著者
岡部 宏行
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.27-32, 1963-03-30

Purpose : The purposes of this study are, first, to treat unbalanced diet of children by Image-association method, and secondly, to form experimentally unbalanced diet of adults who show aversion of the milk, remove it and investigate the effect of the Image-association method and Post hypnotic suggestion. Procedure : According to this purpose the following process is taken (1) The children who have unbalanced diet were selected by means of a check list for unbalanced diet of children and treatment was given only to ten children who wanted it, by Image inducing method, Amnesia method, Direct suggestion method, Motion picture method, Age regression method, Inducing dream method and so on. (2) a. Two boy and three girl students of a college, who liked milk and were not recognized to have unbalanced diet, were selected. Everyday they were led to hypnotism half an hour and by the Image-association method and Post hypnotic-suggestion the negative attitude against milk was formed. Only after examination it was removed. b. Two boy students of a college were selected who liked milk and were not recognized to have unbalanced diet. Their dislike of milk was formed through negative suggestion and they were left as they were in order to see the process of natural removement of the suggestion. Results : (1) During this investigation period, eight children out of ten received complete treatment. By investigation six months later one out of the ten returned to the former state. Therefore the treatment percentage reduced to 70%. The difference between the experimental group and the control group was significant. (2) a. After giving the students negative suggestion for the third time it became just impossible for them to drink the milk. Even after the third time by giving removing suggestion it became possible. b. Their negative attitude against milk was seen the third or fourth time. Then it was left as it was, and S 1 was restored to the former state on the 24th day and S 2 on the 5th.
著者
