著者
野島 博 田中 誠司
出版者
大阪大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1995

窒素枯渇条件により減数分裂を誘導する転写カスケードに載っている制御因子遺伝子を重差分化法を適用することで多数クローニングし、meu(meiosis-dependetupregulatedgene)と命名した。それらは以下の3種類に分類されることが分かった。【encircled1】TypeI: Ohr(mitosis logphaseに相当する)ではホモ株もヘテロ株でも全く発現されていないもので真に減数分裂特異的発現がなされるもの。【encircled2】TypeII: Ohrでも少しではあるが発現がみられるもの。減数分裂以外でも何らかの役割を果たしている可能性がある。【encircled3】TypeIII: ノーザンブロットにおいて二本以上のバンドが見られ、そのうち一つのみがmeu遺伝子としての挙動を示すもの。類似の二種類のmRNAが別々に存在する場合、あるいは選択的スプライシングにより生成されるもののうち一つのみが減数分裂に特異的である場合などが考えられる。我々はこれら遺伝子群をque(quasi meu)と呼ぶことにした。クローン化したmeu遺伝子のうち興味深いものとしてDNA複製開始因子のひとつであるRF-C3(replication factor C subunit3)に類似したクローン(meul)がある。meulはRF-C3の持つ特徴的なモチーフを全て持つ新規の遺伝子である。我々はmeulがmitosisのS期とmeiosisのS期を峻別する機能を持つ、減数分裂前DNA合成を特徴づける複製因子ではないかと期待している。今後はこれらmeuゲノム遺伝子をさらに多くクローン化し、全塩基配列を決定するとともに遺伝子破壊を行って、四分子解析によって必須遺伝子であるかどうか、減数分裂前DNA合成期に影響するかどうか調べる。また実際にDNA複製に絡んでいるかどうか生化学的諸実験も行う積もりである。
著者
河原 一男
出版者
大阪大学
巻号頁・発行日
1962

博士論文
著者
木村 健治
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

日本における西洋古典の受容の中で、ギリシア・ローマ演劇の上演を史的に辿るのが本研究の目的であった。その結果判明したことは以下の事柄である。1.上演には優れた翻訳が必要であり、翻訳には--特にギリシア・ローマの古典の翻訳には--学識が必要であるということ。2.西洋古典の受容は、16世紀のキリスト教伝来とともに始まるが、間に鎖国があり、本格的には1868年の明治時代以降であるということ。3.本格的な上演には、京大、東大に西洋古典学科が設立され、日本西洋古典学会が設立されるというような制度的な準備も必要であったということ。4.この結果、本格的な上演がなされたのは、1960年以降ということになるということ。日本における上演の特徴は、上演がバランスよくなされてきたとはとても言えない状況で、そこには日本的な受容の仕方があった。1.日本における古典学の研究がドイツのそれの影響を強く受けて発展してきているので、ドイツの学風を色濃くもっているということ2.ギリシア偏愛、ローマ軽視ということ。古典学研究のこのような傾向を反映して、日本におけるギリシア:ローマ演劇の上演は圧倒的にギリシア演劇が多いということ。3.従って、上演回数の多い順から記すと、ギリシア悲劇、ギリシア喜劇、ローマ悲劇、ローマ喜劇という順になる。ローマ喜劇は今回の調査の限りにおいて、日本では一度も上演されたことがないジャンルであると結論することができる。以上の研究の成果を報告書にまとめ、さらに、世界に発信すべく、英語版も付して、刊行した。
著者
竹谷 純一 宇野 真由美 山口 茂弘
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

有機半導体の単結晶フィルムを基板に「貼り合わせる」独自の方法を見出し、これまでにない高性能の有機トランジスタを実現した。また、本デバイスのホール効果測定の手法を開発して、界面でのキャリアの伝導の機構がバンド伝導的であることを明らかにした。さらに、液相から単結晶を広い面積にわたって基板に展開する溶液プロセスを開発し、本研究の桁違いに高い性能の有機単結晶トランジスタを実用化する方策を示した。
著者
馬場 明道 橋本 均 松田 敏夫
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

