著者
髙津戸 望 青山 真人 杉田 昭栄
出版者
日本家畜管理学会
雑誌
日本家畜管理学会誌・応用動物行動学会誌 (ISSN:18802133)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.85-97, 2016-06-25 (Released:2016-12-27)
参考文献数
28

ヒヨドリによる果樹食害の対策法を検討するために、各種光波長の発光ダイオード(LED)を果実に照射し、ヒヨドリの採食行動がどのような影響を受けるかを試験した。実験には、野生から捕獲したヒヨドリを供試した。赤(630nm)、黄(590nm)、緑(525nm)、青(470nm)の4種のLEDと、対照として一般的な蛍光灯を用い、各個体を単独飼育下で実験した。ヒヨドリ5羽に8段階の成熟度の異なるイチゴを同時に提示する選択実験を行なった結果、蛍光灯を照射した対照区でヒヨドリは成熟度が最も高い果実を優先的に選択したが、各色LEDの照射時には、成熟度の高いイチゴを選択する行動に有意差があった。特に青色LED照射時は、ヒヨドリがイチゴを選択するまでの時間が有意に長くなり、イチゴを1つも選択せずに終了した試行が3個体で4試行観察された。一方、ヒヨドリ4羽に7段階の成熟度の異なるブドウを同時に提示する選択実験を行なった結果、いずれのLED照射時においてもヒヨドリは成熟度の高い果実を選択し、その選択行動に相違はなく、青色LED照射時も含め、果実を選択するまでの時間にLEDによる差はなかった。これらの結果より、イチゴでは青色LEDを照射することで、ヒヨドリの採食行動を抑制することが期待できたが、ブドウのようにこの効果が期待できない果実もあることが分かった。LEDの照射によるヒヨドリの果実採食行動への影響は、本来の果実の色により異なることが示唆された。
出版者
日本家畜管理学会
雑誌
日本家畜管理学会誌・応用動物行動学会誌
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.15-62, 2017

<p>飼育下のオオアリクイの常同行動と個体維持行動に及ぼす影響</p><p>○中山侑・小針大助・豊田淳・中根建宜・武田梓・前外間利奈</p><p>(東京農工大学連合農・茨城大学農・日本平動物園・東山動物園・沖縄こどもの国)</p><p>マレーバクにおける気候条件の変化と水場の利用率に関する調査</p><p>○石田郁貴・小針大助(茨城大学・千葉市動物公園)</p><p>キリンとグレビーシマウマ同居展示・個体搬出入における行動変化</p><p>○岡部光太・河村あゆみ・斉藤友萌・田淵頌子・植竹勝治・田中智夫(京都市動物園・麻布大獣医)</p><p>野生ウマ群におけるビジランス行動:群・個体レベルでの同調性の検証</p><p>○リングホーファー萌奈美・Renata Mendonça・井上漱太・平田聡・山本真也</p><p>(神戸大大学院国際文化・京大霊長研・京大野生動物)</p><p>自動給餌機を用いたつなぎ飼い飼養における残飼量の実態(第3報)</p><p>○冨田宗樹・豊田成章・長谷川三喜(農研機構革新工学センター)</p><p>2台を1牛群で利用した際の乳牛の自動搾乳機利用性</p><p>○森田茂・小宮道士・高橋圭二・干場信司(酪農学園大学・農食環境学群)</p><p>休息台の高さとスロープの斜度がヤギの休息利用に及ぼす影響</p><p>○安江健・ 斎藤悠太・若井誠幸(茨城大農)</p><p>飼料用籾米の配合方法がブロイラーの摂食行動に与える影響</p><p>○有賀小百合・新美輝・小川妙・権藤浩司・三宅正志・志風聡・佐藤衆介</p><p>(帝科大・東農大院・日本農産工業(株)・日本KFC(株)</p><p>ポスター予告(奇数番号:1~27)</p><p>総会</p><p>モンゴル草原における羊・山羊群の放牧行動および群構造と機能の解明(予報)</p><p>○苗川博史・Batarchingjin