著者
小野田 亮介 篠ヶ谷 圭太
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.115-128, 2014 (Released:2015-03-27)
参考文献数
35
被引用文献数
7 3 1

本研究では, 大学の講義型授業において使用されているリアクションペーパー(以下 RP)に着目し, 授業者の働きかけとRP記述の関係について検討を行った。まず, 予備調査を実施し, 学生が「RPをどのようなツールとして捉えているか(RP観)」に関する質問紙尺度を作成した。その結果, 学生のRP観としては, 「内容記憶志向」, 「記述訓練志向」, 「理解度伝達志向」, 「私的交流志向」の4因子が抽出された。次に, 本実験として, 1)授業者以外の読み手に, 自分の記述が読まれることを予期させる「読み手追加予期介入」と, 2)授業者が学生の記述した質問に対して補足説明を行うなど, RPの内容をいくつか抽出して応答を行う「授業者応答介入」を2つの大学で実施し, その効果を比較検討した。その結果, 授業者応答介入は用語の確認などの「低次質問」を抑制し, 授業内容をさらに深める「高次質問」の記述を促進することが示された。ただし, RP観との交互作用を検討した結果, 内容記憶志向の高い学生に対しては, 低次質問の抑制効果は見られないことが示された。一方, 高次質問の促進効果は, 私的交流志向が極端に高い学生を除き, 多くの学生に見られることが示された。
著者
篠ヶ谷 圭太
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.92-105, 2012 (Released:2013-01-16)
参考文献数
65
被引用文献数
12 7

我々は学習を行う際, 人の説明を一度聞くだけ, 本を一度読むだけで, その内容を理解できるわけではなく, 事前や事後に適切な方略を用いて学習することで, 理解を深め, 知識の定着を図っている。そこで, 本稿では, 事前学習, 本学習, 事後学習の各フェイズにおいて適切な方略を使用しながら理解を深めていく学習プロセスのモデルを「フェイズ関連づけモデル」とし, そのモデルを用いて学習方略に関する先行研究の概観を行った。フェイズ関連づけモデルに基づいて先行研究を分類した場合, これまでの学習方略研究は, 1)フェイズの区別をせずに方略使用について測定した「フェイズ不特定型」, 2)フェイズを特定した上で方略使用を測定した「フェイズ特定型」, 3)複数のフェイズの関連に焦点を当てた「フェイズ関連型」の3つに分類することができる。本稿では, これらの先行研究から効果的な学習の在り方について示唆を得るとともに, 学習フェイズの関連づけの視点から見た場合に明らかになる課題を指摘し, 今後の学習方略研究に向けた枠組みを提案した。また, 最後には, 本稿の示した枠組みの実践的意義と学術的意義について論じた。
著者
篠ヶ谷 圭太
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.256-267, 2008-06-30

本研究では,事前に教科書を読むという予習が授業理解に与える影響とその個人差について,中学2年生を対象とした歴史授業を用いて実験的に検討した。また,予習の効果の授業内プロセスについて検討を行うため,ノートのメモなどの授業中の学習方略に注目した。さらに本研究では,予習が授業への興味に与える影響や,予習時の質問生成の効果についても併せて検討した。予習群,質問生成予習群,復習群を設定した実験授業を行い,予習-復習,質問生成あり-なしの対比を用いて検定を行った結果,予習は歴史の背景因果の理解に効果を持つことが示された。ただし,学習観を個人差変数とした適性処遇交互作用(ATI)の検討の結果,そのような予習の効果は学習者の意味理解志向の高さによって異なることが明らかになった。また,学習方略に注目した授業内プロセスの検討の結果,予習が授業理解に与える影響とその個人差は授業中のメモを媒介して生起することが示された。さらに本研究では,予習は授業への興味を下げないことや,予習時の質問生成には効果が見られないことが示された。
著者
深谷 達史 植阪 友理 田中 瑛津子 篠ヶ谷 圭太 西尾 信一 市川 伸一
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.88-104, 2016-03-30 (Released:2016-04-11)
参考文献数
24
被引用文献数
16 11

学習者同士の教えあいは, 内容の理解だけでなく, 日常的な学習場面における効果的な学習方略の使用をも促す可能性がある。本研究では, 学習法の改善を企図した2つの教えあい講座の実践を報告した。2010年度の予備実践では, 理解することの重要性や教えあいのスキルを教授したにもかかわらず, 生徒の問いが表面的である, 教え手が聴き手の理解状態に配慮しないという問題が確認された。これらの問題は, 生徒が「断片的知識/解法手続きを一方的に教える」という教授-学習スキーマを保持するために生起したものと考えられた。そこで, 2012年度の本実践では, こうしたスキーマに働きかける指導の工夫を取り入れ, 「関連づけられた知識を相互的に教えあう」行動へと変容させることを目指した。高校1年生320名に対し, 講演を中心とした前半と2回の教えあいを中心とした後半(計6時間)の教えあい講座を行った。教えあいの発話と内容理解テストの分析から, 理解を目指したやり取りがなされ, 教えあった内容の理解が促進されたことが示された。また, 説明することで理解状態を確認する方略や友人と教えあいを行う方略の使用が講座により増加したことが明らかとなった。
著者
篠ヶ谷 圭太
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
pp.91.19212, (Released:2020-05-22)
参考文献数
40