本研究は、我々が作製したPACAP欠損(KO)マウスを含め3種類の遺伝子改変マウスを用いて、PACAPによる中枢・末梢神経機能調節等の発現機構、その生理・病態的意義を解明することを目的として実施し、以下の成果を得た。1.精神行動機能調節(1)PACAP-KOは、新規環境下の自発行動量の増加、異常ジャンプ行動、好奇心増大(または不安減少)を呈した。これらの精神行動異常は、抗精神病薬あるいはSSRIにより改善された。(2)PACAP-KOに音刺激驚愕反応prepulse inhibitionの低下(障害)が認められた。以上の結果は、PACAPが精神行動の調節に関与すること、本マウスの表現型が統合失調症あるいはADHDの病態と一部類似性があることを初めて示すものである。2.海馬機能PACAP-KOとPACAP1型受容体欠損マウスの海馬シナプス伝達長期増強(LTP)の障害、行動薬理試験におけるPACAP-KOの海馬依存性記憶・学習障害を見い出し、これら高次脳機能におけるPACAPリガンド-受容体シグナルの寄与を明らかとした。3.神経因性・炎症性疼痛神経因性・炎症性疼痛の発現がPACAP-KOでは消失していた。PACAPが痛覚過敏およびアロディニア(異疼痛)の発現制御に必須な役割を果たすことが示された。4.日内リズムPACAP-KOにおいて、光照射による日内行動リズムの位相変化および視交叉上核のc-fos誘導が減弱していた。光同調機構の維持にPACAPが重要な役割を果たすことがin vivoで示された。5.糖尿病態モデル(1)ストレプトゾトシン投与時の膵臓特異的PACAPトランスジェニック(Tg)マウスの膵臓では、β細胞新生が促進することが見い出された。(2)遺伝性肥満・糖尿病KKAyマウスとTgマウスとの交配による病態モデルにより、PACAPによる膵臓ラ氏島過形成の調節作用が見い出された。膵臓のβ細胞新生およびラ氏島形成をPACAPが調節することを示す本成績は、GLP-1属であるPACAPの臨床応用の可能性を支持する重要な知見として位置付けられる。
著者
吉朝 朗
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

地球の下部マントルは、主にペロブスカイト型(Mg,Fe,Al)(Si,Al)O_3固溶体と岩塩型(Mg,Fe)O固溶体により構成されていると考えられている。地磁気測定から下部マントルは高い電気伝導性(10^0〜10^1S/m)をもつことが知られている。局所構造における振動特性の理解は複雑に絡み合った物性を理解するうえで重要である。EXAFS法は局所構造の振動特性の情報を与えてくれる。振動の非調和性は、イオン伝導のような物性と直接関係してる。本研究において、下部マントル構成鉱物の結晶の電気伝導度と導電機構を精密に調査した。下部マントル鉱物等の単結晶や均一組成試料を26GPa2000Kなどの極端条件下で合成を行った。複素インピーダンス法を用いて、高精度で導電率を測定した。マントル遷移層の主要構成鉱物のメージョライトガーネットやペロブスカイト型固溶体、岩塩型固溶体等について、回折法やEXAFS法による精密構造解析、各種分光法や分析法によるキャラクタリゼーションを高精度で行なった。EXAFS法による局所構造解析から高温高圧下での伝導イオンをポテンシャル障壁上に見い出す確率を見積もった。確率は、超イオン伝導状態の鉱物では融点近くの高温域で数パーセントに及ぶ。アナログ物質を含めたペロブスカイト型化合物は、融点近くの高温域でイオン伝導体であり、イオン移動の活性化エネルギーは約2.0eV(intrinsic:内因的)であることが明瞭になった。本研究により下部マントルでの高い電気伝導度はペロブスカイト型鉱物の内因的導電機構では説明できないことが明らかになった。下部マントルでの導電機構の可能性として、ペロブスカイト型固溶体の共晶反応を伴った外因的イオン伝導機構、あるいは、岩塩型固溶体のlarge-polaronによる導電が想定できる。
著者
上田 新也
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