Myakhdadag</p><p>(東京農業大学・Secretariat of The State Great Hural of Mongolia)</p><p>カウトレーナー付き繋留飼育乳牛における排泄行動並びに身繕い行動の実態</p><p>清信吏穂・鈴木沙希・芝田芽以・矢用健一・〇佐藤衆介(帝科大・農研機構畜産)</p><p>飼育形態が異なる小規模酪農家における行動と血液・乳中ホルモンの関係からみたウェルフェア状態の実態把握</p><p>○戸澤あきつ・小倉振一郎・前田由香・加藤佑樹・中井裕(東北大院農・味の素ゼネラルフーヅ株式会社)</p><p>放牧と舎飼飼育における多指標を用いたウェルフェアの比較</p><p>○中嶋紀覚・土井和也・田宮早恵・八代田真人(岐阜大院連農・岐阜大応生)</p><p>イヌにおけるヒト・イヌ・ネコに対する視覚注視の比較</p><p>○小倉匡俊・中村早奈惠・永田早紀・槇みづき(北里大獣医)</p><p>シカ副産物を用いたイヌ口腔内衛生効果の検討</p><p>○若山遥・中島彩香・福澤めぐみ(日大生物資源)</p><p>繁殖期におけるサイチョウの採餌・給餌行動と巣箱内での行動変化</p><p>○豊田英人・竹沢加奈・西田直子・田中智夫・高木嘉彦(埼玉県こども動物自然公園・麻布大獣医)</p><p>飼育下フンボルトペンギンのプール利用率と季節変化</p><p>○加瀬ちひろ・高橋淳志・豊田英人(千科大危機管理・埼玉県こども動物自然公園)</p><p>日米比較による動物園での環境エンリッチメントの広がりについて</p><p>○落合知美(武庫川女子大学バイオ研)</p><p>ポスター予告(偶数番号:2~28)</p><p>帯広畜産大学学生サークルにおける上級生と1年生の搾乳の特徴のラクトコーダーを利用した比較</p><p>○齊藤朋子・宮川繭子・古村圭子(帯畜大)</p><p>長野県における乳牛の暑熱、寒冷ストレスに対する酪農家の意識調査</p><p>〇松崎稔史・竹田謙一(信州大農・信州大学術研究院農)</p><p>乳用子牛の健康状態を知る新しいカウシグナルの検討</p><p>塚本夢乃・齊藤朋子・○古村圭子(帯畜大)</p><p>家畜に好まれるマッサージの部位と手段</p><p>○山田弘司・川畑孝二(酪農学園大学循環農学類)</p><p>肉用哺乳子牛における電動式カウブラシの利用制限による身繕い行動の欲求の変化</p><p>○木村有希・矢用健一・安江健・佐藤幹・小針大助(東京農工大学大学院連合農学研究科・農研機構)</p><p>子ウシの新規群編入時における行動と自律神経の経日変化について</p><p>○荻野紀美・戸村惣哉・大場毅・太田裕吏枝・宗田吉広・石崎宏・安西真奈美・伊藤秀一・矢用健一</p><p>(東海大農・農研機構動衛部門・農研機構畜産部門・栃木県県央家保)</p><p>肉牛子牛の個体遊戯行動と遺伝子多型あるいは季節との関係</p><p>○エルチンサレンゴウワ・中川明子・沖田美紀・豊後貴嗣(広島大院生物圏)</p><p>黒毛和種肥育牛の気質・行動特性と遺伝子多型との関係</p><p>○中川明子・エルチンサレンゴウワ・沖田美紀・豊後貴嗣(広島大院生物圏)</p><p>乳牛のアニマルウェルフェア評価結果の季節変動性</p><p>○喜多村美花・瀬尾哲也(帯畜大)</p><p>ヨナグニウマにおけるタテガミ中コルチゾール濃度と個体の気質および飼育管理との関係</p><p>○若宮あかね・林英明・松浦晶央(北里大獣・酪農大獣医)</p><p>ネコ被毛中コルチゾール含有量の変動要因</p><p>○藤井利衣・紙未千花・林英明(酪農大獣医)</p><p>生体信号用ゴム電極を用いたイヌ心拍数測定の試み</p><p>○福澤めぐみ・二嶋諒・岡本隆廣・宮島慶一・甲斐藏(日大生物