著者
宮本 和英 砂川 真弓 齋藤 一樹
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.66, no.6, pp.393-402, 2017-06-05 (Released:2017-07-12)
参考文献数
44

生体内のユビキチン化反応は,不要なタンパク質の分解,DNA修復,シグナル伝達など多くの機能を担っている.そのユビキチン化反応を構成しているE2(ユビキチン結合酵素)は,白血病,乳がん,大腸がん等,様々ながん疾患と深く関与していることが知られている.将来的に,E2活性を高感度・定量的に捉えることができれば,E2をバイオマーカとして活用できるはずである.これまでに著者らは,簡便にE2活性を検出するために,人工的なユビキチンリガーゼ(ARF)を分子設計・作製し,そのARFを活用する新しい検出システムを独自に研究してきた.ARFは,ユビキチン化反応に含まれるE3(ユビキチンリガーゼ)の活性部位(α-ヘリックス領域)を50残基程度のペプチドに移植して作製されるキメラ分子である.E3の活性部位のみを持つARFは,元のE3の分子サイズに比べ極めて小さくなっている.この分子設計法をα-ヘリックス領域置換法と名付けた.ARFは特異的なE2結合能を有し,また,それ自身が基質となってユビキチン化される機能を有する.したがって,ARFを用いることで,基質の同定を必要とせずに,E2活性を簡便に検出できる.本稿では,このARFの分子設計法,及びその立体構造,機能的な特徴について概説する.また,実践例として,抗がん剤ボルテゾミブを作用させたヒト急性前骨髄性白血病(NB4)において,ARFの検出システムを活用するE2活性の検出法についても紹介する.
著者
今坂 藤太郎
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.3-30, 2001-01-05 (Released:2008-12-12)
参考文献数
98
被引用文献数
3 4

超音速分子ジェット分光法は, 試料分子を気体状態で絶対零度付近に冷却して測定する方法である. 試料分子を冷却することにより, 鋭い構造の励起スペクトル, あるいは多光子イオン化スペクトルが得られる. 更に, 蛍光スペクトルあるいは光イオン化質量スペクトルを測定して, 試料分子を同定することもできる. したがって, スペクトル選択性が極めて高い. 必要な場合には, シンクロナススキャンルミネッセンス分光法や, クロマトグラフなどの分離手段と結合することにより, 更に選択性を向上させることも可能である. 一方, この手法は原理的には単一分子を検出できる分析感度を有している. したがって, 本法は極限の選択性と感度を同時に持っている. 最近, ダイオキシンを超微量分析するための手法が強く要望されているが, 超音速分子ジェット法は, そのための有力な分析法として注目されている. しかし, ダイオキシンは毒性の異なる多数の分子種の集まりであり, それらを区別して測定することが必要である. また, これらの化合物は極めて毒性が高く, 極微量分析も同時に要求される. 現在, ダイオキシン分析に適用できる超音速分子ジェット分光法の技術開発が進められており, ここではその現状についても言及する.
著者
山田 悦 沖田 秀之 山田 武 平野 宗克 成田 貞夫
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.49, no.6, pp.419-422, 2000 (Released:2001-06-29)
参考文献数
18

銀はイオン状態のとき,大腸菌や細菌等を10μgl-1(10ppb)という極微量濃度で死滅させる効果があるため,プールや温泉では塩素系薬剤に代わって利用を拡大しつつあり,また銀系抗菌製品も開発されてきている。日本ではまだ銀の法規制はないが,適正な濃度での使用が必須であり,定量下限数ppbの銀の高感度簡易定量法が求められている。本研究では,ペルオキソ二硫酸カリウムによるMn(II)→Mn(VII)の酸化における銀の触媒作用を利用した高感度定量法を開発し,水道水,井戸水及び温泉水などの銀イオンの測定に適用した。本法の定量限界は1ppbと高感度で,銀80ng,5回測定の相対標準偏差が0.9%と再現性も良く,共存イオンの影響もなく銀の迅速で簡易な定量として有効な方法であることが明らかとなった。また,簡易法(目視)でも標準色表との比較により2ppbまでの分析が可能である。
著者
神森 大彦 山口 直治 佐藤 公隆
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.16, no.10, pp.1050-1055, 1967 (Released:2010-02-16)
参考文献数
19
被引用文献数
8 16

