著者
初宿 成彦
出版者
大阪市立自然史博物館
雑誌
大阪市立自然史博物館研究報告 = Bulletin of the Osaka Museum of Natural History (ISSN:00786675)
巻号頁・発行日
vol.72, pp.19-31, 2018-03-31

日本産トウヒ属6種の樹上には,9種のカサアブラムシにより,13種類の虫えいが形成される.トウヒ属の1樹種に対し,複数のカサアブラムシが虫えいを形成する場合でも,カサアブラムシの同一種が複数のトウヒ属樹種に虫えいを形成する場合でも,相互に虫えいに形態差が生じる.植物の種同定は従来から用いられてきた枝・葉・球果よりも,カサアブラムシ虫えい形態を用いたほうがより容易で,化石で産出した場合にトウヒ属の種同定が期待できる.第2世代成虫が羽化・脱出した後の乾燥した状態の虫えいについて,形態の記載を行い,分布地,宿主種,検索表を示した.
著者
鳴橋 直弘 久米 修
出版者
大阪市立自然史博物館
雑誌
大阪市立自然史博物館研究報告 = Bulletin of the Osaka Museum of Natural History
巻号頁・発行日
vol.73, pp.13-18, 2019-03-31

バラ科キイチゴ属ゴショモミジイチゴが香川県仲多度郡まんのう町で発見された.山口県,高知県に次ぐ第3番目の産地である.前2産地には両親種のモミジイチゴとゴショイチゴが生育しているが,今回の香川県にはゴショイチゴは分布していない.また,山口県の集団や高知県の集団は開花はするものの,不稔で果実は見られないが,香川県産には果実が見られた.そこで,両親種と小核について比較した.山口県の産地は2倍体であるが,香川県の産地は果実があることから,3倍体の可能性が示唆された.
著者
山本 好和 高萩 敏和 坂東 誠 河合 正人
出版者
大阪市立自然史博物館
雑誌
大阪市立自然史博物館研究報告 = Bulletin of the Osaka Museum of Natural History
巻号頁・発行日
vol.73, pp.107-114, 2019-03-31

近畿地方の地衣類相を明らかにする一環として,北摂山系の南山麓に位置する箕面市箕面公園を調査し,ホシゴケ綱およびチャシブゴケ綱,ホソピンゴケ綱,ユーロチウム菌綱に属する18科38属54種を確認した.ツブレプラゴケとザクロゴケの2種が近畿地方で初めて確認された.
著者
末次 健司 福永 裕一
出版者
大阪市立自然史博物館
雑誌
大阪市立自然史博物館研究報告 = Bulletin of the Osaka Museum of Natural History
巻号頁・発行日
vol.73, pp.19-21, 2019-03-31

大阪市立自然史博物館標本庫(OSA),首都大学東京牧野標本館(MAK)と鹿児島大学総合研究博物館植物標本室(KAG)における標本調査の結果,鹿児島県の奄美大島,中之島および黒島で採取されていたムヨウラン属の未同定標本のなかに,ムロトムヨウランを見出すことができた.これらは,黒島,中之島および奄美大島におけるムロトムヨウランの初記録となる.本種は,閉鎖花のみをつけるクロムヨウランの開花型の変種であるトサノクロムヨウランやヤクムヨウランに似るが,1)花茎がより長い,2)花序がより長い,3)萼片および花弁の幅がより狭い,4)唇弁の先端部がごくわずかに3裂する,5)蕊柱の長さの3/5–2/3程度が唇弁と癒合する,6)結実時の果実の色が茶褐色である,7)蒴果が斜上に着く,等の特徴から区別が可能である.
著者
林 昭次 佐藤 たまき 中島 保寿 サンダー マーティン フサイヤ アレクサンドラ ウィンリッチ タンニャ
出版者
大阪市立自然史博物館
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

首長竜類は中生代の海生爬虫類の中で最も多様化した仲間である。これまでは、他の海生脊椎動物のように首長竜類の骨組織が海綿化することで、高速遊泳に適応していたと考えられていた。しかし、系統進化に伴って首長竜類の骨組織を観察した本研究で、その進化はより複雑なものであることが明らかになった。また、四肢骨内部に見られる成長停止線を観察すると、生後一年で成体の70%ほどの大きさになり、成体まで4~6年で急成長することが明らかになった。このような急激な成長は内温動物でしか観察されないため、首長竜類も内温動物であった可能性が高く、内温性への進化は外洋域への適応と関連していた可能性が本研究によって指摘できた。
出版者
大阪市立自然史博物館
巻号頁・発行日
2018-06-01