資源・NOK株式会社)</p><p>超音波周波数域を含む純音刺激に対するニホンジカの行動</p><p>○堂山宗一郎・江口祐輔・上田弘則(西日本農研)</p><p>心拍数を指標としたハシボソガラスにおける忌避反応の定量化:聴覚刺激を例として</p><p>○白井正樹・那須崇史・臼木大翔・山本麻希(電中研生物環境・長岡技大院生物・長岡技大生物)</p><p>冬季昼夜放牧下におけるサラブレッド種育成馬の採食時間、移動距離および移動速度</p><p>○田辺智樹・河合正人・冨成雅尚・三谷朋弘・上田宏一郎(北大院環境科学・北大FSC・JRA日高・北大院農)</p><p>ビーコンタグを用いた放牧牛モニタリング手法</p><p>〇喜田環樹・中尾誠司・手島茂樹(農研機構 畜産研究部門)</p><p>ニワトリにおける推論能力に関する研究</p><p>○野崎由美・末永裕子・堀秀帆・岡本智伸・伊藤秀一(東海大院・東海大農)</p><p>ニワトリは類似した図形を弁別することができるか</p><p>○末永裕子・野﨑由美・堀秀帆・岡本智伸・伊藤秀一(東海大院・東海大農)</p><p>ヤギにおける行動の左右差</p><p>松田 安佑子・〇青山 真人・栗原 望・杉田 昭栄(宇都宮大農)</p><p>環境エンリッチメントがHatanoラットの学習・性行動に与える影響</p><p>○大川蓮華・中山愛里・太田亮・川口真以子(明治大学農・食品薬品安全セ)</p><p>アジアゾウにおける採食エンリッチメント:樹葉の給与が行動の時間配分及び常同行動の発現に及ぼす効果</p><p>○鹿島由加里・土屋祐真・塩田幸弘・八代田真人(岐阜大学・京都市動物園)</p><p>アジアゾウにおける採食エンリッチメント:樹葉の給与が栄養状態に及ぼす影響</p><p>○土屋祐真・鹿島由加里・塩田幸弘・八代田真人(岐阜大学・京都市動物園)</p><p>飼育下のハンドウイルカの行動に及ぼす放水の効果</p><p>○陳香純・影山美紀・遠竹美穂子・中島定彦(関西学院大学大学院・関西学院大学・京都水族館)</p><p>飼育下ピグミースローロリスのオスにおける社会関係の構築過程-スローロリス保全センターの取組-</p><p>○山梨裕美・根本慧・大島悠輝・廣澤麻里・綿貫宏史朗(京大野生研・(公財)日本モンキーセンター・京大霊長研)</p><p>生息環境展示方式がシロテテナガザルの行動に及ぼす影響と来園者の印象について</p><p>〇木村嘉孝・髙司佳秀・爲近学・八代梓・伊藤秀一(宇部市ときわ動物園・東海大学農学部)</p><p>屋外イエネコと市街地陸域生物相との関連に関する研究(第1報 初夏期)</p><p>○吉田尚央・植竹勝治・七里浩志・田邉孝二・田中智夫(麻布大院獣医・横浜市環境科学研究所)</p><p>小学校におけるウサギの飼育実態調査―運動場の有無がウサギの行動に及ぼす影響―</p><p>○芦塚玄・加瀬ちひろ(千科大危機管理)</p><p>動物保護センターの環境アセスメント:夏~冬</p><p>○竹間実奈未・植竹勝治・内田裕美・和泉晶子・小野内章・岩屋修・田中智夫(麻布大院獣医・神奈川県動物保護センター)</p><p>動物福祉研究会の設立とその目指すもの(佐藤衆介:帝京科学大学)</p><p>馬のウェルフェア評価マニュアルの作成と今後の活用について(二宮茂:岐阜大学)</p><p>総合討論(30分)</p><p>コーディネーター:安江健(茨城大学)</p>
著者
福澤 めぐみ 植竹 勝治 田中 智夫
出版者
日本家畜管理学会
雑誌
日本家畜管理学会誌・応用動物行動学会誌 (ISSN:18802133)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.61-68, 2010
参考文献数
8

