著者
中村 博昭
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

写像類群の重みフィルター付けから生じる次数加群やそれを包含する導分作用素のなす加群に生じる対称群の表現を既約分解する計算について考察を進め,とくに種数0の場合のJohnson準同形の安定像について進展をみた.有理数体上定義されるX字・Y字状の平面樹木型グロタンディークデッサンについて計算代数的アプローチを進め,Pakovich-Zapponi の手法で付随する種数1のグロタンディークデッサンを算出し,注目に値する実例の系列を明らかにした.
著者
下平 英寿
出版者
大阪大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2014-04-01

大規模なネットワークデータが近年容易に入手できるようになり,ネットワークに潜む構造を理解することが応用上も重要になっている.ネットワークは多くの場合スパース性をもち,ノードとリンクからなるグラフと考えると各ノードが他のノードに接続するリンク数(次数)はノード数に比べてとても小さい.このような複雑ネットワークの研究が注目されているが,ネットワークデータを統計解析するツールの研究は不十分で,今後さらに重要になると考える.そこで本研究では,ネットワークデータの統計解析を通して創造的に多様なスパースモデリングを探求する.とくに,ネットワーク成長モデルの優先的選択関数やスパース正則化の正則化関数の関数形に着目したモデリングを探求する.(1)既知のネットワークの生成メカニズムに興味がある場合,成長ネットワークモデルをネットワークデータに適用して,生成モデルを推定する.ノード接続の優先的選択関数のノンパラメトリック推定法を考案して分析ツールのソフトウエアPAFitとしてCRANに公開していたが,さらにノード適応度も同時にベイズ推定する手法を提案してソフトウエアを公開した.youtubeやfacebook等のソーシャルネットワークの実データに適応してその有効性を検証した.(2)未知のネットワーク構造をグラフィカルモデルによって推定する場合,正則化項を加えたスパース推定を行う.この正則化項のモデリングを工夫して,ランダムグラフとスケールフリーネットワークの両者を含む一般的な正則化項を提案し検証を行った.
著者
浦田 あゆち
出版者
大阪大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2012-08-31

う蝕(むし歯)の原因細菌である Streptococcus mutans は,血液中に侵入し病原性を呈することがあることで知られている.本研究では,マウス腸炎モデルを用いて S. mutans による炎症性腸疾患の悪化のメカニズムを検討した.その結果, S. mutansを取り込んだ肝臓実質細胞は,IFN-γを産生しαAGPおよびアミロイドA1といったタンパクにより炎症反応を増幅させることで免疫機構の不均衡が生じ,腸炎の悪化につながる可能性が示唆された.またマウス腸炎の悪化が抗IFN-γ 中和抗体により緩和されることが示された.
著者
日野林 俊彦 南 徹弘 安田 純 志澤 康弘 赤井 誠生 新居 佳子 南 徹弘 安田 純 志澤 康弘 赤井 誠生 新居 佳子 山田 一憲 加藤 真由子
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

2008年2月に日本全国より41,798人の女子児童・生徒の初潮に関わる資料を収集した。プロビット法による日本女性の平均初潮年齢は12歳2.3ヵ月(12.189歳)で、現在12歳2.0ヵ月前後で、第二次世界大戦後二度目の停滞傾向が持続していると考えられる。初潮年齢は、睡眠や朝食習慣のような健康習慣と連動していると見られる。平均初潮年齢の地域差は、初潮年齢が各個人の発達指標であるとともに、国内における社会・経済的格差や健康格差を反映している可能性がある。
著者
中村 征樹
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、研究不正問題が国際的にももっとも早い時期に「問題化」された米国の事例に着目し、研究不正行為が研究者コミュニティのみがかかわる問題としてではなく、科学者コミュニティの外部(社会)にとっても重要な問題として認識され、研究不正への取り組みが開始し、研究者倫理が生成・制度化してきた経緯を明らかにした。また、1990年代以降の研究倫理問題の国際化の進展についても明らかにすることで、研究者倫理の国際比較を行い、米国における「研究者倫理」の生成プロセスの特質を浮き彫りにした。
著者
佐々木 節
出版者
大阪大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

