著者
新城 明久
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.9, pp.614-622, 1979-09-25 (Released:2008-03-10)
参考文献数
21
被引用文献数
2 4

沖縄肉用ヤギへの日本ザーネン種の移入率,外部形質への自然および人為淘汰,集団間の遺伝的分化の程度などについてNEI and IMAIZUMI13)と NOZAWA9)の手法を用いて集団遺伝学的分析をおこなった.調査したヤギは約4ヵ月齢以上の雌雄合計1,459頭であった.調査は沖縄県下の9島の10集団について1975年6月から1976年8月までの間におこなった.その結果,沖縄肉用ヤギの外部形質に関する遺伝子頻度は,有色qi=.382,肉髯なしqw=.845,有角qp=.779であり,毛髯と副乳頭の出現割合はそれぞれ85.4,37.8%と推定された.存来種はすべて有色,有角,副乳頭を有し,肉髯を欠くと仮定し,島嶼別集団の肉用ヤギへの日本ザーネン種の移入率を推定すると伊平屋島は32%,与那国島は40%と低かったのに対し,座間味島は87%,粟国島は84%,宮古島は79%,沖縄島中南部は77%と高く,沖繩全体では平均67%となった.毛色,肉髯,角および副乳頭の4形質に淘汰が働いているか否かを分析すると,肉髯(w)と有角(p)の遺伝子に対してはある種の有利な淘汰がみられた.集団間の遺伝的分化の程度は3.95%で,人間集団よりはるかに高い値であった.集団内の遺伝子間に,また集団の遺伝子頻度間に相関関係がみられ,集団内および集団間における遺伝子間のランダム化はまだ完了していないことが認められた.
著者
田中 智夫 村山 有美 江口 祐輔 吉本 正
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.260-266, 1998-03-25 (Released:2008-03-10)
参考文献数
24
被引用文献数
2 4

本研究は,ブタの視力について,ヒトにおける視力検査の基準を用いて検討した.6頭の育成豚(雌4頭,去勢2頭)を供試し,試視力用のランドルト環と,その切れ目をなくした円図形とを用い,それぞれ負および正刺激として飼料と連合学習させた.二者択一式のY字型迷路を自作し,図形の大きさまたは図形までの距離を変化させ,両図形の識別の可否から視力を判定した.左右の図形の交換は,ゲラーマン系列の乱数表に従って行った.その結果,去勢豚2頭は学習が成立せず,視力測定ができなかったが,雌豚4頭の視力値は,0.017~0.07の範囲にあった.
著者
藤原 勉 佐々 幸成 一色 泰
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.60-64, 1987-01-25 (Released:2010-11-26)
参考文献数
12

1. ホルスタイン種新生子牛5頭 (雌2頭雄3頭) を用い, 子牛の下痢に伴う電解質の損失を補うための経口補液投与の効果をみるため, シュークロース液投与による下痢を誘発した後経口補液を投与して血中電解質の濃度変化について調査し, 生理食塩水投与の場合と比較した.2. Ht値は下痢状態では有意に上昇したが, 経口補液の投与後は直ちに回復した. 血清中ナトリウム濃度は経口補液投与後有意に上昇したが, 生理食塩水投与後ではほとんど変化しなかった. 血清中カリウム濃度は経口補液投与後ほとんど変化せず, 生理食塩水投与時とほぼ同様であった. 血清中塩素濃度は生理食塩水投与後は変化しなかったが, 経口補液投与後では上昇する傾向にあった. 血清中マグネシウム濃度は経口補液投与後においても著しい変化はなかった.3. これらの結果から, シュークロース性下痢症では血中電解質の損失は少ないものの, 経口補液投与によって容易に補い得ることが明らかになった.
著者
新城 明久
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.47, no.7, pp.423-429, 1976-07-25 (Released:2008-03-10)
参考文献数
9
被引用文献数
1

