著者
越 良子 Ryoko Koshi
出版者
上越教育大学
雑誌
上越教育大学研究紀要 (ISSN:09158162)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.357-365, 2007-02

本研究では,学級集団と部活動集団における自己に対する評価が,中学生の所属集団に基づくアイデンティティに及ぼす影響を検討した。分析対象は公立中学校3年生70名であった。結果より,学級集団における評価が低い生徒は,学級アイデンティティが低く,部活アイデンティティが高いことが示された。また,部活動における評価が低い生徒は,部活アイデンティティが低く,しかし学級アイデンティティが高いわけではなかった。中学生が,自己定義における学級の重要度を下げ,部活動にアイデンティティ・シフトすることで,学級での低い評価から自己防衛していることが示唆された。
著者
宮下 敏恵
出版者
上越教育大学
雑誌
上越教育大学研究紀要 (ISSN:09158162)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.509-518, 2003

心理療法の面接場面において,クライエントは否定文を多用すると言われている。同じ意味内容をあらわす場合になぜ肯定文を用いずに否定文を用いているのだろうか。否定文には肯定文にはみられない特徴が存在していると考えられる。不登校の子どもが「学校に行かない」という場合と,「学校に行けない」という場合には心理的意味が異なると考えられる。しかし否定文といっても様々な種類がある。そこで本研究では,2種類の否定文をとりあげ,その影響を比較する。被験者は大学生及び大学院生16名(男性6名,女性10名)であった。平均年齢は23.88歳(SD=3.26)であった。被験者は実験者によりリラクセイションが施行された後,ベースラインを測定された。その後,「あなたの身体は動かない」という否定形暗示文と「あなたの身体は動けない」という否定形暗示文が与えられ,その影響が測定された。身体動揺に関するチェックリスト評定,多面的感情状態尺度の評定が求められた。さらに,野原イメージを浮かべるように求められ,その内容が報告された。結果としては,「動かない」という否定形暗示文が与えられた場合は,身体の動きは減少し,感情面の活動にシフトするという調節の仕方をしていることが示された。「動けない」という否定形暗示文が繰り返された場合は,禁止的,抑制的に作用するということが示された。
著者
小埜 裕二 yuji Ono
出版者
上越教育大学
雑誌
上越教育大学研究紀要 (ISSN:09158162)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.684-696, 2003-03

三島由紀夫は「海と夕焼」 (昭和三〇年) の主題を「奇蹟自体よりもさらにふしぎな不思議」であると述べた。本論文では<子供十字軍>の史実から本作の虚構性の特質を捉えたうえで、現在の安里が過去に体験した「不思議」をどのように受け止めているのかについて考察した。<海> の象徴性、<夕焼> の終わりとともに「梵鐘の音」が響く結末、<眠る少年> の意味等から、仏教的(禅的)世界の枠組みが「不思議」へのこだわりを消し去るものとして機能していたことを明らかにし、「不思議」の再来を願わないと言いうる境地にいたった三島文学の様相をもとに『金閣寺』 の新たな読解可能性を提示した。
著者
藤澤 郁夫
出版者
上越教育大学
雑誌
上越教育大学研究紀要 (ISSN:09158162)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.69-103, 2005

本論はプラトンの後期対話篇『ポリティコス』を中心に、そこで展開されたプラトンの後期政治思想を正確に辿ろうとするものである。分割・物語・パラデイグマといった分析の手段を統一的に解釈する努力が払われた。
著者
高本 條治 Joji Takamoto
出版者
上越教育大学
雑誌
上越教育大学研究紀要 (ISSN:09158162)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.123-136, 1995-09

ウナギ料理を注文する際に使われるとされる「ばくはウナギだ。」という文(いわゆる「ウナギ文」)は,多くの日本語文法研究者の関心を集めてきた。ウナギ文に関する記述や説明は,当初は統語論の領域で繰り広げられ,その後,語用論の領域へと徐々に移行してきている。このウナギ文の文法化の問題について,語用論的な観点から継続的に論述していきたいと考えるが,本稿では,どのような観点からウナギ文を考察するかを明らかにし,「ばくはウナギだ」という文に対して,先行研究がどのようなパラフレーズを行っているかを振り返る。
著者
高本 條治 Joji Takamoto
出版者
上越教育大学
雑誌
上越教育大学研究紀要 (ISSN:09158162)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.405-419, 1996-03

ウナギ料理を注文する際に使われるとされる「ばくはウナギだ。」という文(いわゆる「ウナギ文」)について,前稿(高本1995b)を承けて論述する。本稿では,まず,前稿に引き続き,先行研究がどのようなパラフレーズを行っているかをまとめ,それを分類整理する。次に,「ウナギ文」発話の解釈のポイントが,デフォルト解釈がキャンセルされることによって引き起こされる推論にあるという主張を行い,「ウナギ文」発話の解釈記録形式との関連を論じる。最後に,「ウナギ文」の先行研究に「過剰な文法化」が見られることを指摘する。