三宅 幹子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.42-51, 2000-03-30
被引用文献数
1

本研究では, 特性的自己効力感(GSE)が課題固有の自己効力感(SSE)の変容に及ぼす影響を検討した。実験1では, 72名の大学生をGSE尺度得点によってGSE高群とGSE低群とに分けた。さらに各群をポジティブFB条件, ネガティブFB条件, FBなし条件(統制条件)の3つの条件に割り当てた。ポジティブFB条件とネガティブFB条件では, それぞれボジティブまたはネガティブに操作されたフィードバックが与えられた。SSEの評定には3種の測度(予測される課題遂行量に基づき絶対的に評定されるSSE-A, 予測される偏差値に基づき相対的に評定されるSSE-R, 統合的に評定されるSSE-T)を使用したが, GSE群間に差が見られたのは, SSE-Aにおいてのみであった。SSE-Aの値は, ネガティブFB条件下でGSE高群の方がGSE低群よりも有意に高かった。他の2つのFB条件下ではGSE高群とGSE低群との間に有意な差はなかった。SSE-T, SSE-Rでは, いずれのFB条件下でも, GSE群間に有意な差はなかった。実験2では, 40名の大学生をGSE高群とGSE低群とに分け, さらに各群をネガティブFB条件, FBなし条件に割り当てた。やはり, ネガティブFB条件下でのみ, GSE高群の方がGSE低群よりもSSE-Aの値が高かった。SSE-T, SSE-Rでは, いずれのFB条件下でも, GSE群間に有意な差はなかった。さらに, 課題遂行量にも, ネガティブFB条件下でGSE高群の課題遂行量がGSE低群よりも多くなるという, SSE-Aと同様の変容パターンの傾向が見られた。これらの結果から, GSEの高さがSSE-Aの変容を通じて課題遂行に影響している可能性が示唆された。
著者
篠ヶ谷 圭太
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.197-208, 2014
被引用文献数
4

本研究では, 高校英語において, 教師が学習者の予習方略使用や授業内方略使用, そして, それらの関連に与える影響について検討を行った。まず予備調査を行い高校の英文解釈の授業における教師の授業方略を測定する質問紙を作成し, 985名の高校1年生および2年生, また, その英語の授業を担当している15名の教師を対象として本調査を行った。階層線形モデルを用いた分析の結果, 授業中に教師が単語の解説や生徒の指名を多く行うほど, 学習者は辞書を調べておく, 他の人に聞くといった方法で予習を行うことが示された。また, 単語の解説や指名が多いと, 学習者の授業中のメモも増加することが示された。さらに, 本研究では, 予習時に自分なりに単語や文の意味を推測しておく方略(推測方略)の効果が教師の行う授業によって異なることも示され, 教師が単語の意味の成り立ちについて詳しく解説することで, 予習時の推測方略が授業内の学習に促進的に機能することが示された。
著者
堀野 緑 市川 伸一
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.140-147, 1997-06-30
被引用文献数
8 28

This study explored the structures of learning motives and strategies, and examined a model positing that motives affected strategy selection, which in turn influenced performance in English learning of high-school students. Six scales for learning motives were employed, which had been made through a classification of students' free responses. Correlation analysis revealed that the six scales could be divided into two groups, i.e., "content-attached" and "content-detached" motives. On the other hand, factor analysis showed that learning strategies for English words were classified into the following three : organization, imaging, and repetition. The content-attached motives correlated significantly