著者
笠松 真吾 藤井 重元 赤池 孝章
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.147, no.5, pp.299-302, 2016 (Released:2016-05-13)
参考文献数
10

システインパースルフィドなどの活性イオウ分子種は,チオール基に過剰にイオウ原子が付加したポリスルフィド構造を有する化合物であり,通常のチオール化合物に比べ,高い求核性と抗酸化活性を有している.近年,ポリスルフィドは,システインやグルタチオンなどの低分子チオール化合物だけでなく,タンパク質中のシステイン残基にも多く存在し,細胞内の様々なタンパク質がポリスルフィド化されていることが明らかになってきた.タンパク質中のシステインチオール基は,活性酸素や親電子物質によりもたらされる酸化ストレスのセンサーとして重要な役割を果たしていることが知られており,ポリスルフィド化はタンパク質機能制御を介したレドックスシグナル伝達メカニズムとして,細胞機能制御に関与することが予想される.しかしながら,複雑な化学特性を有するポリスルフィドは検出が難しいことから,生体内におけるタンパク質ポリスルフィド化の分子メカニズムやその生理機能は不明な点が多く残っており,特異的で高感度,かつ簡便なポリスルフィド化タンパク質検出方法の開発が求められている.タンパク質ポリスルフィド化の検出に関してはこれまで様々な問題点があり研究進展の妨げになっていたが,最近,信頼性のあるポリスルフィド化タンパク質の解析方法が報告され,様々なタンパク質が内因的にポリスルフィド化していることや複雑なポリスルフィドの構造と化学特性などが徐々に明らかになってきている.検出におけるいくつかの問題点は残されているものの,プロテオミクス研究への応用も期待されている.今後さらに,タンパク質ポリスルフィドのユニークな構造と化学特性に基づく特異的で高感度な検出方法の開発を進めることにより,タンパク質ポリスルフィドの生物学的意義の解明が大きく進展するものと考えられる.
著者
蓮尾 昌裕 赤池 孝章 湯浅 英哉 有本 博一 鈴川 和己 進士 忠彦 片山 紀生 見延 庄士郎
出版者
京都大学
雑誌
特別研究促進費
巻号頁・発行日
2004

日本の科学研究費補助金(科研費)制度の効率的な運用のため、新たなプログラムオフィサー(PO)制度の構築に向けた以下の調査研究成果を得た。1 海外の競争的研究資金配分機関におけるPO制度運営状況の調査研究米国MH, NSF、英国RC、シンガポールA^*STAR、台湾NSC、韓国KRF、日本・北米・欧州HFSP、EU ESF、独国DFG等の競争的研究資金制度およびそのPO制度の現地調査を行い、それぞれの競争的研究資金制度の概要・特徴とその中でのPOの位置付け・役割を整理した。2 国内の競争的研究資金配分機関におけるPO制度運営状況の調査研究科研費(文部科学省・研究振興局)、科研費(日本学術振興会)、科学技術振興調整費(科学技術振興機構)、産業技術研究助成事業(NEDO技術開発機構)、先端技術を活用した農林水産研究高度化事業・民間結集型アグリビジネス創出技術開発事業(農林水産省・農林水産技術会議事務局)の競争的研究資金制度およびそのPO制度を調査・分析し、比較一覧表を作成した。3 文科省科研費担当学術調査官制度やPO制度に関するアンケート調査審査部会各系委員会委員、採択課題・領域の研究代表者、および学術調査官所属機関に対し、学術調査官の業務や構成、PO像やそのキャリアパス等についてアンケート調査を行い、意識・意見・要望を分析した。4 科研費応募者に対する科研費制度とPO制度の啓発活動、および応募者の意識・要望の調査研究本科研費の企画提案等により、日本化学会第85春季年会企画講演「より身近な科研費制度を目指して-プログラムオフィサーに求められる役割-」、日本機械学会2005年次大会特別企画「変わりつつある科学研究費制度-研究者自身に求められる役割-」、第78回日本生化学会大会シンポジウムパネルディスカッション「ポトムアップ型競争的研究資金、科研費制度の改善に向けて-アカデミアとプログラムオフィサーの役割-」を実施した。さらに会場でのアンケート調査により、科研費応募者の意識・要望を分析し、このような企画の効果を検証した。
著者
赤池 孝章 加藤 篤 前田 浩 宮本 洋一 豊田 哲也 永井 美之
出版者
熊本大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1998

