著者
浅野 由ミ 舘 鄰 上北 尚正 河西 恭子 遠藤 秀紀 山田 格 佐分 作久良 山内 啓太郎 東條 英昭 名取 正彦
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.70, no.10, pp.351-362, 1999

絶滅種や稀少種の機能遺伝子を解析することは,遺伝子資源の保全や進化学的研究の見地から重要な課題である.本研究は,毛皮あるいは剥製標本の表皮から効率的にゲノムDNAを抽出する方法を開発し,絶滅種や稀少種の機能遺伝子を解析することを最終的な目的として行ったものである.一般に,絶滅種や希少種の剥製•毛皮標本は数も少く,貴重であるので,DNA抽出のような,破壊的解析のための材料を入手することは,困難な場合が多い.従来報告されている古代DNAの抽出法では,いずれも,抽出のために比較的大きな標本片を用いており,少量の標品しか入手できない場合には適用できない.本研究では,特に,原材料となる剥製や毛皮標本の形をできるだけ損傷しないことに留意し,約1mm角の毛皮断片からゲノムDNAを効率よく抽出する方法の確立と,PCR解析を行うための条件の検討を行った.また,本研究で確立した方法を用いて,製作年次の異なる食肉目動物毛皮標本から回収したゲノムDNAをテンプレートとして,歯のエナメル質タンパク質をコードしているアメロゲニン遺伝子断片の回収と塩基配列の解析を試みた.結果の一部として,モンゴルオオカミの毛皮標本から抽出したゲノムDNAのアメロゲニン遺伝子の配列の一部を解読することができたので,イヌ(ゴールデンリトリーバー)の血液から抽出したゲノムDNAのアメロゲニン遺伝子の配列と比較したところ,モンゴルオオカミとイヌの配列は100%一致したが,イヌの品種間,あるいは個体差による配列の多型が存在する可能性もある。イヌ,オオカミのアメロゲニン遺伝子の塩基配列は従来報告が無く,部分的ではあるが配列が決定されたのは本論文が始めてである.イヌとオオカミの種間の違い,および,イヌの品種間の多型については,今後,さらに検討が必要である.
著者
苗川 博史
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産學會報 = The Japanese journal of zootechnical science (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.75, no.2, pp.241-245, 2004-05-25
参考文献数
10

本研究は,モンゴル遊牧体系における二地域の夏営地のヒツジ母子間100組を対象に,音節の組み合わせによる発声タイプと行動型を,母子間距離,母子が遭遇するまでの時間,授乳および吸乳時間との関係について検討した.音節の組み合わせによる母子間の相互作用については,子ヒツジがイニシアチブを有した8タイプと母ヒツジがイニシアチブを有した5タイプに分類された.母子ヒツジともに口の開および閉による発声の割合は,約9 : 1と開いた方が多く,また,母ヒツジが双方向(75%),子ヒツジは一方向(46%)と発声なし(31%)を示す特徴があった.子ヒツジがイニシアチブを有した発声タイプ8(母子双方に発声なし)は,母子間距離と母子が遭遇するまでの時間との間に有意な正の相関が,また吸乳時間と母子間距離の間には有意な負の相関があり,母子間距離によって母子が遭遇するまでの時間,吸乳時間に関連性があることを示唆した.子ヒツジがイニシアチブを有した発声タイプ5(子ヒツジの発声/eee/と母ヒツジの応答なし)は,食草移動時に71.4%,休息行動時に28.6%出現した.この発声タイプ5は,発声タイプ2(子ヒツジの発声/eee/と母ヒツジの応答/nnn/)との間に,母子が遭遇するまでの時間および母子間距離において有意差があり,母子が遭遇するまでの時間,および母子間距離によって発声タイプが異なることが示唆された.子ヒツジの発声タイプ8は,食草移動時に28.6%,休息行動時に71.4%出現し,食草移動時間および休息時間の割合が発声タイプ5と対称的であった.この発声タイプ8は,子ヒツジがイニシアチブを有した発声タイプ1(子ヒツジの発声/eee/と母ヒツジの応答/nnae/),発声タイプ2(子ヒツジの発声/eee/と母ヒツジの応答/nnn/),発声タイプ3(子ヒツジの発声/nee/と母ヒツジの応答/nnae/)との間に母子が遭遇するまでの時間および母子間距離において有意差が見られ,母子が遭遇するまでの時間,母子間距離によって発声タイプが異なることが示唆された.母ヒツジがイニシアチブを有した発声タイプIII(母ヒツジの発声/nnae/と子ヒツジの応答/nee/)は,子ヒツジがイニシアチブを有した発声タイプ8との間に,母子が遭遇するまでの時間,母子間距離において有意差が認められ,母子が遭遇するまでの時間,母子間距離によって発声のタイプが異なることを示唆した.今回の結果から,母子間距離,母子が遭遇するまでの時間,授乳および吸乳時間は,発声時における音節の組み合わせによるタイプと行動型によってそれぞれ異なることが示唆された.
著者
苗川 博史
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産學會報 = The Japanese journal of zootechnical science (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.75, no.2, pp.228-239, 2004-05-25
参考文献数
24
被引用文献数
1 1

