著者
中里 理子
出版者
上越教育大学
雑誌
上越教育大学研究紀要 (ISSN:09158162)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.316-303, 2004

中古から近代まで「泣く」「涙」を描写するオノマトペを見てみると、擬音語・擬態語ともに基本形はすでに古くから存在しており、時代によって多く使われるオノマトペが多少変化してはいるが、中古に見られたオノマトペのほとんどが近代まで使われ続けている。中世には「さめざめ」「はらはら」「ほろほろ」が定型的表現となり、近世から近代にかけては「しくしく」「めそめそ」が弱く泣くときの表現として定着した。一方、時代が下るにつれて擬音語は泣き声の面で、擬態語は涙の流し方の面で、基本形を変化させた変形が工夫されることで表現に新しさを出していく。擬音語は声の大きさや泣き方の違いを表すオノマトペが工夫され、擬態語は泣く姿全体や泣くときの動作から涙を流して悲しむ姿を表す方向へ、さらに涙がこぼれる様子から涙が目の中に浮かぶ様子を表す方向へと、徐々に描写対象のとらえ方が細かで細密な描写という流れに添って発達した様相が見て取れた。I examined changes of onomatopoeia associated with "crying" and "tears" from the Heian period to modern times. Both of the basic formes of imitative and mimetic words were already used in the Heian period, and most of them were still used in modern times in spite of some changes. Samezame, Harahara and Horohoro became standard onomatopoeias of "crying" in the Kamakura and Muromachi periods, and Shikushiku and Mesomeso became those of "sobbing" from the Edo period to modern times. Many imitative words of "crying" were created to give more vivid expressions to a variety of sounds and ways of "crying". As to mimetic words, objects of description became more detailed like "tears trickling down" and finally focused on "tears" in one's eyes. Both the imitative and mimetic words were made by transforming. As the time went by, close observation made descriptive expressions more detailed. This trend is true of other expressions except onomatopoeias.
著者
小埜 裕二
出版者
上越教育大学
雑誌
上越教育大学研究紀要 (ISSN:09158162)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.684-696, 2003

三島由紀夫は「海と夕焼」 (昭和三〇年) の主題を「奇蹟自体よりもさらにふしぎな不思議」であると述べた。本論文では<子供十字軍>の史実から本作の虚構性の特質を捉えたうえで、現在の安里が過去に体験した「不思議」をどのように受け止めているのかについて考察した。<海> の象徴性、<夕焼> の終わりとともに「梵鐘の音」が響く結末、<眠る少年> の意味等から、仏教的(禅的)世界の枠組みが「不思議」へのこだわりを消し去るものとして機能していたことを明らかにし、「不思議」の再来を願わないと言いうる境地にいたった三島文学の様相をもとに『金閣寺』 の新たな読解可能性を提示した。Yukio Mishima described, the subject of "Umi to Yuyake (Sea and evening glow) " was "more mysterious mysteries than miracles". In this thesis, first of all, a fiction of this work characteristic was caught from the historical fact of "Child crusade". Next, how the mystery which Anri had experienced in the past had been caught was discussed. It was pointed out that it was the one that the Buddhism (zen) world puts out sticking to "Mystery" from the meaning of symbolism of "sea"and "Sound of the temple bell" and "sleeping boy". In addition, a new comprehension possibility of "Kinkakuji" was suggested from the viewpoint of stage that no wish for reappearance of "Mystery".
著者
天野 和孝
出版者
上越教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究ではエスカレーションの検証に適しているタマガイ科などの腹足類による二枚貝への穿孔捕食痕の新生代における時代的変遷を検討した.対象とした二枚貝は浅海性の貝類としてエゾタマキガイ,ヤマトタマキガイ,エゾシラオガイ,深海性の貝類として化学合成群集中の二枚貝である.その結果,以下のことが明らかとなった.(1)同時代の浅海性貝類の穿孔率は本州の個体群の方が北海道の個体群より高い(エゾタマキガイ,ヤマトタマキガイ,エゾシラオガイ).本州の個体群の方が穿孔率が高いことは,低緯度へと穿孔率が上昇するとしたDudley and Vermeij(1978),Allmon et al.(1990), Alexander and Dietl(2001)の結論と調和的である.(2)エゾタマキガイでは穿孔率は時代的な変化傾向は見られなかったが,エゾシラオガイでは鮮新世の個体群で低く,更新世前期以降高くなる傾向が見られた.(3)穿孔痕の位置は捕食者,被食者により異なる(エゾタマキガイ,エゾシラオガイ,ワタゾコウリガイ).(4)殻縁穿孔は更新世前期以降に出現した(エゾタマキガイ,エゾシラオガイ).これは北米のマルスダレガイ科への穿孔を検討したVermeij and Roopnarine(2001)の鮮新世以降という結果とほぼ一致している.他の種についても今後検討する必要があろう.(5)時代が新しくなるにつれて,捕食者-被食者のサイズ間の相関係数は低くなる傾向が見られた(エゾタマキガイ,エゾシラオガイ).これはエスカレーションと矛盾するように見える.ローカルな要因が働いている可能性もあり,もう少しデータを増やす必要がある.(6)化学合成群集では始新世以降穿孔捕食痕が見られ,中新世を通じて穿孔捕食活動が見られる.場合によっては浅海域の貝類に比較されるような穿孔率も認められた(ワタゾコウリガイ).
著者
宮下 敏恵 Toshie Miyashita
出版者
上越教育大学
雑誌
上越教育大学研究紀要 (ISSN:09158162)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.509-518, 2003-03

