著者
田原 誠 柴田 篤 山口 志津代 浜田 悦昌
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.133, no.4, pp.215-226, 2009 (Released:2009-04-14)
参考文献数
44
被引用文献数
1

スニチニブリンゴ酸塩(以下スニチニブと記す)は腫瘍の細胞増殖,血管新生および転移の制御に関与する様々な受容体型チロシンキナーゼ(RTK)におけるシグナル伝達を選択的に遮断する,マルチターゲットの経口チロシンキナーゼ阻害薬である.スニチニブおよび主要代謝物(脱エチル体,SU012662)は酵素レベルまたは細胞レベルのin vitroアッセイにおいてVEGFR-1,-2および-3,PDGFR-αおよび-β,KIT,CSF-1R,FLT-3ならびにRETのチロシンキナーゼ活性を強く阻害した.またスニチニブはin vitroで内皮細胞の増殖および発芽を阻害し,その作用機序として血管新生阻害活性が重要であることが示された.さらに,上記の標的RTKを発現するGISTを含む各種腫瘍細胞の増殖を阻害した.スニチニブはin vivo試験においても標的RTKリン酸化,VEGF誘導性の血管透過性亢進および血管新生を阻害し,種々の異種移植腫瘍モデルに対し,抗腫瘍効果(増殖阻害および腫瘍退縮)を示した.これらの試験の用量反応相関およびPK/PD解析の結果から,スニチニブの有効血漿中濃度は50 ng/mLと推定され,この結果は臨床試験における目標血漿中濃度の設定にも用いられた.臨床試験では,イマチニブに治療抵抗性または不忍容の消化管間質腫瘍(GIST)患者および腎細胞癌患者におけるスニチニブの有効性および安全性が国内外で検討され,いずれの疾患においても,日本人患者における治療成績は外国人患者における成績と同様に優れた有効性を示した.また,日本人患者におけるスニチニブによる有害事象発現の頻度は外国第III相試験より高かったが,概して可逆的で,減量や休薬により管理可能であった.これらの非臨床および臨床試験成績よりスニチニブの有用性が明らかとなり,本邦ではイマチニブ抵抗性のGISTおよび根治切除不能または転移性の腎細胞癌の治療薬として2008年4月に承認された.
著者
今井 輝子
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.134, no.5, pp.281-284, 2009 (Released:2009-11-13)
参考文献数
7
被引用文献数
1 2

Carboxylesterase(CES)は,エステル結合やアミド結合によって分子修飾された医薬品の代謝に重要な役割を果たしている.プロドラッグに代表される医薬品の分子修飾は,バイオアベイラビリティや薬効の改善を達成することが可能な創薬手法の一つである.本稿では,創薬を考える上で,代謝活性化の中心的役割を担っているCESの細胞局在性,基質特異性,種差,臓器差,個人差について概説する.
著者
榊原 敏弘
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.139, no.4, pp.170-173, 2012 (Released:2012-04-10)
参考文献数
3

「薬の候補」を用いて国の承認を得るために行われる臨床試験を「治験」といい,この「治験」に用いる薬のことを「治験薬」という.「治験薬」を製造する際に遵守すべき適切な製造管理および品質管理の方法ならびに必要な構造設備に係る事項を定めた基準が治験薬GMPである.米国で起こった薬害に端を発して1963年に米国でGMPが制定された.日本でも,1980年にGMPが厚生省令として公布された.GMPは国に承認を得た医薬品を対象としており,治験薬はGMPの対象外であったが,1997年の省令GCPの制定に伴い,治験薬GMPが厚生省薬務局長通知として発出された.本稿では,治験薬GMPの21の条文の中から「1. 目的」,「5. 治験薬製造部門及び治験薬品質部門」,「13. 変更の管理」,「14. 逸脱の管理」,「18. 教育訓練」を取り上げて,解説を加えた.
著者
中井 康博
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.133, no.6, pp.337-340, 2009 (Released:2009-06-12)
参考文献数
4
被引用文献数
1

