著者
桑山 覺
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.115-120, 1971-09-25 (Released:2009-02-12)
参考文献数
8
被引用文献数
2 6

1) 本報には,わが国において桑樹主要害虫の一つとして知られたクワキジラミAnomoneura mori SCHWARZ (1896)の生態,ならびにその寄生がカイコの発育に及ぼす影響について,調査した結果の大要を報告した。2) 本種は年1回の発生で,成虫態で越年し,北海道では5月下旬頃,新葉の開く直前の桑樹に来り,葉の開展を待って産卵する。産卵は主として葉裏になされ,発生の多いときは1葉数百粒に及ぶことがある。卵期およそ18日,ふ化した仔虫は葉裏にあって汁液を吸収し,腹端より細長い糸状の白色ろう質物をラセン状または屈曲して分泌する。このため葉裏は一面に白綿にて覆われた観を呈する。仔虫期間およそ22日,この間4回脱皮し,5令を経て成虫となる。1雌の産卵数は平均440粒。3) 成虫の色彩は羽化後間もない期間と,越年したものとの間では大いに異なる。羽化後間もないものは全体淡青緑色で,前翅もほとんど透明であるが,羽化後時間の経過と共に色彩を変へ,体は暗褐色となり,前翅には多数の黒褐色小点紋を密布する。仔虫は令を加えるごとに触角の節数を増加する。すなわち第1令から第5令に至る触角節数は3:3:4:8:10である。翅芽は第1令の未期から認められる。4) 桑葉に付着しているキジラミの卵および第1∼第3令までの仔虫をカイコに給与するときは,第3令以後のカイコは,それらを嫌忌することなく,桑葉と共に咬食嚥下する。5) カイコがキジラミ卵ならびに仔虫を摂食するときは,発育に障害があるもののようで,上簇をおくらせ,繭重を減じ,繭形を小さくする。また疾病に対する抵抗力を減じへい死率を増加する。それより羽化した成虫は生存期間を短縮する傾向がある。このことはキジラミ卵ならびに仔虫そのものによる中毒などのような直接の影響とするよりも,それらを摂食することにより栄養不良を惹起しそれに伴う間接の影響と見るべきもののようである。
著者
守谷 茂雄 前田 洋一 米久保 智得 浅川 浩一
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.220-226, 1977-12-25
被引用文献数
1

いもち病防除剤であるイソプロチオランの水溶液にイネの幼苗を浸根処理し,処理苗にトビイロウンカを放飼してウンカの生育,産卵などに及ぼす影響を調べた。<br>40ppm処理苗で連続飼育した成虫は寿命が短くなり,特に雄において影響が著しかった。生存1雌1日当りの産卵数は減少し,卵のふ化率も低下した。しかし,処理苗で短期間飼育した成虫の産下卵は正常にふ化し,ふ化幼虫を無処理苗で飼育した場合には正常に生育した。<br>ふ化直後から処理苗を与えた幼虫は徐々に死亡し,40ppm処理では羽化までにほとんどが死亡したが,死亡虫の中には脱皮途中で死亡する個体もみられた。5ppm処理苗を全幼虫期間与えたトビイロウンカは羽化後死亡する個体が多く,羽化成虫は寿命が明らかに短くなり,産卵数も少なくなる傾向を示した。<br>イソプロチオランはイネに産下されたウンカ類の卵にほとんど影響せず,処理卵からふ化した幼虫の生育,羽化,羽化成虫の産卵にも大きな影響は認められなかった。
著者
大津 正英
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.75-78, 1972-06-25 (Released:2009-02-12)
参考文献数
8
被引用文献数
2 6

越後山系の飯豊山の北側と,朝日岳の東側,すなわち山形県側の山麓地帯で,1968年12月から,1971年2月までの3猟期(12月1日から翌年2月15日まで)内に捕獲したテン51個体の,胃の内容物を調査した。その結果,胃の内容物は,鳥類が3種類,哺乳類が3種類,および植物の漿果が2種類であった。胃の内容物で,多くみられたのは,ヤマドリとトウホクノウサギであり,それぞれ,全体の25%と35%の個体にみられ,その重量は,それぞれ,47%と30%であった。植物では,カキの実が,より多く,全体の11%の個体にみられ,その重量は,全体の8%であった。なお,テンの生息密度は,農林省の狩猟統計書の捕獲数から,漸時減少の傾向がみられる。
著者
角田 隆 森 樊須 島田 公夫
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.1-4, 1992-02-25 (Released:2009-02-12)
参考文献数
11
被引用文献数
5 6

