著者
水間 恵 岡村 俊宏 鈴木 英作 須田 義人 平山 琢二 小川 智子 鈴木 啓一
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.84, no.1, pp.51-57, 2013-02-25 (Released:2013-08-25)
参考文献数
11
被引用文献数
1

海藻と海苔の飼料添加給与がブタの免疫能に及ぼす影響を検討した.試験1では,体重20 kgのランドレース種去勢雄20頭を半数ずつ対照区と試験区に分けて群飼し,試験区には海藻を0.8%添加した飼料を給与した.試験開始時(0日),羊赤血球(SRBC)の一次(21日)と二次接種時(28日),その翌日(29日),さらにその一週間後(35日)に採血と唾液を採取し,免疫能を測定した. SRBC二次接種の翌日,食細胞活性は両区とも低下したが海藻区が有意に高かった(P<0.05).SRBC二次接種後,唾液中IgA濃度は海藻区が対照区と比べ有意に高い値(P<0.01)を示し,SRBC特異的IgG濃度も海藻区の値が高かったが有意差は認められなかった.試験2では肥育後期のブタに海苔を2.0%飼料添加し,各免疫形質について対照区と比較したが,いずれの免疫形質についても海苔添加の有意な効果は認められなかった.
著者
広岡 博之
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.92, no.4, pp.503-510, 2021-11-25 (Released:2022-01-06)
参考文献数
21

最近の家畜生産は環境負荷を低減させつつ,経済的に成り立つ経営が求められている.このような問題を検討するには,環境負荷の低減策を実施した場合の経済性についてあらかじめ検討することは重要である.そこで本研究では,①1頭当たりの環境負荷に対する利益の限界削減コストと②畜産物1 kg当たりの限界削減コストおよび③農家レベルでの環境負荷制約下での飼養頭数の減少を考慮した環境負荷低減法に関する経済評価法について先行研究の数値例を用いてその妥当性と意味付けを検討した.本研究は,経済性と環境負荷の両方を考慮する持続可能な家畜生産のための簡単な理論的なフレームワークを構築するものと考えられた.最後に,家畜生産に対する環境負荷低減のための施策について検討した.
著者
長田 隆
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.72, no.8, pp.167-176, 2001-04-25 (Released:2008-03-10)
参考文献数
97
被引用文献数
4 1

Although there are many unknown portions, about 5% of CH., and about 30% of N2O anthropogenic generation sources, are presumed to be of livestock excrement origin, and the curtailment is expected. However, in actual cases in which the amounts generated were in a real porcessing facility, there was a great disparity in the value obtained. The amount of gas generated from actual treatment processing must be measured more exactly, and generating factors must be analyzed.
著者
竹村 勇司 菅野 茂 広瀬 昶 澤崎 坦
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.7, pp.508-514, 1984-07-25 (Released:2008-03-10)
参考文献数
14

慢性的な低酸素暴露が,成長期ラットの心肺機能に及ぼす影響を明らかににるために,コントロールチャンバーを用いて実験を行なった.5週令のWistar系雄ラット35匹を7群次分けた.5週令で観察する群をC0,標高2,500m相当の低圧低酸素環境に5週令から暴露し,8および11週令で観察する群をT3,T6,11週令まで暴露したのち海面相当の常圧常酸素環境にもどし,22週令で観察する群をT17とし,それぞれの群に対して海面相当で飼育にる対照群C3,C6,C17,を設けた.温度,湿度,および二酸化炭素濃度はそれぞれ常に25°C,60%,および500~1,500ppmに制御した.各群に対して,形態的,心電図的,血液学的検査を常圧常酸素条件下で実施した.暴露群では対照群と比べて,成長にともなう体重の増加が抑圧され,QT間隔は延長し,心臓重量も大きい傾向にあったが,暴露による副腎重量の増大は,常圧常酸素環境へ戻すことにより回復した.赤血球数,Hb濃度,Hct値,および右心室重量はT3群で大きく増加したが,その後の増加は抑圧された.T6群では,平均電気軸のバラツキが大きくなり,肺重量体重比ならびにMCV,MCHが大きくなった.高地環境下でみられる心肺系の典型的な変化が低酸素暴露のみによって生じたことから,心肺機能にとって酸素分圧の低下が多くの高地環境要因の中で最も重要な作用因子であり,高地環境への適応過程として生理状態の安定に向け段階的な変化が生ずる可能性が示唆された.
著者
梅田 剛利 太田 剛 浅岡 壮平 森 康浩 嶋谷 頼毅 手島 信貴 宮川 創 馬場 武志
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.88, no.1, pp.19-24, 2017-02-25 (Released:2017-04-06)
参考文献数
19
被引用文献数
1