with each of the strategies, but the content-detached motives did not. Moreover, only the organization strategy had a significant effect on performance which was represented by three scores in an achievement test. That was consistent with theories and experimental findings in cognitive psychology, and supported the effectiveness of organization strategies in verbal learning. It was concluded that content-attached motives were needed to use organization strategies, and that the framework of so-called "intrinsic motivation" should be reexamined.
著者
蓮行
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第56回総会
巻号頁・発行日
2014-10-09

1.発表者の紹介発表者は,大阪大学コミュニケーションデザイン・センター(阪大CSCD)に在籍する常勤の教員であると同時に,劇団衛星というプロの劇団の現役の演出家・劇作家である。2013年度まで阪大CSCDアート部門の部門長であった平田オリザ東京藝大特任教授の提唱する「コミュニケーションティーチング」の方法論に基づく演劇ワークショップコンテンツ(以下:演劇WS)の開発・設計・実践を2007年から継続している。2.コミュニケーションティーチングとは発表者は,2003年に開発した演劇WS「演劇で算数」を端緒として,主に小学生をメインターゲットとした算数教育,環境教育,防災教育などの演劇WSを開発してきた。また2005年からは,それらに加えて社会人向けの演劇WSの開発と実践を手がけてきた。2007年からは「コミュニケーションティーチング」の呼称を用い,テーマとして防犯教育,食育,国際理解,人権教育などに幅を拡げ,対象も小学生のみならず,中学校,高校,大学,大学院,社会人,高齢者向けまで拡大した。職業人向けの研修としては教員(幼小中高大),一般企業,医師,栄養士,建築士,弁護士,司法書士,保育士ときわめて広範囲の専門家に向けて演劇WSを実践してきた。コミュニケーションティーチングのコンテンツの内容としては,「一般の参加者(子ども,大人問わず)が」,「プロの演劇人(俳優,演出家等)と共に」,「2~5回程度のWSで」,「台本作りから上演まで共同で行う」というものである。この上演内容のテーマが,それぞれ前述した「環境」や「防災」といったものになっている。3.これまでの実践に対する,学術的なアプローチと課題10年余で延べ約450クラス約14000人の小学生を対象に実践。大人向けにも約20か所,1000人以上を対象に実施してきたが,惜しむらくは,学術的データは,限られた機会にしか取ることができなかった。原因としては「どのような質問紙で何を明らかにできるのか」という知見が不足していた事と,目的が明らかでない調査は現場の学習者や教員の負担を増やす事になり,メリットよりデメリットが大きかった事が挙げられる。そういう事情の中,調査研究を行うことができたものをいくつか例示する。2009年から2012年に取り組んだJST「犯罪からの子どもの安全」領域「演劇ワークショップをコアとした,地域防犯ネットワーク構築プロジェクト」(研究代表:平田オリザ)では,基礎研究や先行知見の土台が無いまま「演劇WSの防犯教育に於ける効果」を測るという応用・実践を試みたため,概念図の作成など様々な知見は得られたものの,基礎研究の重要性・必要性が強く認識された。2013年度マツダ研究助成《青少年健全育成関係》「青少年のエンパワーメントとパフォーミング・アーツの関係について-計量経済学からのアプローチ-」(研究代表:富田大介大阪大学特任助教)では,神谷祐介龍谷大学講師と共に,大学と公共ホールが共同事業として行う市民劇の参加者の「自己効力感(Self-efficacy)の向上」に主にフォーカスして,調査研究を行った。母数は小さいものの,「演劇が参加者の自己効力感の向上に資する」という仮説を立証できる大きな手がかりを得るに至った。以上のような現状を踏まえ,まず効果測定のターゲットを「演劇WSによる自己効力感の向上」に絞り,効果を測るためにどのような質問紙が必要なのか,神谷講師の助言の下で設計し,定量的に明らかにしていくことを試みる。