著者
LENG Ron A.
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.80, no.4, pp.468, 2009-11-25 (Released:2010-05-25)

現在世界は,相互に関係し,作用しうる次の3つの危機に直面している : 気候変動,ピークオイル(安価なエネルギーの終末),そしてグローバルな資源枯渇.バランスの良い食事を心がけることはもちろんのこと,予想される将来の世界の人口に対しての食事を供給するために大きな変革が必要であることは言うまでもない.エネルギーに関連して,食料との関係を理解しなければならない.近代的な農業はエネルギー集約的な産業であり,エネルギー価格の高騰により影響を受けやすい.肥料の主要な原料は天然ガス(窒素肥料生産コストの70-90%)であり,生産資材の中で肥料は最大のエネルギーを使用する.安価な化石燃料により,食料や飼料(穀類がその80%を占める)は安価に生産することができた.しかし,原油は枯渇するに従って価格が上昇し,このような状況は大きく変化する.その結果,人の食料や企業的な畜産のための飼料の入手に大きな混乱を招きかねない.同時に食料や飼料生産のための肥沃な土地は多くの複合した問題のため収量の減少とともになくなりかねない.これらの問題とは : 気候変動による破壊的効果,農業用水の減少,土地の利用性と肥沃土の減少,バイオエタノール生産のための原料作物のための土地利用の拡大.ピークオイルの最悪の影響は気候変動による最悪の影響より早急に生じ,多くの国々における将来の畜産戦略に影響する主要な要因となりうる.畜産革命は,穀類の輸出国において発展したことと同様に,ブタや家禽,そして反芻家畜の生産をさせるために工業国から開発途上国に輸出される世界の余剰な(それ故安価な)穀類に基礎を置いている.しかしながら,もし人口が67億から90-100億に増加するならば,人が必要とする穀類(食料と工業原料)に対して余剰となるものは現在の発展シナリオとは異なるものとなり,家畜生産に利用しうる世界の穀類の量は高度に制限されると予想され,世界中における企業畜産の減少に繋がる.草食動物(主に反芻動物とウサギ)を基盤とする畜産業は,食料やバイオ燃料生産に使用されない幅広い農業副産物やバイオマスを活用することができるため,広範囲な発展が求められる.バイオマスの主要な資源として穀類のわらがある.これらは処理をすることで消化率を向上することができ,適正な栄養の添加により反芻家畜による利用性を高めることができる.人口が集中地に近いところで多様な産物を生産する地域毎に多様化した農業が将来の食料生産にとって最適と思われる.養分や水をリサイクルさせながら作物生産とともに反芻家畜と水産養殖の統合したシステムを開発しなければならない.投入資材と生産物が地元で加工されることが不可欠である.リグニンを多く含む副産物の処理のための省エネ型工場や高タンパク質副産物からバイパスタンパク質の地元での生産がそのような副産物をベースにした反芻家畜による肉生産や乳生産に必須である.作物の残さにより反芻家畜やウサギ,草食魚を飼育する統合システムが将来の動物性タンパク質生産として最も効率が良いと思われる.そのシステムは人口密度に応じて小規模農家あるいは大規模生産に適応させれば良い.反芻家畜の放牧は,農業副産物による家畜生産と同様の技術導入により生産を拡大しうる.また,環境にやさしい放牧管理技術の開発により土地の荒廃を解決しうる上,土壌中有機物として炭素固定を最適化しうる.反芻家畜生産の欠点として温室効果ガスであるメタンの排出がある.飼料の処理や,放牧草や副産物に補助飼料を加えることにより生産性を高めることができ,生産された畜産物あたりメタン産生を低減化できる.加えて,ルーメンにおける消化過程でのメタン産生を制限しうる研究も進められており,将来反芻家畜からのメタン産生を抑制することも可能かもしれない.
著者
中堀 祐香 高野 直樹 大江 史晃 齊藤 朋子 萩谷 功一
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.89, no.4, pp.409-414, 2018-11-25 (Released:2018-12-13)
参考文献数
18
被引用文献数
1 1