14頭もしくは20頭の小群内において,生後3週齢までのヒツジ母子5組の音声コミュニケーションにおける母子間の反応(以下相互作用)を音声表記と情報量に基づいて検討し,母子間の接近行動の経日的推移について解析した.音声表記については,調音作用の観点から口の開閉によって構成される母ヒツジ/nnn/と/nae/と/nnae/および子ヒツジ/nnn/と/eee/と/nee/を発声タイプとして表した.相互作用については,母子それぞれ3タイプの発声と,これらに対する反応を8タイプに分類した24通りのダイアド(母子いずれかの発声とその後に続く一方または双方の行動を1組の完了行動とする)ならびに,それらの情報量について解析した.また,接近行動については,発声の有無に分けて母子ペア毎に経日的に解析した.その結果,母子間の相互作用は,情報伝達機能上,口を開けた発声が主導を占め,発声後は相手を視認もしくは注視し,その後の行動に移行する反応系で構成されていた.その際には,口の開閉のタイプによって生起する反応のしかたに個体差が見られ,発声のしかたによって応答が異なることが示された.また,いずれの発声においても母子ヒツジ間に共有される情報量は0ビットよりも大きく,母子ヒツジ双方に情報の共有があったことが示された.音声表記の結果については,発声タイプによって周波数と持続時間に違いが認められ,それぞれの発声構造の特徴を示すことができた.すなわち,母ヒツジの場合は,口を開けた/nae//nnae/タイプが,口を閉じた/nnn/タイプよりも周波数が50ヘルツ高く,発声時間も0.1秒長かった.子ヒツジの場合は,口を開けた/eee/と/nee/タイプが,口を閉じた/nnn/タイプよりも周波数が50ヘルツ高いものの,発声時間は0.1∼0.2秒短かった.発声に基づく接近のイニシアチブは,生後3週齢までは母ヒツジ主導型であったが,発声によらない接近のイニシアチブの割合については,子ヒツジの方が大きい傾向にあった.
著者
青木 真理 鈴木 修 安藤 貞
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.67, no.7, pp.647-650, 1996-07-25 (Released:2008-03-10)
参考文献数
11
被引用文献数
1 1

Milk composition of beef cows with their suckling calves was examined using the average of milk before and after suckling sampled by hand milking within 26 weeks after calving. The concentration of milk fat and total solids before suckling were lower than those after suckling. The concentration of milk protein, lactose and solids-not-fat before suckling were almost equal to them after suckling. The daily milk yield changed following weeks after calving, but the milk composition did not change.
著者
石橋 晃
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産學會報 = The Japanese journal of zootechnical science (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.78, no.1, pp.1-13, 2007-02-25
参考文献数
33
被引用文献数
3 1

