著者
杉村 健
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.14, no.4, pp.211-215, 1966-12-31

本研究の主な目的は,教室における暗黙の強化は競争場面では生じるが,非競争場面では生じないという仮説を検証することであった。被験者は小学校5年生の児童であった。1学級の男女それぞれ20名ずつからなっている4学級のうち,2学級の者には競争的教示のもとで課題が与えられ,残り2学級の者には非競争的教示のもとで与えられた。8個の図形に対応する1から8までの数字を書かせる符号問題を4分間ずつ2日続きでやらせた。第1日目の成績と男女の数にもとづいて各学級を半分に分け,第2日目の開始前に,各学級の半数の者に対して第1目目の成績についての明白な強化(称賛・叱責)が与えられた。すなわち競争場面と非競争場面のそれぞれについて,1学級の半数の者は級友の前で正の強化(称賛)が与えられ(EP群),残りの学級の半数の者は同様に負の強化(叱責)が与えられた(EN群)。前者の学級においてなにも言われなかった者は,級友が強化されるのを観察することによつて,暗黙のうちに負の強化を受けたとみなされ(IN群),後者の学級では明白な負の強化を与えられた級友を観察することによって,暗黙のうちに正の強化を受けたものとみなされた(IP群)。第2目目の正答数から第1目目のそれを引いた値を測度として実験的処理の効果を調べたところ,主な結果は次のとおりであった。(a)競争場面では,暗黙の強化における正と負の効果のちがいが大きく(IP群とIN群),明白た強化での正と負の効果にはあまりちがいがなかった。(b)非競争場面では,明白な強化における正と負の効果のちがいが著しいが(EP群とEN群),暗黙の強化ではそれがわずかであった。(C)明白な強化においては,男子では正と負の効果にちがいが認められないが,女子では正の強化が負の強化にくらべて著しく成績を向上させた。(a)と(b)の結果から,暗黙の強化という現象が競争場面でしか生じないという仮説が大体支持され,そしてその理由が考察された。(C)の結果は,女子が明白な正と負の強化に対して,敏感にそして分化的に反応しやすいという点で,従来の研究と一致Lた。
著者
倉光 修
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.144-151, 1980-06-30

学業テストにおいて,学習者がテスト結果をどの程度検討しているかを調べるために,英語・数学について,高校生202人を対象に質問紙による調査が行われた。結果は,テスト結果の検討が不十分であることを示唆するものであった。 そこで,英語・数学について,高校生のべ294人を対象に,テスト結果の検討をより十分にさせるためのフィードバック方式が工夫され,その効果が実験的に検討された。実験は3部からなり,各実験共,実験群と統制群を形成し,Pre-testとPost-testの差によって,テスト結果の検討の程度が推定された。 実験Iでは,実験群(n=29)に,テスト各問の出題領域が示され,学習者が再学習するべき領域をチェックできるようなチェックリストが与えられて,統制群(n=29)と比較された。結果は,両群に有意差はなかった。 実験IIでは,実験Iの手続に加えて,両群に再テスト(Post-test)が予告された。実験は2校で行われ,A校では実験群(n=40)が,統制群(n=41)よりも,有意に高い成績の伸びを示し,B校(実験群: n=36 統制群: n=38)では,その差は有意な傾向を示した。 実験IIIでは,実験群(n=41)に,学習者自身がテスト範囲や使用教材を指定し,テスト結果のフィードバックにおいて否定的表現が用いられないような個人別小テストが繰り返され,統制群(n=40)と比較された。結果は,実験群が統制群よりも高い成績の伸びを示し,その差は有意な傾向を示した。以上から,テスト結果の検討を促進する要因として,結果の検討を容易にする詳細な情報を与えること,結果の検討が有益であると思わせること,結果の検討に伴なう不快感を軽減することの3点が挙げられ,これらを組み合せることによって,大きな効果が期待できると考えられた。 また,実験II,IIIの実験群と実験IIIの統制群では,Pre-testの成績が悪かった者ほど,高い伸びを示す傾向が顕著に認められた。これは,成績の悪かった者ほど,テスト結果の検討を怠りがちであり,逆に結果の検討をすれば高い伸びが期待しうることを示唆すると考えられた。
著者
黒田 祐二 有年 恵一 桜井 茂男
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.24-32, 2004-03