初期宇宙における量子トンネル現象には,場の真空の相転移をはじめとして,インフレーション宇宙における様々な位相的欠陥の生成などがあり,それらは宇宙の大域的構造形成に深く関わっている.本研究では,こうした宇宙特有の環境下での量子トンネル現象の一般的・系統的な解析を目指して研究を進めた.以下はその成果である.前年度までに偽の真空の背景時空がド・ジッター時空であることを考慮した真空のモード関数を求めることに成功した.そして通常の双曲空間では規格化できないモード(超曲率モード)が曲がった時空上では不可欠であることを発見したが,今年度,泡自身の壁の揺らぎも考慮に入れた定式化を行なった結果,そのモードも超曲率モードであり,その泡の内部状態への寄与が,一般には無視できないことが判明した.これらの結果とインフレーション宇宙モデルを組み合わせ,新たに開いた宇宙の「一つ泡インフレーションモデル」を提唱した.また,(1)で判明した超曲率モードの宇宙背景放射の大角度温度揺らぎへの影響を簡単な宇宙モデルについて解析し,モデルへの制限を調べた.その結果,現在の大域的構造を説明する開いた宇宙のインフレーションモデルが十分可能であることを確かめた.
著者
近藤 寿人 濱田 博司 田中 亀代次 杉野 明雄 辻本 賀英 米田 悦啓
出版者
大阪大学
雑誌
特別推進研究(COE)
巻号頁・発行日
2000

本研究は、(1)それぞれの細胞が持つ核に与えられている一組の遺伝情報(ゲノム情報)がどのようにして読み出され、個体をつくるのか?(2)その個体では、ゲノムや細胞がうけるさまざまな損傷をどのように修復して健全な生命を維持するのか?という生命の基本問題に答えようとするものである。異体的な素機構(遺伝子複製・修復・転写、分化調節、アポトーシス、核 細胞質間輸送などに関するもの)の解析から出発しつつ、階層縦断的なアプローチからなる組織的な研究を実施して、個体の形成と個体生命の維持機構の全体像を示すことを目標とした。平成16年度には、以下に述べる研究の進展がみられた。1.分泌タンパク質Nodalとその阻害タンパク質の相互作用によって細胞内のSmad-FoxH1タンパク質複合体の活性が制御されて原始内胚葉領域が移動し、それが、胚の将来の脳(前側)部分を裏打ちして体の頭尾方向が決まることを示した。多系統のノックアウトマウスと高度の胚操作技術を駆使した。(濱田)2.その過程の後、神経誘導のプロセスによって、SOX2転写調節因子遺伝子が発現を開始して、胚の中の将来の脳を規定しながら頭部側より尾部側に向かって発現領域を広げる。神経誘導の開始、また、異なった脳部域を制御する5種類のエンハンサーを見つけて、神経誘導および脳の部域化の各ステップを分析した。SOX2は単独で作用するのではなく、PAX, POUファミリーの転写複合体をつくり、それらの複合体がもつDNA結合と活性の特異性にもとづいて遺伝子群を制御することを示した。(近藤)3.転写と共役したDNA修復に関与するXAB2蛋白質複合体を中心とした研究をすすめた。色素性乾皮症A群(XPA)蛋白質に結合する蛋白質であるXAB2を含む蛋白質複合体の精製を行い、分析した。XAB2蛋白質コア複合体は6種類の構成因子からなることがわかった。複合体構成因子の幾つかはスプライシング因子として知られているものであった。XAB2をノックダウンした細胞は、TCR能が低下し、紫外線高感受性となり、mRNAスプライシングにも異常を示した。XAB2が、TCR、転写、スプライシングに関与する多機能性蛋白質複合体の繋ぎめ的因子であることが示された。(田中)4.DNA複製開始に必須な新しい蛋白複合体GINS(Sld5-Psf1-Psf2-Psf3の複合体)を分析した。この蛋白複合体は染色体複製に必須なDNA polymerase εと直接相互作用して、染色体複製開始反応を行っていることをin vivo及びin vitroで明らかにした。一方、この染色体複製開始を厳密に制御しているCdc7/Dbf4 protein kinase複合体の複製開始反応における機能解析を行い、Cdc7/Dbf4複合体がMcm2-7複合体に定量的に結合することが重要であることを明らかにした(杉野)5.アポトーシス反応の惹起にかかわるミトコンドリア膜透過性の制御をノックアウトマウスを用いて解析した。ミトコンドリア膜透過性亢進に関わることが示唆されていたシクロフィリンDノックアウトマウスを作製した。このマウスのミトコンドリアは、Caなどにより誘導される膜透過性亢進現象を起こさないことを示した。また、ミトコンドリア膜透過性に関与する可能性を見いだした新規のミトコンドリア膜チャネルの機能の詳細な解析を実施した。(辻本)6.転写調節因子の核局在化シグナル受容体であり、importin βと核蛋白質の結合を仲介するアダプダー分子であると考えられていたimportin αが、importin βと関係なく、それ自身の能力で核膜孔を通過できることを示し、輸送機構の多様性を明らかにしてきた。また、importin βの変異体を利用することにより、核膜孔の核内外通過において重要なimportin βの核膜孔複合体相互作用領域を決定することができ、核膜孔通過の方向性決定の理解に向けた研究を進めることができた。(米田)
著者
桑木野 幸司
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究は、初期近代のイタリアにおける芸術文化を、領域横断的なアプローチによって、より深く理解することを目的とした。ルネサンス文化が発展し、芸術や文芸、科学、思想の面で人類史上稀に見る成果を生み出したこの時期、テクストとイメージと空間は密接な関連をもって、創造の場面において融合していたが、これまでそうした側面には光があたってこなかった。本研究では記憶術を理論的中心に据えたうえで、百科全書主義やコモンプレイスの伝統、エンブレムやインプレーザといった文字と図像を融合させた領野を分析し、さらにそれらと建築・庭園・都市空間との関わりを考察することで、新たな知見を多数明らかにすることが出来た。
著者
丹羽 仁史 宮崎 純一 田代 文
出版者
大阪大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1999