本研究は,ばんえい競走馬における能力検定後馬体重(馬体重)を適切に説明する数学モデルの選択および遺伝率を推定することを目的とした.データは,2007年から2016年までに能力検定に合格した重種馬1,849頭の品種,性別,生産地市町村および馬体重の記録,および27,214個体を含む血縁個体である.測定時月齢は,能力検定合格回次の検定実施月と誕生月の記録から推定した.遺伝分析に用いる数学モデルを決定するため,測定年,性別,測定時月齢および生産地市町村を組み合わせた複数の母数効果モデルを仮定した.赤池の情報量規準,ベイズの情報量規準および決定係数より,遺伝分析には,測定年,性別および月齢を母数効果として含むアニマルモデルを採用した.馬体重の遺伝率推定値は,中程度(0.47)であったことから,遺伝的改良が可能な形質である.
著者
萩谷 功一 安宅 倭 河原 孝吉 後藤 裕作 鈴木 三義 白井 達夫 渥美 正
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.75, no.3, pp.345-351, 2004 (Released:2006-07-26)
参考文献数
17
被引用文献数
8 8

ホルスタイン種における月1回の検定記録から乳期全体の記録を予測する方法について比較検討した.データは,1990年から2002年までに独立行政法人家畜改良センターの4つの牧場で飼養されたホルスタイン種における771個体からの232,337の初産次の乳量における検定日記録である.乳期あたりの乳量は,分直後から分後305日までの乳量(以下,305日乳量)の合計とした.分析では,検定日間隔(Test Interval ; 以下,TI)法,最良予測(Best Prediction ; 以下,BP)法および多形質予測(Multiple Trait Prediction ; 以下,MTP)法からの推定値と真の305日乳量を比較検討した.MTP法における泌乳曲線の説明には,WoodまたはWilminkのモデルを採用した.TI法およびBP法を比較した場合,泌乳初期から中期の検定日記録に対してBP法が優れており,泌乳末期の検定日記録に対してTI法が適していた. MTP法は,Wilminkのモデルを採用した場合に,Woodのモデルを採用した場合よりも乳期全体において推定精度が高かった.Wilminkのモデルを採用したMTP法の推定精度は,泌乳初期から中期にかけてBP法と同程度であり,泌乳末期で他との比較において真の値にもっとも近似した.このことより,Wilminkのモデルを採用したMTP法は,乳期全体を通じて優れた推定法であることが示唆された.
著者
谷田 創 齋藤 拓 田中 智夫
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.148-156, 1992

繁殖豚の家族群飼管理モデル(ファミリーペンシステム)の有用性を検討することを目的とし,今回はこのシステムにおける子豚の吸乳行動について2つの実験を行なった.ファミリーペンを形成するにあたって,まず種雄豚2頭と繁殖雌豚7頭を群飼した.成豚への飼料給与は,コンピュタ自動給餌機を用いて個体別に行なった.実験1: 成豚,離乳後の子豚(離乳子豚),離乳前の子豚(哺乳子豚)からなるファミリー群を構成した.その結果,離乳子豚は,妊娠後期の雌豚に対して定期的に吸乳行動を起こし,この雌豚は分娩前に乳汁を分泌するようになり,その後,6頭の子豚を分娩したが,そのうち5頭は栄養不良により衰弱死した.また,離乳子豚が,哺乳子豚の吸乳行動とその母豚の授乳行動のサイクルに同期して,乳を盗むことが観察され,離乳した子豚をファミリーペンの中で継続して飼育することは,妊娠中の雌豚に悪影響を及ぼすだけでなく,哺乳子豚の吸乳行動をも阻害することが認められた.実験2: 実験1のシステムを改善し,離乳子豚を含めずに,成豚と,出生時期の近い異腹子豚だけからなるファミリー群を構成した.その結果,母豚の授乳行動には同期性が認められ,子豚の吸乳行動が各母豚に分散したため,1頭の母豚に集中することはなかった.また,妊娠中の雌豚に対して子豚が吸乳行動を起こすこともなかった.群内の繁殖雌豚の分娩時期をそろえ,離乳時に子豚を群れから隔離することにより,妊娠雌豚に対する吸乳行動を防止するとともに乳の盗み飲みも無くし,行動の自由を与えられた成豚と子豚を一つの群れとして総合的に管理することができた.今回の調査結果から,従来のストール飼育に代わる繁殖雌豚の管理法としてファミリーペンの実用化の可能性が示唆された.
著者
神 勝紀 桜井 健一 平子 慶之 唐澤 豊
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産學會報 = The Japanese journal of zootechnical science (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.62-64, 1998-01-25
参考文献数
10

