著者
石川 隆行 内山 伊知郎
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.60-68, 2001-03-30

本研究は,5歳児の罪悪感に共感性と役割取得能力が及ぼす影響を検討した。その際,罪悪感を感じる場面として対人場面と規則場面を設定した。幼稚園5歳児100名を対象として,罪悪感,共感性および役割取得能力について面接法で測定した。罪悪感については,どれくらいあやまりたい気持ちになるかを測度とした。また,共感性はAST(Affective Situation Test),役割取得能力はSelman課題で測定された。その結果,共感性は対人場面での罪悪感に影響し,役割取得能力は規則場面での罪悪感に影響することが明らかになった。したがって,5歳児では対人場面と規則場面では罪悪感の規定因が異なることが示唆された。
著者
早川 貴子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.274-283, 2009-09-30
被引用文献数
1

本研究の目的は,幼児期の対人的葛藤場面における謝罪行動の予測に影響を与える要因を検討することであった。特に,(1)加害行為の意図性によって加害者の謝罪行動の予測が異なるかどうか,(2)加害行為の意図性及び加害者の謝罪行動の予測によってその後の関係の見通しが異なるかについて検討を行った。4歳,5歳,6歳児を対象に,仮想の葛藤場面に関する意図的場面と偶発的場面のストーリーを聞かせ,加害者の立場に立って回答させた。その結果,(1)謝罪行動の予測については,4歳児よりも6歳児で多く認められ,葛藤の終結のために謝罪行動が必要と認識している事が示された。加害行為の意図性による影響は,4歳児より5歳児で認められるが,6歳児では認められなくなることが示された。(2)謝罪行動とその後の被害者との関係の見通しに関しては,5歳児で関連が認められるが,6歳児では関連が認められなくなった。つまり,加害行為の意図性と謝罪行動との関連に関する今回の結果から,5歳児で謝罪行動の転換点がある可能性が考えられた。
著者
大浜 幾久子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 = The annual report of educational psychology in Japan (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.144-155, 1996

ピアジェ(1896-1980)の生産性は, 60年にわたって常に際だったものであった。また, 死後出版も10年間に及び続いた。ピアジェの全著作を貫いているひとつの概念がもしあるとすれば, それは均衡である。ピアジェの野心は科学的認識論をつくりあげることであった。ピアジェが発生的認識論とよんでいる認識論は, 基本的に構築説にたつものであり, その主目的は, 初期の単純な認識からより複雑で強力な構築物への移行を研究することである。ある方向へ向かう発達のダイナミクスを説明するのに, ピアジェは調整のメカニズムを伴う均衡化のモデルを精緻化した。この考えの起源は, ピアジェが若き日に著した『探究』と題する小説にまで遡る。生涯を通して, ピアジェはこのミデルを洗練し続けたのである。生涯最後の10年, ピアジェは, 研究を構造の側面から過程の側面へと転換し, 心的操作を機能のより広い形態に従属させ, また新しい可能なことと必然なことへの開放という観点から, 認識, 矛盾, 弁証法を分析することによって, ピアジェ理論のもつ機能主義的な特質を新たなものにした。
著者
田中 優子 楠見 孝
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.514-525, 2007-12-30
被引用文献数
8

本研究では,大学生を対象とし,目標や文脈という状況要因が批判的思考の使用に関わるメタ認知的判断に及ぼす影響を検討することを目的として,研究1では,批判的思考が「効果的」な文脈と「非効果的」な文脈を収集した。研究2では,収集した文脈の分類を行い,それぞれの特徴を抽出した。2つの文脈にはそれぞれ異なる特徴がみられた。研究3では,「正しい判断をする」「物事を楽しむ」という2つの目標と文脈を独立変数として,批判的思考をどの程度発揮しようとするかというメタ認知的な判断に及ぼす影響を検討した。その結果,「物事を楽しむ」という目標よりも「正しい判断をする」という目標においてより批判的思考を発揮しようと判断すること,同じ目標であっても文脈によって批判的思考の発揮判断が変化することが明らかになった。さらに,批判的思考の発揮判断は,目標や文脈を考慮するものの全体的に批判的思考を発揮しようとするタイプ,効果的な文脈で非常に高く批判的思考を発揮しようとするタイプ,非効果的文脈では目標に関係なくほとんど発揮しようとしないタイプという3タイプによって特徴づけられることが示された。
著者
杉江 修治 梶田 正巳
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.381-385, 1989-12-30