発表者は,質問紙による調査を行って多くの一次データを得ることができる恵まれた立場であり,2014年度も,小学校40クラス1200人程度,中高生20クラス800人程度,社会人200人程度に対するアンケート調査を実施予定である。4.今後の検討課題演劇WSがもたらす効果について,対象とする年齢や職業なども幅広いため,細かく見て行けば様々な仮説は立つが,入り口として「自己効力感」にフォーカスすることは,それらの射程を広くカバーする普遍性があり,妥当性が高いと考えている。そして学習者に自己効力感の向上をもたらせるような教材(教え方・場づくりのスキルを含む)のデザインの知見と,その効果測定方法をまとめる事を目指す。これらの知見は,初等中等高等教育への実装,教員養成やFD,医療人教育,法曹人教育,専門家教育等への展開も期待される。そして,「自己効力感の向上」に続く,演劇WSのもたらす他の効果についても,調査研究と開発を試みるべく,様々な知見の結集を目指したい。
著者
工藤与志文 藤村宣之 田島充士 宮崎清孝
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第56回総会
巻号頁・発行日
2014-10-09

企画主旨工藤 与志文 本シンポジウムは2011年から始まった同名のシンポジウムの4回目である。また,企画者の一人として,その締めくくりとしての意味合いを持たせたいとも考えている。今回のテーマは「教育目標をどう扱うべきか」である。そもそもこれら一連のシンポジウムは,学習すべき知識の内容や質を等閑視し,コンテントフリーな研究課題しか扱わない教育心理学研究のあり方に対する批判からスタートしたものと理解している。そのような問題意識の行き着く先は「教育目標の扱い」ではないか。これまでのシンポジウムで度々指摘されてきた教育心理学の「教育方法への傾斜」は,自ら教育目標の善し悪しを検討することが少ないという教育心理学研究者の研究姿勢と関連している。教育目標がどうあるべきかという問題は教育学や教科教育学の専門家が取り扱うべきであり,教育心理学はその実現方法を考えていればよいという「分業的姿勢」の是非が問われるべきではないだろうか。本シンポジウムでは,上記の問題意識をふまえ,教育心理学研究は教育目標そのものをどのように俎上にのせうるか,その可能性について議論したい。教科教育に対する心理学的アプローチ:発問をどのように構成するか藤村 宣之 教育目標に対して教育心理学がどのようにアプローチするかに関して,より長期的・教科・単元横断的なマクロな視点と,より短期的なミクロな視点から考えてみたい。 マクロな視点によるアプローチの一つとしては,各学年・教科・単元の目標を,発達課題などとの関わりで教科・単元横断的にあるいは教科や単元を連携させて設定し,それに対応させて構成した学習内容に関する長期的な授業のプロセスと効果を心理学的に評価することが考えられるであろう。その際には,学習内容にテーマ性,日常性を持たせることが教科・単元を関連づけた目標設定を行ううえでも,子どもの多様な既有知識を生かして授業を構成するうえでも重要になると考えられる。 より短期的に実現可能なミクロな視点からの関わりの一つとしては,各単元・授業単位で,どのような発問を設定して,子どもたちに思考を展開させることを考えることで,単元の本質的な内容の理解に迫るというアプローチも考えられる。当該単元の教材研究を子どもの思考や理解の視点から行うことを通じて,どのような力をその単元・時間で子どもに獲得させるか(たとえば当該単元のどのような理解の深まりを一人一人の目標とするか)を考え,それを発問の構成に反映させていくというアプローチである。 ミクロな視点からのアプローチの一つとして,子どもの多様な既有知識を発問の構成に活用し,探究過程とクラス全体の協同過程を組織することで,一人一人の子どもの各単元の概念的理解の深まりを目標とした学習方法(協同的探究学習)のプロセスと効果について,本シンポジウムでは報告を行いたい。発問の構成の方針としては,導入問題の発問としては,当該教科における既習内容に関する知識,他教科の関連する知識,日常的知識など子どもの多様な既有知識を喚起し,個別探究過程,協同探究過程を通じてそれらの知識を関連づけ,さらに,後続する展開(発展)問題の発問としては,それらの関連づけられた知識を活用して単元の本質に迫ることが,個々の学習者の概念的理解を深めるうえでは有効ではないかと考えられる。以上に関する具体的な話題提供と討論を通じて,教科教育の教育目標を対象とする教育心理学研究のあり方について考察を深めたい。知識操作と教育目標工藤 与志文 ここしばらく「知識操作」に関する研究を続けている。知識操作とは,課題解決のために知識表象を変形する心的活動のことを指す。近年,法則的知識(ルール)の学習研究において知識操作の重要性が示されつつある。ところで,同一領域に関する知識といっても,操作しやすい知識と操作しにくい知識があるように思う。