薬物の吸収には複数の機構があるため,創薬段階においてもそれらを含む高次評価としてモデル動物を用いたin vivo評価を実施することが望ましい.しかし,in vivoの評価系では代謝なども寄与する生物学的利用率(Bioavailability:BA)と吸収率を切り分けることは煩雑な手技が必要となる.適切な仮定をおくことによって,限られた情報の中からBAと吸収率を算出すること,適切なモデル動物の選択をすることによりヒトにおける吸収性を予測することが創薬段階における吸収性の評価には重要である.また,吸収性の評価において,溶解性と投与量の関係を考慮することは不可欠である.本稿では物性の評価,in vitroでの吸収性評価を終えた段階でin vivoの吸収性評価を実施する際に筆者がどのような手法を用いているかを述べる.
著者
久留 一郎
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.136, no.6, pp.325-329, 2010 (Released:2010-12-06)
参考文献数
13
被引用文献数
2

高尿酸血症は高血圧患者の心血管事故の危険因子であることが報告されている.その原因として尿酸トランスポーターの役割が注目されている.尿酸トランスポーターURAT1は腎での尿酸再吸収を担い血清尿酸値を規定する分子であるが,近年URAT1が腎のみならず,血管や脂肪細胞に発現し尿酸を細胞内に取り込み細胞内レドックスの異常を惹起して血管の炎症やアディポサイトカインの分泌異常を惹起する.この事実は高尿酸血症による臓器障害は細胞内尿酸濃度の増加によると考えられる.一方で低すぎる血清尿酸値も相対的な酸化ストレスの増大が血管の攣縮を来して,腎不全のみならず心血管事故に関与する可能性が示されている.高尿酸血症・痛風の治療ガイドラインに沿った高尿酸血症合併高血圧の管理が重要である.
著者
新谷 紀人 橋本 均 馬場 明道
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.123, no.4, pp.274-280, 2004 (Released:2004-03-25)
参考文献数
35
被引用文献数
4 5 1

PACAPは神経伝達物質·神経調節因子としての作用のほか,神経栄養因子様の作用や神経発生の調節作用が示唆されている神経ペプチドである.これまで主として脳室内投与実験からPACAPの高次脳機能調節作用の一端が示唆されてきた.しかし,薬理学的濃度よりも極めて低濃度でも作用が認められることから,PACAP投与実験の結果が生体内におけるPACAPの働きとして普遍化できるものではなかった.そこで最近著者らは,PACAPの遺伝子欠損マウス(PACAP-KO)を作成し,主として行動薬理学的解析により本マウスの種々の高次脳機能を解析した.PACAP-KOは新規環境や新規物体刺激に対する反応性が変化しており,不安レベルの低下あるいは好奇心の亢進が認められた.また各種中枢神経作用薬に対する反応性が変化していることも見い出された.PACAP-KOでは記憶·学習の分子基盤として考えられているin vivo LTP形成や,記憶·学習行動にも異常が見い出された.また雌性PACAP-KOでは交配時の行動異常に起因すると考えられる妊孕率の低下が認められた.以上の結果により,多様な高次脳機能の調節にPACAPが関与することが示されたとともに,内因性PACAPの予想外の生理機能が見い出された.また,これらの精神運動行動の異常はある種のヒト精神疾患の一面を反映すると考えられることから,本マウスがこれらの疾患の発症メカニズム等を解析する上で有用なツールとなる可能性が示されたと言える.
著者
市丸 保幸 青木 真由美 島 由季子
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 : FOLIA PHARMACOLOGICA JAPONICA (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.127, no.3, pp.205-208, 2006-03-01
参考文献数
3

本総説では詳細な作用機序には触れず,現在抗うつ薬として臨床開発中のものを中心に,それぞれの作用機序から大まかに分類し,概説する.現在臨床的に使用可能な薬剤はすべてモノアミン(ノルエピネフリン,セロトニン,ドパミン)に何らかの形で影響を及ぼし,抗うつ効果を現すので,前半では三・四環系の作用機序を含め,モノアミン系に作用する候補化合物についてSSRI,SNRI,NDRI,SNDRI,5-HT受容体関連,MAO阻害薬,PDE阻害薬の順に開発品をまとめた.また,後半では既にSSRIと同等あるいはそれ以上の有効性・有用性が報告されているメラトニン系のagomelatineをはじめに,neurokinin(NK)関連,CRF関連,GPCR関連,その他いくつかの新しい作用機序を持つユニークな化合物をまとめた.<br>