日本の配合飼料の生産量はここ数年約24,000万tである.その原料の大部分は外国からの輸入に依存しており,TDN換算で純国内産飼料の自給率は24.7%,濃厚飼料の自給率は9.7%である.そのため,自給率をあげることはわが国の畜産業界の最大の課題である.それを35%にまで引き上げるべく取り組みがなされている.また,BSE発生以来食の安全性に対する関心が高まり,安全性を担保するため色々な方策が講じられている.反芻動物の飼料への動物性タンパク質の混入を防止するためのA飼料,B飼料の製造工程分離,有害物質の混入防止,その他,配合飼料のトレサビリティ,鳥インフルエンザなどの疾病対策,環境問題など取り組むべき課題は山積している.しかし,絶対的な安全性の担保は不可能である.可能な限り,科学的な立場で対処していかなければならない.その中で不安視され,関心が持たれている遺伝子組換え作物と抗生物質の現状について述べた.
著者
松田 敦郎 梅津 元昭
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産學會報 = The Japanese journal of zootechnical science (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.76, no.2, pp.167-173, 2005-05-25
参考文献数
19

妊娠豚へクロプロステノール(CLO ; PGF<SUB>2&alpha;</SUB>類縁体)およびカルベトシン(CAR ; オキシトシン類縁体)を投与し,分娩および子豚の成長を調べた.実験1では妊娠豚80頭を各群20頭に割付け,妊娠113日目にCLO 0.175mgを投与し,24時間後にCAR 0.05,0.1,0.2mgまたはオキシトシン25IUを筋肉内投与してCARの最適投与量を検討した.その結果,CAR投与から第1子娩出および分娩終了までの平均時間はCAR 0.1mg投与群が最短であった.実験2では妊娠114日目にCLO 0.175mgを投与し,24時間後にCAR 0.1mgまたは生理食塩水を筋肉内投与して分娩および子豚の成長を観察した.CAR 0.1mg投与群(50頭)の第1子娩出までの平均時間は43分で生理食塩水投与群(40頭)の299分に比べて有意に短縮した.CAR 0.1mg投与群では50例すべてが投与日の昼前に分娩を開始したが,生理食塩水投与群は40例中24例の分娩が昼以降になった.また,生後2,5,14日の子豚の平均体重は群間で差がなかった.以上の結果より,妊娠末期のブタへCLO 0.175mg投与後24時間にCAR 0.1mgを投与することは昼間分娩集中化を可能にすると考えられた.
著者
高鳥 浩介 近藤 末男
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:13443941)
巻号頁・発行日
vol.50, no.7, pp.453-459, 1979
被引用文献数
1

豚の常用飼料についてカビ汚染,分布の実態を調査した.供試飼料として,トウモロコシ,麦類,フスマ,ダイズ粕,魚粉,ルーサンペレット,配合飼料の7種,30点を集め菌学的検索をおこなった.豚飼料の構成は濃厚飼料が主体であり,カビ汚染度をみたところ,103~104/gの範囲にあって,飼料全体の汚染度および分布は比較的似た傾向にあった.またカビの分布をみると,Aspergillus, Penicillumの優先する飼料が多く,なかでもA. flavus, A, versicolor., A. glaucusが各飼料で広範に分布していた.PenicilliumではP. citrinum, P. oxalicum, P. rugulosumが高汚染菌であった.その他のカビでは,ケカビ類のMucorが比較的全般に検出され,他にはCandida, Cladosporium, Fasarium, Scopulariopsis, Wallemiaなどがみられた.カビ毒のうち, A. flavusの産生するアフラトキシン(B1, B2, G1, G2)およびA.versicolorの産生するステリグマトシスチンの産生能を,牛および豚飼料から分離したA.flavus 31株, A, versicolor 19株で行なったところ,アフラトキシン産生8株,ステリグマシスチン産生11株を得た.これらの株のうち,アフラトキシンB1 168.30ppm(トウモロコシ由来株),54.17ppm(ダイズ粕由来株)の高い産生量の2株を認めた.ステリグマトシスチン産生11株は,いずれも1ppm以下であった.しかし, A. versicolorの中でステリグマトシスチン産生株が6割近くに達することを考慮すると,家畜飼料中でのこの種のカビ汚染防除に注意する必要がある.また豚飼料でPenicillium, Fusariumの高い汚染,分布がみられたので,この種のカビ毒産生性を検討する必要がある.
著者
戸澤 あきつ 佐藤 衆介
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.88, no.4, pp.497-506, 2017-11-25 (Released:2017-12-14)
参考文献数
42