宮古群島に飼養されている馬を年齢と改良の程度により,在来種,小型,中型および大型に分け体尺測定を行うとともに毛色および改良の経過を調査した.1) 体各部位は改良に伴いいずれの部位も著しく増大し,在来馬と大型馬の差は雌雄それぞれ体高は25,24cm,体長は19,20cm,胸囲は26,27cmであり,腰角幅は11,9cmであった.2) 体格は胴長で,頭が大きく,前躯が充実し,後躯の貧弱な在来馬から後躯の充実した大型馬へと変化した.3) 毛色は栗毛55%,鹿毛33%,青毛6%で粕毛,河原毛,月毛は少なかった.4) 昭和3年から50年までに外部から移入された種雄馬は合計48頭,そのなかで楽霧号,松風号,初輝号および賛宝号,いずれも宮崎県産の種雄馬が宮古馬の改良に大きく寄与した.5) 移入種雄馬の産地は宮崎県が24頭と最も多く,毛色は栗毛23頭,鹿毛21頭と多かった.品種はアングロアラブ系雑種とアングロノルマン系雑種の中半血種がほとんどで,ブルトン種は少なかった.6) 第二次世界大戦後,宮古島で生産された種雄馬は45頭であった.そのうち楽霧号の系統が父方と母方合せて28頭となっていた.さらに体型の変化と農耕の様式との関連について考察した.
著者
傅 正偉 近藤 康 岩崎 信之 加藤 久典 菅原 邦生 久保 辰雄
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.68, no.12, pp.1154-1160, 1997-12-25 (Released:2008-03-10)
参考文献数
17
被引用文献数
1 1

ニワトリ松果体中メラトニンの抽出•保存および高速液体クロマトグラフィ(HPLC)によ るメラトニンの定量という一連のシステムについて検討し,次の方法を確立した.(1) メラトニンの抽出:松果体の摘出は断首後できるだけ手早く行い,松果体1個をガラス製ハンドホモジナイザー(1ml)に入れ,氷中でホモジナイズしてから0.05M過塩素酸(システインとEDTA含有)を0.1,0.2,0.2mlと加えるごとにホモジナイズする.遠心して得た上澄液を抽出液とする.標準液と抽出液は4°Cにおいて1ヵ月以内の保存が可能である.また,これらの液は濾過チューブを用いて濾過してから100μlをクロマトグラフへ注入する.なお,暗期においては断首からホモジナイズ終了まで赤色ランプ下で行う.(2) HPLCの条件:逆相カラム,35°Cのカラム保温温度,メタノールと0.05M酢酸緩衝液(pH4.7)の混合溶液(25:75または35:65)の移動相,1ml/minの流速,蛍光検出器(励起波長=285nm,放射波長=345nm)または電気化学検出器(作用電極=+900mV)などの条件および機器を用いる.
著者
久保 知義 宝山 大喜
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.5-10, 1967-01-25 (Released:2008-03-10)
参考文献数
7

異なつたCr2O3含量をもつクロム革に及ぼす比較的高温熱処理(100°~190°C)の影響を物理的性質および 水抽出物の組成の変化から考察した.1. クロム革の熱処理による物理的性質の劣化が認められ,引張強さおよび柔軟度の荷重は増加し,伸びは減少した.しかし,革のCr2O3含量が高くなるにしたがい劣化の程度は比較的少なくなり,また,熱処理時の水分が高水分の場合よりも低水分において熱処理の影響が少ないことを認めた.2. 水抽出物の組成について,溶出蛋白質量,酸度,硫酸根およびpHを測定した.溶出蛋白質量は未鞣製皮の場合に比し非常に少なく,100°~130°C熱処理における溶出量は対照と変らないが,160°~190°Cの熱処理において,Cr2O3含量1%以下の革では大きく増加した.そして,このような傾向は低水析よりも高水分の場合において大きいことを認めた.
著者
崔 一信 朴 燕鎮 石下 真人 鮫島 邦彦
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.43-46, 1996-01-25 (Released:2008-03-10)
参考文献数
16