2 0 0 0 OA 肝機能障害

著者
池田 敏彦
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.127, no.6, pp.454-459, 2006 (Released:2006-08-01)
参考文献数
47
被引用文献数
1 1 1

薬物性肝障害には,用量依存的で動物実験でも再現される非特異体質性肝障害と,動物実験では再現できない特異体質性肝障害が知られている.両者とも化学的に反応性の高い代謝物の生成が最初の引き金であると考えられている(一次反応).これに続いて,大部分は未解明のままであるものの,免疫システムの活性化が原因であると考えられ,非特異体質性肝障害では自然免疫システムが,特異体質性肝障害ではこれに加えてアレルギー反応や自己・非自己認識に関わる免疫システムが関与すると推察される(二次反応).アセトアミノフェンに代表される非特異体質性肝障害においては,反応性代謝物による細胞傷害と細胞ストレスが進行すると,クッパー細胞が細胞傷害性リンパ球を肝臓に動員し,これらの細胞からインターフェロンγが分泌されることによって種々サイトカインの産生が刺激されることが,肝障害発現に重要な鍵となると考えられている.一方,特異体質性肝障害については,二次反応が重きをなすと推察されており,臨床像からはハロセンに代表されるアレルギー性特異体質性肝障害とトログリタゾンに代表される代謝性特異体質性肝障害に分類される.前者は薬疹,発熱および好酸球増多などのアレルギー症状を伴い,薬物曝露から比較的短期間(1カ月以内)に発症するのに対し,後者ではこのような症状が無く,発症までに長期間を要する点で異なっている.ハロセンの場合,反応性代謝物でハプテン化されたタンパク質に対する数多くの抗体が生じており,その種類によってはアレルギー性反応の原因となっているものと考えられる.代謝性特異体質性肝障害では恐らくこのような抗体が少量であるか,あるいは産生していないと推察される.しかし,2種類の特異体質性肝障害とも,反応性代謝物で化学修飾されたタンパク質が,免疫系により非自己と認識されることが肝障害の原因ではないかと推察される.
著者
小島 肇夫
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.151, no.2, pp.52-55, 2018 (Released:2018-02-07)
参考文献数
25
被引用文献数
1

動物実験を用いない代替法については,遺伝毒性・内分泌かく乱・局所毒性試験のin vitro試験法の開発が一段落し,化学物質,農薬,医薬品および化粧品の安全性評価において行政的な利用が進んでいる.日本も経済協力開発機構(OECD:Organisation for Economic Co-operation and Development)等における試験法開発で貢献してきた.世界の潮流は全身毒性(反復投与毒性,発がん性,免疫毒性,生殖毒性等)代替法の開発に向かっている.特に生理学的薬物動態PBPK(physiologically based pharmacokinetic)モデル,トキシコキネティクスの開発が盛んである.日本においても全身毒性試験のin vitro試験法,in silicoの利用検討が始まった.
著者
本間 健資
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.74, no.1, pp.27-36, 1978 (Released:2007-03-29)
参考文献数
30
被引用文献数
3 4