スノコ床のウィンドウレスで20頭群飼(SI),スノコ床のウィンドウレスで350頭群飼(LI),発酵床のビニールハウスで400頭群飼(LD),放牧地で9頭群飼(SP)の4つの飼育方式における肥育豚の動物福祉レベル並びに生理的ストレス指標の実態を調査した.福祉評価にはWQ®プロトコルを用い,生理的ストレス評価は血清中コルチゾール濃度と健康性に関わるストレス指標である免疫グロブリンA(IgA)濃度を,唾液,糞便,血液から測定した.福祉評価点はSP > LD > LI > SIの順で,福祉レベルは前2者で「良」,後2者で「可」と評価された.血清中コルチゾール濃度はLIで突出して高く,唾液中IgAはSIとLIで高く,糞便中IgAはSIとSPで高かった.SIは低福祉でストレスレベルが高く,LIは低福祉でストレスレベルが最も高く,糞便中IgAは極端に低く,LDは高福祉で低ストレス,SPは最も福祉レベルが高く,ストレスレベルもやや高いが正常値範囲内の飼育方式と考えられた.
著者
林田 重幸
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.28, no.6, pp.329-334, 1958-02-28 (Released:2011-01-25)
参考文献数
74
著者
柴田 正貴 寺田 文典 岩崎 和雄 栗原 光規 西田 武弘
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:13443941)
巻号頁・発行日
vol.63, no.12, pp.1221-1227, 1992
被引用文献数
3 5

反芻家畜のメタン発生量に及ぼす乾草と濃厚飼料給与比率の影響を検討し,簡易なメタン発生量推定式の作成を試みた.供試動物は,ホルスタイン種未経産牛6頭,コリデール種成去勢雄めん羊10頭および日本在来種成去勢雄山羊11頭とした.給与飼料は,オーチャードグラス主体混播牧草を原料草とした乾草ウェハーおよび当場指定濃厚飼料(尿素1%入り,ペレット)であり,乾草と濃厚飼料の給与比率を乾物換算で100:0(H100),70:30(H70)および30:70(H30)とした3処理について実験を行なった.飼料給与量は,TDNで維持要求量の1.5倍を満足する量とした.その結果,次のような知見を得た.1) メタン発生量は,動物種間に有意差が認められ,牛の発生量はめん羊の7倍,山羊の9倍であった.2) メタン発生量は,H70処理にくらべてH30処理で有意に低い値を示した.これは,濃厚飼料多給に伴う飼料中のセルロース含量の低下,繊維成分消化率の低下等の要因に起因すると考えられた.3) 各種栄養成分摂取量当りのメタン発生量は,処理間に有意差を認めたが,動物種間に有意な差は認められなかった.4) 重回帰分析の結果,メタン発生量推定に対する最も有効な説明変数として,窒素,粗繊維および可溶無窒素物の摂取量あるいはそれらの可消化物摂取量が選択された.5) しかし,乾物摂取量(DMI)のみを説明変数として用いても推定精度の低下は小さく,TDNで維持の1,5倍程度の栄養水準における反芻家畜のメタン発生量の簡易な推定式として,以下の式が導出された.メタン発生量(1/日)=0.0305DMI(g/日)-4.441(r=0.992).
著者
秋葉 征夫 松本 達郎
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.5, pp.351-357, 1978-05-25 (Released:2008-03-10)
参考文献数
20