The quality of interactions among small group members constitutes a significant factor that brings about positive effects in school learning. And aspects affecting the quality of the interactions are still more numerous. In this study, we chose one of the important aspects, namely: "the effects of teaching activities", and examined the reasons why the activities would produce good results in small groups. Two types of instructions were given...A: "You must teach another person after learning yourself", B: "Your attainment will be evaluated after you have learned". Two types of activities were directed after a study lasting 25 minutes...a: To teach another person, b: To review the learning tasks. E_1 was the condition of A+a, and E_2: A+b, and C: B+b. Ss were 11-12 year-old children, and the tasks used were arithmetic. Results were as follows. (1) The learning set to teach another person "after one has learned" had positive effects on academic achievement. (2) The activities to teach another person seemed to have a possibility to raise some positive effects.
著者
神野 秀雄
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.89-99, 1984-06-30

The purpose of this study was to classify the developmental change of preschool and school aged autistic children through the application of NAUDS(Nagoya University of Autistic Child's Developmental Scale). The NAUDS consisted of 13 items, each one was to evaluate one aspect of some autistic characteristics ; Language (L_1, L_2), Activity level (A_1.A_2), Emotion (E_1,E_2), Empathy (Em), Human relation (Ad_1, Ad_2, C), Eye contact (Ey), Perseveration of sameness (P.S) and Stereotyped behaviour (St). Each item of NAUDS consisted of 5 rating steps according to the level of improvement of autistic characteristics. 1. Factor analysis of NAUDS : NAUDS was administered to 41 autistic children and 28 mentally retarded children treated with play therapy at a clinic (Reseach center of Remedial Education, Aichi University of Education) and 55 autistic children in a prefectual special school for mentally retarded. The NAUDS data were analysed by the principal factor method and the results were rotated by the varimax method.The factors obtained for autistic children were quite different from that of mentally retarded. The 1st factor loaded on E_1, E_2, Em and Ey items was named E factor and the 2nd factor loaded on L_1, L_2, Ad_1, Ad_2, and C items was named L factor. The remaining 4 items (A_1, A_2, P.S, St) were accounted for A factor (FIG. 1). On the other hand, for the mentally retarded children 11 out of 13 items (other than A_1, P.S) were highly correlated to each other and only one factor was extracted (FIG. 2). 2. Examination oftheimprovementofautistic characteristics and the correspondence of developmental change among 13 items : 18 autistic children having been treated with play therapy for 3 or more years were evaluated by NAUDS every year. In the process of developmental change the high correspondence found were among E_2, Em, Ad_1, Ad_2, and C but the correspondence among A_1, P.S, C and St were rather low (FIG. 3, 4). 3. Index for the improvement of autistic characteristics and the classification of the developmental change : From the results of the previous 2 sections, we proposed E-score and L-score as the appropriate index for the improvement of autistic characteristics. E and L scores were obtained as the average rating score for the items containing 1st or 2nd factor respectively. 23 autistic children treated with play therapy once a week at this research center 3 or more years, were evaluated every year. At the beginning of this study, their mean age was 6.3 years. Longitudinal change of autistic characteristics was analysed from the viewpoint of the locus of E and L scores and four types were identified. D1 Type E score level 1-2 L score level 1 (FIG. 5) D2 Type E score level 2 L score level 2 (FIG. 6) D3 Type E score level 3 L score level 3 (FIG. 7) D4 Type E score level 4 L score level 4 (FIG. 8) In addition to the four types discribed above we set up another type(D5) including intelligent autistic children. D5 Type E Score level low L Score level high (Fig. 9)
著者
葉山 大地 櫻井 茂男
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.393-403, 2010-12