ブナシメジ廃菌床(以下,廃菌床)が泌乳牛用発酵混合飼料(発酵TMR)の原料として利用可能であるかを検討するため,ホルスタイン種泌乳牛4頭に廃菌床を乾物あたり8%含む発酵TMR(廃菌床区)あるいは含まない発酵TMR(対照区)を給与した1期14日間の試験を行い,2期目には処理を反転した.発酵TMRは発酵品質を調査し,TMRの粗濃比,水分含量,有機物含量,粗タンパク質含量およびNDFom含量は両区でそろえた.廃菌床を添加した発酵TMRの発酵品質は良好であり,廃菌床区の乳成分は乳タンパク質率が対照区と比べて低かった(P<0.01)ものの,乳タンパク質生産量は有意差が認められず,乳脂肪率と乳糖率は対照区と比べて有意差が認められなかった.廃菌床区の乾物摂取量および乳量は対照区と比べて有意差が認められなかった.これらのことから,ブナシメジ廃菌床は発酵TMRの原料としての利用可能性が示された.
著者
黒瀬 陽平 若田 雄吾 坂下 幸 寺島 福秋
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.69, no.7, pp.653-658, 1998-07-25 (Released:2008-03-10)
参考文献数
16

セロトニンは,脳において神経伝達物質として存在する.中枢セロトニンは,内分泌系に影響することが示唆されている.本研究の目的は,中枢セロトニン神経の活性とグルコースに対する末梢インズリン分泌反応との関係を明らかにすることである.実験動物としてWistar系雄ラット(体重351~400g)を使用した.セロトニン合成阻害薬P-クロロフェニルアラニン(pCPA,1mg)を脳内のセロトニン合成を阻害する目的で側脳室へ投与した、グルコースに対する末梢インスリン分泌反応を,グルコースクランプ法によって,pCPA投与群および生理食塩水投与群において比較検討した、グルコース注入率(GIR)および血糖値は両者間で差がないにもかかわらず,血清インスリン濃度平均増加量(MSII)は,pCPA投与群の方が有意に低かった.グルコース注入に対するインスリン分泌の指標値(MPII/GIR)は,pCPA投与群の方が有意に低かった.本研究は,脳内のセロトニンの合成阻害による欠乏,すなわちセロトーン神経の不活化が,グルコースに対する末梢インスリン分泌反応を抑制することを明確に例証した.
著者
齋藤 邦彦 鈴木 英敏 金田 修一 阿部 剛 齋藤 薫 佐久間 弘典 庄司 則章
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.87, no.2, pp.133-141, 2016-05-25 (Released:2016-06-18)
参考文献数
22

膨潤化処理した飼料米(膨潤玄米)の給与が肥育牛の発育性と産肉性に及ぼす影響を検討した.供試牛は黒毛和種去勢牛を用い,濃厚飼料多給肥育による対照区に4頭を,15ヵ月齢から出荷まで濃厚飼料の30%量を膨潤玄米に代替給与する試験区に4頭をそれぞれ配置した.試験区において稲わら摂取量が有意に多くなった結果,肥育全期間における推定総TDN摂取量も試験区が対照区より多くなったが(P<0.01),試験牛の発育および日増体量は試験区間に差が認められなかった.枝肉格付成績,胸最長筋の水分,粗脂肪,粗タンパク質の各含量および脂肪酸組成については試験区間に差はなかった.以上のことから,黒毛和種去勢牛肥育において配合飼料の30%量を膨潤玄米に代替給与しても,発育性および産肉性への影響はなく,輸入穀物の代替飼料として利用可能であることが示唆された.
著者
吉田 宣夫
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.81, no.4, pp.489-493, 2010-11-25 (Released:2011-05-26)
参考文献数
48
被引用文献数
6 2