Digestibilities and nitrogen retention of non-gelatinized and gelatinized limed splits, and effects of the limed splits on digestibilities of nutrients were studied in colostomized chickens. Egg albumen (control diet), a 1:1 (on the basis of crude protein) mixture of egg albumen and non -gelatinized limed split (AS diet) and that of egg albumen and gelatinized limed split (AGS diet) were used as the dietary protein source. All diets contained 14% crude protein. Decreased feed consumption was observed in AS diet and AGS diet groups. There was no difference in digestibilities of nutrients among 3 groups, but nitrogen retention in AS and AGS diet groups was lower than in control group. Results obtained here indicate that more than 90% of limed split is digested by chickens irrespective of gelatinization and that the palatability of limed split should be improved for practical use.
著者
神 勝紀 河合 弘恵 桜井 健一 平子 慶之 唐澤 豊
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産學會報 = The Japanese journal of zootechnical science (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.68, no.11, pp.1085-1088, 1997-11-25
参考文献数
15
被引用文献数
3

The aim of the present study is to estimate utilization of limed split as a protein source of the diet for chickens. Egg albumen (control diet), a 1:1 (on the basis of crude protein) mixture of egg albumen and limed split (AS diet) and that of egg albumen and gelatinized limed split (AGS diet) were used as the dietary protein source. All diets contained 20% of crude protein. Chicks were force-fed on the diets for 10 days. Composition and contents of amino acids in limed split were much the same as those in gelatinized one. Out of essential amino acids, glycine was extremely excessive, while histidine, isoleucine, methionine and tyrosine were deficient, and cystine and tryptophan were negligible. AS and AGS diets were suboptimal in threonine and tryptophan. There was no significant difference in body weight gain, feed efficiency and nitrogen retention among control, AS and AGS groups. Results obtained here suggest that limed split may be used as a protein source of the diet for chicks, supplying essential amino acids, and that gelatinization of limed split may be unnecessary.
著者
曹 兵海 唐澤 豊 神 勝紀
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産學會報 = The Japanese journal of zootechnical science (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.65-68, 1998-01-25
参考文献数
7

This study was conducted to examine effects of dietary cellulose levels on growth and nitrogen utilization in young chicks fed equal amounts of nutrients of a 15% protein diet. Body weight gain significantly increased with an increase in dietary cellulose level until 3.5%, then decreased linearly up to an inclusion of 20% of cellulose in the diet (3.5 vs. 0, 10 or 20%, P<0.05). Feed efficiency was not influenced by dietary cellulose levels from 0 to 5%, but decreased by 10% and more dietary cellulose levels(10 vs. 1.5, 3.5 or 5%, P<0.05; 20 vs. 0, 1.5, 3.5 or 5%, P<0.05). Nitrogen(N) retention, N retention rate and retention rate of absorbed N were significantly increased by 1.5% cellulose level (P<0.05), then significantly decreased by 3.5% and more dietary cellulose levels (P<0.05). Apparent digestibility of dietary protein was not influenced by changes in dietary cellulose level. It is concluded that the highest rates of growth and N retention and retention rate are obtained by 1.5% dietary cellulose, and lowered by 3.5% and more dietary cellulose levels when protein intake is restricted to 15% crude protein in chicks.
著者
木部 久衛 野田 恵利子 唐澤 豊
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.12, pp.882-888, 1981
被引用文献数
1

材料草の違いがサイレージの埋蔵過程における品質ならびに微生物相にどのような影響をおよぼすかを調査するため,出穂前期のオーチャードグラスを用い,これを切断長によりA区(0.5cm),B区(1.0cm),C区(3.0cm),およびD区(5.0cm)の4区に分け,それぞれ細切後大型試験管に詰め,発酵栓をほどこして56日間貯蔵した.得られた結果は以下のとおりである.1. 材料草を細切することにより埋蔵初期における乳酸菌のいちじるしい増殖を促し,pHを急速に低下させた.2. サイレージの埋蔵過程における発酵的品質は細切するほど向上し,切断長が0.5cmの場合に最もよい結果が得られた.サイレージのpH,揮発性塩基態窒素比率,酪酸ならびに全揮発性脂肪酸含量は,A区の場合がB, CおよびD区の場合に比較して最も低かった.また細切することにより乳酸含量は増加した.
著者
笠井 健吉 杉本 正仁 豊田 裕
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.12, pp.885-890, 1979
被引用文献数
1