赤外線分光分析法を鋼中析出物介在物分析,腐食生成物あるいは鋼板表面処理などの研究に応用するため,さしあたりアルミニウム,カルシウム,セリウム,コバルト,クロム,銅,鉄,マグネシウム,マンガン,ニッケル,鉛,スカンジウム,ケイ素,スズ,チタン,バナジウム,イットリウム,亜鉛およびジルコニウムの酸化物あわせて25種の赤外吸収スペクトルを検討し,主としてこれらのスペクトルの傾向と結晶構造との関連性について考察した.方法として臭化カリウム錠剤法とNujol paste法を併用し,測定は1400~400cm-1(約7~25μ)の範囲で行なった.また一部の酸化物については400~60cm-1(25~約167μ)の遠赤外部のスペクトルについても検討した.その結果,これらの酸化物はそれぞれ測定領域内で特長ある吸収を示し,ベルトリド化合物,スピネル型化合物などのグループにより結晶構造と関連づけるとスペクトルをある程度系統的に分類できることがわかり,さらに今後の定性的かつ定量的応用研究への見通しを得た.
著者
相沢 省一 角田 欣一 赤塚 昌義 井上 定夫 赤岩 英夫
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.43, no.11, pp.865-871, 1994-11-05 (Released:2009-05-29)
参考文献数
18
被引用文献数
2 4

河川に生息するトビケラの幼虫に含まれる重金属元素をAASで定量し,重金属汚染環境指標生物としての同水生昆虫の評価を行う目的で,試料分解法をはじめ個体間の元素含量差,体長と元素含量との関係,季節による元素含量の変動等を検討した.確立した分析法により北関東地方数河川に生息するトビケラ幼虫中の重金属元素を定量した結果,上流域に廃鉱山を持つ渡良瀬川や桐生川では他の河川に比較して銅やマンガン等がトビケラ幼虫に多量に含まれており,同昆虫が重金属汚染環境指標生物として有用であることが明らかとなった.

1 0 0 0 OA 放射化分析

著者
岡 好良
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.16, no.12, pp.1381-1394, 1967-12-05 (Released:2009-06-30)
参考文献数
46
被引用文献数
1 3

1 0 0 0 OA 放射化分析

著者
斎藤 信房
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.4, no.4, pp.254-262, 1955-06-05 (Released:2009-06-30)
参考文献数
45
被引用文献数
2 1
著者
西野 智昭 梅澤 喜夫
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.54, no.6, pp.417-426, 2005 (Released:2005-08-31)
参考文献数
16

分子探針を用いた走査型トンネル顕微鏡(STM)について,これまで行われた研究を概説した.分子探針を用いることにより,探針-試料間の水素結合,配位結合及び電荷移動相互作用の各々に基づき,化学選択的なSTM観察が可能となる.これは,上記3種の相互作用に伴う電子波動関数の重なりを通じてトンネル電流が促進されるためである.分子探針を用いることによって得られる化学選択性は,探針分子に含まれる官能基を設計することにより制御できる.また,多くの分子探針は自己組織化単分子膜により下地金探針を修飾することによって作製されたが,導電性ポリマー又はカーボンナノチューブを探針として用いても化学選択性が得られる.更に分子探針によって配座解析,単分子-単分子間の電子移動の測定も可能となる.
著者
田中 善正 田中 由紀子
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.13, no.7, pp.623-627, 1964-07-05 (Released:2009-06-30)

陽イオン分析表の簡易化を目的として,新しい系統的分析法を考案した.すなわち,陽イオンを少数の分類試薬によって5個のグループに分類し,各グループ内のイオンはさらに細分することなしに,すべて試験紙を用いた各個反応によって検出した.試験紙は安定で長期間保存しても鋭敏度の低下しないものを用い,また試験紙が特異的に働く条件を工夫して検出反応に用いた.また検出反応の鋭敏度および試験紙の保存性を調べた.本分析法によれば,従来の系統分析表に比べて分析が非常に簡易化され,分析所要時間も短く,反応の鋭敏度も向上し,実用分析に用いてすぐれていることがわかった.
著者
荒川 隆一 川崎 英也
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.199-214, 2011 (Released:2011-05-02)
参考文献数
46
被引用文献数
2

マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法(MALDI-MS)や液体クロマトグラフィー大気圧化学イオン化質量分析法(LC-APCI-MS)を用いて,水系溶液におけるポリエチレンオキシド(PEO),ポリメタクリル酸メチル(PMMA),及びPEOとポリプロピレンオキシド(PPO)コポリマーの超音波分解の研究を行った.28 kHzホーン型の低周波超音波装置を用いてそれぞれの高分子を超音波分解し,その照射時間による分子量分布の変化及び分解物の末端構造を詳細に解析した.その結果,平均分子量が異なる2, 6, 20, 2000 kDaのEOに対して,最終的には末端基の異なる5種類のオリゴマー分解物(分子量約1000 Da)が生成し,それらの分解経路を推定した.単分散PMMAの超音波分解では,キャビテーションによるOH · やH · の生成によるラジカル(化学)反応に加えて,キャビテーションバブルの崩壊による力学(物理)的な切断が高分子鎖の中央付近で起こることが示唆された.PEO-block-PPOの超音波分解では,分解生成物の詳細な構造解析から結合の最初の切断は,PEOとPPO鎖の結合部付近の主鎖で起こることが分かった.更に,酸素が付加した分解物が検出され,ヘリウム中の熱分解生成物との比較からその酸素源は水又は溶存酸素の可能性が示唆された.PEO-block-PPOの超音波分解は,力学的な切断だけでなくラジカル反応も関与していることが示された.
著者
垣内 隆 山本 雅博
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.181-191, 2016-04-05 (Released:2016-05-10)
参考文献数
85
被引用文献数
4

適度な疎水性を持つイオン液体を塩橋に使用すると,濃厚KCl水溶液からなる塩橋では不可能であった低イオン強度水溶液のpHを正確に測定することができる.また,試料水溶液が疎水性イオンを含まなければ,pH標準緩衝液より高いイオン強度を持つ試料のpH測定にも,イオン液体塩橋は有望である.イオン液体塩橋は,水素イオンのみならずその他のイオンの単独イオン活量測定を広いイオン強度範囲で測定することを可能にするので,pH測定の実用的な観点のみならず,長年にわたる濃厚KCl水溶液塩橋を用いるポテンショメトリーの枠組みを越えた電解質溶液の研究が展望できる.
著者
木村 優 山下 博美 駒田 順子
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.400-405, 1986-04-05 (Released:2010-02-16)
参考文献数
11
被引用文献数
24 30

水中に含まれる各種重金属類の捕集除去に対する緑茶の捕集除去剤としての利用法及びその有効性を検討した.緑茶(抹茶)を希硫酸溶液中でホルマリン処理した.ホルマリン処理を行った茶0.5gを,銀(1),カドミウム(II),ロバルト(II),銅(II),鉄(III),マンガン(II),ニッケル(II),鉛(II),及び亜鉛(II)の9種の金属元素を含む100mlの試料溶液に添加し,30分間かき混ぜた.次に,その溶液を瀕過又は遠心分離を行う.源液又は上澄み液中の金属イオン濃度を黒鉛炉原子吸光分析装置を用いて測定した.0.01moldm-3酢酸ナトリウム溶液(PH6)の条件において上記の鉄(III)イオンを除く8金属イオン(総濃度0.4~11ppm)について捕集除去率90%以上を示した。重金属類を吸着した茶からの金属類の脱離は0.1moldm-3塩酸により容易に行われ,少なくとも数回の再使用が可能であることが分かった.処理茶の水中からの重金属類の捕集除去率及び捕集容量について同一条件下で活性炭と比較した結果,銀(1),ヵドミウム(II)及び亜鉛(II)に対しては茶のほうが優れ,コバルト(II),銅(II),マンガン(II),ニッケル(II)及び鉛(II)に対しては同等であり,鉄(III)に対しては活性炭が優れていることが分かった.8-キノリノール又は1,10-フェナントロリンを溶液に添加すると,鉄(III)以外の元素の捕集除去率には変化がほとんど見られなかったが,鉄(III)のそれは約90%に向上した.他方,エチレンジアミン四酢酸イオン又はトランス-1,2-シクロヘキサンジアミン四酢酸イオンを添加すると,銀及びマンガン以外のどの元素についても捕集率が著しく悪化した.シュウ酸イオンを添加すると,銀以外のどの元素の捕集率も悪くなった.塩化物イオン,硫酸イオン又はレアスコルビン酸を添加すると,銅及び鉛以外の元素の捕集率は悪くなったが,鉄のそれは著しく向上した.
著者
酒井 昭四郎 大蔵 律子
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.15, no.5, pp.507-509, 1966-05-05 (Released:2009-06-30)
参考文献数
3