巻頭言「館収蔵スペースに関する課題」松本吏樹郎. . . . . . . . . . . . . . . . . . 1調査研究事業 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2資料収集保管事業 .. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17展覧事業 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 24普及教育事業 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 33広報事業 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 42刊行物・情報システム . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 45連携(ネットワーク) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 47庶務 .. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 49
著者
石田 惣 藪田 慎司 中田 兼介 中条 武司 佐久間 大輔 西 浩孝
出版者
大阪市立自然史博物館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

自然史博物館が動画資料を体系的に収集・公開するしくみがあれば、公共財としての研究・教育資源になる。本研究では動画を収蔵資料とするための課題を抽出し、その解決策を探り、収蔵モデルを構築した。主な課題は寄贈者が受け入れやすい利用許諾条件と、資料の安全な保管である。そこで、寄贈される資料に他の博物館も同一条件で利用できるサブライセンスを設定し、他館と複製を共有するしくみを考えた。これにより、多くの寄贈者が認容する教育目的の利用機会が増えるとともに、資料の分散保管が実現できる。この枠組みに基づき、メタデータセットやウェブ公開時のチェック項目等を設定して、動画資料データベースを作成した。
著者
和田 岳
出版者
大阪市立自然史博物館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

2度のホネホネサミットを開催し、日本各地の博物館等で骨格標本などを作製しているグループ・個人が集結する機会を持った。その機会にホネの全国ネットワーク「ホネット」を立ち上げ、メーリングリスト・研修の機会を通じて交流した。また、博物館や学校教育などの場で使えるホネの普及教育活動展開用キットを作成し、その活用について「ホネット」の場で意見交換を行った。
著者
横川 昌史
出版者
大阪市立自然史博物館
雑誌
Bulletin of the Osaka Museum of Natural History (ISSN:00786675)
巻号頁・発行日
vol.69, pp.1-18, 2015-03-31

大分県の国東半島南東部の塩性湿地および砂浜・砂丘の植物群落の現状を把握し,約20年前の植生調査データと比較することを目的として,5つの調査地で,総計50ヵ所の植生調査(調査区サイズ:1 m × 1 m)を行った.得られたデータをNoise clusteringで類型し,主に優占種の違いに基づく14のクラスターが認識され,大きく塩性湿地タイプと砂浜・砂丘タイプに分けられた.塩性湿地においては,すべての調査地で,特有のクラスターが認識された.一方,砂浜・砂丘においては,特定の調査地ですべてのクラスターが認識され,残りの調査地では一部のクラスターしか認識されなかった.過去の植生資料と比較した結果,各調査地レベルでは,一部の植物群落は消失し,一部の植物群落が新たに出現していた.これらの海岸植生の20年間の変化についての現状と過去との比較の情報は,地域の植物相の保全に役立つと考えられる.
著者
岡本 素治
出版者
大阪市立自然史博物館
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

ブナ科の殻斗の形態学的起源について, 2つの説が対立している. 即ち, それぞれの花の下の小花柄の盛り上りに起源するという説と, 二出集散花序の一つ高次の枝に起源するという説である. 前者は, 現生のすべての属の完成した形態の比較研究に基づき主張されている. 一方, これまでの形態発生の研究者はすべて後者の説を支持している. たしかに, 観察された種では, 殻斗片の分裂組織の位置や形態は, 高次の花の原基と区別が困難である. しかし, この立場から, ブナ科の殻斗のすべての形態を説明するのは困難である. 例えば, 二出集散花序のそれぞれの花が, それぞれの殻斗に包まれるマテバシイ属で, 二次の花の殻斗は三次の枝から導かれるとしても, 中心(一次)の花を包む殻斗はいかにして生じえたのだろうか.2つの説のどちらが支持されるべきかを判定するために, マテバシイ属とクリ属の殻斗の発生過程を比較した. その結果, マテバシイ属の中心の花の周辺(特に向軸部)に, 殻斗の発生に先行して, 特徴的な細胞分裂が起ることが明らかになった. そこでは, 接線方向に細長い表皮細胞が規則正しく密に配列し, 放射方向に急速にその数が増大する. これは, この部分で, 著しい介存生長が起っていることを示している. (このような現象はこれまで観察されていなかったし, 今回のクリでも見られなかった. )一方, マテバシイの二次の花の側方には, 三次の枝の原基があらわれ, その部分の殻斗形成に中心的役割をはたす. つまり, これまでの2説はいずれも不完全で, どちらの要素も殻斗形成に関与しているということが明らかになった.以上の成果をふまえ, ブナ科における殻斗の進化過程をより詳細に描きあげることが今後の課題となる.