体外受精卵の移植によって得られた雌および雄マウスの繁殖能力について検討した.PMSG及びhCG(各5iu)を投与して過排卵を誘起したF<sub>1</sub>(C3H/He&times;C57BL/6J-at/at)成熟雌マウスを卵子提供雌とし,一方,精子提供雄としては,JCL:ICR系成熟雄マウスを用いて体外受精を行った.授精後6時間に第2極体放出の有無で判定した受精率は,80.9%(418/517)であった.培養した受精卵405個のうち受精後24時間で2細胞,48時間で4-8細胞及び~2時間で桑実胚あるいは初期胚盤胞へ発生したものはそれぞれ,99.8%,97.5%,及び97.0%であった.体外培養によって得られた桑実胚及び初期胚盤胞245個を21匹の偽妊娠雌マウスの子宮へ移植した結果,雄29匹及び雌23匹の合計52匹の新生子が得られた.生後3週で離乳した後に,7匹の雌とその同腹子の雄を選び2~3か月齢できようだい交配を行った.7匹の雌マウスのすべてが妊娠し,雄37匹及び雌41匹の健康な新生子が得られた.外形異常は認められず,3週齢での雄,雌の平均体重はそれぞれ,12.2&plusmn;2.7g及び12.3&plusmn;1.7g(Mean&plusmn;S.D.)で対照区と差のない成績であった.本研究の結果から,体外受精卵の移植によって得られた子の成熟後の交配,妊娠,分娩及び哺乳に関する一連の繁殖能力は正常であることが明らかにされた.
著者
大武 由之
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.12, pp.797-803, 1982-12-25 (Released:2008-03-10)
参考文献数
25

黒毛和種の去勢牛からの撓骨,〓骨および肋骨の各3点,食肉工場で豚枝肉から取り除いた上腕骨,大腿骨,肩甲骨,腰椎および肋骨の各3点,計24点の試料から,それぞれ骨髄脂質を抽出して試験に供した.試験した牛および豚の骨髄脂質は,ほとんど中性脂質から成っていた.牛骨髄脂質のおもな脂肪酸はC16:0,C16:1,C18:0およびC18:1で,とくにC18:1に富み,撓骨と〓骨のC18:0含量の少ないことが注目された.撓骨と〓骨との脂肪酸組成は類似していたが,肋骨は撓骨や〓骨に比べて,中性脂質ならびにリン脂質のいずれにおいてもC18:0が多くC18:1が少なかった.豚骨髄脂質のおもな脂肪酸はC16:0,C18:0,C18:1およびC18:2であって,中性脂質にあっても,リン脂質にあっても,解剖学的部位がちがっていても,それらの脂肪酸組域は比較的類似していた.概して,骨髄のリン脂質は中性脂質に比べてC16:1とC18:1が少なく,C20:3,C20:4,C22:5やC22:6などの多価不飽和脂肪酸が多かった.また,牛の骨髄脂質は豚の骨髄脂質よりもC16:1,,C18:1および飽和脂肪酸が多く,C16:0とC18:2が少なかった.牛骨髄のトリアシルグリセロール(TG)は,C16:0とC18:0は1-位置に多く結合し,C18:1は2-および3-位置に多く,C18:2は2-位置に多く存在していた.その結果,橈骨と〓骨とのTGの2-および3-位置は,90%近くが不飽和脂肪酸から成っていた.豚骨髄脂質ではC14:0,C16:0およびC16:1は,2-位置に多く結合し,一方C18:1は1-と3-位置に多く,C18:2もC18:1に似て1-と3-位置に多く存在していた.それらの結果,牛骨髄脂質とは対照的に,豚骨髄のTGでは2-位置は大部分飽和酸で占められ,3-位置は大部分不飽和酸で占められている.
著者
渡辺 彰 佐藤 博 常石 英作 松本 光人 滝本 勇治
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.63, no.9, pp.935-941, 1992-09-25 (Released:2008-03-10)
参考文献数
14

牛の屠殺方法が各種筋肉のpHおよびATP-関連化合物(ATP,アデノシン三りん酸;ADP,アデノシン二りん酸;AMP,アデノシン一りん酸;IMP,イノシン酸;Ado,アデノシン;Ino,イノシン;Hyp,ヒポキサンチン;Xan,キサンチン)の死後変化に与える影響を調べた.子牛9頭を供試し,麻酔処置により筋肉を採取したA区,屠殺時に延髄•脊髄破壊したP区および破壊処理なしに放血のみで屠殺したN区の3区に3頭ずつ分けた.採取した筋肉は胸最長筋(LD筋),大腰筋(PM筋)および大腿二頭筋(BF筋)で,採取後37°Cに保温して,pHおよびATP-関連化合物の経時変化を測定した.pH変化について,LDおよびBF筋では,処理による有意差は認められなかった.PM筋では,極限pHに到達するまで,pH値は,A区,N区,P区の順で高く推移し,屠殺1,3および4時間後では,A区がP区およびN区よりも有意(P<0.05)に高かった.また,ATP-関連化合物の分解程度をKa=(IMP+Ino+Hyp+Xan)/(ATP+ADP+AMP+IMP+Ino+Hyp+Xan)とすれば,PM筋のKaでは,屠殺1時間後でP区がN区よりも有意(P<0.01)に高かった,LD筋では2時間後にP区がN区よりも高い傾向があった.BF筋では,3時間以内で処理間に差異は認められなかった.これらのことよりPM筋は屠殺時の延髄•脊髄破壊の影響を強く受けてATPの分解が進んでいることが明らかとなった.
著者
石田 藍子 芦原 茜 井上 寛暁 松本 光史 田島 清
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.89, no.1, pp.47-54, 2018-02-25 (Released:2018-03-23)
参考文献数
32