In Korea, pear juice has been used for tenderization of meat since early times, suggesting the presence of proteases. The objective of this research was to identify the protease in the pears and to investigate the possibility as a new tenderizer of meat. Crude pear proteases were prepared from Korean pear (Shingo). The proteolytic activity was measured by using N-α-benzyloxy carbonyl-L-lysine-nitrophenyl ester (CBZ-Lys-ONp) as substrate. The optimum activities of this protease were found at around pH 7.0 and 37°C. When porcine actomyosin was treated with this pear protease at 25°C and pH 7.0, myosin heavy chain was progressively degraded during the reaction. On the other hand, actin was degraded slightly under the same condition. Other myofibrillar proteins were also degraded by this protease. The present study suggested that Korean pears contained protease which may be useful as a meat tenderizer.
著者
田先 威知夫 安保 庄一郎 齋藤 道雄
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1-4, pp.137-139, 1949-03-01 (Released:2008-03-10)
参考文献数
6

(1) 落葉の榮養價値を知の爲,乳用山羊2頭を用ひて消化試驗を行ひ,消化率に於て粗蛋白22.0%,粗脂肪34.2%,粗纎維7.6%,可溶性無窒素物40.8%,又澱粉價に於ては13.0を得た。(2) 落葉中にタンニン9.4%含有する事を知つた。(3) 落葉給與の泌乳中山羊に及ぼす影響を見ると,飼料攝取量,飲水量,體重,泌乳量,乳脂量共に著しく減少する事を知つた。(4) 緬羊に於ても體重減少し,且當時生長した羊はatrophyする事が認められた。(5) 以上の事實より,褐變落葉した樹葉は,山羊或は緬羊の嗜好に適せず,消化も不良であつて飼料としての價値は少いものと思はれる。
著者
田中 智夫 関野 通江 谷田 創 吉本 正
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.9, pp.880-884, 1989-09-25 (Released:2008-03-10)
参考文献数
8

緬羊における色の識別能力のうち,特に類似色をどの程度まで識別できるかを明らかにすることを目的とした.供試羊は双子のコリデール種去勢羊を用い,正刺激側のスイッチを押すと飼料が与えられるスキナー箱を自作して2色の同時弁別実験を行なった.草の色を想定して緑を正刺激とし,黄および青から徐々に緑に近付けた計7色を負刺激としてそれぞれ識別させた.各課題とも1セッション30試行とし,20セッションまで行なった.各試行ごとにおける左右のカードの交換は乱数表に基づいて行なった.x2検定により1セッション21試行以上の正解(P<0.05)を基準とし,その基準に3回連続到達した時点でその色を識別したとみなした.結果は,黄から近付けた緑に最も近い色との対比において1頭が,また,青から近付けた緑に最も近い色との対比において2頭ともが,それぞれ識別不能と判断された他は,全ての組合せにおいて識別できるものと判断できた.以上から緬羊の色覚はかなり発達しているものと思われ,色による条件付け学習を利用した管理技術の開発の可能性が示唆された.
著者
浅野 由ミ 上北 尚正 河西 恭子 遠藤 秀紀 山田 格 佐分 作久良 山内 啓太郎 東條 英昭 名取 正彦 舘 鄰
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.70, no.10, pp.351-362, 1999-10-25 (Released:2008-03-10)
参考文献数
34