西林氏の言葉を借りれば,知識は「課題解決のための武器」であるのだから,どんな武器を与えるかによって戦い方も変わってくるだろうし,すぐれた武器があれば勝算も高まるだろう。筆者は,「操作のしやすさ」をすぐれた武器の要件の1つだと考えている。雑多な知識の中からすぐれた武器となる知識を精選し,学習者がそれらを使えるように援助することは,重要な教育目標となると考えている。このような観点で教科教育を見た場合,わざわざ鈍い武器を与えているのではないかと思われる事例が少なくない。重さの保存性の学習を例に説明してみよう。 極地方式研究会テキスト「重さ」では,「ものの出入りがなければ重さは変わらない」というルールを教えている。このルールは含意命題の形式をとっているため操作が容易であり,ここから直ちに他の3つのルールを導く事ができる。①「重さが変わらないならばものの出入りはない(逆)」②「ものの出入りがあれば重さは変わる(裏)」③「重さが変わるならばものの出入りがある(対偶)」小学生がこれらのルールを駆使することで,一般に困難とされている課題に対して正しい推論と判断が可能になることが教育実践で明らかにされている。たとえば,水と発泡入浴剤の重さを測定し,入浴剤を水に入れた後の質量変化をたずねる課題では,小学3年生が重さの減少と気体の発生を関連づける推論を行うことができた(重さが減ったということは何かが出ていった→においが出ていった→においにも重さがある)。 一方,学習指導要領をみると,小3理科の目標の1つとして「物は形が変わっても重さは変わらない」ことの学習が挙げられている。教科書では,はかりの上の粘土の置き方を変えたり形を変えたりして確かめている。しかし,このルールは命題の帰結項(重さは変わらない)に対応する前提項を欠いており,含意命題の形式をとっていない。したがって,上記のような操作は不可能である。しかもこのルールは,変形して重さが変わる状況では使えない(極地研のルールでは,「重さが変わったんだから何か出入りがあったのだろう」と予想できる)。重さの保存性理解にとって,どちらの知識が武器として有効であるかは明らかではないか。本シンポジウムでは,知識操作という観点から,学習すべき知識の内容や質を問い直すつもりである。ここから,教育目標を対象にした教育心理学研究の1つの可能性を示してみたい。「学習者を異世界へいざなう教科教育の価値とは:分かったつもりから越境的交流へ」田島 充士 「学校で学んだ知識は,社会に出ると役に立たない」との言説は,今も昔も多くの人々にとって,強い説得力を持って受け止められているものだろう。学習者が学校で学ぶ知識(以下「学問知」と呼ぶ)は,実践現場で養成され活用される具体的知識(以下「実践知」と呼ぶ)と乖離する傾向にあると多くの人々によって受け止められているのは事実であり,学習者に対し,学外における実践知学習の場を提供する,インターンシップ等の実践演習型教育プログラムの実施も盛んである。 しかし教育心理学においては,この実践知習得をターゲットとした実践演習等の価値が認められる一方で,肝心の,社会実践に対する学問知教育(教科教育)の貢献可能性については,十分にモデル化されているとはいえない状況にある。本発表では,ヴィゴツキーによる科学的概念を介した発達論を基軸として,学問知が有する実践的価値を実証的に分析する理論モデルを提供することを目指す。 科学的概念とは,教科教育を通し学習される,抽象的な概念体系をともなう学問知の総体である。その特徴は,空間・時間を異にする,個々別々の具体的な文脈に孤立した実践知を,学習者自身がこの抽象体系に関連づけることで特定のカテゴリーとしてまとめ,相互の比較検証を可能にすることにある。以上のように学問知を捉えるならば,教科教育とは,異なる実践文脈を背景とし,異質な実践知を持つ,いわば異世界に属する人々との越境的な相互交流を促進する可能性を有するという点で,広く社会実践に開かれた価値のあるものだともいえる。 その一方で,教科学習においては多くの者が,授業文脈では学んだ知識を運用できるが,学外の人々との相互交流において応用的に利用することができない「分かったつもり」に陥る傾向も指摘される(田島, 2010)。これは本来,越境的交流の中でこそ活かされるべき学問知が,教室内の交流のみに,その使用が閉じられている問題といえる。つまり教科教育の問題とは,学問知そのものが社会実践に閉ざされているという点にではなく,現状では,多くの学習者がそのポテンシャルを十分に活かすことができず,学外の社会実践との関連を見出すことができないという点にあるのだと考えられる。 本発表では,以上の問題に取り組むべく,実践知との関連からみた学問知に関する理論的視座を提供する。さらに学習者を分かったつもりにとどめず,学問知のポテンシャルの活用を促進し得る教育実践の展開可能性についても検証する。その上で,学習者を異世界へいざなうという学問知の強みを活かした教科教育の社会的価値について論じる。
著者
