- 著者
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原田 智子
- 出版者
- 富民協会
- 雑誌
- 農林業問題研究 (ISSN:03888525)
- 巻号頁・発行日
- vol.50, no.3, pp.223-228, 2014
- 被引用文献数
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スリランカでは2009年5月に25年以上続いた内戦が終結した。紛争中に戦闘地域となった北部州では復興開発および帰還民の再定住支援が進められているが,貧困世帯が多く,世帯間格差が発生している(WFP,2011)。紛争に関わる諸問題は,当事国だけでなく国際的な重要課題の一つであり,紛争要因や平和構築に関わる研究の蓄積は多い。しかしこれまでの議論は,主として紛争要因やマクロ経済への紛争の影響に焦点が当てられ,紛争後社会における世帯の生計に関する研究は少ない。コロンビアでの内戦後の世帯生計に焦点をあてた研究では,紛争により被害をうけた世帯が喪失した資産を外部からの支援無しに再生することは困難であることが明らかにされている(Ibañez,A.M.,et,al.,2009)。しかし,紛争後社会における世帯の生計再建過程や世帯生計の特徴は十分に把握されておらず,生計再建の制約や紛争影響地における効果的な生計再建支援策は十分に明らかにされていない。こうした中,紛争後社会における世帯生計の特性を明らかにすることは,効果的な生計再建支援策を検討する際の準備となる不可欠な課題の一つである。そこで本研究では第一段階として,紛争後のスリランカ北部農村におけるタミル人世帯に焦点を当て,世帯生計の類型化を試み,各類型の特徴を明らかにする。マナー県は,スリランカの北部州に位置し,県内の一部が紛争中長期間にわたりタミル人反政府組織「タミル・イーラム解放の虎(Liberation Tiger of Tamil Eelam)」(以下「LTTE」とする)に支配されていた。紛争中,旧LTTE支配地域では政府軍とLTTEにより激しい戦闘が繰り広げられ,多数の住民が死亡し,基礎的インフラストラクチャー,公共施設,住宅などが壊滅的に破壊された。本研究では,紛争中に甚大な被害を受けた旧LTTE支配地域の2郡(マンタイウエスト郡とマドゥ郡)からそれぞれ3つの村を選定し,悉皆調査(調査世帯総数212世帯)を実施した。事例対象村の選定にあたっては,1)タミル人のみが居住している村,2)大多数の住民の主たる生業が農業である村,の2点を選定基準とした。生計の再建状況は村の地理的および社会経済的な条件により異なると考えられる。そこで,村間の生計再建状況の差異も含めて現状を明らかにするため,村の地理的・社会経済的な状況が偏らないように村を選定した。村間の顕著な差異としては,村の形成時期,県庁および郡事務所からの距離,灌漑施設の違い,村からの避難時期および再定住時期があげられる。世帯属性に関して,村間で顕著な違いはみられない。本研究は,Sustainable Livelihoods Approach (以下,SL Approachとする。)の分析枠組みを援用し,「生計は,1)資産(自然資本,物的資本,人的資本,金融資本,社会関係資本),2)活動,3)制度や社会関係の媒介による資産と活動へのアクセス,から構成される」とする(EIlis,2000)。