This study involved the development of a questionnaire about monitoring in learners’ interaction and examined its role in peer tutoring. Confirmatory factor analysis yielded a 4-factor model: “self-understanding”(checking one’s own level of understanding), “other-understanding” (checking others’ level of understanding)”, “difference” (checking difference in one’s own and others’ ideas), and “engagement” (checking one’s own level of engagement). In the main study, 54 college students conducted a peer tutoring session and completed the questionnaire about monitoring after the session. Data analysis on the relationship between monitoring scores and protocols revealed that tutors’ scores of self-understanding and other-understanding were positively correlated with interpretive explanations, while the score for difference was negatively associated with descriptive explanations. The score of engagement only showed a positive association with non-explanatory utterances. The results also suggested that tutees’ score for self-understanding and other-understanding are positively associated with complimentary explanations. Finally, the importance of focusing on learners’ monitoring during interactions and future perspectives for research studies about cooperative learning are discussed.
著者
篠ヶ谷 圭太
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.256-267, 2008-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
31
被引用文献数
11 11

本研究では, 事前に教科書を読むという予習が授業理解に与える影響とその個人差について, 中学2年生を対象とした歴史授業を用いて実験的に検討した。また, 予習の効果の授業内プロセスについて検討を行うため, ノートのメモなどの授業中の学習方略に注目した。さらに本研究では, 予習が授業への興味に与える影響や, 予習時の質問生成の効果についても併せて検討した。予習群, 質問生成予習群, 復習群を設定した実験授業を行い, 予習-復習, 質問生成あり-なしの対比を用いて検定を行った結果, 予習は歴史の背景因果の理解に効果を持つことが示された。ただし, 学習観を個人差変数とした適性処遇交互作用 (ATI) の検討の結果, そのような予習の効果は学習者の意味理解志向の高さによって異なることが明らかになった。また, 学習方略に注目した授業内プロセスの検討の結果, 予習が授業理解に与える影響とその個人差は授業中のメモを媒介して生起することが示された。さらに本研究では, 予習は授業への興味を下げないことや, 予習時の質問生成には効果が見られないことが示された。
著者
篠ヶ谷 圭太
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.452-463, 2010-12-30
被引用文献数
4

本研究では,高校生の英語学習を対象として,予習時に使用される学習方略と,授業中に使用される学習方略の関係について検討を行った。まず,予備調査を実施し,予習時の学習方略,授業中の学習方略に関する質問紙尺度を作成した。因子分析の結果,予習方略については「準備・下調べ方略」,「推測方略」,「振り返り方略」,「援助要請」の4因子,授業内方略については「要点・疑問点把握方略」,「メモ方略」,「受動的方略」の3因子が抽出された。高校生1,148名に本調査を実施し,パス解析を用いて英語学習動機,予習方略,授業内方略の関係モデルの構築を行った結果,予習時の準備・下調べ方略は授業中の要点・疑問点把握方略やメモ方略と正の関連を持つことが示された。また,予習時の推測方略は授業中の要点・疑問点把握方略と正の関連,受動的な方略と負の関連を持つことが示された。また,予習方略と授業内方略の間に直接のパスを想定しないモデルよりも,そのようなパスを想定したモデルの方がデータに対して高い適合度を示したことから,予習方略と授業内方略の間には,学習者の動機づけによって説明できない直接の関係が存在する可能性が示唆された。
著者
篠ヶ谷 圭太
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.197-208, 2014 (Released:2015-03-27)
参考文献数
16
被引用文献数
1 4

本研究では, 高校英語において, 教師が学習者の予習方略使用や授業内方略使用, そして, それらの関連に与える影響について検討を行った。まず予備調査を行い高校の英文解釈の授業における教師の授業方略を測定する質問紙を作成し, 985名の高校1年生および2年生, また, その英語の授業を担当している15名の教師を対象として本調査を行った。階層線形モデルを用いた分析の結果, 授業中に教師が単語の解説や生徒の指名を多く行うほど, 学習者は辞書を調べておく, 他の人に聞くといった方法で予習を行うことが示された。また, 単語の解説や指名が多いと, 学習者の授業中のメモも増加することが示された。さらに, 本研究では, 予習時に自分なりに単語や文の意味を推測しておく方略(推測方略)の効果が教師の行う授業によって異なることも示され, 教師が単語の意味の成り立ちについて詳しく解説することで, 予習時の推測方略が授業内の学習に促進的に機能することが示された。
著者
市川 伸一 南風原 朝和 杉澤 武俊 瀬尾 美紀子 清河 幸子 犬塚 美輪 村山 航 植阪 友理 小林 寛子 篠ヶ谷 圭太
出版者
日本認知科学会
雑誌
認知科学 (ISSN:13417924)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.333-347, 2009 (Released:2010-09-10)
参考文献数
15
被引用文献数
8