1.研究目的未分化細胞特異的に発現する転写因子Oct-3/4は、我々のES細胞を用いた解析から、ES細胞の未分化状態を維持するためにはその一定量の発現が維持されることが必要であり、発現量の減少は栄養外胚葉への、増加は原始内胚葉への分化を誘導することが明らかになった(Niwa H.et al,Nat.Genet.,in press)。そこで、本研究では、このOct-3/4による遺伝子発現調節機構およびそれによる未分化状態維持/分化運命決定機構の解明を目的とし、次の3点の解析を行った。(1)Oct-3/4による転写活性化機構の解析(2)Oct-3/4の発現量増加による原始内胚葉分化誘導機構の解析(3)Oct-3/4の発現量減少による栄養外胚葉分化誘導機構の解析2.研究成果(1)転写因子Oct-3/4と結合する因子を単離するために、EGFP-Oct-3/4融合蛋白の発現によって未分化状態を維持されたES細胞GOWT1を樹立した。(2)(1)で得られた細胞の可溶化物を坑GFP坑体を用いて免疫沈降し、沈降物をSDS-PAGE法で解析し、未分化状態特異的に共沈してくる3つのバンド(CO1-3)を同定した。(3)(2)で同定されたバンドを単離してN端部分アミノ酸配列解析法および質量分析法で解析したところ、CO-1,3は細胞骨格成分の蛋白で、アーチファクトと考えられたが、CO-2は未知の蛋白と考えられた。(4)染色体外発現ベクターを用いた強制発現と、テトラサイクリンによる発現調節系を用いて、転写因子Cdx-2の発現がES細胞の栄養外胚葉への分化を誘導することを見い出した。(5)ゲノム遺伝子の解析から、Cdx-2の発現がES細胞においてはOct-3/4によって抑制されていること、およびCdx-2が自己のプロモーターを活性化しうることをルシフェラーゼアッセイ法により明らかにした。
著者
丹羽 仁史 宮崎 純一 田代 文
出版者
大阪大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
2000