農林水産研究基本計画が2010年に改訂され,飼料用米の品種育成および栽培,ウシ・ブタ・ニワトリなどに供給する飼料用米の調製加工と給与技術の開発が目標になっている.飼料自給率向上と耕種・畜産経営の課題解決に向けた実用的な技術開発が国,独立行政法人,公立研究機関,大学,民間との連携研究で進められている.これまでの研究成果を活用した飼料用米給与によるブランド畜産物が拡大するなど資源循環型の地域社会形成が始まっている.
著者
宿院 享 杉本 実紀 池田 俊太郎 久米 新一
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.85, no.4, pp.503-507, 2014-11-25 (Released:2014-12-25)
参考文献数
17

ICR系妊娠マウス18匹を対照区,2%塩化カリウム(KCl)給与区および5%KCl給与区に割り当てて,KCl給与区では交配後6.5日目から分娩14日後まで2%あるいは5%のKClを添加した飼料を給与し,マウスの体重,飼料摂取量,飲水量,腎臓重量,腎組織と血液成分に及ぼすKCl給与水準の影響を調べた.泌乳マウスでは分娩直後から飼料摂取量と飲水量が急増した.妊娠期と泌乳期のマウスの飼料摂取量にはKCl給与の影響は認められなかったが,KCl給与水準の上昇とともに飲水量が増加し,なかでも5%KCl区の泌乳マウスの飲水量が顕著に増加した.泌乳マウスの腎臓重量は5%KCl区で最大であり,血清KとCl濃度はKCl給与区で上昇した.しかし,泌乳マウスの腎組織にはKCl給与の影響は認められなかった.以上の結果から,KCl給与水準が上昇すると泌乳マウスでは飲水量と腎臓重量が増加し,腎臓に多大な負荷を及ぼすことが推察された.
著者
菅原 盛幸 大木 与志雄
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.6, pp.400-405, 1982-06-25 (Released:2008-03-10)
参考文献数
13

ハタネズミにおける給与飼料の違いによる消化管内発酵産物および体内代謝産物への影響,さらに絶食による体内代謝産物への影響について調べた.給与した飼料は(A) ヘイキューブ単独,(B)ヘイキューブおよび草食動物用ペレット,(C) 草食動物用ペレット単独,(D) じゃがいも単独である.絶食は24時間と48時間について検討した.(1) 各飼料給与群の食道のう内容物から,(A) 4.30,(B)4.65,(C) 4.06,(D) 3.31mM/dlの揮発性低級脂肪酸(VFA)が検出され,腺胃•幽門胃内容物では著しく減少していた.VFAの構成は酢酸が主体で,酪酸,プロピオン酸は僅かであった.一方,乳酸はいずれの群においても比較的多く存在し,特に線維質が少なく澱粉質の多い(D) 給与群において高かった.盲腸内VFA濃度は,10mM/dlと各群とも高く,その比率は,(A)~(C)群において,ほぼ一定であり,酢酸:プロピオン酸:酪酸=10:1:2であった.(2) 血糖値は(A)63.8,(B)81.0,(C)91.3,(D)77.4mg/dlであった.肝グリコーゲンは肝1g当り10~20mgであった.血漿遊離脂肪酸(FFA)は0.609~0.732mEq/lであった.(3) 絶食により,血中ケトン体および尿中ケトン体が著しく増加し,24時間絶食で70%,48時間絶食で91%がケトン尿症を呈し,典型的な飢餓性のケトーシズを示した.この時,血糖値は47.2mg/dlとほぼ半減し,肝グリコーゲンは完全に消失していた.血漿FFAは絶食24時間で1.377mEq/lと倍増し,48時間後には1.967mEq/lとさらに増加した.
著者
紅 玉 駒木 望 島津 朋之 鈴木 啓一
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産學會報 = The Japanese journal of zootechnical science (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.84, no.3, pp.327-332, 2013-08-25
参考文献数
8
被引用文献数
5