絶滅種や稀少種の機能遺伝子を解析することは,遺伝子資源の保全や進化学的研究の見地から重要な課題である.本研究は,毛皮あるいは剥製標本の表皮から効率的にゲノムDNAを抽出する方法を開発し,絶滅種や稀少種の機能遺伝子を解析することを最終的な目的として行ったものである.一般に,絶滅種や希少種の剥製•毛皮標本は数も少く,貴重であるので,DNA抽出のような,破壊的解析のための材料を入手することは,困難な場合が多い.従来報告されている古代DNAの抽出法では,いずれも,抽出のために比較的大きな標本片を用いており,少量の標品しか入手できない場合には適用できない.本研究では,特に,原材料となる剥製や毛皮標本の形をできるだけ損傷しないことに留意し,約1mm角の毛皮断片からゲノムDNAを効率よく抽出する方法の確立と,PCR解析を行うための条件の検討を行った.また,本研究で確立した方法を用いて,製作年次の異なる食肉目動物毛皮標本から回収したゲノムDNAをテンプレートとして,歯のエナメル質タンパク質をコードしているアメロゲニン遺伝子断片の回収と塩基配列の解析を試みた.結果の一部として,モンゴルオオカミの毛皮標本から抽出したゲノムDNAのアメロゲニン遺伝子の配列の一部を解読することができたので,イヌ(ゴールデンリトリーバー)の血液から抽出したゲノムDNAのアメロゲニン遺伝子の配列と比較したところ,モンゴルオオカミとイヌの配列は100%一致したが,イヌの品種間,あるいは個体差による配列の多型が存在する可能性もある。イヌ,オオカミのアメロゲニン遺伝子の塩基配列は従来報告が無く,部分的ではあるが配列が決定されたのは本論文が始めてである.イヌとオオカミの種間の違い,および,イヌの品種間の多型については,今後,さらに検討が必要である.
著者
水間 豊 佐々木 宏
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.45, no.5, pp.262-270, 1974
被引用文献数
3 1

日本短角種の登録事業が開始された昭和32年から47年までに本登録された,輸入種牛を除く種雄牛60頭および種雌牛349頭の群について,時期別にわけて産地別内訳を明らかにし,祖父母までの系図から近交係数および血縁係数を計算するとともに,時期別標本牛群に対する特定種牛の遺伝的寄与率および奥羽種畜牧場の遺伝的寄与率をWIENERの方法を用いて分析した.主な結果は次の通りである.1. 年度の進行に伴なって本登録牛の数は顕著に増加しているが,全登録頭数に対する比率は0.5~1.0%程度であった.全期間の種雄牛の登録頭数は青森県8,岩手県18,秋田県12であり,種雌牛のそれはこの順に137,48,86であった.また農林省奥羽および十勝種畜牧場生産牛は雄22頭,雌78頭で全登録頭数に対する比率が高いことが注目された.外国からの輸入種牛で本登録されたものは雄8,雌2の計10頭である.2. 種雄牛群の全期間での近交係数は1.25%,種雌牛群のそれは0.54%であり,雄&bull;雌両群とも各期内での血縁係数はかなり高いことが明らかにされた.3. 昭和30年以後に輸入された外国産種雄牛の遺伝的寄与率の合計は種雄牛群に対して14.13%であり,種雌牛群では時期の進むに従って低くはなるが,全期間でみると8.38%であった.特に大きい貢献をした種雄牛は昭和30年に輸入されたホイートランド&bull;パンジョー号(雄群に対して6.67%,雌群に対して4.58%)と昭和31年に輸入されたホイートデール&bull;レディアント&bull;クレスト号(雄群2.92,雌群3.44)であった.4. 国内産種牛で遺伝的寄与率が両群に対して3%以上のものをみると,奥羽種畜牧場産もしくは奥羽で繋養されている種牛が多いことが明らかにされた.種雄牛では笹川,山桜,道雲号であり,種雌牛はしもあい号である.5. 奥羽種畜牧場の生産種牛の遺伝的寄与率は,種雌牛群に対して36.74%,種雄牛群に対して42.92%であることを示すとともに,日本短角種の改良に奥羽種畜牧場の果している役割について考察した.
著者
野沢 謙 江崎 孝三郎 若杉 昇 林田 重幸
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.36, no.6, pp.234-242, 1965-06-25 (Released:2008-03-10)
参考文献数
21

