著者
竹下 典男
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.12, pp.809-820, 2013-12-01 (Released:2014-12-01)
参考文献数
59
被引用文献数
1

糸状菌は,菌糸の先端を伸長させることで生長する.その生長様式は,極性生長の解析に適したモデルであり,糸状菌の病原性や高い酵素分泌能にも関連している.菌糸生長には,菌糸先端での持続的な極性の維持が必要である.その極性を制御するため,菌糸先端の形質膜における位置情報を介して,微小管とアクチン細胞骨格が協調的に機能することが明らかとなってきた.本稿は,糸状菌の細胞骨格と形質膜ドメインの役割を概説するとともに,極性の維持・確立・焦点化・再構築という各々の現象に着目し,極性生長の総合的な理解を目指すものである.
著者
沖村 光祐 中山 友哉 吉村 崇
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.59, no.8, pp.369-376, 2021-08-01 (Released:2022-08-01)
参考文献数
29

冬季うつ病は日照時間の短い冬に,気分の落ち込みや社会性の低下などの抑うつ症状が現れる季節性の精神疾患である.欧米の高緯度地域では罹患率が人口の約10%とされ,社会問題になっているが,発症機序は不明である.うつ病は統合失調症や双極性障害に比べて遺伝率が低く,環境因子とともに多数の遺伝子が関与しているため,従来の順遺伝学や逆遺伝学を用いたアプローチには限界があった.近年,精神疾患のモデル動物としてゼブラフィッシュやメダカなどの小型魚類が注目を集めているが,メダカにケミカルゲノミクスのアプローチを適用することで,冬季のうつ様行動を制御する分子機構が明らかになってきたので紹介する.
著者
牟田口 祐太 大森 勇門 大島 敏久
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.18-26, 2014-12-20 (Released:2015-12-20)
参考文献数
21
被引用文献数
6 3

近年,多くの生物細胞にさまざまなD-アミノ酸が遊離や結合状態で存在し,L-アミノ酸とは異なる生理機能を持つことがわかってきている.加えて,多くの食品素材にもD-アミノ酸が見出されており,その食品機能の解明と食品産業への応用展開が注目されている.本稿では食品中D-アミノ酸の分析方法,代表的発酵食品である食酢中のD-アミノ酸分析によって明らかとなった乳酸菌のD-アミノ酸生産への関与,および乳酸菌から見出されたD-アミノ酸代謝関連酵素の酵素学的特徴について紹介する.
著者
大西 正男 藤野 安彦
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
日本農芸化学会誌 (ISSN:00021407)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.205-212, 1975 (Released:2008-11-21)
参考文献数
27
被引用文献数
11 7

A. oryzaeからセラミドを単離し,その構成分の組成を調べた.主要構成脂肪酸はリグノセリン酸, 2-オキシリグノセリン酸,および2, 3-ジオキシリグノセリン酸で,とくに後2者が多かった.構成長鎖塩基としては,フィトスフィンゴシンが大部分を占めていた.
著者
中川 智行 三井 亮司 谷 明生 河合 啓一
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.11, pp.744-750, 2015-10-20 (Released:2016-10-20)
参考文献数
36
被引用文献数
1

「産業のビタミン」とも呼ばれる希土類元素(レアアース)は,さまざまなエレクトロニクス製品などの性能向上に必要不可欠な金属であることから,私たちの生活とかかわりが深い重要金属元素に数えられる.しかし,これまでレアアースが自然界において生態系や生物の生命活動にどのように関与するか,その生物学的意義はほとんど研究されていない.このようななか,近年,メタノールを唯一の炭素源として生育できるMethylobacterium属細菌がレアアースを要求する新規なメタノール代謝系をもつことが見いだされ,そのメタノール代謝の鍵酵素がレアアースを補因子とする新規なメタノール脱水素酵素(MDH)であることが明らかとなった.またレアアースを要求するMethylobacterium属細菌が自然界に普遍的に生息すること,さらにはMethylobacterium属細菌のみならず,根粒菌やメタン酸化細菌などからもレアアース依存的MDHの存在が報告されていることなど,レアアースを要求するC1代謝系は単なる一部のメチロトローフ細菌群に限った性質ではなく,広く自然界に分布する一般的かつ基盤的代謝系である可能性が示されている.本解説では,この新規なレアアース依存的なメタノール代謝系についてM. extorquens AM1株を中心に解説し,鍵酵素レアアース依存型MDHの機能と新規なメタノール代謝系の生物学的意義について説明する.
著者
石塚 敏
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.5, pp.301-306, 2014-05-01 (Released:2015-05-01)
参考文献数
10
被引用文献数
2 1