今年度は、前年度以前にベトナム中部のフエ周辺域で収集した感じ・チュノム史料の整理、サマリーの作成をおこない、以下の事実が判明した。ベトナム・フエ周辺域においても、ベトナム北部と同様に「亭(ディン)」と呼ばれる施設が存在しており、現在も土地台帳・人丁簿・納税関連文書などの史料群が保管されていることから、村落行政の中心的施設であったことを窺わせる。これは、村落運営の面で亭が中心的役割を果たしていたベトナム北部と同様である。しかし、集落内に存在する「勅封」と呼ばれる史料群を考察すると、フエ周辺域の集落に存在する亭で祀られる神位は単に「タインホアン」を祀っているといわれるのみで、ベトナム北部のように「~~之神」のような固有名称を持ち合わせていない。このように、フエ周辺域の集落においても亭が行政的な中心だったのは間違いないが、進攻面では非常に貧弱である。一方で各氏族の始祖は同時に開耕神とされ、亭に祀られているケースも多く、ベトナム北部に比べると血縁集団の勢力ははるかに強い印象を受ける。フエ周辺域の集落に存在する亭は、村人の信仰に基づいて自発的に建設されたものというよりは、19世紀の阮朝期以降に行政側の主導により整備されていった可能性が高い。また、今年度は如上のようなベトナム中部地域社会の研究を進めると同時に、これまでまったく目録が作成されてこなかった漢喃研究院所蔵の碑文史料の整理作業をおこない、『Tong tap thac ban Han Nom』に収録されている各碑文を地域ごとに分類して目録を作成し、出版した。
著者
野村 大成 山本 修
出版者
大阪大学
雑誌
核融合特別研究
巻号頁・発行日
1987

トリチウムの遺伝的影響の個体レベルの研究, 特に, 哺乳動物を用いた突然変異の定量的研究は, 従来の方法では不可能に近い. しかし, in vivo体細胞突然変異検出法PTーHTF_1法を用いることにより, 少数のマウスで突然変異の検出が可能であることがわかった. 本研究では, トリチウム水によるマウス個体での遺伝子突然変異誘発の量効果を求め, ヒトへの遺伝リスクの推定を試みた.1.突然変異の検出: 大阪大学医学部無菌動物室にてPTマウスとHTマウスを交配し, 新幹線にて広島大学原医研へ移送し, トリチウム水処置(妊娠10.5日目)とF1マウスの飼育を行った. 生後4週齢で屠殺し,F1マウス(a/a,b/+,c^<ch>/+,p/+,d/+,ln/+,pa/+,pe/+)で毛色変異を指標にし, 体細胞突然変異を検出した.2.トリチウム水による遺伝子突然変異の量効果: トリチウム水4.4MBq/g2.2MBq/g,0,7MBq/gを腹腟内注射した場合の毛色変異頻度は, 22/85(0.26), 12/92(0.13), 7/90(0.08)であり, トリチウム水の投与量に比例し, その頻度は直線的に上昇していることがわかった.3.トリチウム水投与によるマウス胎児のトリチウム吸収量の時間的変化:トリチウム水2.2MBq/gを同一マウスの腹腟内に妊娠10.5日目に注射し, 経時的に胎児臓器中のトリチウム比活性を測定した. 胎児臓器内トリチウム比活性は, 時間とともに指数亟数的に減少し, 突然変異を検出可能な4日間(10.5ー14.5日)の吸収線量は約30radであることがわかった.4.RBE値の推定: 現在までに得られている成果よりRBE値を求めた. 対照放射線として, X線110rad緩照射(0.5rad/min)での結果を用いた. あくまでも30radまで直線関係が成立すると仮定した場合の値であるが,RBE値は, 2.5となった.
著者
松本 佳彦
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

漸近的対称空間にはさまざまな種類があるが、本研究においてもっとも基本的な対象となるのは漸近的複素双曲空間(ACH空間)である。初めの課題としたのは、ACH空間であってアインシュタイン方程式を満たすようなもの、すなわちACHアインシュタイン空間に存在すると考えられる、一種の複素構造(正確には概複素構造)についての考察であった。候補となるような数種類の概複素構造に関する直接的な検討を行い、また研究協力者との議論を行っている。それと並行して、作業仮説を検証するためのテストケースとして用いることを意図して「ACHアインシュタイン空間であって、特に大きな対称性を持つものを構成する」というアプローチに取り組み、これには明確な進捗があった。構成にあたり生じる困難を具体的に把握するために、漸近的双曲アインシュタイン空間(AHアインシュタイン空間)も合わせて考えることにして、複数の手法を検討したところ、AHアインシュタイン空間についてはある手法が特に有効であることがわかり、結果としてPedersenによる構成(1986年)の高次元化が得られた。ACHアインシュタイン空間には現時点ではより原始的な手法しか通用せず、その効力も限定的なのであるが、引き続き研究を進めている。この他、ACHアインシュタイン空間に関する研究の世界的な状況について、韓国多変数関数論シンポジウム報告集にサーベイ論文を寄稿した。また、国内およびアメリカ(2017年8月より滞在)の複数の大学のセミナーや、メキシコで開かれた「The Third Pacific Rim Mathematical Association Congress」、東京で開かれた「Geometric Analysis in Geometry and Topology 2017」において、関連する内容の講演を行った。