わが国の九州南西方につらなる離島には体格の著るしく小さい在来馬が古くから飼われている.この系統の馬は本邦の繩文,弥生時代に最初に出現し.わが国の馬産に大きな影響を遺した最も古いタイプの在来馬である.われわれはこの種在来馬の遺伝子構成を究めるため,1961年より1964年にかけ,対馬,種子島,口永良部島,トカラ,奄美両群島,および琉球諸島に数回の遠征を試み,毛色と血液型を調査した.その際比較のため,日本内地から導入された種雄馬によって改良された雑種馬の遺伝子構成をも調査し,さらに何人かの先学によっておこなわれた,いろいろな馬種の毛色と血液型に関する調査結果をも参照した.これらの比較検討によって次のことが判明した.1. 島嶼型在来馬の集団には元来,青毛遺伝子(a)と河原毛,月毛を支配する優性稀釈遺伝子(D)とはなく,日本内地から導入された改良馬によつて雑種化されるとこれらの遺伝子が流入する.2. 島嶼型在来馬の集団は鹿毛と栗毛を支配するB-b座位は多型をあらわしている.雑種馬の集団に比べて,b遺伝子の頻度は著るしく高い.3. 島嶼型在来馬の集団にはU1原を支配する優性遺伝子の頻度は極めて低く,雑種化と共にこの頻度は規則正しく増加する.
著者
宮崎 昭
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.116-122, 1969-03-25 (Released:2008-03-10)
参考文献数
18

硝酸塩投与に伴うメトヘモグロビン形成における個体間の差異を検討する目的で,体重35~45kgの成めん羊15頭を用いて,つぎのような試験を行なった.1) めん羊8頭にいろいろな量の硝酸塩を添加した飼料を給与したとき,メトヘモグロビン形成に有意な差異がある個体があり,8頭を2頭ずつ28通りに組合わせると,硝酸カリウムの投与量が体重の0.02%のとき11通り,0.03のとき17通り,0.04%のとき20通りの組合わせに5%水準で有意差があった.2) めん羊4頭に体重の0.035,0.040,0.045%の硝酸カウムをカテーテルで投与したときにも同様に個体差がみられ,経時的にはメトヘモグロビン含量が多いときにとくにそれが著しかった.3) 一定量の硝酸塩の投与に伴うメトヘモグロビン形成に差異があっためん羊3頭について,硝酸塩を摂取した後メトヘモグロンができるまでに経ると思われる各段階について検討してみると,一定量の硝酸塩を第1胃内に注入した後の第1胃内液中の亜硝酸態窒素含量における個体間の差異がもっとも大きかった.ついで一定量の亜硝酸塩を第1胃内に注入した後の血漿中の亜硝酸態窒素含量における差異が大きかった.しかし一定量の亜硝酸塩を血液中に注入した後の血液中のメトヘモグロビン含量における差異はごく小さかった.したがって,硝酸塩の投与に伴うメトヘモグロビン形成における個体差は,主として第1胃内液中の亜硝酸態窒素含量における個体差に由来するのではないかと推察された.4) 以上の結果は,硝酸塩が反芻動物に及ぼす影響を検討する場合,とくに動物個体間の差異を予め考慮しておく必要のあることを示唆するものであろう.
著者
萬田 正治 浦田 克博 野日 鉄也 渡邉 昭三
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.362-367, 1994-04-25 (Released:2008-03-10)
参考文献数
12
被引用文献数
3 1

塩味(塩化ナトリウム),酸味(酢酸),甘味(ショ糖),苦味(カフェイン),旨味(グルタミン酸ナトリウム)およびアルコール(エタノール)に対する牛の味覚反応を2瓶選択法で調べた.これらの味物質を水道水に溶かしてそれぞれ7段階の濃度を設定し,低濃度から高濃度へ向けて実験を行なった.各濃度における総飲水量に対する試験液の摂取割合を選好指数とし,濃度上昇に伴う選好指数の推移を味覚反応曲線として表し,味覚反応を推察した.χ2-検定により,選好指数39.7%以上から60.3%未満は不弁別範囲,60.3%以上は選好範囲,39.7%未満は拒絶範囲と定義した.塩味物質は濃度1.25%で弱い拒絶反応を示した以外はほとんど水と弁別されなかった.牛は酸味物質に対して全体的に拒絶反応を示し,特に濃度0.08%以上では強い拒絶反応を示した.甘味物質は濃度0.16%から1.25%まではほとんど水と弁別されなかったが,2.5%以上では嗜好を示し,5.0%で最も強い嗜好を示した.苦味物質は濃度0.01%で弱い嗜好を示した以外はほとんど水と弁別されなかった.旨味物質は濃度0.08%以上では嗜好を示し,濃度0.63%で最も強い嗜好を示した.牛はアルコール物質に対して濃度1.6%で弱い嗜好を示した以外はほとんど水と弁別せず,濃度の上昇ににつれて強い拒絶反応を示した.
著者
吉田 悠太 川端 二功 西村 正太郎 田畑 正志
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.92, no.1, pp.17-23, 2021-02-25 (Released:2021-04-03)
参考文献数
54

