著者
鈴木 敏彦
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.129-134, 2015
被引用文献数
1

2011年3月11日に発生した東日本大震災における犠牲者は,2015年2月現在で1万5,800名を超え,なおも2,500名以上が行方不明となっている.発見遺体は99%以上が身元が判明し,歯科所見に基づく生体情報の有効性が実証された.その一方で,多数の歯科医師の身元確認作業への動員という人的マネージメント,そして膨大な生前・死後情報の整理と,今後起こりうる緊急状況に備えた歯科診療情報の保全という情報マネージメントの面に代表される問題点も浮上している.本稿では,発災から4年間,身元確認作業で何が行われてきたかを継続的に見てきた立場から,身元確認の現場の状況と課題,そして今後の展望の整理を試みた.
著者
山本 司将 中村 健太郎 山口 雄一郎 松浦 尚志
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.135-142, 2019 (Released:2019-05-02)
参考文献数
11

目的:本研究の目的は超高速MRI装置を用いて咀嚼運動時における顎関節部の撮像を行い,咀嚼運動時における下顎頭と関節円板の動態を読影するとともに,下顎頭および関節円板が移動した距離を測定できるかどうかを分析することである.材料と方法:被験者は健常有歯顎者の成人男性歯科医師1名とし,高速撮像が可能なMRI装置を用いて,顎関節部の習慣性開閉口運動ならびに被験食品(ガムとカマボコ)の咀嚼運動について撮像を行った.撮像によって得られたDICOMデータからDICOMビューア上で顎関節部の動態を読影し,下顎頭と関節円板の移動距離を計測した.考察:顎関節部を超高速MRI装置で撮像を行うことで,従来行われてきた顎関節の形態や開閉口運動の読影のみではなく,咀嚼運動時における下顎頭と関節円板の運動(顎関節部の動態)を読影することができた.結果として咀嚼運動時における下顎頭と関節円板の移動距離を計測することが可能であり,その移動距離がわずかであることがわかった.結論:咀嚼運動時の顎関節を超高速MRI装置で連続撮像することで下顎頭と関節円板の運動(顎関節部の動態)を読影することができ,同時に下顎頭と関節円板の移動距離を計測することが可能となった.
著者
水口 俊介
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.3, no.4, pp.315-321, 2011 (Released:2011-12-08)
参考文献数
35

全部床義歯の製作法には多くのドグマが潜んでいる.しかし超高齢社会を迎えたわが国において,各種コストを浪費するこのようなドグマが存在することは許されない.個人トレーとコンパウンド等を用いた辺縁形成による印象法が多くの大学で採用されている.しかしコンパウンドは,習熟するまでには訓練が必要であり,技術修練のための教育時間が著しく削減された現状の教育環境ではそれが達成できているかどうか疑わしい.またそのように手間をかけて製作した義歯が必ずしも患者の満足につながらないという報告は多い.われわれは,これまでの製作法や教育法を綿密に再検討し,真に適切な手法で教育しなければならない.
著者
山脇 加奈子 吉川 峰加 津賀 一弘 久保 隆靖 田地 豪 赤川 安正
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.179-184, 2015 (Released:2015-04-18)
参考文献数
19

症例の概要:患者は73歳男性で脳血管性認知症を有しており,認知症病棟に入院中である.唾液や食物を飲み込みにくいという主訴の下,摂食観察を行ったところ多量の口腔内食物残留および喫食率の低下を認めた.また,嚥下造影検査(Videofluoroscopic examination of swallowing: VF)では,舌搾送運動の不良,嚥下反射の惹起遅延,ならびに口蓋から咽頭部にかけての食物残留を認めた.そこで,従来からの口腔機能リハビリテーションに加え,飴を舐める機能を応用したリハビリテーションを6カ月間行い,訓練介入前後および介入期間中の嚥下機能,口腔機能,口腔内環境,体重および摂食状況を観察したところ,舌搾送運動の改善,最大舌圧値,体重,喫食率の増加,口腔内の食物残留量や細菌数の減少を認めた.考察:中等度認知症患者に対し,従来のリハビリテーションに加えて,複雑な指示理解を必要としない飴を舐めるリハビリテーションを継続することにより,口腔内および口腔周囲筋の廃用防止と口腔内環境の改善につながったものと考えられた. 結論:6カ月間の本口腔機能リハビリテーションにより,口腔の機能と環境に改善を認めたことより,中等度認知症患者において,飴を用いたリハビリテーションが有効である可能性が示唆された.
著者
飯田 良平
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.12, no.4, pp.316-321, 2020 (Released:2020-10-24)
参考文献数
5