ウイルス感染病態において誘導型NO合成酵素(inducible NO synthase,iNOS)から過剰に産生されるNOは、共存する分子状酸素(O_2)や酸素ラジカル(活性酸素)などと反応し、パーオキシナイトライト(ONOO^-)などの反応性窒素酸化物の生成を介して、宿主に酸化ストレスをもたらす。一方で、感染炎症における酸化ストレスは、生体内で増殖するウイルスそのものにも加えられることが予想される。RNAウイルスは、一回の複製でヌクレチド残基あたり10^<-5>〜10^<-3>という頻度で変異し、極めて高度な遺伝的多様性を有しており、様々な環境中のストレスにより淘汰されながら分子進化を繰り返している。この様なウイルスの多様性は、これまで主にRNA複製の不正確さにより説明されてきたが、その分子メカニズムは今だに不明である。そこで今回、NOよりもたらされる酸化ストレスのウイルスの分子進化への関わりについて検討した。このため、変異のマーカー遺伝子としてgreen fluorescent protein(GFP)を組み込んだセンダイウイルス(GFP-SeV)を用いてNOやパーオキシナイトライトによるウイルス遺伝子変異促進作用について解析した。その結果、in vitroの系において、パーオキシナイトライトはウイルスに対して非常に強い変異原性を示した。さらにiNOS欠損マウスおよび野生マウスのGFP-SeV感染系において、野生マウスではiNOS欠損マウスの7倍程度高いウイルス遺伝子変異率が認められた。これらの知見は、ウイルス感染・炎症反応にともない過剰に産生されるNOやパーオキシナイトライトが、ウイルスの変異速度を高め、その分子進化に関与していることを示唆している。
著者
赤池 孝章 野口 陽一郎 前田 浩
出版者
熊本大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

ウイルス感染病態における一酸化窒素(nitric oxide,NO)の役割を解析するため、マウスインフルエンザウイルス肺炎モデル、ラット狂犬病ウイルス/単純ヘルペス脳炎モデルを作製し、各ウイルス感染病巣におけるNOの過剰生成を解析し、NO合成阻害剤であるN^G-monomethyl-L-arginine(L-NMMA)を投与し、生体内のNO合成を制御することで、ウイルス感染病態がどのように修飾されるかを検討した。その結果、マウス、ラットの肺、および脳内において、ウイルス感染に伴い誘導型NO合成酵素(NOS)が強く誘導されることが、誘導型NOSのcDNAプローブを用いたRT-PCR/Sourthern blot法、およびNorthern blot法により明らかとなった。また、ウイルス感染局所におけるNO生成を電子スピン共鳴(electron spin resonance,ESR)法により、110Kにて解析したところ、過剰に産生したNOに由来するNO-ヘモグロビンアダクトの有意な生成が認められ、これは、NOS阻害剤であるL-NMMAを動物に投与することにより著明に抑制された。さらに、L-NMMA投与により、インフルエンザウイルス感染マウスの生存率が有意に改善(100%致死率→50%生存)した。以上の知見より、マウスインフルエンザウイルスをはじめとする各種ウイルス感染の病原性発現機構において、NOが重要な増悪因子として作用していることが明らかとなった。
著者
赤池 孝章
出版者
日本細菌学会
雑誌
日本細菌学雑誌 (ISSN:00214930)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.339-349, 2015-08-26 (Released:2015-08-26)
参考文献数
40
被引用文献数
7 8

一酸化窒素(nitric oxide, NO)や活性酸素種(reactive oxygen species, ROS)は, 非特異的感染防御機構において重要な役割を演じている。細菌, ウイルス, 真菌といった病原体の種類の如何に関わらず, 感染病態においては, 誘導型NO合成酵素(inducible NO synthase, iNOS)が誘導される。iNOSは, 病原体の持つ様々な菌体由来成分が, 対応する病原体分子パターン認識受容体群(pattern recognition receptors)であるToll-like receptorによって認識されることによって誘導され, さらに感染に伴って産生される炎症性サイトカインやインターフェロンなどによって相乗的に誘導が増強される。iNOS誘導に伴って過剰に産生されたNOは, 感染局所のROSと反応し, パーオキシナイトライトなどの化学反応性に富んだ活性酸化窒素種となり, 特に細菌感染において, 強力な抗菌活性を発揮し, マクロファージ等の貪食細胞による自然免疫と感染防御機能に重要な役割を演じている。その反面, NOやROSは, 宿主の細胞・組織を損傷し酸化ストレスをもたらす。一方近年, NOとROSが生体の酸化ストレス応答の生理的なレドックスメディエーターとして機能していることが明らかになってきた。NOとROSによるレドックスシグナル制御は多岐にわたっており, 感染防御機構と感染・炎症が関わる病態を理解する上で重要な課題であるだけでなく, 感染症の新たな予防・治療戦略の構築に大きく貢献するであろう。
著者
井田 智章 松永 哲郎 藤井 重元 澤 智裕 赤池 孝章
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.147, no.5, pp.278-284, 2016