味覚は,動物の摂食行動を制御する重要な化学感覚である.産業動物の味覚受容機構を明らかにすることで,産業動物の味覚嗜好性に基づいた飼料設計が可能になると考えられる.これまでに我々は,重要な産業動物であるニワトリの味覚受容機構に関する研究を実施してきた.本稿では,これまでのニワトリの味覚研究について概説した後,ニワトリのうま味受容に関する最近の知見をまとめた.一連の研究において,ニワトリがうま味成分に対して味覚感受性を有していること,ならびにニワトリの味蕾においてうま味受容体が発現していることが明らかとなってきている.これらの研究から,ニワトリ飼料の設計においてうま味が重要である可能性が味覚受容の観点から示されている.
著者
守屋 和幸 広岡 博之
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.89, no.1, pp.1-6, 2018-02-25 (Released:2018-03-23)
参考文献数
5

各要因のグループ(水準)内のデータ数が等しくない不釣り合いデータの分散分析には,最小2乗分散分析法が用いられ,平均値には通常の算術平均値ではなく他の要因や回帰変量に影響されない最小2乗平均値が使われる.本研究では,オープンソースのフリーソフトウェアRパッケージによる最小2乗分散分析法と最小2乗平均値の算出手順を紹介し,回帰変数を含む2元配置試験の数値例を使って,Rによるプログラムと実行結果を例示した.
著者
大武 由之
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.165-171, 1983-03-25 (Released:2008-03-10)
参考文献数
27
被引用文献数
3 2

市場の豚枝肉から背脂肪と腎臓脂肪組織を採取し,蓄積部位のちがいによる脂肪の性質の差異と相関を検討した,腎臓脂肪と背脂肪の内層あるいは外層脂肪との,C18:1含量での相関係数はそれぞれ0.61,0.58で,高い相関とはいえなかった.しかし,その他の各脂肪酸,C16:0,C16:1,C18:0,C18:2および全飽和酸の含量ならびに全不飽和酸含量に対する全飽和酸含量の比では,各脂肪組織からの脂肪相互間で,かなり高い正の相関が存在していた.各蓄積脂肪相互間の融点での相関は高く,屈折率の場合は,融点の場合よりもさらに高い正の相関が認められた.各脂肪酸の含量,融点,屈折率についての蓄積脂肪相互間の差異と相関の検討から,調べた脂肪の全ての性質に関して,背脂肪の内層と外層との脂肪の相関は,腎臓脂肪と背脂肪の内層あるいは外層の脂肪との間の相関に比べ,最も高いことが知られれた.別に,腎臓脂肪と筋肉脂質との性質上での差異と相関を,各脂肪酸含量について検討した.腎臓脂肪と筋肉のリン脂質間での,各脂肪酸の含量での相関は低かった.筋肉の中性脂質とリン脂質との間の脂肪酸含量での相関も,C16:0とC18:1との含量の場合を除いては,いずれも低かった.これに対して,腎臓脂肪と筋肉の中性脂質との間では,各脂肪酸含量に関しては,高い正の相関が存在していたが,この相関は脂肪組織からの各蓄積脂肪相互間で見られた相関に比べると,さほど高いとはいえなかった.
著者
大武 由之
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.80-89, 1983-02-25 (Released:2008-03-10)
参考文献数
41
被引用文献数
2 1