清水 健司 岡村 寿代
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.23-33, 2010-03-30
被引用文献数
1 4

本研究は,対人恐怖心性-自己愛傾向2次元モデルにおける認知特性の検討を行うことを目的とした。認知特性指標は社会恐怖認知モデル(Clark&Wells,1995)の偏った信念を参考に選定された。調査対象は大学生595名であり,対人恐怖心性-自己愛傾向2次元モデル尺度短縮版(TSNS-S)に加えて,認知特性指標である完全主義尺度・自己肯定感尺度・自己嫌悪感尺度・ネガティブな反すう尺度・不合理な信念尺度・自己関係づけ尺度についての質問紙調査が実施された。その結果,分析1では各類型の特徴的な認知特性が明らかにされ,適応・不適応的側面についての言及がなされた。そして,分析2では2次元モデル全体から見た認知特性の検討を行った。特に森田(1953)が示した対人恐怖に該当すると思われる「誇大-過敏特性両向型」と,DSM診断基準に準じた社会恐怖に該当すると思われる「過敏特性優位型」に焦点を当てながら詳細な比較検討が行われた。
著者
藤井 勉 上淵 寿
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.263-274, 2010-09
被引用文献数
1 10

本研究は,達成目標理論における暗黙の知能観研究において,顕在的測度(質問紙)と,潜在的測度(Implicit Association Test:IAT)を使用し,顕在・潜在の両側面から,参加者の暗黙の知能観を査定し,課題遂行場面で生じる感情や行動パターンとの関連を検証した。実験1では,IATの再検査信頼性を確認した。同時に,IATは顕在的な測度とは関連がみられないことを示した。実験2では,自己報告の他に,課題遂行中の参加者の表情を他者評定し査定した状態不安と,質問紙およびIATで査定した顕在・潜在的な知能観との関連を検討した。結果は,先行研究からの仮説どおり,顕在的測度と潜在的測度は,関連する対象が異なった。顕在的知能観は,自己評定式の尺度の回答に関連していた一方,潜在的知能観は,他者評定による自発的行動に関連していた。従来の研究で扱われてきた,顕在的測度で査定される意識的な領域のみならず,潜在的測度で査定される無意識的な領域への,更なる研究が必要であることと,潜在的な知能観を意識化するアプローチを用いた介入方法も検討する価値があることを示唆した。
著者
木村真人 梅垣佑介 河合輝久 前田由貴子 伊藤直樹 水野治久
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第56回総会
巻号頁・発行日
2014-10-09

企画趣旨悩みを抱えながら相談に来ない学生への支援は多くの大学に共通する学生相談・学生支援の課題である(日本学生支援機構,2012)。このような課題の解消に向けて,企画者は悩みを抱えながら相談に来ない学生への支援について,大学生本人の援助要請行動に焦点をあてたワークショップを企画した(木村・梅垣・榎本・佐藤,2012)。ワークショップでの議論を通して,悩みを抱えながら相談に来ない学生に対しては,学生の自主来室を待つだけの姿勢や,学生相談機関のみでの対応・支援には限界があることが明らかとなった。そこで本シンポジウムでは,学内外の多様な資源を活用した支援に着目する。この課題に対して問題意識を持ちながら現場で学生支援に関わっている先生方に,学内外の多様な資源を生かした支援の可能性と課題について,研究知見および実践活動に基づく話題提供をしていただく。学内外の資源として,具体的には学内の友人や学生コミュニティ,およびインターネットを活用した支援に焦点をあてる。話題提供および指定討論者からのコメントを受け,悩みを抱えながら相談に来ない学生への学内外の多様な資源を生かした支援の可能性や課題についてフロアーの方々とともに議論を深めたい。話題提供1:大学生の学生相談機関への援助要請過程における学内の友人の活用可能性―大学生のうつ病・抑うつに着目して―河合輝久(東京大学大学院)悩みを抱えていながら相談に来ない大学生に対する学生支援のうち,うつ病を発症していながら専門的治療・援助を利用しない大学生に対する学生支援の構築は喫緊の課題といえる。なぜならば,うつ病は修学を含む学生生活に支障を来すだけでなく,自殺の危険因子ともされているためである。従来の研究では,大学生の年代を含む若者は,自らの抑うつ症状について専門家ではなく友人に相談すること,友人から専門家に相談するよう促されることで専門家に相談しに行くことが明らかにされている。従って,学内の友人は専門家へのつなぎ役として活用できる可能性が示唆されているといえる。一方で,うつ病・抑うつ罹患者に対して,大学生は不適切な認識や対応をとるとされている他,罹患者に闇雲に関わることで情緒的に巻き込まれてしまう恐れも考えられる。