感染や炎症に伴い生成される活性酸素(ROS)は,酸化ストレスをもたらす組織傷害因子となる一方,細胞内レドックスシグナルのメディエーターとして機能していることがわかってきた.著者らは,生体内でROSと一酸化窒素の二次メッセンジャーである親電子物質8-ニトロ-cGMPの代謝にcystathionine β-synthase(CBS),cystathionine γ-lyase(CSE)が深く関わることを報告した.しかしながら,その代謝機構については未だ不明な点が多く残っていた.そこで,8-ニトロ-cGMPを代謝する真の活性分子種の同定に向けて,質量分析装置(LC-MS/MS)を用いた詳細なメタボローム解析を行った.その結果,CBS,CSEはシスチンを基質にシステインのチオール基が過イオウ化(ポリスルフィド化)したシステインパースルフィド(Cys-S-SH)を効率よく生成することが示された.さらに,LC-MS/MSを用いて,細胞,組織における代謝物プロファイリングを行った結果,CBS,CSEに依存したCys-S-SHなどの多様な活性イオウ分子種の生成を認めた.特に,マウス脳組織においては,100 μMを超える高いレベルのグルタチオンパースルフィドの生成が示された.活性イオウ分子の機能について,抗酸化活性とレドックスシグナル制御機能に注目して解析した結果,高い過酸化水素消去活性と8-ニトロ-cGMP代謝活性を発揮することが明らかとなった.これらの結果より,CBS,CSEにより産生される真の代謝活性物質は,Cys-S-SHなどの活性イオウ分子種であり,これらはその高い求核性や還元活性を介して,レドックスシグナルの重要なエフェクター分子として機能することが示唆された.活性イオウ分子種によるレドックスシグナル制御機構の解明は,酸化ストレスが関わる疾患の新たな治療戦略や創薬開発につながることが期待される.
著者
岡本 竜哉 赤池 孝章 伊藤 隆明
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

マウスインフルエンザウイルス急性肺傷害モデルを用いて、一酸化窒素と活性酸素種によるニトロ化ストレスが、病態に及ぼす影響ついて解析を行った。その結果、ニトロ化ストレスにより、感染肺局所にて8-ニトロ-cGMPが生じ、HO-1をはじめとする酸化ストPレス応答を制御するシグナル分子として、肺傷害や肺線維化の病態形成に関与している可能性が示唆された。今後、この知見を間質性肺炎の新たな治療戦略へ応用することが期待される。
著者
笠松 真吾 守田 匡伸 赤池 孝章
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.210-214, 2017 (Released:2017-03-01)
参考文献数
23

活性酸素種(ROS)は、非特異的化学修飾をもたらす毒性因子としての側面の他に、生理的な細胞内シグナル(レドックスシグナル)分子としての機能を持つ。ROS・レドックスシグナルはその下流で生じる親電子物質を介して巧妙に制御されている。最近、新規レドックスシグナル制御因子として活性イオウ分子種が同定された。活性イオウ分子種によるレドックスシグナル制御機構の解析は、酸化ストレスの関わる疾病の新規予防・治療戦略の開発に寄与すると期待される。
著者
前田 浩 宮本 洋一 澤 智裕 赤池 孝章 小川 道雄
出版者
熊本大学
雑誌
特定領域研究(C)
巻号頁・発行日
2000

