- 著者
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川口 高徳
- 出版者
- 公益社団法人 日本薬学会
- 雑誌
- ファルマシア (ISSN:00148601)
- 巻号頁・発行日
- vol.52, no.4, pp.346, 2016 (Released:2016-04-01)
- 参考文献数
- 4
糖尿病患者では,合併症として胃腸の蠕動運動障害に伴う胃不全麻痺,下痢および便秘などの消化器症状が多く見られる.糖尿病性の下痢は約22%の患者に見られ,時に重篤かつ難治性であるため臨床的に注目度が高い.従来,糖尿病性下痢の治療には,ロペラミドやタンニン酸アルブミンなどの止痢剤が用いられてきたが奏効しないことも多く,新たな治療法の開発が望まれている.この原因として,糖尿病モデルラットを用いた解析では,回腸および結腸の腸管粘膜からの水分や電解質の吸収が低下していることが報告されているが,糖尿病性下痢と特定のイオントランスポーターやチャネルとの間の因果関係についてはいまだ明らかとなっていない.これまでに,solute carrier(SLC)トランスポーターに属するNa+/H+交換輸送体NHE3などのイオントランスポーターが消化管での電解質バランスの維持に関わっており,NHE3欠損マウスでは重篤な下痢が生じることが報告されている.近年,このようなトランスポーターが足場タンパク質の1つであるNHE regulatory factor(NHERF),IP3受容体結合タンパク質 IRBIT,アクチン結合タンパク質ezrinと分子複合体を形成することが,頂端膜上でのトランスポーターの発現制御や基質輸送において重要であることが明らかとなりつつある.本稿では,膵臓β細胞を選択的に破壊したストレプトゾトシン誘発性の1型糖尿病モデルマウスを用い,腸管上皮細胞の刷子縁膜におけるNHE3とその結合タンパク質の発現の低下,複合体形成の減少が糖尿病性下痢を引き起こすことを明らかにしたHeらの論文について紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Chang E. B. et al., J. Clin. Invest., 75, 1666-1670 (1985).2) Schultheis P. J. et al., Nat. Genet., 19, 282-285 (1998).3) Donowitz M. et al., J. Exp. Biol., 212, 1638-1646 (2009).4) He P. et al., J. Clin. Invest., 125, 3519-3531 (2015).