ヒナの脂肪吸収に対するセルロース給与の影響を,脂肪の出納より検討し,また131I標識trioleinを用いてその様相を観察した.14日齢の白色レグホーン種雄ヒナを用い,7%のタローを含む精製飼料を基礎飼料として,これにセルロースを4%および8%添加して14日間給与し,7日間の脂肪の出納をみた.セルロースの給与は飼料の消化管内通過速度を有意に早めたが,脂肪の吸収率に対しては全く影響しなかった.従って,前報で報告した,セルロース給与によってヒナの月刊蔵脂肪が減少する現象は,脂肪の吸収低下に基づくものではないことが明らかにされた.12時間絶食させた28日齢のヒナに131I-trioleinを含む飼料を給与し,その25,50,120および240分後に,血漿,肝臓,消化管内容,筋肉内の131Iを測定した.セルロース給与により各時間とも血漿中131Iはわずかに減少する傾向がみられ,120分,240分後の肝臓131Iは有意の減少を示した.
著者
菅野 長右ヱ門 大武 由之
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.282-296, 1981-04-25 (Released:2008-03-10)
参考文献数
17

牛乳脂肪球皮膜から得た可溶性蛋白質(SGP)の抗体と反応する蛋白質がホエーに存在することが見出され,これをanti-SGP reacting protein(A蛋白質)と名付けた.A蛋白質の大部分は耐熱性のプロテオースペプトンの成分-3に含まれているが,成分-5と-8にも存在する.ここでは,3成分間のA蛋白質の性質の差異およびA蛋白質とSGPの構造的•免疫学的関連を明らかにするために,各成分をBio Gel A-0.5mによるゲル〓過およびDEAE-celluloseクロマトグラフィーで分画した画分を用いて研究した.得られた各成分の画分を一元平板免疫拡散,二重免疫拡散,免疫電気泳動,およびDisc電気泳動で分析した結果は互に一致していたことから,A蛋白質には移動度の小さいバンド(SMB)とバンド3の2つの蛋白質が関連していることが示唆された.また各画分の沈降線は各成分の画分間においてさえ融合していたから,A蛋白質は同一の抗原決定群をもっていることが判明した.成分-3をDEAE-celluloseクロマトグラフィーで分画した画分の免疫電気泳動パターンにおける沈降線の移動度は溶出された画分の順に増大していた.このことから,多様な形のA蛋白質が存在することが判明した.さらに,A蛋白質とSGPの構造的関連をSDSPAGEで調べた結果,少なくとも2種の糖ペプチド(band AおよびB)が両者に共通していた.したがって,A蛋白質が同一の抗原決定群をもつにもかかわらず,多様な形をとることは,A蛋白質が主要な2種の糖ペプチドとその他のポリペプチドの分子間会合によって形成されていることに起因するものと考えられた.またA蛋白質は血清に由来する蛋白質ではなかった.
著者
海老名 卓三郎 太田 実 打和 秀世 村上 梅司
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.65, no.6, pp.580-589, 1994-06-25 (Released:2008-03-10)
参考文献数
16

皮膚ケラチンとは反応せず,毛髪に特異的に結合し,毛髪の破断強度を上げる抗毛髪ケラチ ン抗体を含む初乳ならびに常乳を免疫牛に産生させた.人毛髪ケラチン50mgを出産60日前のホルスタイン牛に筋肉内に注射し,(2~3)週間後に同抗原を乳房内または乳房リンパ節附近に投与すると,血中抗体価ならびに初乳中の毛髪ケラチンに対する抗体価は105に上昇した.この時,免疫牛一頭の初乳中に(1~1.5)kgのIgGを産生することが出来た.さらにこれらの免疫牛に分娩2~3ヵ月後ケラチンを50mgずつ筋肉注射し,4週おきに同抗原を筋肉内液射又は腹腔内注射を3回行なったところ,常乳中に初乳と同等の比活性を持った抗体が出来るにとを見出した.常乳では300日間搾乳することができ,全体では(4~5)kgのIgGを得ることができる.にれより,初乳に加えて常乳を抗体生産に利用するにとが可能となった.
著者
尾野 喜孝 岩元 久雄 高原 斉
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.7, pp.453-459, 1983-07-25 (Released:2008-03-10)
参考文献数
26
被引用文献数
5 1

