進める。チャンスカードのマスにとまると、カードに指示されたロールプレイを仲間と演じる。正しく演じられると2人ともにポイントシールを与えられる。その結果として、ターゲットにされた社会的スキルが向上し、般化場面における相互交渉が増加した。SSTゲームの効果と有効性について考察する。
著者
宮野 秀市
出版者
一般社団法人日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.57-63, 2011-05-31

バーチャルリアリティ(VR)エクスポージャーとは、人工的に構築された仮想環境の中で、恐怖反応が低減するまで恐怖刺激を呈示するエクスポージャーであり、通常は、頭部搭載型ディスプレイにコンピュータグラフィックスで制作された恐怖刺激が呈示される。VRエクスポージャーは特定の恐怖症を中心とした不安障害の治療に有効であることが明らかにされている。しかしながら、コンピュータグラフィックスを用いたVRエクスポージャーには仮想環境の構築が技術的に困難でコストが高いという問題があった。そこで、本研究ではビデオカメラで撮影した全周囲パノラマ動画を用いて、恐怖刺激を安価で簡便に制作できるVRエクスポージャーシステムを開発した。また、高所恐怖の傾向が認められる1例にたいして8セッションのアナログ研究を実施し、全周囲パノラマ動画VRエクスポージャーが主観的な恐怖反応を惹起し、その後、恐怖反応を低減させることを示した。
著者
岡島 義 井上 雄一
出版者
一般社団法人日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.195-203, 2010-09-30

睡眠薬を長期服用中の1曼性不眠症患者12名に対して、認知行動療法(CBT-1)と、これに並行して睡眠薬の漸減を実施し、その不眠症状改善効果について検討した。1回50分のセッションを6〜8回実施し、治療前後および治療終了1カ月後のフォローアップ時に主観的な睡眠指標と自記式尺度に記載させた。その結果、睡眠指標では、入眠潜時、中途覚醒時間、総覚醒時間、睡眠効率の項目で改善が認められ、自記式尺度では、不眠症状測定尺度だけでなく、抑うつ症状尺度にも大きな治療効果が認められた。また、その効果は1カ月後も維持されていた。対象者全員が治療期間中に漸減を開始したが、服薬中止に至った者は4名(33%)であった。9名(75%)に臨床的な改善が認められ、その効果は終了1カ月後も維持していた。このことから、CBT-1は、睡眠薬を長期服用中の慢性不眠症患者に対しても有効と考えられた。
著者
谷 晋三
出版者
一般社団法人日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.13-18, 2015-01-31

認知行動療法においては、臨床的な症例報告は多くの臨床家に重要な情報を提供する。しかし、雑誌「行動療法研究」に掲載される論文の数は限られている。本研究では二つのガイドライン(Ortega & Rodriguez, 2008; Gagnieretal., 2013)が推奨する臨床的な症例報告の目的とその内容を紹介している。Robey (2004)は臨床研究における五つのフェイズモデルを提案している。臨床的な症例報告はそのフェイズI、IIとIVに含まれている。Robeyの五つのフェイズモデルでの臨床的なケースレポートの目的について最初に紹介する。次に、二つの臨床的なガイドライン、CAREガイドラインとGuidelines for clinical reports in behavioral clinical psychologyを紹介し、最後に本誌「行動療法研究」の編集者の一人として、読者に臨床的な症例研究の投稿することを推奨する。
著者
村山 恭朗 岡安 孝弘
出版者
一般社団法人日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 = Japanese journal of behavior therapy (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.215-224, 2012-09-30
参考文献数
31

抑うつ的反すうとはネガティブな認知を繰り返し体験することを指す。反すう傾向が高い場合うつ病リスクは高まるが、反すう傾向が低い場合にはネガティブな認知が抑うつを悪化させるプロセスが緩和される。しかしながら、この抑うつ的反すうが加齢に伴って量的および質的にどのように変化するかに関して、あまり研究されていない。そこで本研究は、大学生群と30・40代の成人群が示す抑うつ的反すう傾向と低反すうの緩衝効果を比較することで、加齢に伴う反すう傾向の変化を検討した。その結果、成人群では反すう傾向が低く、さらに低反すうの緩衝効果が認められた。このことから、加齢に伴って抑うつ的反すうは軽減し、個人はより効果的にネガティブな認知に対応できるようになると示唆された。また本研究結果から年齢に適した予防的介入が議論された。
著者
河合 伊六
出版者
一般社団法人日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.39-48, 1998-03-31

発達心理学ではすでに,人生の各発達段階における心身の発達に関する膨大な情報を集積しており,学習(行動)心理学では,発達を促進させる有効な原理や方法を見い出している。本稿は,伝統的な発達研究が持っているいくつかの問題点,たとえば発達研究で多く用いられている相関論的研究で個人ごとの貴重な情報が捨て去られること,発達の規定因を主として内的要因に求めること,環境を構造的に捉えるために行動と環境との機能的関係が解明できないこと,発達を促進する積極的な取り組みが示唆されにくいことなどを取りあげる。とくに両者の見解の相違点を比較考察しながら,行動分析的見解を中心に据えて発達心理学的研究の成果を取り入れ,両者の統合の可能性を探ってみたい。