Since condensed chain phosphoric acids have a titratable strong-acid hydrogen for each phosphorus atom and a titratable weak-acid hydrogen corresponding only to terminal phosphorus atoms, the average number of phosphorous atoms per chain (polymerization degree) can be calculated from titrant volume consumed for two inflexion points on pH titration curve.In the determination of polymerization degree of chain polyphosphates, pH titration was carried out after phosphates had been changed to acid type by ion exchange resin. The values obtained by this method showed a good agreement with those calculated from chemical analysis of Na/P.The method will be applicable to routine analysis for production control of chain polyphosphates.
著者
巽 広輔
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.19-25, 2017-01-05 (Released:2017-02-04)
参考文献数
21
被引用文献数
1

グラファイト粉末と低粘度流動パラフィン等のバインダー液体を混合して調製した液状炭素を電極として用い,ポーラログラフィーを行った.液状炭素はシリンジポンプにより送液し,炭素滴をキャピラリーの先端から水溶液中へ吐出させた.これを作用電極とし,フェロセンカルボン酸(FcCOO−)についてポーラログラフィーを行った結果,明瞭な限界電流をもつFcCOO−の1電子酸化波が観察された.対数プロット解析を行うと,炭素滴が小さいときほどオーム降下の影響が小さくなり,傾きが可逆波の理論値に近づいた.限界電流値の濃度依存性からIlkovic式に基づいて求められたFcCOO−の拡散係数は,白金ディスク電極でのサイクリックボルタンメトリーから求められたそれとほぼ同程度であり,Ilkovic式が炭素滴電極にも近似的に適用可能であることが示された.正側及び負側の電位窓,ならびにゼロ電荷電位についても検討した.
著者
金野 俊太郎 大河内 博 勝見 尚也 緒方 裕子 片岡 淳 岸本 彩 岩本 康弘 反町 篤行 床次 眞司
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.163-174, 2017-03-05 (Released:2017-04-07)
参考文献数
18
被引用文献数
2

2012年より積雪期を除き1か月もしくは2か月ごと(2015年以降)に,福島県浪江町南津島の山林でスギと落葉広葉樹の生葉,落葉,表層土壌,底砂の放射性Cs濃度を調査した.福島市─浪江町間の走行サーベイでは,除染により空間線量率は急速に減衰したが,未除染の山林では物理的減衰と同程度であった.2014年以降,落葉広葉樹林では林床(落葉と表層土壌)で放射性Csは物理的減衰以上に減少していないが,スギ林では生葉と落葉で減少し,表層土壌に蓄積した.2014年までスギ落葉中放射性Csは降水による溶脱が顕著であった.2013年春季には放射性Csはスギ林よりも広葉樹林で表層土壌から深層に移行していたが,2015年冬季にはスギ林で深層への移行率が上回った.小川では放射性Csは小粒径の底砂に蓄積しており,一部は浮遊砂として流出するが,表層土壌に対する比は広葉樹林で2013年: 0.54,2015年: 0.29,スギ林で2013年: 1.4,2016年: 0.31と下がっており,森林に保持されていることが分かった.しかし,春季にはスギ雄花の輸送による放射性Csの生活圏への流出が懸念された.
著者
大城 敬人
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.66, no.5, pp.351-362, 2017-05-05 (Released:2017-06-08)
参考文献数
48
被引用文献数
1