鶏の大腿二頭筋(M.biceps femoris)においてAndrogenが筋線維型の構成割合および筋線維の直径にいかなる影響を及ぼすかを組織化学的に検討した.供試鶏はNew Hampshire種雄を用い,対照区,去勢区および去勢鶏にtestosterone propionate(TP)を投与したTP処理区の3区に区分した.大腿二頭筋筋線維は,myosin ATPase, succinic dehydrogenase,およびNADH tetrazoliumreductaseの酵素活性に基づきII-R型とII-W型とに区別された.II-R型はfast-twitch-oxidative-glycolytic fibersでありII-W型はfast-twitch-glycolytic fibersである.雄鶏では20週齢以後の性成熟期にII-R筋線維の構成割合が著しく増加し,逆にII-W型筋線維の構成割合は減少した.去勢鶏の筋線維型の構成割合は雄鶏でみられたような変化は示さなかったが,TPを投与することによって雄鶏のそれへと回復した.去勢の結果,筋線維の直径は特にII-R型でその増大が著しく抑制されるが,TP投与によりこれは回復の傾向を示した.以上の結果から,Androgenは雄鶏の大腿二頭筋でII-W型筋線維の一部の筋線維の酸化的酵素活性を特異的に高め,II-R型へと変換し,同時にII-R型筋線維の直径を増大させることによって,同筋肉を持続性を伴った力強い運動に適合させるものと考えられる.
著者
森 香中
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.19-22, 1951 (Released:2008-03-10)
参考文献数
8

マウスを用いてビタミンLの生殖生理的作用の追究を主眼としそ実験し次の如き結果を得た。(1) マウスでは50日間程度のL欠乏に対しては経産未経産を通じて著しい泌乳障害を起すとは考えられない。(2) 幼若マウスに対してLの経口投与は,♀♂共に体及び生殖器官発育には大した効果がみられないが乳腺組織の発育を促進するものと認められる。(3) 未性成熟♀マウスにAnthranilic Acid即ちL1とProlanとを適量混合皮下注射するとProlanの性腺刺戟効果を増大し,L1の乳腺組織発育促進効果をも増加さす,即ちProlanとビダミンL1との間には相互的協同作用が存在する。
著者
田中 桂一
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.45, no.6, pp.307-318, 1974-06-25 (Released:2008-03-10)
参考文献数
146
被引用文献数
1
著者
熊崎 一雄 森 純一
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.6, pp.362-368, 1962 (Released:2008-03-10)
参考文献数
8

岡山,徳島,宮崎の各県下に,合計13頭のアルビノ牛が発生した.これらの血統調査,外貌観察,被毛および眼球組織の顕微鏡的観察を行ない,次の結果を得た.1. これら13頭は,4頭の優良種雄牛から生れたものであつて,先に松本らが報告した3頭のアルビノ牛と密接な血縁関係をもつていた.松本らが報告した3頭も念めて,総計15頭のアルビノ牛が,種雄牛FM号の血を引いていた.残りの1頭では,その父親が,北海道に発生したアルビノ牛と半兄弟の関係にあつた.これらの関係から,アルビノ牛の発現は劣性遺伝子に支配されるものと推定される.2. 6ヵ月以上観察を続けることができたアルビノ牛には,すべて幽霊斑が出現した.この出現には,性の差が関与するといわれているが,今回調査したなかで,雄はすべて生後間もなく売却屠殺されたので,これを確認することができなかつた.幽霊斑が出現する原因は,被毛に含まれる色素の多少によるものではなく,被毛の構造の違いによるものと思われる.3. これらの牛は,出生後しばらく強い羞明現象を表わしたが,成長するに及んでその程度を減じた.4. 成長するに従つて,虹彩および毛様体部に色素の沈着を認めた.また一部のアルビノ牛の眼瞼および耳の皮膚に暗色の小斑点の出現を認めた.これらの事実から本アルビノ牛は不完全アルビノと推定された.