マウスにmethamphetamine(MA)を40mg/kg i.p.投与して群居させると,1匹ずつ,隔離した時に比べて死亡率が大幅に上昇した.この死亡率は,同居する他のマウスがMAを投与されているか否かにより変化しなかった.マウスを1匹ずつ透明ケージに入れて並べても完全隔離マウスに比べて死亡率は高かった.群居マウスを収容するケ一ジの面積を大きくしても,死亡率はほとんど下がらなかった.Neurolepticsはいずれも少量でMA群居毒性に拮抗したが,clozapineは作用が弱く,sulpirideは無効であった.αおよびβ遮断薬のうちでphentolamineとpropranololが高い投与量で群居毒性に拮抗した.Reserpineとtetrabenazineの前処置は明らかに群居毒性に拮抗した.Tyrosine hydroxylase阻害薬であるH44/68は強力な拮抗作用を示したが,dopamine-β-hydroxylase阻害薬であるDDC,U-14,624,FLA63の拮抗作用はやや弱かった,MAを5mg/kg i.p.投与して群居させたマウスの死亡率は約3%であった.Reserpineの同時投与,clonidine,L-DOPA,MAO阻害薬であるtranylcypromine,atropine sulfate,methysergide,cyproheptadine,benzodiazepine系抗不安薬などは,MA5mg/kg i.p.投与時の群居毒性を増強した.Apomorphincは増強しなかった.MAを120mg/kg i.p.投与すると隔離マウスの死亡率は約90%であった.これに対しpropranololがわずかに抑制作用を示した他は,phentolaminc,chlorpromazine,haloperidolは大量投与でも全く抑制しなかった.以上の結果から,マウスはMAを投与された状態では他のマウスの存在を認識することが死亡率の上昇をもたらし,この現象には,catecholamine特にnorepinephrineの役割りが重要であるように思われる.Neurolepticsは,主に中枢におけるα遮断作用により群居毒性に拮抗する事が示唆された.
著者
渡邊 泰男
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.147, no.5, pp.285-289, 2016 (Released:2016-05-13)
参考文献数
36

システインのチオール基側鎖にイオウ原子が繋がったポリサルファー化システインなどの活性イオウ分子は,細胞のレドックス恒常性の維持に重要な生理活性物質である.実は,これまでに,ほ乳類動物では活性イオウ分子の存在が知られていたが,その生体におけるシグナル応答と制御メカニズムについては不明であった.近年,質量分析法によるプロダクト解析によって,ヒト組織・血漿中に低分子から高分子の多種多様な活性イオウ分子が存在することが発見された.その一部は既知のグルタチオンと比しても,極めて強力な活性酸素消去能を有することが分かってきた.興味深いことは,このポリサルファーシステインは,タンパク質の構成アミノ酸にも認められていることである.これまで,タンパク質構成アミノ酸中の特定のシステインのチオール基の化学修飾(酸化,S-ニトロシル化,S-グルタチオン化,アルキル化)が,そのタンパク質の機能制御に関わることが報告されていた.つまり,この〝再発見〟された活性イオウ分子は,これまでのシステインチオール基を介した酸化修飾に新たに,あるいは既に相乗りする形でタンパク質機能を制御していると考えられる.本稿では,活性イオウ分子のユニークな生理機能の1つである細胞内タンパク質の修飾について,これまでのシステインのチオール基の化学修飾との関連性について述べる.
著者
植田 勇人
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.129, no.2, pp.116-118, 2007 (Released:2007-02-14)
参考文献数
15

欧米の抗てんかん薬の臨床開発事情から10数年の遅れをとり,我が国でもここ数年以内にトピラメイト,ラモトリジン,レベチラセタムなどの上市をみる予定である.2006年には既にガバペンチンが上市された.いずれも他剤との併用療法使用に限られるが,それぞれが有する抗てんかん作用機序が異なるため,従来の抗てんかん薬に難治性を示してきたてんかん性病態に対しての多角的なアプローチが可能で,多くの奏功事例を産むことが強く期待される.ここでは,すでに海外で報告されている新規抗てんかん薬の副作用や従来薬との相互作用などに触れながら,薬物治療の将来展望に言及する.
著者
笠松 真吾 藤井 重元 赤池 孝章
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.147, no.5, pp.299-302, 2016 (Released:2016-05-13)
参考文献数
10