授乳期の母豚に,トウモロコシ全量を飼料用玄米と代替した飼料を給与し,母豚および子豚の飼養成績,免疫指標および発情回帰に及ぼす影響を検討した.LW種の雌豚13頭を供試し,トウモロコシを65%配合したトウモロコシ主体飼料を給与する対照区と,玄米主体飼料を給与する玄米区へ振り分け,分娩1日後から21日後の離乳まで試験飼料を給与した.分娩3日および7日後に乳および血液を採取した.その結果,母豚の飼養成績に対照区と玄米区に有意な差はなく,また発情回帰日数および背脂肪厚の変化量にも有意な差はなかった.子豚の増体重にも処理区間に有意な差はなかった.血液成分では,総タンパク質が玄米区で有意に高く,血漿中のIgG濃度が玄米区で有意に高かった.以上より,授乳期の母豚へ飼料中のトウモロコシを玄米と代替した飼料を給与しても,飼養成績および発情回帰に影響がないが,母豚の血中のIgG濃度は増加することが明らかとなった.
著者
賀来 康一
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.61-81, 1997-01-25 (Released:2008-03-10)
参考文献数
37
被引用文献数
2 2

米国シカゴ•マーカンタイル取引所(以下CME)に上場された肉牛先物取引による,肉牛生産者•牛肉処理業者の価格リスク管理の実証分析を実施した.(1) 1984年1月4日から1994年12月31日までの,毎日の価格データにより,CMEに上場された,Live Cattle(生牛),Feeder Cattle(肥育素牛),Live Hog(生豚),Frozen Pork Bellies(冷凍豚バラ肉)相互の関係を調べた.期間11年間を通算した相関係数の高い組み合わせは,Live CattleとFeeder Cattleの0.89であり,Live HogとFrozen Pork Belliesの0.57であった.しかし,1年毎に調べると,全ての組み合わせが不安定であった.(2) 1984年から1993年までの週間データを使用して,米国の肉牛と牛肉60種類に関し,現物価格の変動の大きさとbasis(ベーシス)の価格変動の大きさを比較した.Live Cattle当限価格との相関が高いほど,現物価格の標準偏差は,basisの標準偏差よりも大きかった.当限価格との相関係数0.22以下の3種類の内臓肉を除いた残り57種類の場合,現物価格の価格変動リスクをbasisの価格変動リスクへ移転した方がリスクが小さくなった.(3) 米国商品先物取引委員会(CFTC)の報告書に基づき,米国の肉牛先物市場の主たる参加者を分類した.米国CMEの肉牛先物市場は,投機の場というよりもヘッジの場としての性格が強く,米国の肉牛生産者として大きな役割を果たしている寡占化したパッカーと大規模化した肥育業者の,価格変動リスクをヘッジする場として活用されている.(4) 1990年1月2日から1995年10月11日までの,肉牛現物と当限価格との相関係数を計算した.全期間を通じた相関係数は0.94と高く,1年毎の相関係数も各々高かった.期間中の変動係数を比較すると,現物価格の変動が最も激しく,当限価格の変動は現物価格よりも小さく,期先価格の変動は最も小さかった.1990年から1995年10月11日迄,肉牛先物価格は現物価格に対して価格平準化機能を果たしていた.(5) 東京穀物商品取引所は,オーストラリア産グラスフェッド牛肉の,先物市場への上場を研究している.そこで,日本における牛肉先物取引の可能性を検討した.
著者
大森 英之 守谷 直子 石田 三佳 大塚 舞 小橋 有里 本山 三知代 佐々木 啓介 田島 清 西岡 輝美 蔡 義民 三津本 充 勝俣 昌也 川島 知之
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.78, no.2, pp.189-200, 2007 (Released:2007-11-26)
参考文献数
33
被引用文献数
7 6

