著者
大前 敦巳
出版者
上越教育大学
雑誌
上越教育大学研究紀要 (ISSN:09158162)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.285-298, 2005

小論は,地方国立の上越教育大学と関西都市部の私立大学・短期大学の学生を対象に,2003年(1年次)と2004年(2年次)に実施した質問紙追跡調査に基づき,学生生活を通じていかなる文化習得を遂げ,そこにどのような社会的要因が関与しているかを検討した。1年次には幅広い文化領域に興味関心を示したのに対し,2年次に入ると自分に見合ったものを取捨選択する傾向が認められた。文化的取捨選択に関与する社会的要因について重回帰分析を行った結果,2年次に盛んに行われるようになった文化活動やスポーツは,社会的要因に強く規定されることがなく,上教大では学校的な文化習得様式の間での違いがみられ,関西私大・短大では,家庭の物質的豊かさが学校的なものから離れた領域の活動を規定する傾向がみられた。
著者
大前 敦巳
出版者
上越教育大学
雑誌
上越教育大学研究紀要 (ISSN:09158162)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.565-579, 2006

本稿は,今日の大学生における文化資本をめぐる問題について,「学生消費者主義」や「大学の商業化」など,高等教育拡大がもたらした多くの国々に共通してみられる変化の状況との関わりの中で検討する。フランスの国立学生生活観察研究所(OVE)が実施する全国学生生活調査の結果を参照しながら,関西と北陸・上越の大学・短大生を対象に実施した質問紙調査の結果に基づき,学生の社会的出自,過去の学習経験,現在の学生生活との関係を分析した。親の職業や学歴に規定される階層文化以上に,後天的な学習経験や学生生活へのコミット/アルバイトを含む経済生活への親近性,という対立軸が,正統的文化/中間文化/大衆文化といった文化活動の違いを生み出す傾向が認められた。消費文化との連続性をもちながら,文化資本の形成条件となる「必要性への距離」を提供しているのは,社会的出自よりも学枚,特に大学の場においてであり,大学が変化に直面する中,その機能を衰弱させないことが必要と考える。
著者
小埜 裕二
出版者
上越教育大学
雑誌
上越教育大学研究紀要 (ISSN:09158162)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.280-273, 2008

テクスト中の「悲嘆は痛まない」の一文の意義について考察し、「憂国」は、ニーチェ流の「悲嘆」の感情を通して<生の確証>がなされてきた従来の三島作品史の流れから、バタイユ流の「エロス」「苦痛」の感情を通して<存在の確証>がなされていく作品の流れを形作る起点となった作品であることを明らかにした。バタイユはエロティシズムを<肉体のエロティシズム><神聖なエロティシズム><心情のエロティシズム>の三種に分けたが、三島は「憂国」において、武山と麗子の性愛行為に<肉体のエロティシズム>を、武山の死に<神聖なエロティシズム>を、麗子の死に<心情のエロティシズム>をそれぞれ付与していることも明らかにした。
著者
藤田 武志
出版者
上越教育大学
雑誌
上越教育大学研究紀要 (ISSN:09158162)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.567-588, 2002

日本と韓国の中学生の競争意識について以下の六点が見出された。第一に,競争意識を抱く者は両国とも少数派であり,中学生たちの意識は必ずしも「受験=競争」という図式でとらえることはできない。また,第二に,家族ぐるみの受験競争というイメージは,日本よりもむしろ韓国に対してあてはまる。しかし第三に,両国とも競争意識を抱く者が存在しないわけではなく,その割合や分布は,選抜システムの特徴によって規定されている。また第四に,競争の状態を不安感や内申書への気遣いといった意識面と,学習時間という行為面からとらえた場合,やはりそのありようは両国とも選抜システムの特徴と対応している。さらに第五に,東京都の競争の状態については,「ユニバーサル選抜型」推薦入試の導入という選抜システム的要因を加えると,より説明力が高まる。これらのことから第六に,受験競争のありようは選抜システムによって規定されている「受験競争の社会的構成」が確認された。これらの知見は,選抜システムの改革や評価は,理想的なモデルをもとにするのではなく,システムがどのような生徒にどのような影響を与えているのかという現実的な調査にもとづいて行う必要性を示唆するものである。
著者
片桐 史裕 Fumihiro KATAGIRI
出版者
上越教育大学
雑誌
上越教育大学教職大学院研究紀要 = Bulletin of Teaching Profession Graduate School Joetsu University of Education (ISSN:2187882X)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.47-54, 2017-02-28

古典作品の世界を味わい,感じとるために,作品理解のための授業の後に,群読を用いた音声言語よる表現の時間を設けた。文章解釈が中心の高等学校国語科古典授業の中で,授業進度を他の担当者と合わせている場合,表現の時間を設けることは,解釈の時間を削って充てなければならないということになる。群読のシナリオを全て作らせることはとても時間がかかったり,人前で発表する場合は恥ずかしさのあまりすぐに発表できなかったりして,時間が無為に過ぎることがよくある。しかし,作品の一部分のシナリオを作成することにしたり,ICレコーダーに録音する発表方法を採用することにより,1時間の授業ながら効果のある群読授業をおこなうことができた。また,ICレコーダーで録音し,自らの作品を聞くことにより,学習の成果を客観的にふりかえることができた。