COMPASS is an assessment test based on the cognitive model of mathematical problem solving. This test diagnoses components of mathematical ability which are required in the process of understanding and solving mathematical problems. The tasks were selected through the case studies of cognitive counseling, in which researchers individually interview and teach learners who feel difficulty in particular learning behavior. The purpose of COMPASS is to provide diagnostic information for improving learning process and methods of class lessons. Features of COMPASS include: The time limitations are set for each task to measure the target component accurately; questionnaires are incorporated to diagnose orientation toward learning behavior. The present paper aims to introduce the concept and the tasks of COMPASS to show how cognitive science contributes to school education through the development of assessment tests.
著者
篠ヶ谷 圭太
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.91, no.3, pp.193-201, 2020 (Released:2020-08-25)
参考文献数
40

This study involved the development of a questionnaire about monitoring in learners’ interaction and examined its role in peer tutoring. Confirmatory factor analysis yielded a 4-factor model: “self-understanding”(checking one’s own level of understanding), “other-understanding” (checking others’ level of understanding)”, “difference” (checking difference in one’s own and others’ ideas), and “engagement” (checking one’s own level of engagement). In the main study, 54 college students conducted a peer tutoring session and completed the questionnaire about monitoring after the session. Data analysis on the relationship between monitoring scores and protocols revealed that tutors’ scores of self-understanding and other-understanding were positively correlated with interpretive explanations, while the score for difference was negatively associated with descriptive explanations. The score of engagement only showed a positive association with non-explanatory utterances. The results also suggested that tutees’ score for self-understanding and other-understanding are positively associated with complimentary explanations. Finally, the importance of focusing on learners’ monitoring during interactions and future perspectives for research studies about cooperative learning are discussed.
著者
Manalo Emmanuel 鈴木 雅之 田中 瑛津子 横山 悟 篠ヶ谷 圭太 Sheppard Chris 植阪 友理 子安 増生 市川 伸一 楠見 孝 深谷 達史 瀬尾 美紀子 小山 義徳 溝川 藍
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2015-04-01

3年目である本年は、21世紀型スキルの促進ということに焦点を当てて研究を行った。この結果、様々なワークショップや授業を開発した。具体的には、大学教員の質問スキルの向上を目指すワークショップの開発、小学校教員による効果的な学習法指導の開発、高校生の批判的思考と探究学習を促進する実践の提案などを含む。さらに、教育委員会と連携した実践なども行った。こうした研究の結果、研究代表者であるEmmanuel Manaloと分担研究者である植阪友理を編者に含む、英語の書籍を刊行した。この書籍は、自発的な方略を促進するためのあり方を具体的に提案するものであった。この本の論文はいずれも、査読付きであり、このうち9本は本プロジェクトに関わるメンバーが執筆している。のこり10本は海外の研究者が執筆している。海外の著者にはアメリカのUCLA (University of California Los Angeles) やPurdue University、スイスの ETH Zurich、ドイツの University of Munster (Germany) 、University of Hong Kongなどといった一流大学の研究者が含まれており、国際的な影響力も大きなものとなったと考えられる。さらに、日本心理学会、教育工学会などといった国内学会において発表を行った。さらに、EARLI (European Association for Research in Learning and Instruction) やSARMAC (Society for Applied Research in Memory and Cognition) といった国際学会においても発表した。
著者
篠ヶ谷 圭太
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.197-208, 2014
被引用文献数
4

本研究では, 高校英語において, 教師が学習者の予習方略使用や授業内方略使用, そして, それらの関連に与える影響について検討を行った。まず予備調査を行い高校の英文解釈の授業における教師の授業方略を測定する質問紙を作成し, 985名の高校1年生および2年生, また, その英語の授業を担当している15名の教師を対象として本調査を行った。階層線形モデルを用いた分析の結果, 授業中に教師が単語の解説や生徒の指名を多く行うほど, 学習者は辞書を調べておく, 他の人に聞くといった方法で予習を行うことが示された。また, 単語の解説や指名が多いと, 学習者の授業中のメモも増加することが示された。さらに, 本研究では, 予習時に自分なりに単語や文の意味を推測しておく方略(推測方略)の効果が教師の行う授業によって異なることも示され, 教師が単語の意味の成り立ちについて詳しく解説することで, 予習時の推測方略が授業内の学習に促進的に機能することが示された。