訓練は、トレーナーから提示されたコマンドに対するイヌの反応と正しい行動で構成されている。本研究では、訓練におけるトレーナーのハンドシグナルやボディランゲージ、ならびにトレーナーとイヌとの距離がイヌの反応に与える影響について調査した。供試犬は、17から96ヵ月齢の計7頭(メス5頭、オス2頭)で、2つのコマンド("sit", "come")が女性トレーナーによって訓練された。トレーナーはイヌと向かい合った状態を維持して、イヌに対する自身の立ち位置を70cm(trial 1)から420cm(trial 6)へと段階的に変化させながら、コマンドの訓練を行なった。また、ハンドシグナル等の影響も調査するために、3つのトレーニングシリーズに分けその提示条件を変化(Training AとC,ハンドシグナルやボディランゲージあり:Training B,ハンドシグナルやボディランゲージなし)させた。各トレーニングシリーズはtrial 1から6で構成されていた。各コマンドのトレーニングセッション中におけるイヌの正しい反応率を記録し、85%の正しい反応が記録された時点でそのコマンドを学習したと判断した。1セッションでは、2つのコマンドをランダムに20回ずつ、計40回コマンドを提示した。コマンド"sit"において、各トレーニングシリーズにおける学習成立までのセッション数に有意な差(ANOVA:F[2,125]=11.02, P<0.001)が認められた。またTraining Aにおいて、Trial 1(トレーナーとイヌの距離は70cm)から2(トレーナーとイヌの距離は140cm)の移行時にエラー数が有意に増加した(W=27, P=0.02)。コマンドを提示するトレーナーとイヌの距離やハンドシグナル等の提示条件がイヌのコマンド学習に与える影響は、コマンドの特徴によって差が認められる。最初のトライアルは"sit"よりも"come"コマンドにおいて重要であることが示唆された。このことは、イヌがそのコマンドに反応した後のトレーナーとイヌの距離の違いに影響を受けているのではないかと考えられる。
著者
植竹 勝治 大塚 野奈 長田 佐知子 金田 京子 宮本 さとみ 堀井 隆行 福澤 めぐみ 江口 祐輔 太田 光明 田中 智夫
出版者
日本家畜管理学会
雑誌
日本家畜管理学会誌・応用動物行動学会誌 (ISSN:18802133)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.192-198, 2007
参考文献数
20

動物介在活動(AAA)に飼い主と共に参加する飼い犬(Canis familiaris)のストレス反応を、尿中カテコールアミン濃度を測定することにより調べた。イヌの覚醒状態に影響すると考えられる次の2要因について検討した: 特別養護老人ホームでのAAAへの参加日数(現地調査1)および対面式での活動時における老人の座席配置(車座と並列)(現地調査2)。現地調査1では、新規参加犬8頭の活動前から活動後にかけた尿中ノルアドレナリン濃度の上昇量が、参加日数が経過するにつれて直線的に低下した(尿中ノルアドレナリン濃度の上昇量に対する参加日数(毎月1回の参加で計9日間)の回帰係数-1.213,R^2=050,P<0.05)。その一方で、活動中の各セッションにおいて、姿勢や行動を相対的に長く抑制された場合には、アドレナリン(長い抑制15.03±9.72ng/mL vs.短い抑制4.53±2.94ng/mL)とノルアドレナリン(長い抑制12.26±8.80ng/mL vs.短い抑制3.62±3.62ng/mL)の濃度上昇は、相対的に短い抑制の場合に比べていずれも有意に大きかった(共にP<0.05)。現地調査2では、尿中カテコールアミン濃度の上昇は、老人の座席配置、すなわち車座(12頭,アドレナリン10.73±9.77ng/mL;ノルアドレナリン7.13±8.01ng/mL)と並列(11頭,アドレナリン13.37±10.63ng/mL;ノルアドレナリン5.70±5.19ng/mL)間で差がみられなかった。これらの結果から、月1回の参加でも、飼い主と一緒であれば、特別養護老人ホームという新規な環境とAAAの雰囲気に、イヌは容易に順応することができ、また見知らぬ老人に囲まれたとしても、特に緊張を感じていないことが示唆された。