パーキンソン病は神経変性疾患のなかではアルツハイマー型認知症に次いで多く,訪問歯科診療などの現場では少なからず遭遇する.オーラルジスキネジアや開口保持が困難となれば,種々の歯科治療だけでなく口腔衛生管理に際しても難渋することとなる.姿勢や口腔機能の障害が進行すれば,義歯のコントロールも不良となり,徐々に使用困難となることが多い.摂食嚥下障害は高率に存在するが身体的運動障害とは必ずしも関連しないとされている.また不顕性誤嚥(誤嚥してもむせがみられない)の多いことも特徴とされている.患者の予後に影響する①摂食嚥下障害における口腔衛生管理や摂食機能療法,②水分・栄養・服薬管理の観点からの口腔機能管理,③付随する唾液誤嚥や流涎,そして顎関節脱臼への対応など,歯科が対応すべき問題は多いと考える.
著者
黒住 明正 赤松 由崇 白木 篤 中島 啓一朗 佐伯 正則 西川 悟郎 原 哲也 皆木 省吾
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.2, no.4, pp.260-266, 2010-10-10 (Released:2010-10-22)
参考文献数
5
被引用文献数
1 1

目的:阪神・淡路大震災において被災者の一部は,地震による家屋の倒壊により避難時に義歯を放置・紛失するという状態に陥った.復興のさなか,簡便で効率的な義歯製作法が求められたので,われわれが阪神・淡路大震災において実施した大規模災害時における有床義歯製作の考え方とその製作方法について報告する.材料と方法:通法に従い口腔内のアルジネート印象を採得し,印象用石膏により製作した作業用模型上にて基礎床を作る.上顎 6前歯・下顎 6前歯が一塊となった人工歯と 4臼歯が一塊となったシェル臼歯を口腔内で基礎床と常温重合レジンにより位置決めし,両者の間隙に粉液比を低く低粘稠度に混和した常温重合レジンを流し込み研磨面形態を製作する.最後に粘膜面に暫間軟質裏装材を適応する.考察:本義歯製作方法は,審美性にやや劣り永続的使用に適さないという欠点を有する.しかし,通法と比較して大幅に作業時間が短縮し,復興後のかかりつけ歯科医のコンセプトに従った補綴装置の設計・製作を阻害しないという点を有しており,災害時の歯科救援活動に貢献するものと考える.結論:本義歯製作方法は,大規模災害時において簡便かつ効率的な義歯製作を可能とするものであり,半年程度で現地歯科医療機関の一次的な復興が望める被災地においては特に有効であると考えられる.
著者
田地 豪 二川 浩樹
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.6, no.4, pp.399-404, 2014 (Released:2014-11-12)
参考文献数
13

平成17年,わが国で初めて広島大学歯学部に4年制の歯科技工士養成機関である口腔保健学科口腔保健工学専攻が設置された.歯科技工士をオーラルエンジニアと捉え,新しいオーラルエンジニアには工学的知識・技能のほかに,生物学的知識・技能,高度専門医療やチーム医療などに関する能力が必要になると考え,教育カリキュラムを策定した.教養教育の充実,材料や機器の革新に伴う専門教育の強化,関連分野の教育の実践を目指し,特色ある授業科目を設定している.これまでの教育の結果,卒業生は多方面で活躍しており,今後とも,口腔工学として専門分野や関連分野で活躍できる人材の育成に努めていきたいと考えている.
著者
戸原 玄 阿部 仁子 中山 渕利 植田 耕一郎
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.265-271, 2013 (Released:2013-11-06)
参考文献数
27
被引用文献数
1