宇都宮屠畜場に出荷された豚枝肉から,無作為抽出によって選んだ枝肉と,枝肉格付員によって軟脂豚と判定された枝肉から,腹腔部の腎臓脂肪を採り試験に供した.軟脂豚の腎臓脂肪は,無作為抽出試料に比べてC16:0, C18:0および全飽和脂肪酸含量が少なく,C18:1とC18:2含量が多かった.また,軟脂豚の脂肪は融点が低く,屈折率が高かった.屠畜場から無作為に抽出した豚枝肉の腎臓脂肪は,性別の区分で,去勢豚は雌や雄に比べて,C18:2と全不飽和脂肪酸含量が少なく,屈折率が小さかった.枝肉重量での分類では,C16:0と全飽和脂肪酸含量は,枝肉重量の増加にともなって減少し,C18:2含量と屈折率は枝肉重量の増すにつれて増大していた.市場から得た試料では,背脂肪の厚い枝肉の脂肪は,C18:1が多くC16:0とC18:0が少なかった.背脂肪の厚さが1.5~2.4cmの範囲の枝肉の脂肪は,C18:2含量と屈折率とが最も少なく,これに対して背脂肪の厚さが1.5~1.9cmの枝肉の脂肪は,飽和脂肪酸含量が最も多く,屈折率は最も小さかった.試験した腎臓脂肪の各脂肪酸含量相互間に相関関係が認められ,C16:0とC18:0,C16:0とC18:2,C18:0とC18:2との間の相関はかなり高かった.また,脂肪の融点と屈折率との相関も高かった.さらに飽和脂肪酸の含量と融点との相関,またC18:1は除いて各脂肪酸含量と屈折率との相関はかなり高かった.これらの結果から,豚腎臓脂肪の理化学的性質相互の相関は,軟脂豚肉の判定に有効な根拠を与えるものと考えられる.なお,軟脂豚の生産に関与する大きな要因は,飼料ならびに飼養の条件にあるものと推測された.
著者
豊田 修次 小林 洋子 阿彦 健吉
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.7, pp.591-598, 1990-07-25 (Released:2008-03-10)
参考文献数
26

本研究は,国産ゴーダチーズの熟成後期に発生するガス膨張の原因を究明する目的で実施した.バクトヒュージ無処理の冬季乳を用い,硝酸塩無添加で製造したゴーダチーズを13~15°Cで4ヵ月間熟成すると,30試料中,11試料が熟成2カ月以内で膨張し,その大半はガスホール周辺に大きな亀裂を生じた.このガス膨張は酪酸菌によるものであった.DRCM培地中に生育した酪酸菌は,大きな黒色コロニーと小さな褐色コロニーを呈した.膨張チーズ中の黒色コロニー数は,チーズg当り30cfu以下で,正常チーズと差が認められなかった.105株の黒色コロニーは,Cl.sporogenesが86株,Cl. beijerinckiiが11株,Cl. butyricumが8株であった.一方,褐色コロニー数は,チーズg当り膨張チーズで102~104cfu,正常チーズで10cfu以下であった.褐色コロニーは,いずれもCl.tyrobutyricumと同定された.従って,本ゴーダチーズのガス膨張は,Cl. tyrobutyricumによるものと判断した.分離したCl. tyrobutyricum KS-222は,脱脂乳培地中ではほとんど生育しないが,S. lactis subsp. lactisとの混合培養でよく生育して多量のガスを発生した.Cl. tyrobutyricumKS-222は,DRCM培地では胞子をほとんど形成しなかったが,糖密-ソイトン培地の使用で,その胞子形成率は2.1%まで上昇した.Cl. tyrobutyricum KS-222胞子は,生育限界温度およびpHがそれぞれ7~10°C,4.5~5.0付近であった.Cl. tyrobutyricum KS-222胞子の生育を抑制する食塩濃度は,培地pHに著しく依存し,pH5.0で約2%,pH5.5で約4%,pH6.0~6.5で約6%であった.また,Cl. tyrobutyricum KS-222胞子の生育抑制に対する硝酸カリウムの効果は,上述の食塩の場合とほぼ同様であったが,亜硝酸カリウムでは0.005%以下の濃度でCl. tyrobutyricum KS-222胞子の生育を強く抑制した.