著者
長嶺 樹 砂川 勝徳
出版者
日本家畜管理学会
雑誌
日本家畜管理学会誌・応用動物行動学会誌
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.137-150, 2017

<p>沖縄で雄ヤギの肉が流通しているのは、去勢ヤギの肉質が非去勢ヤギより劣るからであると推測されるが、雄ヤギの去勢が肉質に及ぼす影響は不明である。また、近年、雄ヤギに特有の臭気が原因でヤギ肉を食べたことがない人が増加しており、臭気の低減が不可欠であるが、雄ヤギの去勢が臭気に及ぼす影響は不明である。本研究では、雄ヤギの去勢が肉質と臭気に及ぼす影響を解明するために2つの実験を行った。実験1では、ヤギ(日本ザーネン×ヌビアンの交雑種、3ヵ月齢、試験開始時平均体重20.7kg)を6頭ずつ2群(非去勢群および去勢群:以下、NCGおよびCG)に配置した。CGのヤギは2.5ヵ月齢時に去勢された。9ヵ月間、ヤギには配合飼料とアルファルファヘイキューブを1日2回(10:00および16:00)給与し、クレイングラス乾草と飲水を不断給与した。体重と体尺を毎月測定した。1歳齢時にヤギを屠殺し、枝肉成績とロース肉の理化学的特性を調べた。実験2では、ヤギ(実験1と同品種、2歳齢、試験開始時平均体重85.1kg)を4頭ずつ2群(NCGおよびCG)に配置した。8ヵ月間、ヤギには10:00にアルファルファヘイキューブ、16:00に配合飼料とクレイングラス乾草を給与した。飲水を不断給与した。採食量を毎日測定し、肉の臭気度を計測した。CGのヤギの腹腔内脂肪重量はNCGのそれより重かった(p<0.05)。CGの肉中のタウリンなどの機能性成分の含量はNCGのそれらより少なかった(p<0.05)。CGの肉の臭気度はNCGのそれより低かった(p<0.05)。本研究の結果、雄ヤギの去勢は肉質を低下させ、臭気を低減できることが示された。</p>
著者
増村 健冶 松浦 晶央 高橋 誠 秦 寛 中辻 浩喜 近藤 誠司
出版者
日本家畜管理学会
雑誌
日本家畜管理学会誌 (ISSN:13421131)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.127-134, 2004 (Released:2017-10-03)
参考文献数
9

質問紙法の一つである日本版POMS(Profile of Mood States)を用いて乗馬運動前後間で騎乗者の気分の変化を測定した。被験者は大学生22名であり、供試馬は8頭の乗用馬であった。試験は4回実施し、乗馬実習時で練習内容に違いがある3試験のほか作業実習時にも試験を行った。常歩運動を主とした軽度な乗馬運動を行った場合、被験者の緊張-不安、抑うつ-落ち込み、怒り-敵意、混乱、疲労の5尺度に減少が見られた(P<0.05)。このことから、軽度な乗馬運動には、騎乗者の気分に対する良好な効果と疲労感を軽減させる効果がある可能性が示された。また、トレッキングを行った場合、活気と疲労の尺度に増加が見られた(P<0.05)。乗馬運動を実施する際に環境も含めたプログラムを工夫することで、乗馬運動が騎乗者の気分に与える効果に違いが生じる可能性が示された。
著者
新村 毅 植竹 勝治 田中 智夫
出版者
日本家畜管理学会
雑誌
日本家畜管理学会誌・応用動物行動学会誌 (ISSN:18802133)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.109-123, 2009
