著者
西村 多久磨 村上 達也 櫻井 茂男
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.453-466, 2015
被引用文献数
3

本研究では, 共感性を高めるプログラムを開発し, そのプログラムの効果を検討した。また, プログラムを通して, 社会的スキル, 自尊感情, 向社会的行動が高まるかについても検討した。介護福祉系専門学校に通う学生を対象に実験群17名(男性6名, 女性11名 ; 平均年齢20.71歳), 統制群33名(男性15名, 女性18名 ; 平均年齢19.58歳)を設けた。プログラムを実施した結果, 共感性の構成要素とされる視点取得, ポジティブな感情への好感・共有, ネガティブな感情の共有については, プログラムの効果が確認された。具体的には, 事前よりも事後とフォローアップで得点が高いことが示された。さらに, これらの共感性の構成要素については, フォローアップにおいて, 実験群の方が統制群よりも得点が高いことが明らかにされた。しかしながら, 他者の感情に対する敏感性については期待される変化が確認されず, さらには, 社会的スキル, 自尊感情, 向社会的行動への効果も確認されなかった。以上の結果を踏まえ, 今後のプログラムの改善に向けて議論がなされた。
著者
三和 秀平 外山 美樹
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.426-437, 2015
被引用文献数
6

本研究は, 教師の学習の特徴を踏まえた"教師の教科指導学習動機尺度"を作成しその妥当性および信頼性を検討すること, またその特徴を検討することを目的とした。研究1では教師202名を対象に, 予備調査によって作成された原案54項目を用いて因子分析を行った。その結果, "内発的動機づけ", "義務感", "子ども志向", "無関心", "承認・比較志向", "熟達志向"の6因子29項目から構成される教師の教科指導学習動機尺度が作成され内容的な側面の証拠, 構造的な側面の証拠および外的な側面の証拠が一部確認され, 尺度の信頼性も確認された。研究2では現職教師243名および教育実習経験学生362名を対象に, 分散分析により教師の学習動機の違いについて検討した。その結果, 特に現職教師と教育実習経験学生との間に学習動機の差が見られ, 教育実習経験学生は"承認比較志向"が高いことが示された。研究3では教師157名を対象に, 教師の学習動機とワークエンゲイジメントとの関係について重回帰分析により検討した。その結果, 特に"内発的動機づけ", "子ども志向", "承認・比較志向"がワークエンゲイジメントと正の関連があることが示された。
著者
輕部 雄輝 佐藤 純 杉江 征
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.386-400, 2015
被引用文献数
4

本研究の目的は, 大学生が企業からの不採用経験をいかに乗り越え就職活動を維持していくかという就職活動維持過程に焦点を当て, 当該過程で経験する行動を測定する尺度を作成し, その信頼性と妥当性を検討することである。2013年および2015年新卒採用スケジュールの就職活動を経験した大学生に対して, 2つの質問紙調査を行った。研究1では, 212名を対象に6つの下位尺度から構成される就職活動維持過程尺度を作成し, 一定の内的整合性と妥当性が確認された。研究2では, 72名を対象に作成尺度と就職活動の時期との検討を行い, 時期によって行われやすい行動が明らかとなり, 過程を測定する尺度としての妥当性が確認された。以上から, 就職活動の当初より行われやすいのは, 不採用経験を受けて当面の活動を維持するための現在志向的行動であり, 当該経験の蓄積や一定の就職活動の継続に伴って次第に, より現実的な将来目標を確立していく思考的作業を含む未来(目標)志向的行動が追加的に行われるようになることが示唆され, 作成尺度が就職活動維持過程における一次的過程と二次的過程を捉えうることが示された。
著者
高橋 亜希子 村山 航
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.371-383, 2006-09-30
被引用文献数
1 6

総合的な学習(総合学習)の時間の導入から3年が経過し,成果の一方さまざまな困難も指摘されている。総合学習で生徒への適切な支援やカリキュラム編成を考えていくためには,総合学習の達成を促進する要因を検討する必要がある。本研究では,先行研究ではあまり検討されてこなかった総合学習に特徴的な学習様式に着目し,総合学習を達成するために必要な要因を検討した。特に,量的検討と質的検討を組み合わせた手法を用いて,探索的な検討を行った。調査1では,総合的な学習に参加した高校生106人に対して質問紙調査を行った。その結果,教科の成績のみならず,テーマ決定や学習者の意欲・作業の進捗状況などが,総合学習の成績と相関を持つことが示された。調査2では,調査1において残差が大きかった生徒を抽出してインタビューを行い,事例を通した質的な検討を行った。その結果,「生徒の自我関与の深い領域とテーマとの結びつき」「研究の枠組み・計画の明確性」「情報収集や支援・資源へ向かう能動性」「教師からの適切な支援の有無」の4つの主要な要因が得られた。それぞれの要因に関して,総合学習独自の学習様式との関連から考察を行った。
著者
浦上 涼子 小島 弥生 沢宮 容子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.309-322, 2015
被引用文献数
7