コンビニエンスストアから排出された消費期限切れ食品(コンビニ残さ)の肥育後期豚用発酵リキッド飼料原料としての利用について検討した.コンビニ残さを分別し,弁当めし,おにぎり,菓子パンを主体とする発酵リキッド飼料を調製した.4頭を対照区(新豚産肉能力検定用飼料)に,10頭を発酵リキッド区(FL区)に割り当てた.さらにFL区を5頭ずつCa無添加区(FLN区)とCa添加区(FL+Ca区)に分けた.FL区の肥育成績は対照区と遜色なく,胸最長筋内脂肪含量は対照区(2.9%)に比べて有意に高い値を示した(P<0.01,FLN区 : 4.9%,FL+Ca区 : 5.2%).またFL区の皮下内層脂肪中のリノール酸比率は対照区に比べて有意に低かった(P<0.01).FLN区とFL+Ca区の肥育成績および肉質に大きな差はなかったが,FL+Ca区で血清中総コレステロール濃度は有意に低い値を示した(P<0.05).以上の結果から,分別により粗脂肪含量を抑え,タンパク質源,ミネラル,ビタミンを適切に配合することで,コンビニ残さは肥育後期豚用発酵リキッド飼料原料として利用できることが示された.
著者
劉 春艶 尾崎 未空 小暮 駿太 鈴木 玲雄 宮田 侑季 角 英樹 浅野 早苗 梶川 博 高橋 慶
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会第125回大会
巻号頁・発行日
2019-03-12

【目的】食品加工の過程で発生するダイコンとパイナップルの残渣は,高利用性飼料としての特性が期待される.本試験では両残渣の消化・発酵特性をイビトロ法により評価した.【方法】両残渣(ダイコン,パインと表記)の化学成分と併せて抗酸化能(FRAP)や硝酸Nを分析した.フィステル装着牛のルーメン内で経時的に培養するインシチュ法により消化パラメータを求めた.また嫌気的バッチ培養により経時的な発酵特性を測定した.対照飼料としてイタリアンライグラス(IRG)とコーンを用いた.【結果】飼料成分(OM,CP,NDP,%DM)ダイコンが89,9,34で,パインが95,7,60であり,FRAPがそれぞれIRGの0.7倍と3.4倍であった.DMのインシチュパラメータ(aとb%DM,kd%/hr)はダイコンで94,6,7.0,パイン20,68,4であり,ダイコンで溶解性が高く,パインでコーンと類似の反応を示した.発酵特性(総ガスとVFA)はコーンと比べてダイコンが同等の,パインが多少低い傾向を示した.ダイコンはメタン産生を強く抑制し,培養初期に乳酸産生を示した.
著者
江崎 孝三郎 早川 純一郎 富田 武 尾藤 惇一 野沢 謙 近藤 恭司
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.218-225, 1962 (Released:2008-03-10)
参考文献数
20

1. 長野県西筑摩郡の農家に飼育されている,いわゆる木曾馬の毛色に関して,1860年前後の古文書より,当時の状態を調査した.1943年以降は,「産駒登記原簿」および「伝染貧血症検査台帳」により,また直接に観察して,各種毛色の頻度の推移を調査した.2. 木曾馬産駒集団においては,年々鹿毛は増加,青毛は減少の傾向にあり,栗毛はほぼ一定の割合を維持している.河原毛および月毛は,合計してわずかに5%以下であつた.すなわち,遺伝子aの頻度qaは,1943年に約0.55であつたが,次第に減少して,1960年には約0.35となつた.遺伝子bの頻度qbは約0.45で,1943年以来この値を維持している.遺伝子Dの頻度qDは約0.02であつた.3. 以上の事実は,遺伝子A~aに関しては移行多型(transient polymorphism),遺伝子B~bに関しては平衡多型(balanced polymorphism)となつていることを示している.4. 木曾馬産駒集団における毛色の多型の維持と推移の機構に関して,種畜の選択に際して働く淘汰選抜の作用と,種畜から次の世代に移る間に働く淘汰に注目して,分析を行なつた.その結果,遺伝子aには,その頻度を減少させる方向に,上記二つの淘汰が相加的に作用すること,また遺伝子bに関してはは,前者がその頻度を,減少させる方向に,後者が増加させる方向に働いていることが判明した.そして,これら二つの要因によつて,鹿毛,青毛および栗毛の年次的変遷を遺伝的に説明することができた.