従って,うつ病・抑うつを発症しながら相談に来ない大学生への支援における学内の友人の活用可能性について,うつ病・抑うつを発症した大学生とその身近な学内の友人の双方の視点から,学内の友人を活用するメリットおよび限界を把握しておくことが重要といえる。本発表では,うつ病を発症しながら相談に来ない大学生の学生支援における学内の友人を活用するメリットおよび留意点を概観した上で,学内の友人をインフォーマルな援助資源として有効に機能させる可能性について検討したい。話題提供2:学内資源を活かした支援を要する学生のコミュニティ参加を促す支援の実践―ピア・サポートの活用―前田由貴子・木村真人(大阪国際大学)大学に進学する発達障害学生の増加に伴い,発達障害学生支援の重要性が指摘されている。この発達障害学生支援体制構築に際しては,相談支援窓口となる部署の設置や,教職員間の連携などが必要要素であり(石井,2011),各大学における急務の課題となっている。従来から発達障害を含む何らかの障害を抱える学生や,悩みや問題を抱える学生に対しては,学生相談室が中心となり対応してきたが,特に発達障害学生支援においては,学生相談室での個別対応のみでは不十分であり,学内の様々な部署との連携による支援が求められる。発達障害学生支援においては,当該学生の友人関係構築の困難による孤立化を防ぎ,不登校・休学・退学に繋げない取り組みが重要である。彼らが孤立化する要因として,対人関係上の問題解決スキル不足があり,このスキル教授が支援の中でも大きな位置を占める。しかし,この問題解決スキル行使が可能になる環境が無い場合は,単なる問題解決スキルの知識獲得のみに留まり,その実践からのフィードバックを得ることが難しい。そのため,当該学生の問題解決スキル実践の場への参加促進及び,そのコミュニティ作りが肝要である。本発表では,このコミュニティ作りにおけるピア・サポート活用について言及することにより,「コミュニティの中での学生支援」について検討し,従来の学生相談体制の課題解決に向けた,新たな学生支援の可能性と課題について考察したい。話題提供3:学生相談機関のウェブサイトを通じた情報発信から学生の利用促進を考える伊藤直樹(明治大学) インターネット環境の整備やモバイル端末の急速な普及により,大学のウェブサイトが教育や研究に果たす役割は非常に大きくなった。大学は情報発信のためにウェブサイトを積極的に活用しており,学生も大学の様々な情報にアクセスしている。各大学の学生相談機関もウェブサイトを通じた情報発信を行っており,『学生相談機関ガイドライン』(日本学生相談学会,2013)の中でもその重要性が指摘されている。支援を必要とする学生はもちろんこと,家族,あるいは教職員も学生相談機関のウェブサイトを閲覧し,情報を入手しているものと思われる。しかし,学生相談機関としてウェブサイト上にどのような情報を掲載すべきなのか,また,利用促進につなげるにはどのような情報を掲載したらよいのか,あるいは,そもそも利用促進にどの程度効果があるのかといった問題についてはほとんどわかっていない。今回の自主シンポでは,2004年,2005年及び2013年に学生相談機関のウェブサイトを対象に行った調査の結果をもとに,ウェブサイトを利用した情報発信について話題提供を行いたい。まず,日本及びアメリカの学生相談機関における最近約10年間の情報発信の変化について取り上げ,次に,日本,アメリカ,イギリス,台湾の大学の学生相談機関の情報発信の現状について比較検討する。これらの知見に基づき,学生相談機関のウェブサイトを通じた情報発信の可能性について考えたい。話題提供4:学生支援におけるインターネット自助プログラムの可能性と課題梅垣佑介(奈良女子大学) 厳密なデザインの効果研究により有効性が示された臨床心理学的援助の技法を,インターネット上でできる自助プログラムの形で提供しようとする試みが欧米を中心に近年広がりつつある。特に認知行動療法(CBT)を用いたそういったインターネット自助プログラムはComputerized CBT(cCBT)やInternet-based CBT(iCBT)などと称され,複数のランダム化比較試験により若者や成人のうつ・不安に対する一定の効果が示されている一方,いくつかの課題も示されている。本発表では,イギリスにおいて大学生を対象としてInternet-based CBTを実践した研究プロジェクトの取り組みを,実際の事例を交えて紹介する。イギリスでの展開事例に基づき,非来談学生や留学生への支援可能性といった我が国の学生支援におけるインターネット自助プログラム活用の可能性を述べたうえで,従来指摘されていた高ドロップアウト率といった課題への対処,および大学生への実践から見えてきた新たな課題を検討する。我が国の学生支援の現場で今後インターネット自助プログラムを有効に展開するための議論の端緒を開きたい。(キーワード:学生相談,学生コミュニティ,インターネット)