システインパースルフィドなどの活性イオウ分子種は,チオール基に過剰にイオウ原子が付加したポリスルフィド構造を有する化合物であり,通常のチオール化合物に比べ,高い求核性と抗酸化活性を有している.近年,ポリスルフィドは,システインやグルタチオンなどの低分子チオール化合物だけでなく,タンパク質中のシステイン残基にも多く存在し,細胞内の様々なタンパク質がポリスルフィド化されていることが明らかになってきた.タンパク質中のシステインチオール基は,活性酸素や親電子物質によりもたらされる酸化ストレスのセンサーとして重要な役割を果たしていることが知られており,ポリスルフィド化はタンパク質機能制御を介したレドックスシグナル伝達メカニズムとして,細胞機能制御に関与することが予想される.しかしながら,複雑な化学特性を有するポリスルフィドは検出が難しいことから,生体内におけるタンパク質ポリスルフィド化の分子メカニズムやその生理機能は不明な点が多く残っており,特異的で高感度,かつ簡便なポリスルフィド化タンパク質検出方法の開発が求められている.タンパク質ポリスルフィド化の検出に関してはこれまで様々な問題点があり研究進展の妨げになっていたが,最近,信頼性のあるポリスルフィド化タンパク質の解析方法が報告され,様々なタンパク質が内因的にポリスルフィド化していることや複雑なポリスルフィドの構造と化学特性などが徐々に明らかになってきている.検出におけるいくつかの問題点は残されているものの,プロテオミクス研究への応用も期待されている.今後さらに,タンパク質ポリスルフィドのユニークな構造と化学特性に基づく特異的で高感度な検出方法の開発を進めることにより,タンパク質ポリスルフィドの生物学的意義の解明が大きく進展するものと考えられる.
著者
北村 明彦 畝山 寿之
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.145, no.6, pp.306-310, 2015 (Released:2015-06-10)
参考文献数
18

自律神経を構成する交感神経と副交感神経は,一般的に脳から末梢臓器へ情報伝達を行う遠心路としての機能がよく知られているが,これらの自律神経束には求心性神経線維も含まれている.特に,迷走神経束はその70%以上が求心性であり,内臓感覚神経として機能していることが知られている.求心路の働きにより各臓器の状態がモニターされ,自律神経反射によって生体恒常性が維持されている.我々はこれまで,消化管での栄養素受容を求心性迷走神経の活動を指標として評価を行うとともに,その自律神経反射について検討を行ってきた.迷走神経活動測定にはいくつかの方法があり,研究の対象によって評価法を選ぶ必要がある.本稿では,腹部迷走神経が担う栄養素情報の解析に有効な求心性迷走神経線維からの神経活動記録法と,その薬理特性を検討するのに有効な迷走神経下神経節単離ニューロンからの神経活動記録法について紹介する.
著者
岡村 信行 原田 龍一 工藤 幸司 谷内 一彦
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.146, no.3, pp.144-149, 2015 (Released:2015-09-10)
参考文献数
20
被引用文献数
2

ミスフォールディングタンパク質の脳内蓄積は,血液脳関門透過性を有するβシート結合プローブを放射性標識し,これを生体に投与することによって計測可能である.PET(陽電子断層撮像法)を用いたアミロイドβタンパク質および微小管結合タンパク質(タウ)のin vivo計測法が近年実用化され,アルツハイマー病に代表される神経変性疾患の診断補助マーカーとして活用されている.またアルツハイマー病における中核的病理像の存在を直接的に反映するバイオマーカーとして,新規治療薬の概念実証や治療対象者の絞り込みにも利用される.アミロイドイメージングでは標準的なPETプローブである[11C]PiBのほか,デリバリー供給も可能な18F標識薬剤が複数実用化されている.近年のアミロイドPET研究では,認知機能の障害されていない高齢者でも高頻度にアミロイドβタンパク質の脳内蓄積が観察されている.プレクリニカル・アルツハイマー病と呼称されるこうした高齢者の一群は,認知症発症のハイリスク群とみなされ,予防的介入研究の対象とされている.一方,脳内に蓄積したタウを画像化する技術はまだ確立されていないが,複数の有力なPETプローブが開発され,その臨床応用報告が近年相次いでいる.タウPETプローブの脳内集積量は疾患重症度とよく相関し,神経変性との密接な関わりを持つ新たな画像バイオマーカーとして注目されている.本技術は疾患モデル動物を用いた小動物イメージングにも応用可能である.これまで死後にしか知り得なかった線維化タンパク質の脳内蓄積を経時的に追跡することで,病初期におけるミスフォールディングタンパク質の形成プロセスを明らかにし,また治療前後での変化をモニタリングすることが可能である.
著者
田原 誠 柴田 篤 桂 紳矢
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.147, no.5, pp.311-318, 2016 (Released:2016-05-13)
参考文献数
27