心理療法の面接場面において,クライエントは否定文を多用すると言われている。同じ意味内容をあらわす場合になぜ肯定文を用いずに否定文を用いているのだろうか。否定文には肯定文にはみられない特徴が存在していると考えられる。不登校の子どもが「学校に行かない」という場合と,「学校に行けない」という場合には心理的意味が異なると考えられる。しかし否定文といっても様々な種類がある。そこで本研究では,2種類の否定文をとりあげ,その影響を比較する。被験者は大学生及び大学院生16名(男性6名,女性10名)であった。平均年齢は23.88歳(SD=3.26)であった。被験者は実験者によりリラクセイションが施行された後,ベースラインを測定された。その後,「あなたの身体は動かない」という否定形暗示文と「あなたの身体は動けない」という否定形暗示文が与えられ,その影響が測定された。身体動揺に関するチェックリスト評定,多面的感情状態尺度の評定が求められた。さらに,野原イメージを浮かべるように求められ,その内容が報告された。結果としては,「動かない」という否定形暗示文が与えられた場合は,身体の動きは減少し,感情面の活動にシフトするという調節の仕方をしていることが示された。「動けない」という否定形暗示文が繰り返された場合は,禁止的,抑制的に作用するということが示された。
著者
増井 三夫
出版者
上越教育大学
雑誌
上越教育大学研究紀要 (ISSN:09158162)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.271-285, 1996-03

従来,ネオナチ・ユーゲントの行動は「単独」であり,「計画され,他から操縦されたものは」少ないと見られてきた。そのうえ,ネオナチ組織の活動について言及する場合にも,それらは個別に取り上げられ,組織間相互の関係についてはいまだ未解明にちかかった。その理由は,ネオナチ組織と活動について,丹念な調査を欠いていたからである。だがこの数年に二つの貴重なデータが刊行された。それは,B.ジーグラーの調査とⅠ.ハッセルバッハのネオナチ内部世界の告自記録である。この両者により,ネオナチの裏面がかなり明瞭になった。とくにM.キューネンを「総統」とする指導者ネットワークの存在およびドイツ・アルタナティーベと旧来ベルリンの組織と活動は,上記の見方に大幅な修正を求めるものとなった。またネオナチ・ユーゲントは,国家社会主義イデオロギーに確信をもち,伝統的なドイツ市民社会の価値と国民主義の世界観に,一般市民および同世代よりもはるかに強烈に同一化していた。その行動は,この価値と世界観を「吐き出し,言語化し,行為で表現」するものであった。
著者
梅野 正信
出版者
上越教育大学
雑誌
上越教育大学研究紀要 = Bulletin of Joetsu University of Education (ISSN:09158162)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.53-65, 2015

日本による植民地支配下及び実質的な統制下に設置されていた中学校,高等女学校,師範学校では,他の諸学校と同様に校友会雑誌が編纂されていた。校友会雑誌は,行政機関や当局の検閲を受け統制されていたが,生徒による記述が掲載されている点で貴重な史料である。本研究では,台湾,朝鮮半島,関東庁,樺太庁,「満洲国」で編纂されていた校友会雑誌に描かれたアジア認識を考察する。これらの諸地域の校友会雑誌は,これまで本格的な研究対象とされてこなかったが,本稿においては,先行研究と比較して史料分析の方法を中心に検討した結果,誌面構成,誌面を統制する行政・軍,学校側関係者の記載欄,散文や修学旅行に関する記載欄など,題目ごとの記述からアジア認識に関わる関連語を抽出する研究,横断的比較研究が可能であること等を確認した。
著者
大場 孝信 宮川 建二
出版者
上越教育大学
雑誌
上越教育大学研究紀要 (ISSN:09158162)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.359-367, 2001-10

最近,稔合学習の実施にともない野外観察が再び重要となってきた。しかし多くの高校では,地学の授業がなく,また受けたとしても実物をみたことがない,暗記するだけの授業が多かった。このため多くの中学校,小学校の教師にとって野外で大地の変動や岩石の説明をすることは難しい。一般的に知られている花崗岩も地域により,色,鉱物の量,鉱物の大きさなどが違っているため,花崗岩と思わない場合もある。このため多くの中学校,小学校の教師が間違った認識をもっていることがある。これらの間違いを少なくするため,登山の途中で見られる岩石を使って教育現場で使える岩石や火山についての自然観寮を考える観察路を開拓した。