日本では要介護高齢者が増加しているため,誤嚥性肺炎の予防が重要である.誤嚥性肺炎は摂食・嚥下障害により引き起こされるため,患者の食べる機能を正しく評価した対応が重要である.訪問診療で利用可能な評価法にはスクリーニングテストと嚥下内視鏡検査があり,嚥下内視鏡検査は近年小型化が図られている.咀嚼中には食塊が咽頭に送り込まれるため相対的に嚥下反射が遅延するが,症例によっては噛み方を工夫することで嚥下反射遅延を防ぐことができる可能性がある.歯科的な対応のうち特殊な補綴物には舌接触補助床および軟口蓋挙上装置がある.また,新しい訓練方法として開口訓練により舌骨上筋群を鍛えて嚥下機能を改善する方法がある.
著者
谷田部 優
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.32-37, 2019 (Released:2019-01-26)
参考文献数
34

近年,部分床義歯による欠損補綴においても審美性への配慮が大切になっており,ノンメタルクラスプデンチャーを目にする機会も増えてきた.日本補綴歯科学会は,ポジションペーパーでノンメタルクラスプデンチャーを製作する際の臨床指針を示しているが,未だに不明な点も多く,装着後の対応に苦慮する場合も少なくない.本稿では,ノンメタルクラスプデンチャーで用いられる材料を整理し,レジンクラスプが歯周組織に与える影響,維持機構や審美性への配慮について,現時点でのエビデンスと見解を整理する.また,基本的な設計例を通して臨床上注意すべき点について述べる.
著者
六人部 慶彦
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.8, no.4, pp.376-380, 2016 (Released:2016-11-09)
参考文献数
10

歯間乳頭は,歯科医師が補綴処置を行ううえで,形態をコントロールできる軟組織の一つであり,再建するためには歯周組織の十分な診査・診断が必要である.下部鼓形空隙にブラックスペースが存在し審美性を損ねている場合でも,補綴を前提とする際には,隣接面歯頸部のフィニッシュラインの設定位置と修復物の形態を症例に応じてコントロールすることにより,ある程度歯間乳頭を再建させることができる.特に前歯部においては,食物の停滞や発音のような機能的な側面に加えて審美性が最優先されるため,下部鼓形空隙のブラックスペースは許容されない傾向にあり,世界的な潮流として歯間乳頭を保存あるいは再建することの必要性がクローズアップされている.その術式も外科的1,2),矯正的3,4),補綴的5,6)アプローチが報告されている.ここでは,天然歯形態から学ぶ歯間乳頭再建のために修復物に与えるべき形態,フィニッシュラインの設定位置などこれら診断の目安となる歯間乳頭の存在に影響を及ぼす要因7)について考察したい.
著者
松香 芳三 萩原 芳幸 玉置 勝司 竹内 久裕 藤澤 政紀 小野 高裕 築山 能大 永尾 寛 津賀 一弘 會田 英紀 近藤 尚知 笛木 賢治 塚崎 弘明 石橋 寛二 藤井 重壽 平井 敏博 佐々木 啓一 矢谷 博文 五十嵐 順正 佐藤 裕二 市川 哲雄 松村 英雄 山森 徹雄 窪木 拓男 馬場 一美 古谷野 潔
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.281-290, 2013 (Released:2013-11-06)
参考文献数
3
被引用文献数
2 1