参考文献数
128

近年、動物福祉は思想から法律への具現化を急激に始めており、世界各国で法律・ガイドラインの制定がなされている。本総説では、産卵鶏の各種飼育システムにおける福祉性および生産性について概説し、福祉については、世界的に福祉の基本概念として認められている5つの自由の観点から長短所を明瞭化した。恐怖・苦悩からの自由については、多くのシステムが変動的であるものの、飢え・乾きからの自由については、いずれの飼育システムもリスクが低いと言える。各システムの特徴については、非ケージシステム、特に放牧では、痛み・傷・病気からの自由についての評価が低く、生産性については、産卵率の低下、卵殻・卵黄の退色が見られることに加えて管理に費やす時間は増加するため、結果として経済コストは高くなる。しかしながら、その一方で、正常行動発現の自由については評価が高い。従来型ケージは、非ケージシステムと逆の特徴を有しており、生産性を含む多くの指標において高い評価が見られ、粉塵・アンモニア量が少ないため、不快感からの自由については、リスクが低い唯一のシステムと言える。ファーニッシュドケージは、従来型ケージの利点を多く残しつつも、正常行動発現の自由については従来型ケージよりも評価が高い。しかしながら、小型ファーニッシュドケージと比較して、大型ファーニッシュドケージでは、羽毛つつきなどの増加により、痛み・傷・病気からの自由および恐怖・苦悩の自由については低い評価となる。このように、完全なシステムは存在せず、いずれの飼育システムにも長短所が存在することから、それらを理解しつつ、様々な動向を考慮し、飼育システムを採用する必要があるだろう。
著者
安井 早紀 伊谷 原一
出版者
日本家畜管理学会
雑誌
日本家畜管理学会誌・応用動物行動学会誌 (ISSN:18802133)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.128-135, 2013

タイの東北部、スリン県のタクラン村は、古くからゾウを使役に使う少数民族クイ族の住む村であり、ゾウの村として知られている。タイでは、1989年に森林伐採が禁止されると、材木運搬等に従事していた多くのゾウは仕事を失い、代わりに観光客相手の仕事をするようになった。なかでも交通量の多い都会で観光客に向けて餌を売り歩くゾウとゾウ使いが増え、動物福祉の観点から問題視されるようになっていった。2005年、スリン県行政機構により村にスリン・ゾウ研究センターが設立され、経済的援助によりスリンでの生活を保障することで、スリン出身のゾウ使いと彼らのゾウを、故郷へ呼び戻すためのプロジェクトが始まった。そして現在、約200頭のゾウがセンターに登録されている。このセンターでのゾウとマフーの生活や、現地で行われているボランティア・プロジェクトについて紹介する。
著者
豊田 英人 江口 祐輔 古谷 益朗 植竹 勝治 田中 智夫
出版者
日本家畜管理学会
雑誌
日本家畜管理学会誌・応用動物行動学会誌 (ISSN:18802133)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.57-65, 2012

本研究では、ハクビシン被害の対策を実施する上での基礎的知見として、捕獲ハクビシンを用いて、体型と繁殖状態について調査を実施し、それらに性差や季節性、地域差があるか否かについて検証した。調査は、埼玉県で捕獲された168頭(雄:74頭、雌:94頭)の成獣ハクビシンを対象として、体の各部位の計測値と、繁殖季節、受胎数、経産率を求めた。体サイズの測定では、冬期に捕獲した個体の体重、胸囲、腰囲が他の季節に捕獲した個体に比べ増加することが示された。繁殖季節は少なくとも1-9月と推定されたが、10-12月に関しては捕獲個体数自体が少なく、ハクビシンがこの時期に繁殖可能か否かは不明であった。受胎数は2.9±0.9で、経産率は57.4%であった。また、体型や受胎数、経産率に都市部と農村部で地域差は認められなかった。本研究の結果から、移入種といわれているハクビシンが、日本の気候に順応しており、高い繁殖能力を有し、都市部のような人の生活に密接した地域でも繁殖できる状態で生息していることが示唆された。このようなハクビシンの特性が、現在、我が国で増加しているハクビシン被害の一因となっている可能性が考えられた。