本研究の目的は,大学生の親友関係における関係性高揚と精神的健康との関係について検討すること,及び,その関係に相互協調的-相互独立的自己観が及ぼす影響について検討することであった。結果から,日本の大学生において,自分たちの親友関係を他の親友関係より良いものであると評価する「積極的関係性高揚」と,悪くはないと評価する「消極的関係性高揚」は,相対的幸福感・自尊感情・充実感と正の関係を示し,抑うつと負の関係を示すことが見出された。さらに,この関係性高揚と精神的健康との関係は,相互協調的自己観ないし相互独立的自己観が自己に内在化されている程度によって異なることが示された。すなわち,相互協調的自己観の低い者より高い者において,そして,相互独立的自己観の高い者より低い者において,関係性高揚(積極的関係性高揚及び消極的関係性高揚)と精神的健康との関係が強くなることが示された。The purpose of the present study was (1) to investigate relations between the enhancement of close friendship and the mental health of Japanese college students, and (2) to examine whether that relationship varied with the students' scores on interdependent-independent construal of the self. The results were as follows (1) "Active enhancement", in which participants evaluated their close friendship as better than others and "passive enhancement" in which participants evaluated their close friendship as not worse than others', were positively correlated with subjective happiness, self-esteem, and fulfillment sentiment, and negatively correlated with depression. (2) Correlations were stronger for participants who scored high on interdependent construal of the self than for those who scored low on that measure. Similarly, correlations were stronger for participants whose scores were low on independent construal of the self than for those whose scores were high.
著者
郷式 徹
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.354-363, 1999-09-30

本研究の目的は幼児がどのように心を理解するかについて,自己の心的状態の理解と他者の心的状態の理解の比較を通して,検討することにある。実験1は,Perner, Leekam & Wimmer (1987)のスマーティー課題(本研究では自己信念変化課題と呼ぶ)と同構造の3課題(標準課題・状況変化課題・多義図形課題)を3・4・5歳児63人に実施した。また実験2は,多義図形課題と誤信念課題(Wimmer & Perner,1983)を3・4歳児28人に実施した。2つの実験の結果を通して,自己の心も他者の心も同時期に理解されることが示され,「心」とは表象であり,「心の理解」は「心の理論」に基づいてなされる表象の操作であると考える理論説の妥当性が支持された。また,幼児が心を理解する際の表象操作に対する知覚的要因や既有知識の影響が示唆された。
著者
大谷 宗啓
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.480-490, 2007-12-30

本研究は,高校生・大学生を対象に,従来,深さ・広さで捉えられてきた友人関係について,新観点「状況に応じた切替」を加えて捉え直すことを試み,その捉え直しが有意義なものであるかを質問紙調査により検討した。因子分析の結果,新観点は既存の観点とは因子的に弁別されること,新観点は深さ・広さの2次元では説明できないものであることが確認された。また重回帰分析の結果,新観点追加により友人関係から心理的ストレス反応への予測力が向上すること,新観点による統制の有無により既存観点と心理的ストレス反応との関連に差異の生じることが明らかとなった。
著者
茅本 百合子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.315-322, 2000-09-30

日本語を学習している中国語母語話者(上級学習者)が漢字を日本語で読み上げるとき, その漢字の音読みが母語の中国語の発音に似ていると, 似ていない発音の漢字を読み上げるときより反応時間が短くなった。また, 通常訓読みで読まれる漢字よりも通常音読みで読まれる漢字のほうが反応時間が短かった。これは, 漢字を日本語で読む際にも母語の音韻情報が活性化するためであると考えられ, 中国語音起源でない訓読みも, 音韻情報の一部として心内辞書に収められていることが要因であると考えられた。そして, 異言語間で共用されている漢字という文字にそれらの言語の音韻情報が備わっていることが示唆された。一方, 日本語学習歴がさらに長く, 超上級と言われるレベルに達している学習者は, エラーも少なく, 反応時間は, 日本語と中国語の発音の類似には影響されなかった。