目的:(社)日本補綴歯科学会は病態とその発現機序の把握に基づく適切な補綴歯科治療を国民に提供するために,補綴歯科治療における新たな病名システムを提案した.これは患者に生じている「障害」を病名の基本とし,この障害を引き起こしている「要因」を併記して病名システムとするものであり,「A(要因)によるB(障害)」を病名システムの基本的な表現法としている.本研究の目的は考案した方法に従って決定した補綴歯科治療における病名の信頼性と妥当性を検討することである.方法:模擬患者カルテを作成し,(社)日本補綴歯科学会診療ガイドライン委員会で模範解答としての病名(以下,模範病名)を決定した.その後,合計50 名の評価者(日本補綴歯科学会専門医(以下,補綴歯科専門医)ならびに大学病院研修歯科医(以下,研修医))に診断をしてもらい,評価者間における病名の一致度(信頼性)ならびに(社)日本補綴歯科学会診療ガイドライン委員会による模範病名との一致度(妥当性)を検討した.結果:評価者間の一致度を検討するための算出したKrippendorff’s αは全体では0.378,補綴歯科専門医では0.370,研修医では0.401 であった.Krippendorff’s αは模範病名との一致度の高い上位10 名の評価者(補綴歯科専門医:3 名,研修医:7 名)では0.524,上位2 名の評価者(補綴歯科専門医:1 名,研修医:1 名)では0.648 と上昇した.日常的に頻繁に遭遇する病名に関しては模範病名との一致度が高かったが,日常的に遭遇しない病名は模範病名との一致度は低い状況であった.さらに,模範病名との一致度とアンケート回答時間や診療経験年数の関連性を検討したところ,相関関係はみられなかった.結論:全評価者間の一致度を指標とした本病名システムの信頼性は高くはなかったが,模範病名との一致度の高い評価者間では一致度が高かった.日常的に遭遇する補綴関連病名については模範病名との一致度が高かった.以上から(公社)日本補綴歯科学会の新しい病名システムは臨床上十分な信頼性と妥当性を有することが示唆された.
著者
加藤 隆史 原木 真吾 辻阪 亮子 東山 亮 矢谷 博文
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.145-152, 2016 (Released:2016-05-26)
参考文献数
56

睡眠時ブラキシズムは歯科医療の中でも特に関心が高い睡眠関連疾患の一つである.睡眠時ブラキシズムの研究が進むにつれ,歯科医学的な常識だけでSBの診断や臨床の正当性を説明することができない様々な実態が明らかとなってきた.したがって,睡眠時ブラキシズムの診断や治療の新しい展開を切り開くためには,歯科臨床問題中心型の診断や治療だけでなく,病態生理学的な側面を勘案した医学的な診断・治療論理が求められると考えられる.本稿では,睡眠医学領域の視点を踏まえた診断の重要性を提案し概説する.
著者
吉村 万由子
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.271-274, 2017 (Released:2017-07-23)
参考文献数
2

症例の概要:患者は60歳女性.歯科治療に対する恐怖および歯の挺出による審美不良と義歯不適合による咀嚼困難を訴えて来院した.挺出歯の抜歯および上下顎全部床義歯を製作することとした.患者の強い訴えに応じて無口蓋全部床義歯を製作し,良好な経過とともにQOLの向上も得られた.考察:義歯補綴は,咬合,咀嚼,嚥下などの機能回復に留まらず,審美性や快適性などの主観的な満足獲得も重要であり,本症例は患者の要求を重視して治療を行ったことが,高い満足度に繋がったと考えられる.結論:義歯の装着感に不満を持ち,通常形態の義歯を受け入れられない患者に対し,顎堤の異常吸収,疼痛や咀嚼障害が起こらないよう配慮したうえで,患者の要望を考慮した義歯形態としたことで良好な結果を得た.
著者
中居 伸行
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.196-201, 2018 (Released:2018-08-02)
参考文献数
20

『インプラント周囲の角化歯肉』と『歯周インプラント補綴』についてcritical discussionを試みた.前者では科学的根拠に基づく慎重な治療介入が,後者では慎重な補綴設計が肝要であると思われた.『スカンジナビア型』では「必要性に基づくこと」を介入原則としているが,『米国型』では,術者の主体的意志がさらにそこに添加されているように感じられた,両者の取り組み方の違いは,臨床介入の際の判断基準Shouldしたほうがいいこと,Canしてもいいこと,Not have toしなくてもいいこと,Shouldn’tしないほうがいいことに関する視座の違いから生じているのだろう.
著者
石上 友彦
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.20-25, 2019 (Released:2019-01-26)
参考文献数
8