著者
安江 健 金原 徹 中村 豊 松澤 安夫
出版者
日本家畜管理学会
雑誌
日本家畜管理学会誌・応用動物行動学会誌 (ISSN:18802133)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.101-108, 2014

無償で入手可能な米ぬかの飼料としての通年利用を検討するために,竹林内腐植と水を添加して調製した発酵米ぬかの,貯蔵中の化学的品質とヤギの嗜好性を経時的に検討した.貯蔵100日目までの発酵米ぬかを9つの時期で採取し,サイレージでの化学的品質評価法であるフリーク法とV-スコア法からその品質を評価した.加えて米ぬかや発酵飼料の摂食経験のない4頭のザーネン成雌ヤギを用い,貯蔵期間中の8つの時期での発酵米ぬかの嗜好性を,生米ぬかとのカフェテリア試験により評価した.発酵米ぬかのV-スコアは貯蔵0日目の100点から99日目の94.4点まで微減したが,フリーク法による総合得点は0日目以外常に100点を維持し,試験期間中は最高の品質を維持した.発酵米ぬかの嗜好性はその品質よりも摂食経験に影響され,生米ぬかに比べて摂食潜時は試験5日目まで長く(P<0.05),摂食量は試験6日目まで少なかった(P<0.05)ものの,その後は生米ぬかとの間に有意差はなくなった.以上から,竹林内腐植と水を添加した発酵米ぬかは長期間良好な品質を維持でき,ヤギでは長くとも1週間程度の給与でその嗜好性は生米ぬかと同程度になるものと考えられた.
著者
安部 直重 高崎 宏寿 久保田 義正
出版者
日本家畜管理学会
雑誌
日本家畜管理学会誌 (ISSN:13421131)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.143-150, 2001-02-07
被引用文献数
5

哺乳期における馴致処理がその後のウシの扱い易さに及ぼす影響を明らかにする目的で試験一調査を行った。約1ヵ月齢のホルスタイン種×黒毛和種雄牛10頭を、5頭ずつ馴致群および対照群とし7ヵ月齢まで供試した。馴致群には1日2回、朝夕5分間ずつ32日間合計320分ブラッシングおよび声かけを実施した。対照群の5頭は馴致処理以外は馴致群とほぼ同様に管理した。管理者に対する逃避反応性を、ヒトがウシの体に触れた時の忌避反応評点および試験用通路内で試験者が静かにウシに近づきウシが逃避を開始した地点と試験者との距離である逃避反応距離により測定した。馴致群の忌避反応評点は9.2点に対し対照群では5.6点で馴致群が有意に(P<0.01)高く、逃避反応距離においても馴致群の0.61mに対し対照群では1.46mと馴致群が有意に(P<0.05)短い結果であった。出生直後でなくとも哺乳期における長期の馴致処理はウシのヒトに対する逃避反応性を弱める効果がある事が明らかとなった。同時に馴致群では処理開始直後から管理者に対する模擬闘争行動が発生し始め、処理終了時には全個体で頭突きを伴う強い模擬闘争が発生するに及んだ。しかも模擬闘争行動は、逃避反応性の低い個体で多発する傾向が見られた。馴致処理はヒトに対する逃避反応性を弱め、扱い易さの改善効果をもたらす一方、ヒトに対する模擬闘争行動を誘発し管理上問題になる可能性も示唆された。日本家畜管理学会誌、36(4) : 143-150、2001 2000年3月6日受付2000年12月6日受理