本研究の目的は,友人から冗談を言われて怒りを感じる場面での聞き手の反応を規定する要因を,パーソナリティ要因(拒否に対する感受性)と状況要因(話し手との親密さ,冗談に対する周囲の友人の反応)の観点から検討することである。聞き手の反応には「迎合的反応」,「回避的反応」,「感情表出反応」が含まれる。本研究では場面想定法を使用し,大学生417名(男性169名,女性247名,性別不明1名)を4つの状況(たとえば,「親友が話し手であり,周囲の友人は冗談に対して笑っている」)のうちのひとつに割り当て,その状況において冗談に対してどのように反応するかを回答するよう求めた。分散分析の結果,拒否に対する感受性が高い回答者は,親友が話し手で,かつ周囲の友人が笑っていない状況において,迎合的な反応を行わないと評定することが示された。しかしながら,拒否に対する感受性が高い回答者は,周囲の友人が笑っている場合は,迎合的反応をする頻度を高く見積もっている。この結果は,拒否に対する感受性が高い回答者は,状況によって拒否される可能性を考慮し,自己防衛的な反応を選択していることを示唆している。The purpose of the present study was to examine a personality factor (Rejection Sensitivity: RS) and situational factors (e.g., the relation between the speaker and the listener, and reactions of surrounding friends) as determinants of listeners' reactions to aversive jokes. In the present study, listeners' reactions included compliant reactions, avoidant reactions, and emotionally expressive reactions. University students (169 men, 247 women, 1 person gender not reported) were randomly assigned to 1 of 4 specific situations, such as one in which the listener's best friend is the speaker, and surrounding friends laugh at the joke. The participants were then asked to estimate the frequency of their reactions to aversive jokes in the situation to which they had been assigned. A 3-factor ANOVA mainly showed that participants who were high on rejection sensitivity estimated a low frequency of complaint reactions in situations in which their best friend was the speaker and surrounding friends did not laugh at the joke, whereas those participants estimated a high frequency of compliant reactions in situations in which their best friend was the speaker and surrounding friends did laugh. These results indicate that the participants high on rejection sensitivity assessed the possibility of rejection in each situation and selected their reaction in relation to self-protection.
著者
川井 栄治 吉田 寿夫 宮元 博章 山中 一英
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.112-123, 2006-03-30
被引用文献数
2

ネガティブな事象に対する認知パタンが自己否定的なものに固定化し,それに伴って自己効力感やセルフ・エスティームが低下することを防ぐための授業を考案して,それを小学校高学年の児童に対して学級単位で実施し,その効果について多面的な検討を行った。実験計画はプリポスト・デザインとポストオンリー・デザインを併用した統制群法であり,自己否定的な認知パタンを固定化させないようにすることの必要性について説明したうえで,実際にそのための授業を行う実験群と,前者の説明のみを行う統制群を設けた。得られたデータを分析した結果,実験群の児童の方が統制群の児童よりも,自己否定的な認知パタンを否定する方向の信念を抱くようになっているとともに,自己効力感とセルフ・エスティームが高まっていることが示された。また,このような効果の持続性および日常への般化の存在も示された。
著者
若松 養亮
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.209-218, 2001-06-30
被引用文献数
1

大学生における進路未決定のうち, 一般学生に見られる決定の困難さのメカニズムを解明するために, 教員養成学部において質問紙調査を実施した。分析の対象は3年生233名である。「もう迷わない」と決めた進路の選択肢があるか否かで操作的に決定・未決定を定義づけたところ, 決定者が84名, 未決定者が149名であった。その両群間によって, 未決定者は(A)自分の抱える問題が何なのかを理解できていないのではないか, および(B)意思決定のための行動に結びつきにくい困難さを抱えているであろうという2つの仮説を検討した。その結果, 仮説Aは支持されたが, 仮説Bは支持されなかった。そこで「快適さ」の指標を加えて分析対象者を限定したところ, 未決定者が情報や答が得られにくい問題に悩まされているという結果が見出され, 仮説Bが支持された。さらに未決定者のうち, indecisive傾向の強い者は拡散的に新たな進路の選択肢を求めるという結果が見出され, それは仮説Bを支持するものであった。最後に, 未決定者に対して有効と思われる処遇と, 今後の研究に向けての考察を行った。
著者
竹村 明子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.176-185, 2010-06-30

本研究は,実践教育の効果を検討するため,自己決定理論(Deci&Ryan,1985)を基に,介護福祉士養成課程の学生の介護実習前後における自己決定性(内発調整・同一化調整・取入調整・外的調整)の変化と実習中の心理的欲求満足感(関係性欲求満足感・自律性欲求満足感・有能さ欲求満足感)との関係について,横断的研究方法(調査協力者117名)と縦断的研究方法(調査協力者110名)を用いて検討を行った。その結果,縦断的研究において,内発調整が実習後高くなることが見出され,介護実習は学生の介護への自己決定性を高めている可能性が示唆された。さらに,実習中の心理的欲求満足感が高いほど,特に利用者(高齢者)と良好な関係性を築けたという満足感が高いほど,内発調整および同一化調整が促進されることが見出された。介護のように人と関わることが重要となる分野では,実習中の利用者との関係が実習の効果に大きく影響することが示唆された。