慢性骨髄性白血病(CML)患者の95%以上で発現しているBcr-Abl融合遺伝子は,その恒常的な活性化が白血病細胞の増殖に関与しており,Bcr-AblチロシンキナーゼはCMLの治療における分子標的と考えられている.ボスチニブ水和物(以下ボスチニブと記す)はCMLの治療薬として開発された,AblおよびSrcを選択的に阻害する経口チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)である.ボスチニブは酵素レベルではAblおよびSrcに加えて数種のイマチニブ耐性型Bcr-Ablに対しても阻害作用を示し,細胞レベルでは種々の野生型およびイマチニブ耐性のCML細胞株に対して増殖阻害作用並びにシグナル伝達阻害作用を示した.一方ボスチニブは,イマチニブ,ダサチニブおよびニロチニブと異なり,c-Kitおよび血小板由来成長因子受容体(PDGFR)に対しては阻害作用を示さず,骨髄抑制および体液貯留に起因する副作用の軽減が期待された.In vivoにおいてもボスチニブはCMLを始めとする種々の異種移植モデルにおいて,臨床的に到達可能な血漿中濃度で抗腫瘍作用を示した.臨床試験では,2次治療および3次治療のCML患者を対象として国内外で実施した第Ⅰ/Ⅱ相試験の第Ⅱ相部分(有効性検討試験)で主要評価項目に設定した2次治療の慢性期CML患者の24週時点での細胞遺伝学的大寛解(MCyR)率は,海外試験では35.5%,国内試験では35.7%であった.また忍容性は全般的に良好であり,安全性プロファイルは許容可能であった.さらに骨髄抑制および体液貯留に起因するボスチニブの副作用の発現率はイマチニブ,ダサチニブおよびニロチニブより低く,非臨床試験で示された標的阻害プロファイルの違いが臨床的に裏付けられた.これらの非臨床および臨床試験成績からボスチニブの有用性が確認され,本邦では前治療薬に抵抗性又は不耐容の慢性骨髄性白血病を適応症として2014年9月に承認された.
著者
山中 章弘
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.140, no.6, pp.280-284, 2012 (Released:2012-12-10)
参考文献数
19
被引用文献数
2

脳内に多数存在する神経細胞同士の複雑なネットワークによって,行動発現が制御されている.これまで脳内の特定の神経活動のみを高い時間精度で人為的に制御する手法が存在していなかったため,神経回路機能と行動発現を繋げる研究を行うことが難しかった.光を受容し,細胞機能に影響を与える分子を特定の神経細胞に発現させ,低侵襲的で透過性の高い光を照射することによって,特定の神経活動を操作できる手法(オプトジェネティクス(光遺伝学))が近年開発された.本手法の導入には,分子生物学,生理学,電気生理学,遺伝子工学,光工学などの様々な知識と技術が必要であったが,最近では多くの企業から光遺伝学に特化した便利な装置や物品が販売されており,導入が容易になってきている.本稿では光遺伝学を用い,インビボにおいて特定の神経活動を操作する方法について概説する.
著者
山田 清文
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.111, no.2, pp.87-96, 1998-02-01 (Released:2007-01-30)
参考文献数
50
被引用文献数
6 5

Nitric oxide (NO) is a free radical gas that is synthesized from L-arginine by NO synthase (NOS). Activation of NMDA, non-NMDA or metabotropic glutamate receptors causes NO formation through NOS activation. From data obtained in experiments performed by microdialysis together with nitrite and nitrate assay, we have proposed that NO production in the cerebellum following non-NMDA and metabotropic glutamate receptor activation may be independent of NOS activity, while NMDA receptor-mediated NO production depends on its activity. Glial cells appear to play a role in modulating NO production by regulating L-arginine availability. Activation of NMDA receptors and the increase in intracellular calcium concentration is a trigger for the long-term potentiation (LTP). NO acts as a retrograde messenger in the hippocampal LTP to enhance glutamate release from presynaptic nerve terminal, in which cyclic GMP may be involved. Behavioral studies demonstrate that NO is involved in some forms of learning and memory. Our studies suggest that NMDA/NO/cyclic GMP signaling plays a role in spatial working memory. Further, it is suggested that NO production in the brain is altered by aging. These results support the hypothesis that NO plays a role in mechanism of synaptic plasticity.