ギャップ電極デバイスを用いたトンネル電流による単分子分析法を開発している.これは,ギャップ電極間を試料分子が通過する際,分子を介したトンネル電流の増加量から単分子ごとにコンダクタンスを計測し,分子を電気的に検出する方法である.この方法を用いることで,核酸塩基やアミノ酸分子などの個々の化学種の違いを,コンダクタンスの大きさとして検出することに成功した.これは分子計算によると分子ごとの電子状態の違い,特に最高被占軌道(HOMO)レベルの違いを反映したものと考えられる.さらに,核酸塩基鎖やオリゴペプチドなどの高分子をギャップ電極間に通過させて計測することで,コンダクタンスの大きさの時間変化から,高分子鎖の配列情報を読む可能性を見いだした.今後こうした単分子分析技術に,分子制御技術を組みあわせた集積デバイスの開発を進め,様々な生体高分子へ展開可能な単分子シーケンサーとすることで,個別医療を実現する要件を満たす次世代シーケンサーの技術開発へと進めていきたい.
著者
森本 友章 中川 淑美 瀬沼 勝 土佐 哲也
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.39, no.11, pp.735-739, 1990
被引用文献数
3

アスパラギン酸センサーは,L-アスパラギン酸β-デカルボキシラーゼ活性をもつPseudomonas dacunhae をκ-カラギーナンで固定化した膜と二酸化炭素電極を組み合わせて作製した.このセンサーは0.2~5mMの濃度範囲で直線性を示し,安定性及び選択性も優れていた.このセンサーによる測定値は他の方法によるものとよい相関を示した.尿素センサーはウレアーゼ活性をもつSporosarcina ureae膜をP. 5ン粥膨伽卿欄6膜を君dacunhaeの場合と同じ方法で調製したものを,アンモニアガス電極に取り付けて作製した.このセンサーは0.1~50mMの範囲で直線性を示し,安定性及び選択性も優れていた.
著者
土屋 正彦 栗田 繕彰 深谷 晴彦 大河内 正一
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.62, no.12, pp.1087-1093, 2013-12-05 (Released:2013-12-28)
参考文献数
24

水は種々の特異性をもつことが知られており,液体中にもクラスターが存在することが推定されているが,その大きさやサイズ分布は確認されていない.液体イオン化質量分析法は液体表面及び気相中のクラスターを区別して測定できるので,室温(23~25℃),大気圧下での水のクラスター(H2O)nの測定,解析を行った.液体表面には,水の分子数nが30前後までのクラスターが連続的に存在し,その水分子数の平均値(N)は15~17であった.気相中にもクラスターが存在するが,液体表面よりは小さくなり,液面から遠ざかるほどクラスターは分解して小さくなる.これはArガスが逆方向に流れているので,単位空間中の水の絶対量が減るためである.試料流量を増加すると,イオン量は若干減るが相対的に大きなクラスターが少し増える.また,第2質量分析計(Q3)でさらに大きなクラスター(N=27)が観測された.クラスターは水素結合により生成するので,大気圧下では水はクラスターとして蒸発し,水量が多くなれば湯気や霧のような水分子の集合体になり,減れば分解すると考えられる.このクラスターの存在が水の特異性の主な原因の一つといえよう.
著者
長江 徳和 榎並 敏行
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.49, no.11, pp.887-893, 2000 (Released:2001-06-29)
参考文献数
12
被引用文献数
7 8

水100%移動相を用いた場合の逆相固定相の保持挙動を評価した。水100%移動相をカラムに通液すると核酸塩基などの試料の保持は時間の経過とともに,また一度通液を停止した後に保持時間が短くなり,このときのカラムの重量差から水が充填剤から抜け出していることが示された。水100%移動相を用いた場合の保持の減少は充填剤の細孔から移動相が抜け出し,その結果移動相と固定相の接触している分離の場が減少することにより起こることが推察された。細孔径,固定相のアルキル鎖長,カラム温度又は緩衝剤などにより保持挙動は大きく変化し,22nm以上の細孔径の大きな固定相であれば,水100%移動相条件でも再現性の高い保持が得られた。また,長いアルキル鎖長のC30固定相は10nmの細孔径でも同様に再現性の高い保持が得られた。固定相や移動相の様々な条件を変えることにより,一般的な逆相固定相でも水100%移動相条件下で再現性の高い分離が可能であることが示された。