固型癌のうち、胃癌、肝癌、子宮癌などの原因が細菌やウイルスによることが次第に明らかになってきた。さらに、胆管や胆のう癌、食道癌も何らかの感染症に起因する容疑が濃くなってきた。これらの感染症と発癌に共通の事象として、それが長期にわたる慢性炎症を伴うこと、また活性酸素(スーパーオキサイドやH_2O_2、あるいはHOCl)や一酸化窒素(NO)などのフリーラジカル関連分子種が宿主の炎症反応に伴い、感染局所で過剰に生成していることである。さらに重要なことは、これらのラジカル分子種はDNAを容易に障害することである。そこで本研究では、微生物感染・炎症にともない生成するフリーラジカルと核酸成分との反応を特に遺伝子変異との関係から解析した。また、センダイウイルス肺炎モデルを作製し、in vivoでの遺伝子変異におけるフリーラジカルの役割を検討した。その結果、過酸化脂質がミオグロビン等のヘム鉄存在下に生じる過酸化脂質ラジカルが、2本鎖DNAに対して変異原性のある脱塩基部位の形成をもたらした。また、上記ウイルス感染においては、スーパーオキサイドラジカル(O_2^-)と一酸化窒素(NO)の過剰生成がおこることを明らかにしたが、この両者はすみやかに反応してより反応性の強いパーオキシナイトライト(ONOO^-)となる。ONOO^-とDNAやRNAとの反応では、グアニン残基のニトロ化が効率良くおこり、さらに生じたニトログアノシンがチトクロム還元酵素の作用によりO_2^-を生じることが分かった。このONOO^-がin vivo,in vitroいずれにおいてもウイルス遺伝子に対して強力な遺伝子変異をもたらすことを、NO合成酵素(NOS)ノックアウトマウスやNOS強制発現細胞を用いて明らかにし、上記の知見が正しいことを確認した。
著者
菅 守隆 西川 博 安藤 正幸 田中 不二穂 赤池 孝章 坂田 哲宣 河野 修 伊藤 清隆 中嶋 博徳 荒木 淑郎
出版者
The Japanese Respiratory Society
雑誌
日本胸部疾患学会雑誌 (ISSN:03011542)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.461-466, 1989-04-25 (Released:2010-02-23)
参考文献数
16

マイコプラズマ肺炎の診断は, 発症初期には困難なことが多く, 決め手となる補助診断法はない. 我々は, マイコプラズマ肺炎が細菌性肺炎と異なった免疫応答をすることに注目し, 血清中 Adenosine deaminase 活性値 (ADA) が発症初期の細菌性肺炎とマイコプラズマ肺炎の鑑別に有用か否かについて検討した. その結果, マイコプラズマに対する抗体価が上昇する以前の早期 (発症3~10日目) に, マイコプラズマ肺炎患者11名の血清中ADAは, 32.1±12.0U/l (63.9~18.7U/l) であり, 正常対照者の平均値±2SDである20.8U/l以上の活性値を示す患者は11例中10例であった. 一方, 細菌性肺炎患者20名では12.5±3.3U/l (4.6~18.6U/l) であり, 全例20.8U/l以下であった. マイコプラズマ肺炎患者のADAは, 細菌性肺炎患者および正常対照者に比べて有意に高く (p<0.001), 発症初期の細菌性肺炎とマイコプラズマ肺炎の鑑別に極めて有用であると考えられた.
著者
赤池 孝章 岡本 竜哉
出版者
熊本大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

Helicobacter cinaediは1984年に初めてヒトへの感染が確認された新興感染症菌である。これまでの報告の多くは、免疫能低下症例における日和見感染症であるが、我々は免疫異常のない術後患者における敗血症・蜂窩織炎の事例を報告した。本菌は培養効率が悪いため、我々は本菌の主要抗原組換え蛋白質を用いた本菌感染の血清診断法を確立した。近年、非消化器疾患、特に動脈硬化症や不整脈の病態に、H.pyloriなどの慢性感染の関与が示唆されている。H.cinaediはH.pyloriに比べ血管侵襲性が強く、様々な非消化器疾患に関連している可能性が示唆される。そこで本菌と動脈硬化症や不整脈との関連について臨床疫学的な解析を行った。まず、熊本大学附属病院にて2005年から2009年にかけて精査・加療した症例で、心房性不整脈を有する群(不整脈群:132症例)と、有しない群(非不整脈群:137症例)を対象に、抗H.cinedi抗体レベルをELISA法にて測定した。その結果、非不整脈群に比べ不整脈群において有意に高い抗体レベルを認めた。一方、これまで上室性不整脈との関連が示唆されてきたH.pyloriやChlamydophila pneumoniaeに対する抗体レベルは両群間で差を認めなかった。また多変量解析にて、H.cinaedi抗体が陽性であることは、心房性不整脈に対する有意な独立した危険因子であることがわかった。さらに、本菌に対する特異抗体を作成し、解離性大動脈瘤症例から得られた剖検組織(9例)を免疫組織染色した結果、全例にて粥状硬化巣のマクロファージに一致した陽性像を認めた。以上の知見は、H.cinaedi感染が動脈硬化症や不整脈といった心臓血管疾患の病因に関連していることを強く示唆しており、当該疾患の病態解明ならびに新たな診断・治療法の確立に大きく寄与できるものと期待される。