(1)Oct-3/4による未分化状態維持機構を明らかにするために、薬剤投与によりOct-3/4の発現が消失して100%栄養外胚葉に分化するES細胞ZHBTc4を用いて、その未分化状態を維持するために必要なOct-3/4の機能ドメインの検索を行った。この結果、機能的DNA結合ドメインと一つの機能的転写活性化ドメインの組み合わせで十分であることが明らかになった(図参照)。このとき、Oct-3/4のC末転写活性化ドメインとDNA結合ドメインからなる変異型分子で未分化状態を維持されたES細胞では、Oct-3/4の下流遺伝子の一つであるlefty-1の発現が殆ど消失していた。このことは、一部の下流遺伝子の発現には特定の転写活性化ドメインが必要であること、またこれらの遺伝子の発現はES細胞の自己複製には必要がないことを示す。(2)Oct-3/4の発現増加による原始内胚葉への分化誘導機構を明らかにするために、そのために必要なOct-3/4の機能ドメインの検索を行った。この結果、未分化状態維持と同様に、DNA結合ドメインと一つの機能的転写活性化ドメインの組み合わせで十分であることが明らかになったが、興味深いことにDNA結合能は必要ではなかった。このことは、この分化誘導現象が、これらのドメインが他の蛋白と相互作用することによって引き起こされていることを示唆している。(3)Oct-3/4の発現減少による栄養外胚葉への分化誘導機構を明らかにするために、この現象への関与が考えられる転写因子Cdx-2との相互作用について解析を行った。Cdx-2の発現は未分化ES細胞では全く検出されないが、Oct-3/4の発現が減少すると速やかに検出されるようになる。そこで、この遺伝子の発現制御領域を解析したところ、この遺伝子の発現が、自身の産物で自己活性化されうること、およびこの活性化をOct-3/4が阻害しうることを見いだした。更に、ES細胞におけるCdx-2の強制発現は、部分的にではあるが栄養外胚葉への分化を誘導した。これらのことは、Oct-3/4がCdx-2の発現を抑制することにより、栄養外胚葉への分化を阻止している可能性を示唆している。
著者
丹羽 仁史
出版者
大阪大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

本研究は当初、cDNA発現ライブラリーを染色体外発現ベクターを用いて構築し、この中からES細胞の分化を誘導するクローンを機能的に選択し、その遺伝子を単離・解析することを目標としていた。このために20万個のクローンからなるライブラリーを作製し、そのスクリーニングを行ったが、この過程で極少数の分化細胞からベクターを回収する効率の悪さが問題となった。この点を克服すべく条件検討や方法の改良を試みたが、結局現在に至るまで顕著な改善は得られていない。一方、年々増加する分化関連遺伝子に関する情報の増加に基づき、作製したライブラリーからまず候補遺伝子を含むものを単離し、これらに関して個々に検討を加えた。この結果、転写因子COUP-TFとCdx2が、それらの強制発現により、ES細胞を栄養外胚葉様細胞へと分化させることを見いだした(日本発生生物学会第32回大会にて発表予定)。また、これまで用いてきた染色体外発現ベクターpHPCAGGSに改良を加え、染色体に組み込まれた形でも高発現を示す多目的発現ベクターpPyCAGIZ,pPyCAGIPを開発し、これらを用いてドミナントネガティブ型STAT3の強制発現がES細胞では分化を誘導するがEC細胞ではなんら効果を示さないこと、および、これとは逆にc-junの強制発現はEC細胞においてのみ分化を誘導することを見いだした(Niwa H.,et al,Genes&Dev.1998、および日本癌学会年会にて発表)。今後は以上の成果に基づき、ES細胞の分化機構の解析を更に進めるとともに、ライブラリースクリーニングの効率的実施のための方法の開発を行うべきと考えている。
著者
渡邉 浩崇
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-28

本研究プロジェクトは、日本宇宙政策の始まりの1950年代後半から冷戦終結の1980年代後半までの展開を、当時の政治・経済・安全保障・科学技術をめぐる日本外交との関連に注目しながら、歴史的に検証したものである。国内外での資料収集、国際的な研究会やシンポジウムの開催、資料集(原稿レベル)の作成、そして日本語と英語による雑誌論文・学会発表・図書などの研究発表を行うことができた。総じて、日本宇宙政策史における今後の研究課題を残しつつも、ほぼ予想通りの成果を収めることができた。
著者
SLEVIN K.M
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