酸素消費量(O<SUB>2</SUB>C)について高(H系)低(L系)方向への選抜を行った.第6世代までは代謝体重当酸素消費量(O<SUB>2</SUB>C/MBW)を選抜形質とした.体重(BW),O<SUB>2</SUB>CとO<SUB>2</SUB>C/MBWの遺伝率はH系,L系統とも0.5前後の中程度だった.BWとO<SUB>2</SUB>C/MBWの遺伝相関はH系で-0.177,L系で-0.345だった.そのため,相関反応として,H系のBWはL系より小さくなった.そこで,第7世代から9世代まではO<SUB>2</SUB>Cを選抜形質として選抜を継続した.第9世代ではH系とL系間にBWの有意差は認められず,O<SUB>2</SUB>CとO<SUB>2</SUB>C/MBWの表型値と推定育種価はH系がL系より有意に高かった.選抜第8と9世代の両系統のマウス合計160匹を用い,4から7週齢までの飼料要求率を比較した.L系はH系より飼料要求率は有意に低かった.以上の結果からO<SUB>2</SUB>Cを選抜指標とした高低方向への選抜が飼料利用性の異なるマウス系統の作出に有効であることが明らとなった.
著者
朝賀 一美 矢野 幸男 宮口 信子 中出 浩二 和田 佳子
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産學會報 = The Japanese journal of zootechnical science (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.67, no.11, pp.1003-1009, 1996-11-25
参考文献数
13

牛肉の硬さを生肉の状態で測定する回転式センサーの開発を行った,本センサーは刃型プランジャーを装着した回転部と,針状の固定用プランジャーを装着した固定部からなり,結合組織の切断に伴って刃型プランジャーが受ける破断応力に基づく測定により,生肉の硬さを評価した,測定条件は回転角度180&deg;,回転速度0.80秒/&deg;とし,2cmタイプ刃型プランジャーを2本装着したものを,肉線維にほぼ平行に回転させたときに得られる最高トルク値をその肉の硬さとした.本センサーで測定した筋肉は国産ホルスタイン種去勢牛(8頭)から採取した腸腰筋,胸最長筋,半膜様筋,半腱様筋,腓腹筋および上腕筋で,各筋肉の硬さはそれぞれ13.42,14.90,21.90,19.70,29.70および33.50kgwと筋肉間で差異が認められた.また,本センサーをオーストラリア産アンガス種去勢牛(33頭)から採取した胸最長筋と半膜様筋に適用したところ,半膜様筋では,本センサーによる測定値と加熱後の官能検査値およびテンシプレッサーによる測定値との相関係数はそれぞれ0.64(P<0.01)および0.68(P<0,01)であった.また,胸最長筋も半膜様筋と同様の傾向を示した.以上のことから,本センサーを用いた結合組織の切断による測定は,生肉の硬さの測定に有用であることが明らかとなった.
著者
北川 貴志 谷 浩 山路 泰介 藤田 雅彦 福井 英彦
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.85, no.4, pp.487-493, 2014

黒毛和種去勢牛延べ24頭を用いて,大麦代替としての玄米の給与が産肉性に及ぼす影響を調べた.試験区には玄米を対照区の飼料の大麦の一部代替として肥育全期間10%給与区(RB10区),15%給与区(RB15区),また,大麦の全量代替として前期18%,中後期30%給与区(RB18-30区)の3試験区を設定した.各試験区は対照区のTDNとCPがほぼ同等になるようにトウモロコシの配合割合を減らすなどの調整をした.増体にはいずれの試験区も影響はなかった.飼料摂取量はRB18-30区でのみ濃厚飼料摂取量と推定TDN摂取量が有意に多くなった(<i>P</i> < 0.05).血中ビタミンA濃度はRB10区に影響はなかったが,RB15区とRB18-30区は対照区より有意に低い値となる時期があった(<i>P</i> < 0.01).枝肉成績はRB10区とRB15区に影響はなかったが,RB18-30区では枝肉重量とバラの厚さが対照区より有意に大きくなった(<i>P</i> < 0.05).胸最長筋の脂肪酸組成にはいずれの区も影響はなかった.玄米は大麦の代替としても黒毛和種牛肥育の飼料に使用できると考えられた.
著者
青山 真人 山崎 真 杉田 昭栄 楠瀬 良
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産學會報 = The Japanese journal of zootechnical science (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.72, no.8, pp.J256-J265, 2001-04-25
参考文献数
21
被引用文献数
2