古くは大腸がん発症,最近ではメタボリックシンドロームとの関係で注目される胆汁酸には多様な分子種が存在し,その生理作用は分子種により大きく異なる.胆汁酸は肝臓で合成され,脂質の吸収に関与する両親媒性のステロイドである.胆汁を介して消化管腔内へ分泌された胆汁酸は,腸内細菌により脱抱合や二次胆汁酸への変換を受ける.胆汁酸は腸内細菌による代謝を受けるだけでなく,胆汁酸の存在が腸内細菌の存在にも影響を及ぼすという相互関係がある.一方で,胆汁酸分子は宿主でのさまざまな代謝調節に関与することが明らかになった.本稿では,胆汁酸の構造と代謝,腸内細菌への作用と食事条件による影響,メタボリックシンドロームなどの病態生理を解析するうえで考慮すべき点などについて概説する.
著者
益田 時光
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.232-239, 2022-05-01 (Released:2023-05-01)
参考文献数
25

細菌感染に苦しめられてきた人類の救世主として抗生物質が発見され,その黄金時代が幕を開けたその瞬間から,細菌たちはその効果を打ち消す術をすでに見つけていた.病原菌たちが耐性遺伝子の獲得,突然変異によって抗生物質を克服し,人類はまた新たな抗生物質を発見,開発して対抗する,というイタチごっこを続けてきたが,新たな抗生物質の発見,開発が追いついておらず,人類は今,劣勢に立たされている.この薬剤耐性菌問題はよく知られていることであるが,遺伝子変異による耐性菌とは似て非なる“もう一つの耐性菌”,“Persister”についてはあまり知られていない.本解説では,このPersisterについて薬剤耐性菌と比較しながら紹介したい.
著者
黒木 勝久 橋口 拓勇 榊原 陽一
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.9, pp.511-519, 2020-09-01 (Released:2021-09-01)
参考文献数
49

生体内に存在する遊離の硫酸イオン(SO42−)は生体外異物や内在性ホルモン,タンパク質などさまざまな生理活性物質の機能制御に役立っている.硫酸基を生理活性物質に付加する役割をもつ硫酸転移酵素は大腸菌などの細菌から,真菌類,植物,魚類,哺乳動物など生物界に広く存在している.特に,植物モデルであるシロイヌナズナや魚モデルであるゼブラフィッシュ,哺乳動物モデルであるマウスおよびヒトでの研究が精力的に行われてきている.本稿では硫酸転移酵素の種特異的な機能や普遍的な機能に関して概説するとともに,植物,魚類,哺乳類における硫酸転移酵素の最近の知見を紹介する.また,最近発見されたα,β-不飽和カルボニルを標的とする第3の硫酸化反応に関しても紹介する.
著者
善本 裕之 吉田 聡 金井 圭子 小林 統
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.9, pp.605-612, 2018-08-20 (Released:2019-08-20)
参考文献数
42
被引用文献数
1

ビール酵母には,エールやヴァイツェンなどの製造に用いる上面発酵酵母とラガー製造に用いる下面発酵酵母の2種類が存在する.下面発酵酵母は,上面発酵酵母と比較して,低温での増殖・発酵性に優れ,高いエステル生成能,発酵終了後の凝集などの特性をもち, 2種類の酵母(Saccharomyces cerevisiaeとSaccharomyces eubayanus)に由来するサブゲノムをもつ異質倍数体,Saccharomyces pastorianusに属する.一つの細胞に2つのサブゲノムがどのように構成され,遺伝子発現を調節し,代謝物を制御して,表現型を現し,醸造特性を発揮しているか,下面発酵酵母の特性を把握するための解析技術を開発・活用しながら,その特性の理解を試みるとともに,得られた知見を解説する.