ヤケヒョウヒダニDermatophagoides pteronyssinus (TROUESSART)の耐寒性について調べた。雌成虫の過冷却点(SCP)の平均は摂食中で-22.7±1.25 (mean±S.D.)°Cだった。光学顕微鏡の冷却チャンバー内でSCP以下にダニを冷却したとき,体内に氷晶が形成されるのが観察された。氷晶形成後に再び室温に戻しても蘇生する個体はなかった。絶食によってSCPは低下したことから,消化管の内容物が氷晶核として作用していると考えられる。SCPより高い温度でも冷却期間を長くすると死亡率は高くなった。この場合の死亡要因は代謝系の異常か乾燥によると考えられる。
著者
Makoto HASEGAWA Keiko NIIJIMA Mitsuo MATSUKA
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
Applied Entomology and Zoology (ISSN:00036862)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.96-102, 1989-02-25 (Released:2008-02-07)
参考文献数
19
被引用文献数
9 14

Larvae of lacewings developed into adults on four chemically defined diets of different amino acid composition. The diets were composed of 23 amino acids, sucrose, trehalose, 5 organic acids, 6 fatty acids, cholesterol, 11 mineral salts, and 17 vitamins. The adults on the best diet produced more than 1, 000 eggs over 2 months.
著者
村井 保 石井 卓爾
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.149-154, 1982-08-25 (Released:2009-02-12)
参考文献数
11
被引用文献数
31 49 8

ヒラズハナアザミウマの飼育法を検討した結果,以下のことが明らかとなった。1) ヒラズハナアザミウマは薄膜(シーロンフィルム)を通して液体飼料を吸汁でき,この薄膜を通して液中によく産卵することがわかった。2) ヒラズハナアザミウマは,蜂蜜液だけでは発育,産卵できなかったが,チャ,ナシ,イチゴ,チューリップ,マツなどの花粉と蜂蜜液の組み合わせでは,餌を交換しなくても幼虫が発育し,85∼90%の高率で羽化成虫を得ることができた。さらに,この方法により産卵も促進した。3) ハナアザミウマも花粉と蜂蜜液で飼育できることがわかり,訪花性アザミウマ類の簡易大量飼育の可能性が示唆された。4) 本法による発育調査の結果,ヒラズハナアザミウマ,ハナアザミウマとも,羽化までの発育は揃い,成虫の生存期間は長く,産卵数は極めて多いことがわかり,訪花性アザミウマ類にとって,本飼育法は,葉や果実を用いる飼育よりも本来の餌条件に適合していることがわかった。
著者
伊藤 清光
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.23-32, 2004-02-25
被引用文献数
8 19

北海道で最近作付けされている「ほしのゆめ」の割れ籾発生率は、これまでに割れ籾発生率が高いとされている「イシカリ」に次いで、場所・年次にかかわらず安定して高く、相対的に「きらら397」「ゆきのひかり」は低かった。また、「ほしのゆめ」と「きらら397」では、両品種とも穂首抽出3-4週間後(糊熟期以降)から割れ籾が発生し始め、発生率は5-7週間後に安定した。次いで、アカヒゲホソミドリカスミカメの袋かけ放飼試験の結果から、開穎のない正常籾では、斑点米の発生が開花-乳熟期あるいは乳熟期をピークとしてその後は減少すること、玄米上の斑紋の位置は大部分が頂部にあることが示された。一方、割れ籾では、登熟が進んでも斑点米発生の大きな低下は認められず、正常籾と比較して加害を受けやすいものと考えられた。また玄米上の斑紋の位置は大部分が側部であり、さらに開穎部から吸汁加害されることが示された。これらのことから本種は、籾の鉤合部(特に頂部の鉤合部)あるいは開穎部から吸汁加害し、籾の登熟に伴いしだいに加害が困難になってくること、割れ籾の場合には玄米が硬くなる黄熟期以降であっても加害できるものと考えられた。