馬術愛好家や職業として日頃ウマに接している人達はウマの表情からその情動をどの程度推察できるか,また,彼らはウマの顔のどの部位を手がかりとしてその情動を判断しているのかを調査した.調査は,ウマの顔の写真のみからその置かれている状況を推察し,さらに顔のどの部位を手がかりとしてその判断を下したかを答えるアンケート形式で行った.その結果,日頃ウマに接している人達143名の平均点は53.5点(全問正解の場合100点)であり,ウマに接する機会が少ない人達111名の平均点(39.4点)よりも有意に高かった.このことから,日頃ウマに接している人達は,ウマの顔の写真のみからその置かれている状況をある程度推察できるものと考えられた.ウマに接している人達が,状況を推察する際に手がかりとしてもっとも多く観察していたのは耳であり,さらに,高い正解率(55点以上)であったグループは正解率の低いグループ(55点未満)と比較して,耳を観察した回数が有意に多かった.これまでの文献から,耳はウマの感情がもっとも顕著に現れる部位とされているが,日頃ウマに接している人達は経験からそのことを知っていることが示された.しかしながら,異なる状況下であっても,ウマの耳の向きや角度が類似していたり,ほとんど同じである場合もあり,耳のみからでは正確な判断が難しい状況があることも示された.その場合には耳に注目すると同時に,他の部位やそのウマに関わっている他のウマの表情など,別の手がかりをあわせて指標とし,総合的に判断することが有効であると考えられた.
著者
小西 一之 堂地 修 岡田 真人 宮沢 彰 橋谷田 豊 後藤 裕司 小林 修司 今井 敬
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産學會報 = The Japanese journal of zootechnical science (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.68, no.11, pp.1075-1084, 1997-11-25
参考文献数
26
被引用文献数
4

持続性黄体ホルモン製剤であるCIDR-B(以下CIDR)を用いて発情周期を制御したウシのFSHによる過剰排卵処理について,Estradiol-17&beta; Valerate (EV)を投与したときの効果を黒毛和種未経産牛を用いて調べるとともに,短期間に実施した連続過剰排卵処理の影響を調べた.黒毛秘種未経産牛16頭を試験牛とし,無作為にEV投与区とEV非投与区(対照区)に分けた.試験牛には発情周期にかかわらずCIDRを膣内に装着し,その翌日にEV投与区にはゴマ油2mlに溶解したEV 5mgを,対照区にはゴマ油2mlを頸部筋肉内に注射した.これらの投与後5日目から過剰排卵処理を開始した.FSH計20AUを3日間の漸減法により筋肉内注射し,FSH投与開始後3日目にCIDRを除去するとともにクロプロステノール750&mu;gを筋肉内注射することにより発情を誘起した.人工授精を約12時間間隔で20行い,発情開始後7日目に非外科的に胚の回収を行った.以上の処理を1クールとし,EV投与区と対照区を交互に反転しながら4クール行った.採胚間隔は28日とした.なお,第3および第4クールは16頭のうち12頭で行った.第1および第2クールでは超音波断層装置によりCIDRの装着から除去まで1日おきに卵巣の動態を観察した.第4クールまでの12頭の過剰排卵処理成績について,EV投与と処理回数の2元配置により分散分析を待った.EV投与により回収卵数は有意に増加した(P<0.05).処理回数の影響はま黄体数でのみ有意であった(P<0.05).また,第1と第2クール分,第2と第3クール分,第3と第4クール分の連続する2クール分の成績をまとめた結果,いずれの場合も対照区の回収卵数が10あるいは8個未満のウシでは,反転させたEV投与区では採胚成績は有意に改善された.しかし,対照区の回収卵数が10あるいは8個以上のウシでは反転させたEV投与区での成績は対照区と差は認められなかった.第1および第2クールの卵巣の追跡では,過剰排卵処理開始時において,対照区に比べ,反転させたEV投与区の大卵胞(径82nm以上)数は有意に少なかった.以上より,CIDRを用いた過剰排卵処理ではEVを併用投与することにより,卵巣中の大卵胞数が抑制されるとともに,過剰排卵処理成績が改善されることが示唆された.
著者
平尾 温司 杉田 昭栄 菅原 邦生
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.71, no.10, pp.483-490, 2000-10-25 (Released:2008-03-10)
参考文献数
26