シンプレクティックな対称性をもった2次元系のアンダーソン転移の臨界指数を、いわゆるSU(2)モデルのシミュレーションにより正確に決定した。今まで数多くのシミュレーションが行われてきた安藤モデルと比べて、このSU(2)モデルではスケーリングの補正が特に小さい。この特徴によりスケーリング補正を無視することが可能となり、従来に比べて非常に正確な臨界指数の決定が可能となった。本研究はPhysical Review Letters誌の2002年12月号に載された。MacKinnon-Kramer法による局在長の計算を改良し、並列計算機を効率的に利用できるようにした。東京大学物性研究所の並列計算機を利用することにより、3次元系SU(2)モデルの臨界指数の決定を現在進めている。磁性不純物を含んだランダム系におけるdephasingの問題を研究するプログラムを、このプロジェクトの初年度に開発した。しかしながら期待したよりもはるかし小さいdephasingの効果しか得られなかった。この理由は今後の研究課題である。
著者
正木 喜勝
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では、大正期の関西における新劇運動の実態を、「上演」および「東京との比較」という点に注目しながら調査・研究することを主眼とした。具体的には、文芸協会や築地小劇場の関西公演のほか、関西新劇の嚆矢とされる『幻影の海』の上演分析を行った。その結果、関西新劇の誕生に「宝塚」という場所が果たした大きな役割を明らかにすることができた。詳細は拙稿「宝塚と新劇(1) 宝塚のパラダイスと関西新劇の誕生」のとおりである。
著者
林 潤
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では,平均粒径および粒径分布の幅が噴霧火炎構造に与える影響の解明および様々な噴霧特性を持つ噴霧火炎に対して適用可能な解析手法を開発することを目的とした.実験では,粒径分布が制御された噴霧を層流対向流場に供給することで形成された噴霧火炎に対するレーザー誘起赤熱法計測を行った.その結果,同一平均粒径を持つ場合には,粒径分布の幅が広い条件においてすす一次粒子の生成領域が減少することが明らかとなった.また,単分散噴霧火炎構造の重ね合せによる多分散噴霧火炎構造の評価を行った結果,噴霧火炎特有の群火炎構造が表現できる可能性は示唆されたものの,小粒径の燃料液滴による燃焼を過剰に見積もる傾向が示された.
著者
上田 周太朗
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

フェニックス銀河団は2011年にSouth Pole Telescopeにより発見され、z=0.596に位置する。その後の多波長観測から、この銀河団の中心に位置する銀河の中で、800M・/yrという非常に大きな星形成率を持つことが明らかになった。これほど大きな星形成率を持つ銀河団中心銀河は存在しない。先行研究では、銀河団高温ガスがX線放射により冷え、中心銀河に降着し(cooling flowと呼称)、そのガスが星形成を引き起こしているという主張がなされている。Cooling flowは本来全ての銀河団の中心領域で起きうる現象だが、冷えている途中のガスなどはいまだ未発見で、何らかのメカニズムで抑制されていると考えられていた。もしかするとフェニックス銀河団でのみ、cooling flowが抑制されていない可能性がある。抑制源として考えられているのが、中心銀河に存在する超巨大ブラックホール(SMBH)の活動である。我々は中心銀河に存在するSNBHの観測を通して、フェニックス銀河団の特異性を明らかに知るため、新たにX線観測を行った。高い分光性能とワイドバンド観測が可能なX線天文衛星「すざく」を用いて、我々はフェニックス銀河団の観測を行った。その結果、先行研究では未発見の中性鉄K輝線を初めて検出した。中心銀河の中に存在するSMBHの周囲に中性物質が大量に存在していることを示唆する。またX線スペクトルに強い吸収成分が存在し、埋もれたSMBHであることが判った。中性物質の柱密度と中性鉄K輝線の強度には相関が、SMBHのX線光度と輝線強度には反相関の関係があることが、銀河団に付随しない銀河のX線観測から示唆されている。このフェニックス銀河団の埋もれたSMBHの場合、柱密度と輝線強度には他の銀河と同様の相関を示すが、X線光度と輝線強度の関係は、他の銀河よりも大きい値を持つことが判った。この結果は、銀河団中心銀河と他の銀河で、SMBHの周辺環境が異なっていることを示唆する。その要因の1つがcooling flowかもしれない。これらの結果をまとめ、学術論文として出版した。