本研究では, 体型に関するメディアの情報を受けた個人が, その影響から痩身理想をどの程度内在化しているかを評価するSociocultural Attitudes Towards Appearance Questionnaire-3 Revised(SATAQ-3R ; Thompson, van den Berg, Keery, Williams, Shroff, Haselhuhn, & Boroughs, 2000)の日本語版を作成し, 大学生の痩身理想の内在化とメディア利用頻度との関連性について検討した。研究1では, 男女大学生1,054名を対象に調査を実施し, 29項目(4下位尺度)の日本語版SATAQ-3Rを作成し, 尺度の信頼性と妥当性を確認した。研究2では, 男女大学生998名を対象に日本語版SATAQ-3Rとインターネットやテレビ, 雑誌といったメディア利用頻度との関連性を調べた結果, 男性より女性のほうが, メディアの影響を受けて痩身理想を内在化し, メディア情報を重要だと考え, 外見に関するプレッシャーを感じていることが示された。一方でスポーツマン体型への内在化は女性より男性のほうが高いことが示された。また, メディアのうち特にテレビと雑誌が大きく影響を及ぼす可能性が示され, わが国の摂食障害患者の増加を防ぐためにも, 学校教育におけるメディアリテラシー教育の重要性が示唆された。
著者
坂田 成輝 音山 若穂 古屋 健
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.335-345, 1999-09-30
被引用文献数
1

本研究では,教育実習期間中に実習生が経験するストレッサーを継時的に測定する尺度(教育実習ストレッサー尺度)の開発を目的とした。157名の実習生を対象に,34の刺激事態項目に対してその経験の有無と不快に感じた程度を実習期間中に計3回評定させた。同時に心理的ストレス反応尺度(PSRS-50R),高揚感尺度,身体的反応尺度に対しても継時的に評定させた。項目分析の結果,5つのストレッサー・カテゴリー(基本的作業,実習業務,対教員,対児童・生徒,対実習生)から構成される教育実習ストレッサー尺度(計33項目)が作成された。教育実習ストレッサー尺度で測定された各ストレッサー得点と心理的ストレス反応得点との継時的な関係を検討した。実習開始直後では多くの心理的ストレス反応に作用するストレッサーに共通性が認められた。しかし実習中頃になると反応毎に作用するストレッサーが異なり,実習が終了近くなると再び多くのストレス反応に作用するストレッサーが共通してくることが示された。以上の結果から,実習生に生起する心理的ストレス反応へのストレッサーの作用を捉える上で教育実習ストレッサー尺度は有効な尺度であることが示された。
著者
上岡学
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第56回総会
巻号頁・発行日
2014-10-09

はじめに日本の小学校の算数教育において、乗法指導の導入は1当たり量を先(被乗数)に記述する指導方法が定着している。そこで本研究では、乗法の導入問題を作成するときに1当たり量が先にくる問題がどのぐらいの割合で出現するのかを調査研究した(調査1)。さらに乗法の導入問題において1当たり量が問題文中において後半にある場合(逆向問題)、立式はどのように考えたらよいのかについても調査研究した(調査2)。(調査1)(方法)大学生に対して、「かけ算の導入問題としてふさわしいと思う問題を作成してください」という課題を与える。(対象)大学生84名(結果)(1)「かけ算導入問題」について①1当たり量が前半(先)にくる問題(順行問題)の出現率は、63.1%であった。たとえば、「2つのおかしが入った袋が3つあります。おかしは全部でいくつですか。」という問題である。「前半の数字×後半の数字」とすれば、自動的に「1当たり量×かける数」となる問題である。②1当たり量が後半(後)にくる問題(逆行問題)の出現率は、29.8%であった。たとえば、「4人の友だちに、チョコレートを5つずつ配ります。チョコレートはいくついりますか。」という問題である。1当たり量を先という指導であれば、「後半の数字×前半の数字」となり、意識して「1当たり量×かける数」と逆にしなければならない問題である。③1当たり量が交換可能な問題(中立問題)の出現率は、1.2%であった。たとえば、「学校の靴箱は、縦に5つ、横に6つ並んでいます。全部でいくつの靴箱がありますか。」という問題である。どちらの数も同等の関係である問題である。(長方形の面積の公式は「縦×横」であるので、「縦」が「1当たり量」であると考えれば①に含まれるが本研究では③とする。)④その他課題意図の取違えは、6.0%であった。(調査2)(方法)逆向問題「5人の友達にチョコレートを3つずつ配ります。全部でいくつでしょうか。」という問題を提示して、それに対する立式の考えを5択(A:式は5×3であり、3×5は間違いである/B:式は5×3であるが、3×5でもよい/C:式は3×5であり、5×3は間違いである/D:式は3×5であるが、5×3でもよい/E:式は5×3でも、3×5でもよい)から選択する。(対象)大学生80名(結果)①A「式は5×3であり、3×5は間違いである」は現行の指導方法から最も遠い考え方であるが16.3%であった。また議論になることがあるC「式は3×5であり、5×3は間違いである」については15.0%であった。意味を理解していれば認められるべきE「式は5×3でも、3×5でもよい」は10.0%であった。②BとCは、一方の指導を強調するが、他方も許容であるとする考え方であるが、いずれも約30%であり、合わせると約60%であった。