鳥類の嗅覚機構を解明するため,ニワトリ嗅球の遠心路および求心路をバイオサイチン法およびホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)法をそれぞれ単独に用いて明らかにした.バイオサイチン法の結果より,ニワトリ嗅球の遠心路は線維群の通過部位から経路1~3に分類することができた.経路1は同側の副高線条体(HA)および海馬(Hp)への投射を有していた.経路2は同側の最上介在高線条体,腹側高線条体(HV),新線条体(N)および基底核(Bas)への投射を有していた.経路3は両側の嗅旁葉,嗅結節,前頭原線条体路,填古線条体,前原線条体,梨状皮質,側頭頭頂後頭野,紐核,対側のHA, Hp, HV, NおよびBasへ投射していた.HRP法の結果より,ニワトリ嗅球の求心路は両側の外側中隔核,内側中隔核およびHpから投射を受けていた.また,ニワトリ嗅球はHpと相互結合を有していた.
著者
武田 久美子 大西 彰 三上 仁志 犬丸 茂樹
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.65, no.6, pp.556-562, 1994-06-25 (Released:2008-03-10)
参考文献数
18

ミトコンドリァDNAは細胞質のミトコンドリア内に存在する核外DNAである.ミトコンドリアDNAの制限酵素切断型多型(RFLP)を,細胞質マーカーとして利用できるかどうか検討した.まずC57 BL/6(B6)マウスのミトコンドリアDNAを制限酵素SacIで直鎖状にし,ラムダファージに組み込んで完全長のクローンを得た.そしてこれをプローブとしてサザンブロットハイブリダイゼーションを行ない,マウスのミトコンドリアDNA多型の検出を試みた.B6およびRR系統マウスの各組織から抽出したDNAを用いたところ,いずれの試料からもミトコンドリアDNA由来のバンドが検出でき,B6とRR系統マウスとの間で期待されたRFLPが観察された.しかし,抽出されたDNA量当りのミトコンドリアDNA量は組織ごとに異なっていた.また,凍結保存したB6とRR系統間のキメラマウスの組織より抽出したDNAを用いたところ,両者のパターンが検出され,キメラであることが判定できた.以上の結果から,ミトコンドリアDNAのRFLPが細胞質マーカーとなりえること,ミトコンドリアDNAクローンがRFLPの検出やキメラ判定のプローブとして有効であることが明らかになった.
著者
水谷 茂章 中川 和治 礒野 禎三 毛利 信幸
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産學會報 = The Japanese journal of zootechnical science (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.283-288, 1995-03-25
参考文献数
16
被引用文献数
2

ヘキサミン(1,3,5,7-テトラアザトリシクロ[3.3.1.1<sup>3</sup>,<sup>7</sup>)]デカン)の鞣皮性を研究するために,ヘキサミン溶液での温度と硫酸の添加量がpH並びに皮粉の熱変性温度(T<sub>D</sub>)に及ぼす影響,また,ヘキサミンがクロム鞣液のpH並びにクロムの沈澱形成に及ぼす影響について検討した.得られた結果は次の通りである.1) ヘキサミンの分解反応は比較的容易に始まるが,反応終了までには長時間を要した.しかし,皮粉が共存すると,その時間が短縮された.また,皮粉のT<sub>D</sub>の上昇は非常に遅かった.一方,溶液の温度が高いほど,硫酸の添加量が多いほどヘキサミンの分解反応が促進され,皮粉のT<sub>D</sub>の上昇は速くなった.2) クロム鞣剤は硫酸酸性下においてヘキサミンの分解反応を速めた.すなわち,ヘキサミンの分解反応が終了するまに要する時間は,クロム鞣剤が共存しない場合の1/2以下となり,また,溶液の温度が高いほど,硫酸の添加量が多いほど短縮された.3) ヘキサミンークロム鞣液では,かなり高いpHにおいてもクロムが沈澱しにくい.このことは,ヘキサミンの分解反応による生成物がクロム錯塩に対してマスキング効果を持つことが考えられる.