種々異なる義歯装着後の口腔内ですが,大切なのは義歯の安定と残存歯の保全と咬合のバランスが義歯装着当初を維持し続けるように口腔内の管理を行う事です.義歯の支持力,咀嚼に対する把持力そして義歯全体としての維持力のバランス,さらに,患者さんの義歯に対する要求度の違い,患者さんと歯科医師の人間関係等,種々の関係が相乗的に義歯の術後経過に影響を与えます.つまり,これら種々の関係に統合した補綴歯科治療が患者さんの生涯の伴侶として望まれます.そして,どのような治療を行うにしても種々のバランスを考えた口腔内管理が必要不可欠です.
著者
須貝 昭弘
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.111-115, 2019 (Released:2019-05-02)

「来院する患者さんの口腔内を責任を持って一生面倒みよう」と開業して30年が経過した.今となってはその「一生」は自分の一生であって患者の一生ではないことがわかる.永く来院していた高齢の患者の中には気がつくといつの間にか来院が途絶えてしまい,最期までかかわれていないことも多い.超高齢社会になり口腔機能を維持することが健康寿命の延伸につながることが注目され,通院できなくなっても歯科治療を必要としている高齢者は数多くいて,かかりつけ歯科医として最期までかかわることが求められるようになってきている.かかりつけ歯科医として超高齢社会で何が求められているのかを考えてみたい.
著者
髙田 朝 金髙 弘恭 布目 祥子 加藤 裕光 菊池 雅彦
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.242-250, 2017 (Released:2017-07-23)
参考文献数
45

目的:液槽光重合方式の3Dプリンターを利用した新しいロストワックス鋳造法の臨床的有用性を評価することを目的とし,鋳造体の寸法変化率および表面粗さを測定し,従来法との比較検討を行った.方法:原型サンプルは3Dプリンターを利用して2種の3Dプリンター用レジンで製作した.また,インレーワックスとパターン用レジンでも同形状の原型サンプルを製作した.鋳型の製作条件は,埋没材と加熱条件を組み合わせて6条件とした.鋳造体の寸法変化率は,円柱の直径を鋳造前後に測定して評価した.鋳造体の表面粗さは,鋳造体表面を表面粗さ計およびSEMを使用して定性的,定量的に評価した.結果:鋳造体の寸法変化率および表面粗さともに,3Dプリンターを利用した新しいロストワックス鋳造法による製作物は従来法のものと比較し,条件により大きな値をとることもあったものの,一定の条件下においては,同等の優れた値を示すことが確認された.結論:液槽光重合方式の3Dプリンターを利用した新しいロストワックス鋳造法は,適切な条件選択により,寸法変化率と表面粗さともに従来法とほぼ同等とすることが可能であり,臨床上有用であることが示唆された.
著者
小峰 太 松村 英雄
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.4, no.4, pp.343-352, 2012-10-10 (Released:2012-11-14)
参考文献数
65
被引用文献数
2

ここ10年ほどの間にレジン系装着材料で修復物,固定性補綴装置を接着する症例が増加している.この傾向は,ジルコニアセラミック修復システムの導入と,歯質,セラミックス,合金の接着に有効な種々の機能性モノマー,重合開始剤の開発によるところが大きい.本稿では,最近普及しつつあるセラミックスおよび金属製修復物と補綴装置の接着システムについて概観し,合着と接着の使い分けについても解説する.
著者
矢谷 博文
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.4, no.3, pp.229-245, 2012 (Released:2012-09-21)
参考文献数
180
被引用文献数
1

本総説は,顎関節症(TMD)の治療法,特に補綴歯科領域のおける保存療法が,歴史とともにどのように変遷を重ねてきたかについて病因論の変遷とともに歴史を追って詳述した.膨大な臨床研究が積み重ねられた結果,現在では,1)TMDは臨床症状の類似したいくつかの病態からなる包括的名称であること,2)生物精神社会的モデルを発症機序の基本とした多因子の病態であること,3)その生物精神社会的モデルの枠の中で各病態の治療や長期的な管理がなされる必要があること,4)各病態とも症状の自然消退の期待できる(self-limiting)疾患であるゆえ,まず可逆的な保存治療を優先させること,が共通の理解となった.今後は,TMDの各種保存療法の治療効果を病態別に明らかにするために,治療の結果を測る方法の標準化が強く求められる.